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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)969号 判決 1973年5月21日

控訴人

大洋興業株式会社

右代表者

伊藤忠輝

被控訴人

国友鉄治

右訴訟代理人

大野一雄

主文

原判決及び手形判決(大阪地方裁判所昭和四二年(手ワ)第三、八三四号、昭和四三年二月六日言渡)を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

原判決事実記載のとおり。

二  請求原因に対する認否

認める。

三  抗弁

控訴人から本件手形の割引の仲介の依頼を受けた武田美一は、昭和四二年八月下旬頃、被控訴人に対し、本件手形の割引を依頼し、割引しないときは直ちに返還する約束の下に、本件手形(受取人欄白地)を預けたが、被控訴人は、割引を拒絶しながら、本件手形を返還しない。

武田美一は、その後、被控訴人に対し、本件手形の権利譲渡をしたことはない。武田美一は、被控訴人に対し、債務を負担したこともない。

従つて、被控訴人は、本件手形を預つた者にすぎす、本件手形の権利者ではない。

四  抗弁に対する被控訴人の主張

1  控訴人主張の抗弁事実は争う。

2  被控訴人は、武田美一から、本件手形等を担保として金六〇〇万円の融資の依頼を受け、本件手形の交付を受けた。

被控訴人は、右融資依頼を拒絶したが、本件手形を武田美一に返還しないまま、武田美一から、同人が被控訴人に対して負担する債務の担保として、本件手形の権利譲渡を受けた。

第三  証拠<省略>

理由

被控訴人が、控訴人の振出した左記約束手形一通(本件手形)を、所持していることは、控訴人の認めるところである。

金額   一〇〇万円

支払期日 昭和四二年九月三〇日

支払地  大阪市

支払場所 三和銀行船場支店

振出地  大阪市

振出日  昭和四二年八月二五日

振出人  控訴人

受取人  被控訴人

従つて、被控訴人は、手形法第一六条により、適法の所持人と推定される。

よつて、控訴人主張の抗弁について判断する。

<証拠>によれば次の事実を認めうる。

控訴人の代理人伊藤忠輝(現在、控訴人の代表者)は、昭和四二年八月下旬頃、武田美一に対し、本件手形を含む、各金額一〇〇万円、控訴人振出の約束手形五通の割引の仲介を依頼し、右手形五通を預けた。武田美一は、その頃、被控訴人に対し、右手形五通の割引を依頼し、割引しないときは直ちに返還する約束の下に、割引するか否かの検討のため、右手形五通を被控訴人に預けた。被控訴人は、その後、右手形五通の割引を拒絶したが、右手形五通を返還せず、被控訴人の南部重機株式会社に対する貸金債権等の回収手段として、本件手形を押えた(被控訴人本人は、原審において、融資を拒絶した後「預かつた手形を押える。」と武田美一らに言つたと供述している)。被控訴人は、融資を拒絶した後、武田美一から、右手形五通の権利譲渡を受けたと主張するが、武田美一は被控訴人主張の権利譲渡をしたことはない。

以上の事実を認めうる。<証拠>のうち、上記認定に反する部分は採用し難い。

上記認定によれば、被控訴人は、武田美一から、本件手形の割引依頼を受け、割引しないときは直ちに返還する約束の下に、割引するか否かの検討のため、本件手形を預かつた者であり、本件手形の形式的所持人資格を有するにすぎず、手形権利者ではない。

よつて、被控訴人の本訴請求は、その余の判断をなすまでもなく理由がなく、右請求を認容した手形判決を認可した原判決は失当であるから、原判決及び手形判決を取消し、被控訴人の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 常安政夫 潮久郎)

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