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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)606号 判決 1973年11月20日

原告(選定当事者・控訴人)

古屋弘之

外二名

右三名訴訟代理人

榎本駿一郎

外一名

(選定者の表示 別紙選定者目録記載のとおり)

被告(被控訴人)

日本電信電話公社

右代表者

米沢滋

右訴訟代理人

川本権祐

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(原判決主文)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(請求の趣旨)

原告及び別紙選定者目録記載の選定者らが、別紙電話加入権一覧表記載の金屋電報電話局に収容さるべき電話加入権を有することを確認する。

(不服申立の範囲)

原判決全部

(当事者双方の主張)

次のとおり付加する外は、原判決事実摘示のとおりである。

原告の主張

一、被告は公衆電気通信法二九条は訓示規定であつて、電話加入区域の変更は法律行為又は行政処分の性質を有しないというが、どこの電話加入区域に属するかは加入契約の内容をなし、それ故にこそ他局加入という特別の加入契約が認められているのである。電話加入区域の変更は加入契約の内容を変更するもので一種の形成権である。原告らの主張は被告がこの権利行使の裁量範囲を逸脱し、濫用である具体的事実なのである。

被告主張の吉備局金屋局の電話加入数は知らないが被告の主張からみても徳田地区の一六九の加入電話は金屋局に容易に収容できた筈であり、加入区域を変更せねばならぬ理由は認められない。工事関係は工事完了の直前迄徳田地区は金屋局、吉備局何れでも収容できる状態で工事を進めていると公言しており、この時徳田地区住民は吉備局へ収容されることに反対し吉備町当局も最初の要請を撤回しているのに被告の一方的決定で吉備局に収容されてしまつた。電話加入区域を旧状態にするには若干の配線をつけ替えればすむことで大規模な工事を要するものではない。

原告ら一部の者が金屋局に特別加入しているのは金屋局の電話をどれ程必要としているかを推測させるもので、当面の必要に迫られ妥協して他局加入を申込んだのである。

電話加入区域につき電信法には規定を欠き省令たる電話規則にはじめて規定された。曾て電話の普通加入区域は局付近の戸口稠密地域、特別加入区域はこれを囲繞する地域と解され電話局を中心に考えて足りていたであろうが、都市化の拡大、電話の普及という社会状勢の変化が、憲法に基づく法律による行政を保障するため公衆電気通信法二九条三項の新設となつたのである。

加入地域には(1)加入電話を設置すべき地域として公衆に約束した地域(2)電話料金決定の基準となる区域(3)市内通話と市外通話を区別する基準となる区域の三つの意味があり、この加入区域、特に市内通話区域は電話加入権の内容をなすものである。例えば尼崎市守口市東大阪市の一部が大阪市へ市内通話料金で通話できるのは単なる反射的利益に止まらず法的利益と解せざるを得ないもので、これを変更することは加入契約の内容の変更である。

前記法二九条三項が加入区域の設定には社会的経済的条件を考慮せねばならぬとしているのは、一つの地域を市内通話という役務を提供する性格を有する地域として指定するかどうかの判断にはその地域の通話の需要と交流状況に従わねばならずそれを決定するのは社会的経済的条件だからである。従つて社会的経済的条件に於て密接な関係にある一地域を一つの加入区域として設定すれば通話の需要、交流が増大し、市内通話地域として公共性、公益性を充足する。行政区画は、社会的経済的条件の一要素に過ぎないから加入区域の変更には設定の場合以上に社会的経済的条件を考慮せねばならない。

被告は前記法二九条は訓示規定であり、加入区域の設定、変更は被告の専権であるというがこれを争う。加入区域の設定、変更は被告の専権であるというがこれを争う。加入区域の設定、変更が営造物の組織に関する行為であつてもそれ自体がこの二九条三項により専権を禁じられていることは電話規則九〇条と対比すれば明らかである。電話利用関係の内容は法令の定めるところであり、加入区域も被告の全裁量に委されているわけではない。

加入区域の変更は被告の一方的意思表示により法的効果を発生させるが、それは既存の法律関係に形成的行為のうちの変権行為によるもので、法律行為的行為であり、その適法違法、有効無効の評価をなしうることは当然である。被告の意思表示は(1)行政区画のみ考慮し徳田地区の社会的経済的条件を考慮しなかつた裁量の誤り(2)徳田地区を吉備局区域へ編入させる前提となる社会的経済的条件が存在しないのに裁量を行使した事実誤認(3)金屋局区域と徳田地区との社会的経済的条件が同じ事情のもとでは金屋局区域に所属することが期待されるのに十分な理由もなくこれまでの慣行に反した裁量の誤りを犯しているからその意思表示は明白かつ重大な違法が無効である。

