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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1183号 判決 1976年4月01日

第一一六〇号事件控訴人・第一一八三号事件被控訴人(以下原告という。) 辻雪子

右訴訟代理人弁護士 田中章二

第一一六〇号事件被控訴人・第一一八三号事件控訴人(以下被告という。) 林紀子

右訴訟代理人弁護士 石川元也

主文

被告の本件控訴を棄却する。

原判決を次のとおり変更する。

被告は原告に対し原判決添付別紙目録記載(二)(ロ)の建物部分を収去して、同(一)(ロ)の土地を明渡し、昭和四五年五月一七日から同四六年三月末日まで一カ月金四万六、〇〇〇円、同年四月一日から同四七年三月末日まで一カ月金四万八、九〇〇円、同年四月一日から右土地明渡済みまで一カ月金五万一、五〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一・二審を通じて被告の負担とする。

本判決は三項の金員給付部分にかぎり仮に執行できる。

事実

<省略>

理由

一、当裁判所の判断は、原判決理由記載中、五枚目裏七行目の「一、まず、」を「一1 前記事実摘示第二記載の事実、原告が原告主張の賃貸借契約解除の意思表示をした事実、被告が被告主張の本件建物全部の買取請求をした事実は、当事者間に争いがない。2 そこで、」と改めたうえ、六枚目裏一三行目の「考えられない。」までを引用し、次に付加するとおりである。

1.被告は、当審で、原告の不当・不誠実な態度をその理由に加え、権利の濫用に当る、と主張するが、被告自身賃借権譲受の承諾をえるため積極的に努力を尽した事実を認めうる証拠がないから、右主張は採用できない。

2.原判決事実摘示第三、被告の二(三)・(四)の主張は、次記のとおり、その前提とするいずれの買取請求も許されないから、採用できない。

3.建物買取請求の可否について。

<証拠>及び弁論の全趣旨によると、本件建物は、原告所有の本件土地(二四八・七二平方メートル)と被告が永吉清造から本件建物買受と同時に買受けた本件隣接土地(五八・五六平方メートル)に跨って存在する木造瓦葺二階建居宅であり、床面積一階一〇三・七七平方メートル、二階九八・九三平方メートル、右のうち本件土地上に存在する部分の床面積一階七三・二八平方メートル、二階六五・四二平方メートルであり、本件建物のうち本件土地上に存在する部分は、当審口頭弁論終結時においても区分所有権の対象たるに適する状態になっていない事実、被告所有の本件建物及び本件隣接土地につき、(1)所有権移転請求権仮登記(昭和四八年八月二三日受付、原因同月二〇日代物弁済予約、権利者大和信用組合)及び(2)抵当権設定登記((1)と同日受付、原因同月二〇日金銭消費貸借の同日設定契約、債権額金二千万円、利息年九分八厘、債務者被告林紀子、抵当権者大和信用組合)がなされている事実を認めうる。

本件のように、AがXから賃借したX所有の甲地とA所有の乙地に跨って存在するA所有の建物を、甲地賃借権、乙地所有権とともに、Aから譲受けたYのXに対する借地法一〇条の建物買取請求権は、特別の事情の認められないかぎり、甲地上に存在する部分が区分所有権の対象となる場合にかぎり、その部分についてのみ認められるものと解すべきである。Aが、Xから賃借したX所有の甲地上に存在するA所有の建物を、甲地賃借権とともに、Yに譲渡し、Yが、Bから賃借したB所有の隣接土地上に、右建物を増築した事案における、YのXに対する借地法一〇条の建物買取請求権に関する最高裁判所昭和四二年九月二九日第二小法廷判決、民集二一巻七号二〇一〇頁及び右事件の第二次上告審判決・最高裁判所昭和五〇年三月二五日第三小法廷判決・金融法務事情七五三号三一頁参照。

本件において右の特別の事情は認められない。「永吉清造が本件隣接土地に跨って本件建物を建築した際、原告は異議を述べず、その後も地代を受領してきた。」という被告主張の事実は、右の特別の事情に当らない。

よって、被告の本件建物全部又は本件土地上部分の買取請求はいずれも認められない。

4.従って、被告は本件土地を不法占有していることになるから、本件建物部分を収去して右土地を明渡し、前記賃貸借契約解除後の昭和四五年五月一七日から右明渡済みまで相当賃料額の損害金を支払う義務がある。<証拠>によると、原告当審主張1(一)の事実を認めうる。右事実及び原判決事実摘示第二の三の事実によると、本件土地の相当賃料額は原告主張の額であると認めうる。

二、よって、原告の本訴請求を認容し、これと異なる原判決を変更し、被告の本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九六条・八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 入江教夫 和田功)

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