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大阪高等裁判所 昭和47年(う)615号 判決 1974年1月25日

被告人 中西治嘉 外二名

主文

原判決を破棄する。

被告人中西治嘉、同上田雄二をそれぞれ罰金二〇、〇〇〇円に、被告人福井正行を罰金一五、〇〇〇円に各処する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、神戸地方検察庁検察官検事田村弥太郎作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、被告人中西治嘉の弁護人深田和之作成の、被告人福井正行、同上田雄二の弁護人辛島宏作成の各答弁書記載のとおりであるからこれらを引用する。

控訴趣意中事実誤認の主張について

論旨は、原判決が被告人中西、同福井に対する起訴状記載公訴事実中第二の事実につき、そのだ行進を行なつた時間、だ行進の場所および距離を縮少して認定したのは、証拠の取捨選択、価値判断を誤つた結果、事実を誤認したものであるというのである。

案ずるに、原判決は、(証拠略)を総合して被告人中西、同福井らの第二梯団は、神戸市役所北西角から金沢病院前に至る道路上において、むしろ先行梯団と併進したとは認められても、だ行進したとは認められないとして公訴事実を一部縮少認定したものであるが、(証拠略)を総合すると、原判決が前記縮少認定した部分についてはこれを公訴事実のとおり優にこれを肯認することができる。なお、原審が強調する司法巡査直鳥勝作成の写真一八(一二八丁)は、当審証人岡嶋章雄の当公判廷における供述(同人作成の添付図面をふくむ)によると、神戸市役所西北角附近で被告人中西、同福井らの第二梯団が第一梯団の南側を追抜きにかかつた一瞬時の状況を撮影したもので、両梯団が併進したものとは認められない。

ところで、原判決の右の点についての事実誤認が明らかであり、したがつて本件各公訴事実は、その全部が証拠上肯認せられることとなるところ、被告人ら三名の本条例違反の訴因について原判決のいうごとく犯罪の証明がないと断じうるものかどうかにつき職権をもつて調査するに、原判決が証拠によつて認定しているとおり、本件集団示威行進の許可を受けた当時の参加予定人員総数は学生二、〇〇〇人その他の団体一、〇〇〇人であり、集団の進路は、神戸市議会前から東遊園地東側を南下し、米国領事館北側を経て右折し、東遊園地西側を北上し、三宮交差点、阪急三宮駅東口前を経て生田新道を西進し、生田筋を南下し、朝日会館東側で流れ解散するもので、その実施日時は、昭和四四年六月二三日午後六時三〇分から同七時三〇分までの間であつてラッシュ時にあたること、実際に当日参加した人数は約九四〇名で、そのうち学生集団は、三二〇名ぐらい、被告人中西、同福井の属する第二梯団は学生約八〇名、被告人上田の属する第三梯団は、学生約六〇名であつたこと、そして集団が実際に神戸市議会議事堂前南方緩行車道(この緩行車道はその北側および南側の各出入口にそれぞれ鉄の杭が立てられ、平素、通行閉鎖状態にあつたけれども、事件当時は本件集団示威行進の列員その他の一般交通の用に特に開放され、その用に供されたものと認める。集会、集団示威運動許可申請書取扱状況報告書参照。)を発進したのは、午後六時二〇分ごろであり、原判示富士銀行三宮支店前道路に至つたのは、午後六時四〇分ごろであつて、その時刻は一般人の通行、車両の往来が当然予期できる時間帯であり、だ行進に使用した道路は、神戸の市街地のなかで最も交通頻繁な繁華街および隣接地帯で、三宮交差点方面から神戸税関方面に至る幹線道路をふくんでいること、だ行進の振幅は、道路殆どいっぱい、ないし幹線道路の半ばにわたつていること、これを被告人別にみると、被告人中西は、前後三ヵ所でだ行進し、合計約一五分、四九〇メートル位、被告人福井は一ヵ所でだ行進し、約四分、一四〇メートル位、被告人上田は、前後三ヵ所でだ行進し、合計約一二分、四四〇メートル位の間そのだ行進を指導したことを認めることができる。

これによると、被告人らの各所為により各梯団が本来、秩序整然となさるべき集団示威行進を混乱に陥れ、本件道路における交通の安全と円滑を害しただけでなく、さらには不特定多数の通行人、車両等と集団列員とが接触する等のおそれを生じさせ、一般公衆に迷惑をかけたり、これに危険を及ぼすような事態にまで達していたものというべきである。

しからば本条例の条件違反の罪は検察官のいう抽象的危険犯の見解を採ればもちろんのこと、原判決の解するごとく一般公衆の生命、身体、自由または財産に対する直接かつ明白な具体的危険の発生すなわち実害の現実的発生は必要でなくとも、法益侵害の可能性を必要とする見地に立つとしても、被告人らの右行為の規模、態様等は、本条例五条、三条の犯罪構成要件に該当するものであることは明らかというべく、原判決が犯罪構成要件に該当することの証明がないとしたのは、事実を誤認したものというほかなく、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかである。論旨は理由がある。