二、合併市町村の一体性とは旧市町村が固有の文化、経済圏を有して割拠している状態から一個の文化圏、経済圏を形成しようにいうにあり文化、土木、保健衛生、会社福祉等の政策もそれを目標として一体性が生れるであらうしその場合は電話加入区域を行政区画に一致させることも意味がある。

徳田地区は住民の意に反し議会の議決で吉備町に合併されたが、徳田地区は金屋町と経済的交流を有していたからかかる場合電話加入区域を吉備町区域と一致させることは何の意味もない。町役場への通話が便利になつたとしてもそれは日常生活と関係が少く、電話で事足りることはないから意味がない。

被告は合併に関する法律、国会決議に目を奪われ、通話の需要やその交流状況を無視して行政区画にのみ拘泥している。一つの経済圏をなしている徳田地区と金屋町をなぜ分離せねばならぬか、電話がどうしてそれを分離できるか、電話は徳田地区と金屋町を結合することを任務とすべきである。それ以上のことは望んでも得られないことである。

三、被告主張の(1)四四年五月被告が吉備町に三案を示して回答を求めたこと、吉備町会議長から要望のあつたこと、(2)同年六月二日吉備町長から同趣旨の回答のあつたこと、被告か重ねて回答を求めたが吉備町長から意思表示のなかつたことは認めるが、吉備町会議長の要望の内容は徳田地区の経済的特殊事情を認めてほしいという内容であつて、これは吉備町長が当初になした要請の撤回であり被告は吉備町民の意向がまとまらず対立していることを知りながら、徳田地区と金屋町が社会的経済的条件即ち同一の経済圏をなしていることを無視して本件加入区域の変更をなしたのである。

四、被告の行つた普通電話加入区域の変更により徳田地区の住民が受けている不利益は次のとおりである。

(1)  吉備町には常設の消防団がなく各地区に地元住民で組織された消防団があるだけである。吉備町は普通電話加入区域変更後は火災が発生すると一一九番に通報するが、そこは吉備町役場であるから役場から電話、農電又はサイレンを吹鳴して(このサイレンは徳田地区には届かない)消防団に出動要請する手筈になつているが、徳田地区のある旧御霊村の火災の場合はこの手順に時間を要し消火に間に合わない。

徳田地区付近の消防団は吉備町では、庄、田殿、藤並にあり、金屋町では金屋、中井原にある、徳田地区からは金屋が有田川を隔てただけで一番近く、中井原も庄、田殿、藤並に比べれば近いから金屋局の一一九番に通報できれば消火が一番早い。四六年二月一四日の徳田地区の坊岡医院の火災には電話通報を受けていない金屋消防団の出動が一番早く、電話通報があればもつと早く出動できた。バー太平楽の火災の時も同様であつた。

(2)  金屋町にはもと金屋警察署があつたが今は湯浅警察署に統合され金屋警部派出所があり、旧御霊村はその管轄下にある。本件加入区域変更後は一一〇番に通報すると湯浅警察署につながり同署から改めて金屋警部派出所に指示する手順になる。金屋局のままならこの必要はない。

(3)  郵便の集配は旧御霊村は金屋郵便局の管轄である。

(4)  徳田地区は本部が金屋町にある金吉浄水道事務組合から給水をうけているが、吉備町の他の地区は簡易水道又は井戸水を使用している。

(5)  旧御霊村と旧田殿村地域の登記は和歌山地方法務局金屋出張所の管轄であるがその他の地域の管轄は同法務局湯浅出張所の管轄である。

(6)  旧御霊村と旧田殿村地域の電力は関西電力株式会社箕島営業所金屋出張所の管轄で配電、電力料金関係を取扱つているがその他の地域は同会社湯浅出張所の管轄である。

(7)  農協関係を除き吉備町に金融機関はなく、徳田地区に湯浅信用金庫金屋に支店があるだけで、その他は金屋町に紀陽銀行、和歌山商工信用組合の各金屋支店があるが、和歌山県唯一の地方銀行たる紀陽銀行との取引は金屋支店で行われる。被告の湯浅局は指定銀行を紀陽銀行湯浅支店としており、新規加入契約の時は湯浅町まで出向かねばならぬが金屋局の指定銀行は紀陽銀行金屋支店である。

