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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)151号 判決 1972年3月06日

控訴人 国

訴訟代理人 永沢信義 ほか七名

被控訴人 大福信用金庫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する主張および立証の関係は、つぎに付加するほかは、原判決事実摘示中本件当事者関係部分記載と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、本件代物弁済予約は、継続的取引から生ずる将来増減する債務に関するもので、根抵当権設定と共になされたものである。原判決は、この代物弁済予約の被担保権は当事者間で特段の意思表示がない限り、予約完結権行使当時に債権者が債務者に対して取得している継続的取引から発生した一切の債権を含むものと解すべきであるとし、その理由として代物弁済予約は根抵当権設定契約とは別個独立の担保契約であるから、代物弁済の予約の被担保債権額が根抵当権の債権元本極度額と一致しなければならない理由はないことおよび抵当権とは関係なく代物弁済の予約のみが締結された場合との権衡からも明らかであるとする。

二、しかし、代物弁済の予約は、根抵当権とは別個独立の担保契約であるとはいえ、根抵当権とともに一個の取引契約から生じた同一の債権を担保するところから、その極度額も根抵当権の極度額と同一と考えられ、そのことは、当事者および第三者の意思にも合致する。

三、原判決は根抵当権と併設されない代物弁済予約だけがある場合との不均衡を問題とするが、そのような場合は極めてまれにしか生じないし、本件は両者が併設され、しかも根抵当権について極度額が登記されている場合であるから、このことは、原判決の結論に達するための有力な根拠とはならない。

四、従つて、被控訴人の訴外山本広に対する債権は金四〇〇万円を超える限度で控訴人の同訴外人に対する債権に劣〇する。そしてこのように解するのが昭和四二年一一月一六日の最高裁判所判決の趣旨および各債権者間の合理的譲渡をはかろうとする法理念に合致する。

五、同訴外人の昭和四一年度第三期分の国税はその法定納期限が昭和四二年三月一五日であり、被控訴人の本件代物弁済予約の極度額の変更は、右国税に基づく昭和四二年四月二二日付差押後であり、右変更を控訴人に対抗することはできない。

六、同訴外人の国税の昭和四一年更正分については、納期限が昭和四二年八月八日であり、この更正決定は同年七月八日にされ、同日同訴外人に対して発送された。国税徴収法における法定納期限等は同法一五条一項一号、国税通則法三五条二項により同年七月八日となり、国税徴収法一八条二項の類推適用によつて金四〇〇万円を超える限度で被控訴人の同訴外人に対する債権に優先する。

理由

当裁判所も被控訴人の請求を正当と認めるが、その理由は、つぎに付加するほかは、原判決一〇枚目裏六行目から同一三枚目裏四行目まで記載の判断説示と同一であるからこれを引用する。ただし同一三枚目表七行目の「金八、八三三、」を「金八、八五三、」と訂正する。

控訴人は、被控訴人の承諾請求権を否認し、予備的に金六五一、一二〇円の支払と引換にのみ承諾義務がある旨主張しているが、この主張はいずれも、本件代物弁済予約の被担保債権額は、右予約と同時に設定された根抵当権の被担保債権と同一であることを前提にしているので、以下その点について判断する。

成立に争いのない丙第一号証によると昭和四四年四月一〇日現在控訴人は訴外山本広に対して、昭和四一年度第三期分および更正分の所得税について、金六五一、一二〇円の債権を有することが認められ、ほかにこの認定を覆えすに足る証拠はない。

本件代物弁済予約と同時に本件各物件に設定された根抵当権の被担保債権の元本極度額が金三〇〇万円であることは既に述べたとおりであり、右元本極度額について、昭和四一年一〇年三一日に金四〇〇万円に、昭和四二年七月二六日に金六〇〇万円にそれぞれ変更登記がされたことは当事者間に争いがない。そして右登記原因たる右各変更契約は前者については同月二九日、後者については同日なされてることは成立に争いのない甲第一号証と弁論の全趣旨によつて認められる。

根代弁済予約と根抵当権設定契約とが、同時に同一契約書でなされても、両者は別個のものであり、根代物弁済予約について、被担保債権の範囲についての制限がない限り、債権者は根抵当権の極度額に制限されず、予約完結時の被担保債権の全額について、優先弁済を受ける権利を行使できると解するのが相当である。

本件代物弁済予約契約には、被担保債権額について制限がされていることを認めるに足る証拠がないので、被控訴人は訴外山本広に対する前認定の金一〇、〇二二、九三二円について、担保権を行使できるところ、本件各物件の評価額は、前認定のとおり、昭和四二年一〇月二七日の予約完結当時金六〇〇万円相当であり、右債権額を上廻ることを認めるに足る証拠はない。

そうするとその余の主張について判断するまでもなく、控訴人の主張はいずれも採用できず、被控訴人の本請求は正当である。

以上によれば、被控訴人の請求を容認した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用については、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎 道下徹 増田幸次郎)

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