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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1203号 判決 1973年7月30日

控訴人 奥田恵美子

右法定代理人親権者養父 奥田逸雄

同養母 奥田サツキ

右訴訟代理人弁護士 増永忍

右訴訟復代理人弁護士 田川和幸

同 本田陸士

被控訴人 住友生命保険相互会社

右代表者代表取締役 新井正明

右訴訟代理人弁護士 永沢信義

同 中祖博司

同 川木一正

同 田辺善彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四五年一〇月二三日から右支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求め、

被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

(一)  控訴人主張の請求原因1、2、の事実は、当事者間に争いがなく、右請求原因3、4の事実の内、義将と次恵の離婚により、控訴人の親権者を義将と定め、義将の死亡により控訴人がその唯一の相続人となったこと、本件保険証券を控訴人が保管していたこと、控訴人が、昭和四五年九月二一日頃到達の書面で、被控訴人に対し、本件保険証券を添え、本件保険金の受取人を控訴人に変更する旨の申出をしたこと、被控訴人が次恵から本件保険証券の紛失届を受理したこと、被控訴人が次恵に本件保険金を支払ったこと、被控訴人が義将の死亡を確認するため、同人の除籍謄本を次恵から提出させたことは、いずれも被控訴人の認めるところである。

(二)  ≪証拠省略≫によると、本件保険契約は、被控訴人会社の普通保険約款に基いて締結され、右約款第三〇条には、保険契約者またはその承継人は、保険金受取人を指定し、または変更することができること、及び右指定、変更は、被保険者の同意を表わした書面を添えて、これを会社に通知し、保険証券に会社の承認の裏書を受けてからでなければ、会社に対抗できない旨定められ、右特約がなされていることが認められる。

商法第六七五条、第六七七条に右特約及び既に認定した事実を考え合せると、本件保険契約では、保険契約者兼被保険者たる奥田義将が、保険金受取人を変更しても、保険者たる被控訴人会社に、右特約所定の変更の通知をし、保険証券に承認の裏書を得なければ、右変更をもって、保険者に対抗できず、右変更の通知をせずに死亡して保険事故発生したときは、保険者たる被控訴人会社は、変更前の保険金受取人を、保険事故発生当時の保険金受取人として、これに保険金支払をなし得るものと解するのが相当である。(昭和一三年五月一九日大審院判決民集一七巻一〇二一頁参照)

そして、本件保険金受取人変更手続をしないうちに、奥田義将が死亡したことは、控訴人の自認するところであり、≪証拠省略≫を考え合せると、

(1)  奥田義将は、その死亡して保険事故発生の時までに、右受取人変更手続に必要な被保険者である同人の同意書も作成しておらず、義将死亡後に、右同意書を添えた保険金受取人変更手続をすることは不能であったこと、

(2)  小山田次恵が本件保険金の支払を請求する手続をしたので、被控訴人会社は、昭和四三年一〇月三日、本件保険契約に基き、小山田次恵を正当な保険金受取人と認め、同女に本件保険金全額を支払ったこと、

(3)  被控訴人会社は、義将死亡の日(昭和四三年八月二三日)の二日後までは、控訴人主張のような本件保険金受取人変更の点を全く知らなかったこと、

(4)  被控訴人会社は、前記保険金支払の時までに、本件保険証券に、保険金受取人変更承認の裏書をした事実はないこと、が認められ、右認定を左右する証拠はない。

そうすると、被控訴人の右保険金支払は有効であり、右支払により、本件保険金支払債務は消滅したものというべきであり、控訴人が、その後、昭和四五年九月二一日頃到達の書面で、被控訴人に対し、本件保険証券を添え、本件保険金の受取人を控訴人に変更する旨の申出をしても、本件保険金請求権を取得できないことは明らかである。

(三)  控訴人は、被控訴人は、小山田次恵に保険金を支払ったことについて、悪意ないし過失があった旨主張し、義将死亡の約三日後に、義将の実兄が、被控訴人会社熊本支社荒尾月掛営業所長に対し、保険金受取人変更等の通知をした等と主張するが、

被控訴人は、保険金受取人変更についての対抗要件が具備されていない旨主張しているのであり、前記のとおり次恵に対する本件保険金支払は有効と解すべきものであるから、右通知により、被控訴人が控訴人主張の受取人変更の点を知ったとしても、右支払の妨げとなるものではなく、また、次恵の委任状を提出するよう言ったとしても、これが過失になる訳がない。

また、≪証拠省略≫によると、本件の普通保険約款第一〇条で死亡保険金の請求手続には、保険証券、最終保険料領収証等の提出を要するが、会社は、右書類の提出の省略を認めることがあり、必要と認めた場合、他の書類の提出を求めることがある旨定めていることが認められるから、被控訴人会社が、次恵に対し、右書類の提出の省略を認め、同女から保険証券紛失届を提出させて、保険金を支払っても、過失になる訳がない。

控訴人は、次恵は本件保険金を受取る権利を放棄していた旨主張するが、債権の放棄は、債権者が債務者に対する意思表示によりなすべきものであるところ、次恵から保険者である被控訴人に対し、このような意思表示がなされたことを認めるに足る証拠はなく、次恵に保険金を受取る権利発生後に、次恵がこれを放棄すると、本件保険金受取権は消滅する筋合いであるから、控訴人の右主張も理由がない。

(四)  控訴人は、被控訴人の本件保険金支払により、控訴人が右保険金を得られず、これと同額の損害を受けた旨主張し、不法行為の主張をするが、被控訴人の本件保険金支払は、前記のとおり適法な行為であって、被控訴人に過失はなく、不法行為ではないから、被控訴人の不法行為を原因とする控訴人の損害賠償請求も理由がない。

以上の認定判断に反する控訴人の主張はいずれも採用しない。

そうすると、控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は正当で、本件控訴は理由がないから、民訴法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信 小北陽三)

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