五、金屋町の住民がうけている不利益は次のとおりである。

(1)  有田鉄道の終点は徳田地区にあり金屋口駅と称し、同鉄道は国鉄藤並駅と湯浅駅で国鉄と連絡しているが、金屋口駅には有田鉄道の系列会社たる有鉄タクシーと和歌山県下最大のタクシー業者たる有交タクシーの各営業所があるのに、金屋町には葬儀屋が副業に営んでいる末広タクシーがあるだけで実働タクシーは三台位に過ぎず、運送会社も金屋口駅前に日通があるだけである。

(2)  旧御霊村には県立病院があるが、金屋町には開業医があるだけである。

(3)  徳田地区の青物商と金屋町の青物商とで構成している金屋口青果市場は徳田地区にあり、金屋口駅には三田、嶋田の両撰果物があり、金屋町の農民は右の青果物、撰果物出荷している。

(4)  金屋町には農家が多いが農機具商、肥料商は徳田地区にあり、又家具商、建物商、電気器具商も徳田地区にある。そのため金屋町の農家、一般需要家は電話が不便になり困つている。

以上三、四項の如く普通電話加入区域の変更で旧御霊村特に徳田地区の住民は不利益を金屋町の住民は不便を被つている。このことは旧御霊村特に徳田地区が金屋町と経済圏を同じくしてきた歴史に基くものであり、これを無視することは福祉の増進とは逆の方向を向いているといわなければならない。

五、徳田地区の加入電話が金屋局から吉備局に所属替となり、同地区の電話は従来市内通話ができた金屋町の電話と準市内通話扱いとなつたため他局の局番をダイヤルしその局の交換を通じなければならず、電話料金を明示してもらおうとすると市外通話を申込み交換手を煩わさねばならない。又公衆電話は市内通話に限られている処が多く、いわゆる赤電話を使用するにはその都度鍵を用い交換を呼出さねばならぬことは公知の事実である。原告らが加入電話を利用するには公衆電話のことを考える要はないが、電話はかけるだけでなくかかつてくることもあるから原告らは金屋町の住民が公衆電話を利用することも十分考慮せねばならない。一発信度当り概ね八十秒七円で足りるという被告の主張は認めない。

被告の主張

一、原告らの請求は「原告ら(選定者を含む、以下同じ)が別紙電話加入権一覧表記載の金屋電報電話局に収容さるべき電話加入権を有することを確認する」というものであるがその請求は不適法又はそれ自体理由がない。(1)原告らのいう電話加入権一覧表の電話番号は旧電話加入区域に於て金屋郵便局に収容されていた手動式の電話番号であるが、これは四六年三月一二日手動式になつたに伴い電話加入区域、電話番号が変更され、当該電話加入区域内の電話取扱局たる吉備電報電話局に加入された。原告らが他局加入したのは従来の加入電話に加えて別に他局加入の方法による電話を新たに取得したものである。(2)金屋電報電話局は吉備、金屋地区の自動改式により新設された電報電話局である。(3)従つて原告らのいう加入電話は自動改式の前に於ても後に於ても金屋電報電話局とは無線である。(4)公衆電気通信法上電話加入権とは加入契約にもとずき現に存在する電話加入権をいい「……さるべき電話加入権」というような将来実現されるべき特定の行為ないし事実に係らしめた条件付電話加入権のごとき制度は存在しないから、原告らの求める「何局に収容さるべき電話加入権」という訴訟物自体が問題である。従つて原告らの請求は実定法上存在しない権利の確認を求めるもので主張自体理由がない。電話加入区域の変更と自動改式により吉備電報電話局に収容された原告らの加入電話のみについて加入区域を旧の状態に復するとすればそれを手動式に戻し新局の設置が必要となり自動式そのままとすれば金屋電報電話局となるが、内外の新設備を必要とし、市外局番、市内番号の変更等多大の新規投資と日時を要することとなる。

二、公衆電気通信法二九条の性質

右条文の一、二項は被告は予め電話加入契約の申込を承諾すべき普通加入区域と特別加入区域を設定しておくべきこと、同条三項はこれら加入区域の設定に当つては社会的合理性(公益性)とともに経済的合理性(企業性)を考慮すべきこと、又同条四項はそれら加入区域内の電話を普通加入区域内の局に収容すべきことを定めているがこれは電話利用関係の大前提となるべき公社側の制度の整備と基本的基準を定めたもので、被告を名宛人とし公社業務の組織経営の指針を定めたものであつて、被告の営造物管理権に基づく、営造物管理権に基づく、営造物組織上の訓示規定であり、電話加入契約の成立した、加入者と被告間の法律関係を規律する性質のものではない。従つて原告らが同条三項の具体的事由をあげ電話加入区域の変更、収容局、電話番号の変更の適否を云々し、或はそれらの変更が自由裁量権の範囲をこえたものかどうかという形でとらえることは誤りであり、電話加入区域の設定、変更は被告の専権に属し、これは被告が営造物管理権によつて行う営造物の組織行為そのものであり、利用者は被告が自由に定めた営造物の組織、作用、利用条件に従つてこれを利用しうるに過ぎないことは、加入電話等利用規程(公社公示一〇二号)によつても明らかである。

