大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)160号 判決 1974年6月28日
第一審原告 国
訴訟代理人 陶山博生 外三名
第一審被告 伊藤巧
主文
一 原判決を第一審原告の控訴および当審における請求の拡張に基づいて左のとおり変更する。
(一) 第一審被告は第一審原告に対し原判決添付目録口記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地(別紙図面記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地)を明渡せ。
(二) 第一審被告は第一審原告に対して
(1) 金一五一万四、二三七円および内金一二二万三、四九七円に対する昭和四六年四月一日から完済にいたるまで年五分の割合による金員
(2) 昭和四六年四月一日から右土地明渡ずみにいたるまで一か年につき金二三万三、四一九円の割合による金員およびこれに対する、(イ)、同月二日から右土地明渡の日まで年二分五厘の割合による金員、並に、(ロ)右土地明渡の日の翌日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
二 第一審被告の控訴を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。
四 この判決は二項を除いて仮りに執行することができる。
事 実 <省略>
理由
一 原判決添付目録(一)記載の土地八二・三五平方メートル(別紙図面記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地であつて以下本件土地という)を含む西宮市甲子園一番町二番地畑一六五・二八平方メートル)はもと訴外井上二郎の所有に属していたこと、第一審被告が遅くとも昭和二九年五月頃から同目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を本件土地上に所有し、本件土地を占有していることはいずれも当事者間に争いがない。
二(一) <証拠省略>ならびに弁論の全趣旨を総合すると、第一審原告は昭和二〇年三月一四日右井上から前記一番町二番地の土地を代金四、八二八円八五銭で買受けて所有権を取得するとともに、右土地の引渡を受け、昭和三二年三月六日その旨の所有権移転登記を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。
(二) (1) 第一審被告は昭和二六年頃右井上から本件土地を買受けてその所有権を取得したものであると主張するが、これを認めるに足るなんらの証拠がないので、右主張は採用できない。
(2) つぎに、第一審被告はいわゆる短期取得時効により本件土地の所有権を取得したものであると主張するが、第一審被告が本件土地を所有の意思をもつて占有していた事実について、これを認めるに足るなんらの証拠がないので、右主張もまた採用できない。
(三) そうすると、第一審原告は昭和二〇年三月一四日以来本件土地を所有し、第一審被告は昭和二九年五月頃以来第一審原告の所有にかかる本件土地を占有使用してその使用料相当の利益を取得し、そのため第一審原告はこれと同額の損害を被つているものといわなければならない。
三 <証拠省略>によると、第一審被告は本件土地の占有開始時に、本件土地が第一審原告の所有に属していることは知らなかつたが、少なくとも自己以外の第三者の所有物件であることを認識していたものであり、かつ何らの権原もなく、本件土地の占有を始めたことが認められ、右事実によれば、第一審被告は、民法七〇四条の悪意の受益者として、その受けた利益に利息を付して第一審原告にこれを返還する義務がある。
もつとも前認定の事実によれば、第一審原告が本件土地を含む前記一番町二番地の土地について所有権移転登記を受けたのは昭和三二年三月六日であるが、第一審原告はそれより以前の昭和二〇年三月一四日頃に前記井上から本件土地の所有権を取得するとともに、その引渡を受けたのであるから、爾来本件土地の使用収益をなすことによつて自ら利益を取得しえたわけである。そうすると、第一審原告は、未だ本件土地について所有権移転登記を受けていない昭和三二年三月六日以前においても、果して第一審原告自らこれを利用しまたは他人に賃貸したか否かを問わず、第一審被告の本件土地の占有使用によつて使用料相当の損害を被り、第一審被告は右占有使用により受けた利益に利息を付して第一審原告にこれを償還する義務があるものと言わなければならない。
四 そこで、第一審被告が第一審原告に返還すべき利得額について考える。
(一) <証拠省略>を総合すると、本件土地の昭和四六年四月一日現在における価額は金五八三万五、四八六円(一平方メートルにつき金七万〇、八六二円)であることが認められ、右価額を基礎として、当裁判所に顕著な財団法人日本不動産研究所作成の「六大都市を除く地域別市街地価格推移指数表」により時点修正をして、昭和三一年以降昭和四五年までの各四月一日現在における本件土地の価額を算出すると、別紙計算表の「算定期間四月時点の評価額」の欄記載の価額となることが明らかである。そして、本件土地の使用料(賃貸料)は、右価額に適正利潤率年四分を乗じた金額とするのが相当であるから、右方法により算出すると、本件土地の昭和三一年七月一一日から昭和四六年三月三一日までの使用料は同表の「算定期間中の使用料相当額」の欄記載のとおりとなり、その合計額が金一二二万三、四九七円に達することは算数上明らかである。
(二) つぎに第一審被告が悪意の受益者として民法七〇四条により支払う利息は民法所定の年五分の割合によるべきものであるから、昭和四六年三月三一日までの利息額を同利率により算出すると、同表の「算定期間中の使用料相当額に対する遅延損害金」の欄記載の金三万〇、四二一円および同表の「算定期間後四六年三月三一日までの使用料相当額に対する遅延損害金」の欄記載の金二六万〇、三一九円合計金二九万〇、七四〇円となることが明らかである。
(三) 第一審被告は昭和四六年四月一日以降においても、本件土地を占有使用することにより、本件土地の使用料相当額を利得しているものというべきところ、右利得額は、一か年につき、同日現在の本件土地の価額たる前記五八三万五、四八六円に適正利潤率年四分を乗じて算出される金二三万三、四一九円と認めるのが相当であるから、第一審被告は昭和四六年四月一日以降においても右利得金とこれに対する前同様の利息を支払わなければならない。
五 しかして第一審被告は前記のとおり本件建物を本件土地上に所有して右土地を占有しているところ、第一審原告に対抗しうる正当権原を有していることについてはなんらの主張および立証がないから、第一審被告は第一審原告に対し本件建物を収去して本件土地を明渡す義務がある。また第一審被告は本件土地を占有使用していることによる不当利得金として、(一)、前記金一二二万三、四九七円と金二九万〇、七四〇円との合計金一五一万四、二三七円および右内金一二二万三、四九七円に対する昭和四六年四月一日から完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による利息、(二)、昭和四六年四月一日から本件土地明渡ずみにいたるまで一か年につき金二三万三四一九円の割合による金員およびこれに対する(イ)、同月二日から右土地明渡の日まで年二分五厘の割合による金員並に、(ロ)、右土地明渡の日の翌日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払う義務がある。
六 よつて、第一審原告の請求をすべて正当として認容し、これと異なる原判決を、第一審原告の控訴および当審における請求の拡張に基づいて、主文一項のとおり変更し、第一審被告の原判決に対する控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 増田幸次郎 西内辰樹 三井喜彦)
別紙計算書<省略>
別紙図面<省略>