控訴趣意中道路交通法一一九条一項一三号、七七条三項の罪の解釈適用の誤の主張について

論旨は、道路交通法一一九条一項一三号、七七条三項の罪は抽象的危険犯であつて、許可条件に違反した事実があれば、直ちに成立するのに、原判決は公訴事実を殆ど認めながら、具体的危険犯の立場を採つて、道路交通法七七条一項四号が委任した兵庫県道路交通法施行細則(昭和三五年一二月一九日兵庫県公安委員会規則第一一号。以下本件細則と略記する)一一条三号によつて要許可事項とされる「集団による行為」とは「道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態もしくは方法により集団による行進等」のみを指すと厳格に解すべきであり、道路交通法一一九条一項一三号、七七条三項の許可条件違反の罪は、一般交通に著しい影響を及ぼすことを要件としており、その「著しい影響」とは「一般交通の安全と円滑の保持に現在かつ明白な危険を及ぼすような著しい影響」と厳格に解すべきであるところ、本件各だ行進は、一般交通に著しい影響を及ぼすようなものと認められないので、被告人らの所為は本件犯罪構成要件に該当しないものと判断して犯罪の証明がないとして無罪の言渡をしたのは、いわゆる抽象的危険説を採らなかつた点において法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。

案ずるに、道路交通法七七条一項四号は「‥‥道路において祭礼行事をし、又はロケーションをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会がその土地の道路又は交通の状況により道路における危険を防止し、その他の交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者」は所轄警察署長の許可を受けなければならない旨定め、右委任により公安委員会が本件細則を制定したものであるところ、委任された要許可事項の内容、範囲は「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり交通に著しい影響を及ぼすような行為」に限定せられているものである。しかして右に「一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」とは、必らずしも現実に一般交通に著しい影響を及ぼす行為のみに限定されるものではなく、行為の性質上一般交通に著しい影響を及ぼすことが通常予測しえられる行為、換言すれば、一般交通に著しい影響を及ぼすおそれのある行為であれば足りると解すべきである。道路における集団行進ないし集団示威行進は、一定の目的をもつ集団が不特定多数の歩行者、車両等の用に供せられるべき場所を行進という方法で特別使用するのであるから、その行為自体一般交通に著しい影響を及ぼすおそれのある通行の形態であると認められるものである。そうすると、本件細則一一条三号が要許可事項として掲げた「道路において集団による行進(学生生徒等の遠足、修学旅行の隊列または通常の冠婚葬祭等のための行進を除く)等をすること」は、前記意味における「一般交通に著しい影響を反ぼすような行為」として道路交通法七七条一項四号が例示した「祭礼行事」や「ロケーシヨン」と同様に定型的に類型化したものということができる。道路交通法の立法趣旨、目的が同法一条の宣明するように、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図ることにあつて、その保護法益は、道路交通秩序であることにかんがみると、道路交通法一一九条一項一三号、七七条三項、本件細則一一条三項は、許可に際し付与された条件に違反して集団行進が行なわれることによつて、一般交通に著しい影響を及ぼす抽象的危険があるとして犯罪の構成要件該当性を認め、これに刑事罰をもつて臨むべきものと解するのが相当であり、この保護法益を抽象的危険としてとらえることなく独自の限定的解釈をして無罪の言渡をした原判決は、法令の解釈適用の誤があり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。この点の論旨も理由がある。

以上のとおり原判決はその余の控訴趣意に対する判断をするまでもなく破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法三九七条、三八〇条、三八二条により原判決全部を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従いさらに判決する。

(罪となるべき事実)

被告人中西、同福井に対する昭和四四年六月二六日付、被告人上田に対する同日付各起訴状記載公訴事実のとおりにつきこれらを引用する。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人らの判示所為中本条例違反の点は、包括して刑法六〇条(ただし被告人中西の単独の分を除く)神戸市条例第二一七号「集会、集団行進および集団示威運動に関する条例五条、三条一項三号、刑法六条一〇条により昭和四七年法律六一条による改正前の罰金等臨時措置法二条に、道路交通法違反の点は、包括して刑法六〇条、道路交通法七七条三項一一九条第一三号、前記罰金等臨時措置法二条に該当するところ、以上の罪は、一所為数法の関係にあたるので、刑法五四条一項前段、一〇条に則り、重い本条例違反の罪の刑によつて処断することとし、本件犯行の動機、目的、役割、態様などに徴し、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額の範囲内において、被告人らをそれぞれ主文第二項掲記のとおり量刑処断し、罰金不完納の場合につき刑法一八条、当審および原審における訴訟費用につき刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。

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