原告らは加入区域特に市内通話加入権の内容をなすというが、電話加入区域が権利の内容をなすことはない。

三、電話加入区域変更の性質

前記で明らかにしたように、電加入区域の変更は特定人に対する法律行為又は行政処分たる性質を有せず、取消無効という問題の生ずる余地もない。電話加入区域の変更は法律行為や行政処分のように公社がその意思決定をなし、これを表明しただけでできるものでなく、これに基づく必要な関係工事を施行してはじめて加入区域が変更されたことになるのであり、原告ら主張のようにこの加入区域の変更を無効とし、旧の状態に復するとせばそれには多大の新規工事と日時を要し、この点だけからいつても、この加入区域の変更が、取消とか無効の概念に親しむものでないことは明白であつて、この変更の無効を前提とする原告らの請求はその前提において誤つており、原告らの請求の趣旨自体が実定法に定のないものでその主張自体理由のないものである。

四、本件自動改式に伴う利害

本件自動改式時たる四六年三月一二日以前に金屋郵便局に収容されていた電話加入数は一、〇九三で、うち一六九が徳田地区、一〇六が徳田地区を除いた吉備町の加入数、その余が金屋町の加入数であつた。自動改式に伴い新設された吉備電報電話局から収容替された加入数は二七五であつたが、この改式により従来積滞していた加入申込の承諾が可能となり新規に開通した加入数は吉備局が一、一三三(既設との合計二、〇二四)金屋局が九六三(既設との合計一、七九二)に達した。

徳田地区の加入電話が吉備局に収容替となつたことにより金屋局加入区域との通話は準市内通話扱いとなり八〇秒七円となるが顧客との通話は通常八〇秒で足りると思われる。八〇秒をこえる通話の場合は料金が嵩むがこれも一発信度に七円程度に止るものと推測されるが、和歌山県下でも四八年七月には広域時分制が実施されるのでこの点の問題はなくなる。電話番号は自動改式に変更されるので金屋局に収容したとしても同じである。自動式は交換を経ず直接慾する時に慾する処へ通話できるという最大の利点がある。

五、本件電話加入区域の変更に当つては、従来原告らと被告が主張していることの外四五年六月二日吉備町長は吉備町会議長と同趣旨の要望をなしてきた。これに対し被告は吉備町長に住民の意向をまとめるのは町当局の責務であることを指摘し、三八年九月一七日の陳情書の意向に変更があるかどうかを四五年六月二〇日までに回答されたい、期限迄に回答のない場合は当初の御当局の意向どおり処理するも異存なきものとして処理する旨の文書を送付したが、吉備町長からは何の意思表示もなかつたので被告は四五年七月二七日付で吉備町長に行政区画と加入区域を合致させる方針で自動化工事を推進する旨通知して工事をしたものである。

六、他局加入の取扱いの費用

一般に自動改式の場合他局加入は、その必要がなく線路の開通、保守点検等管理上の煩雑さからこれを認めないのであるがこの場合線路一〇〇米毎に九、〇〇〇円の線路設置費(本件の場合一加入平均三八、七〇〇円)を要し、使用料として一般の基本料金の六倍の五、一〇〇円の外関係線路一〇〇米毎に五五円(一加入平均二三六円)の付加使用料を毎月必要とする。

(証拠)<略>

理由

一原告らの請求は、原告らが別紙一覧表記載の金屋電話電報局に収容さるべき電話加入権を有することの確認を求めるというにある。ところで被告の主張によれば、原告らが四六年三月一二日迄使用していた手動式電話であつた別紙一覧表の電話は現存せず、新設の自動式電話局である吉備局に収容されてしまつているというのであるから、原告ら主張の電話加入権を確認しても被告がそれに伴う施設を作らねば電話利用の目的は達せられず、原告らの請求をそのまま肯定することは困難であるが、これは、従前金屋局に収容されていた原告らの電話加入権を四六年三月一二日の自動化改式とともに原判決添付別紙にある電話番号とし、吉備局に収容されたのを金屋局に収容せよとの趣旨に帰着するものであつて、本訴は適法なものと解されるので、被告の本案前の抗弁は採用できない。

