大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)654号 判決 1973年12月21日
控訴人
財団法人衣笠会
右代表者
梅原哲雄
右訴訟代理人
坪倉一郎
被控訴人
小川庄司
右訴訟復代理人
長桶吉彦
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。本件を京都地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
控訴人の主張
原判決記載本訴請求の趣旨第一項は被控訴人が控訴人の理事の地位にないことの確認、同第二項は被控訴人が控訴人の評議員の地位にないことの確認を求めることをも含むものであるから、この点について判断すべきものである。なお、控訴人代表者理事梅原哲雄は現在も引続きその職にあり業務を掌つている。
被控訴人の主張
控訴人は、原審昭和四六年一二月一一日期日弁論分離前(訴状記載)の訴において、(1)昭和四二年四月二三日開催の理事会決議及び評議員決議が存在しないことの確認を求めるとともに、(2)被控訴人が控訴人の理事の地位にないことの確認を求めていたところ、原審は前者につき弁論を分離したうえ、原判決をしたのであるから、前者を後者と同一の請求と解する余地は全くない。なお、被控訴人は現在も控訴人の理事であり、かつ評議員であつて、理事就在登記がなされるよう要求しているものである。
証拠《略》
理由
一本件記録によると、控訴人は、原審昭和四六年一二月一一日期日弁論分離前の訴(訴状)において、(1)昭和四二年四月二三日開催の控訴人の理事会決議および評議員会決議がいずれも存在しないことを確認する旨の判決並びに(2)被控訴人が控訴人の理事の地位にないことを確認する旨の判決を求めていたところ、原審は前示期日に前者の請求についての弁論を、後者のそれより分離したうえ、昭和四七年三月二九日原判決を言渡したことが認められる。右事実及び弁論の全趣旨によると、当審に係属中の本訴請求の趣旨をもつて、被控訴人が控訴人の理事及び評議員の地位にないことの確認を求めるものと解釈する余地はなく、控訴人は前示各決議が、被控訴人を除くその余の利害関係人との関係においても、画一的に存在しないものとする形成判決ないし特殊の確認判決を求めているものというほかはない。
二そこで控訴人が、当事者適格(原告適格)を有するかどうかについて考えてみる。
(1) まず紛争の実態について検討する。
<証拠>によると、次の事実が認められる。すなわち、控訴人はその事務所を京都工芸繊維大学本部内に置き、控訴人の寄附財産たるいわゆる衣笠会館の運営、繊維教育振興に関する研究、繊維に関する研究等を目的とする財団法人であるが、昭和四一年一月二三日就任し、かつその登記を経た理事(会長)梅原哲雄、理事(副会長)白波瀬米吉、理事森本武夫、同福田長夫、同川浪中、同西田峯吉、同合掌義雄(以上七名)の任期(三年)が既にこれより先昭和四〇年一一月七日に満了しており、昭和四一年一月三日前記理事七名を選任した旨の評議員会決議は存在しないとして、前記理事七名中理事(副会長)白波瀬、合掌及びこれに同調する評議員は、その余の理事、すなわち理事(会長)梅原ほか四名及びこれに同調する評議員と対立するに至つた。そして、当時の控訴人の監事小川庄司(被控訴人)等は、控訴人の寄附行為第一七条の規定(「監事は法人の財産の状況及び理事の業務の執行の状況を監査する等民法第五十九条の職務を行う」)に基づいて、もつぱら監事の職務としての報告のための理事会及び評議員会を、会長梅原側の理事を除外して、昭和四二年四月二三日に招集し、その評議員会において、あらかじめ議事とされていなかつた(むしろ議事となし得ない、というべきである)理事・監事選任の決議(原判決別紙一(一)、(二)の決議)をし、引き続きその理事会において従前の副会長白波瀬を会長に選任する等の決議(原判決別紙二の決議)をした。以上の事実が認められる。
(2) 右認定によると、理事の選任(評議員会の決議)及び会長(前示寄附行為第一六条第一項には「会長はこの法人を代表し事務を総理し及び会議の議長となる」旨定められている)の選任(理事会の決議)は、いずれも財団法人の執行機関の選任にかかわるもので、財団法人の運営にかかわる重要事項であり、その違法の是正は、法律効果をもたらす要件事実たる決議(それは、財団法人における執行意思の決定であり、財団法人自体の根本的意思決定はありえない)自体の違法の是正であつて、決議不存在確認の訴訟形態がその是正に適切かつ必要である限り、その訴の利益を肯認しなければならない(最高判昭和四七・一一・九民集二六巻九号一五一三頁、とくに一五一六頁)。しかして、決議のもたらす法律効果、すなわち法律関係の性質上、当該訴訟の判決効が広く第三者に及ぶ以上、いわゆる処分権主義・弁論主義の例外を認めるその訴については法律上の根拠が必要であつて、右の場合商法二五二条の準用が是認されなければならない。同条の規定の解釈上、原告適格を株主又は取締役等に限定したのは、判決効が第三者に拡張されるところから、直接の利害関係を有し、かつ当該決議の違法の是正につき豊富な知識を有する株主又は取締役等に最も熱心な訴訟追行及び審理の充実が期待でき、これ等の者が判決の適正により多く貢献できるからである。これを本件について考えてみるに、前認定のように紛争の直接の当事者は、相対立する会長(代表理事)たる梅原側理事五名と副会長たる白波瀬側理事二名及び昭和四二年四月二三日新たに理事に選任されたとする蓬台精市等とであり、前認定の相対立する理事等二派間の紛争、つまりそのいずれの側が、理事に選任されて、控訴人法人運営の実権を把握するところとなるかの紛争は、特段の事情の認められないかぎり、法人自体の利益、すなわち財団法人たる控訴人自身の利害に直接結びつかないものというべきである(選任された者が理事として適当か否かは、もちろん直接法人の利害にかかわるものであるが、その選任決議が適法か否かは法人の利害と直接結びつかないのが通常である)。したがつて、紛争の当事者たる理事の立場を超越したいわば中立的立場にあるべき財団法人たる控訴人自身は、前示理由により本訴の原告適格を有しないといわなければならない(したがつてたとえば、理事たる梅原が、原告として、財団法人たる控訴人を被告として、自己の費用負担において、本件紛争に関する訴訟を追行するのが、正当である。)。
してみると、本訴の当事者(原告)たる控訴人法人は原告適格を欠くものであり、本訴は、被控訴人が当事者(被告)適格を欠くか否かにつき判断するまでもなく、不適法なものとして却下を免れない。
よつて、右と結局同趣旨の原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却するべく民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(山内敏彦 阪井昱朗 宮地英雄)