大判例

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大阪高等裁判所 昭和46年(ラ)175号 決定

〔主文〕原判決を取り消す。

本件を神戸家庭裁判所に差し戻す。

〔理由〕抗告代理人の抗告の趣旨、理由は別紙<略>のとおりである。

当裁判所の判断

一 大野清一件記録によれば、被相続人一は昭和四三年八月一六日死亡し、相続人は妻大野キクノ、戸籍上の嫡出子大野光夫、同大野ユキ、婚姻外の子で被相続人が認知した西村喜久男の四名であるが、大野ユキは昭和四五年三月三日失踪宣告の確定により昭和三七年七月三一日死亡したものとみなされ、大野光夫は嫡出子として戸籍に記載されているけれども、実際は婚姻外の子を虚偽の出生届をしたものであるから、遺産相続の関係では認知された子とみることについては相続人間に争いがないから、結局相続人および相続分は、抗告人大野キクノ、相手方大野光夫、同西村喜久男が各三分の一宛となること、被相続人の遺産としては原審判書添付目録記載の家屋一戸(以下本件家屋という)以外には特にみるべきものはないこと、本件家屋で被相続人は死亡まで歯科医を開業し、抗告人は昭和一七年三月一一日被相続人と婚姻して以来同居し、被相続人の死亡後抗告人は生活を維持する必要上、以前から知り合いの広瀬秋子に階下を賃貸し、自分は二階を住居として使用していること、が認められる。

二 原審判は、遺産分割として、本件家屋を相手方両名の共有とし、抗告人にはその相続分に応ずる金額を算定し、相手方からこれを支払わせることにしている。そして抗告人の居住関係をどう処理するかについては何らの定めもしていないので、審判の趣旨は、抗告人は本件家屋から退去して相手方両名に引渡さねばならないものと解するの外なく、また引渡しの時期の定めもないから、遅くとも相手方が審判で決定した相続分相当の金額を抗告人に支払えば、抗告人は本件家屋から退去しなければならないと考えられる。

思うに、遺産たる家屋に従前より被相続人と共に居住していた相続人中のある者が、その居住を継続すべき正当性の認められる限り、たとえ遺産分割によつて右家屋の所有権が他の共同相続人に帰属した場合であつても、右家屋の居住使用を継続できるものであり、その居住利益は保護さるべきで、他の共同相続人においてこれを侵すことは許されないと解すべきである。本件においては、前認定のように、抗告人は被相続人の妻として多年にわたり本件家屋に居住し、既に老令の域に達している現在、本件家屋を出て他に住居を求める経済的能力はないものと認められ、また本件記録によると、抗告人の実子は現存しないし、他にたよるべき適当な身寄りの者もなく、抗告人と相手方らとはいわゆる生さぬ仲であつて今後相手方らが抗告人の生活上の面倒をみる可能性もない。一方相手方両名はいづれも他所に居住して独立の生計を営み、本件家屋に居住し或は利用する必要性はないことが認められるから、抗告人には本件家屋に居住を継続する正当な理由があるといわねばならない。

原審判で抗告人の居住利益について何ら考慮を払わなかつたのは不当であり、本件遺産分割に当り、もし本件家屋を抗告人の単独所有として相手方両名に対しては債務を負担させることが資金の調達上困難な実情にあり、相手方両名が共有取得する方法が相当であるとするなら、相手方らにおいて本件家屋を抗告人にその生存中無償使用させるとか、或は抗告人の居住利益の相当額を評価して遺産中より別に配分するとか、その他何らかの方法により居住利益に対する処置を考慮すべき筋合いである。

三 次に原審判は、被相続人の債務のうち抗告人が支払つたものが相当の額に達するとして、遺産分割手続中で清算すべきことを抗告人から要求したのに対し、その額が特定せず立証も不十分であるとして分割手続中で清算しないものとした。しかし本件記録によると、抗告人は、支払つた費目および金額の明細書並に証拠書類を提出しており、その中には相続財産に関する費用も含まれている。一般的に言つて被相続人の債務が分割の対象とならないことは是認すべきであるが、相続財産に関する費用(管理費用等)は相続財産の中からこれを支弁すべきものであり(民法八八五条)、また相続人の一部の者が遺産分割前に被相続人の債務を弁済したような場合には、その債務並に弁済がいづれも正当と認められる限り、同様に遺産分割手続中で清算するのが相当である。原審としては、金額について不明のものは釈明により明確にし、証明資料のないものは資料の提出を促し、更に職権によつて調査することもできるのに、何ら審理を尽さずして前示のように処理したのは不当といわざるを得ない。

四 なお、抗告代理人は、本件建物の敷地は抗告人の弟牧野祐輔が賃借している土地で、地主の承諾を得て被相続人夫婦が住居兼医院に使用する間のみに限定して転借したものであるから、右の事情の下では借地権の評価額を四七六万三、〇〇〇円とするのは過大に失し妥当でない旨の主張をするが、右牧野祐輔の審問調査によれば、本件家屋は被相続人が牧野祐輔が賃借りしていた土地の一部の上に建築したものであるが、後に被相続人と地主との間に直接賃貸借契約が締結された事実が認められるから、転借地であることを前提とする限りにおいては、右主張は理由がない。

五 以上二、三で判断したとおり、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消し、本件を神戸家庭裁判所に差し戻すべきものとし、家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。

(三上修 長瀬清澄 岡部重信)

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