二当裁判所の判断によるも被告の処置に違法はなく、原告らの本訴請求は認容できないもので、原判決の理由をここに引用し、次の説明を加える。

三(1) 原告らの主張する理由の中吉備局に収容された原告らの電話から金屋局に通話するには市外通話(但し準市内扱)扱いとなつたので電話の使用料金が嵩むというのであるが、被告の主張する今年七月から和歌山県下に於ても広域時分制が実施され吉備局から金屋局への通話も相互に同一料金となつたことは顕著な事実であるからこれを理由とする原告らの主張は理由がない。

(2) そうすると被告の処置によつて原告らが被つている不便は金屋局との通話に互に市外通話としてダイヤルに市外局番を廻さねばならぬこと、外部等に対する電話番号の表示を金屋局から吉備局に変えねばならなくなつたことが考えられるところ、後者については自動化に伴い電話番号の変更は何れにしても免れなかつたから、原告らが顧客等にその通知をしたり、原告らと通話したい相手方が金屋局でない吉備局の電話番号を調べねばならぬという煩らしさがあるとしても周知徹底するまでの一時的なものでありかつ被告の処置により行政区画と一致した便利、利点のあることは当然であるからこれを以て被告の処置を不当ということはできない。

(3) 而して<証拠>によれば次の事実を認めることができる。

原告らが住んでいる徳田地区はもと御霊村の一部で昭和三〇年吉備町に合併されたが、その一番東部にあり有田鉄道の金屋口駅がここにあることが物語つているように有田川を隔てて接する金屋町に近く、ここの住民特に原告らのように商工業等を営むものは吉備町の他の地区との取引、交流よりは金屋町との取引、交流が多いこと、明治以来郵便も電話も金屋郵便局に於て取扱われ、電話の局番も金屋局であつたこと、行政区画上は金屋町とは別であるが経済上、生活上は金屋町と密接につながつているので今次の自動化に当つても原告らは電話を吉備局でなし金屋局に収容されることを望み数次の陳情をなしたこと、しかし、原告らの陳情等に押され吉備町長、吉備町議会議長が自主的判断をよくせず、被告の判断に委せるという甲一号証の三や二九号証のような回答をなしているとはいえ甲一号証の二にあるように吉備町当局は町村合併後の地域の一体化促進と不便解消のため加入電話局を行政区画と一致させることを望んでおること、被告は金屋局舎、吉備局舎新築をはじめとする各関連工事が完了するまでに、御当局と地元住民たる原告らの意見が一致するならば徳田地区の電話のみを金屋局に収容することができないわけでなかつたからその意見の一致を待望んでいたが、その調整ができないため市町村の合併の特例に関する法律第六一国会参議院逓信委員会の付帯決議に則りかつそれが公衆電気通信法にも合致するとの判断のもとに吉備局収容を決定し実行したものである。

原告らは吉備町長が当初なした陳情は吉備町会議長のなした要望書(甲一号証の三)で徹回されたというが、これは九号証たる吉備町長の文書とともに御当局はあらゆる努力をしてきたが原告らを納得させることができないので被告の善処に委す自動化を促進してくれというのでであつて必ずしも当初の陳情を撤回したものとは解し得ないので、原告らのこの主張は採用できない。原告らがあげている消防、警察、その他の多少の不便はあるかも知れないが、これによる便益も考えられないことはなく、被告の処置を違法無効とすることができない。

四、被告と電話加入権者との法律関係は、公法上のものか私法上のものか、加入区域の変更は加入契約の内容をなすかについて、いずれの結論を採るにしても、被告が主張するように、そのすべてが被告の専権で、被告の一方的意思表示で何でも出来ると解することはできないが、多数の当事者を相手に全国的に統一して行うべき電話事業の性質上からすると、被告が法令の範囲内で行う契約内容の改訂はそれが著しく合理性を欠くものでない限り加入権者の同意なくして実行できるものと解するのが相当である。本件のごとく自動化というより大きな役務改善のためには一部利用者に多少の不便があつても多数利用者の公益をはかるのが当然であり、本件に於て被告がなした加入区域の変更は、それが契約の内容をなしているとしても合理的なものであつて、これを違法無効ということはできないのでこの点に関する原告らの主張も採用できない。

五、されば原告らの本訴請求は理由がないので、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(前田覚郎 菊地博 仲江利政)

<選定当事者目録・電話加入権一覧表省略>

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