大阪高等裁判所 昭和47年(ラ)395号 決定 1973年3月13日
抗告人 梅田登志栄(仮名)
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨並びに理由は、別紙のとおりである。
一 家庭裁判所は、相続放棄の申述を受理するに当つて、いわゆる実体的要件の存否を審査することができ、申述が所定の方式によつてなされているかどうか、申述者が相続人であるかどうか、申述が真意に基づくものかどうか等の審査判断はもとより、申述が法定の期間内になされているかどうかの審査判断もすることができると解するのが相当であつて、この点に関して原審判に示された解釈とその論証は正当というべきである。
二 相続放棄の期間の起算点となる「自己のために相続の開始があつたことを知つた時」とは、相続人が、相続関始の原因たる事実の発生を知り、かつそのために自己が相続人となつたことを知つた時をいうのであつて、遺産の内容、殊に積極財産の方が多いか消極財産の方が多いかを知つた時を指すものではない。
記録によると、抗告人は、被相続人である亡梅田英雄の長男であつて、被相続人が死亡した昭和四七年六月一七日に、その死亡の事実と、自己が相続人となつたことを知つたことが認められる。したがつて、相続放棄の申述をなしうる期間は、同日の翌六月一八日から起算して三箇月以内である昭和四七年九月一八日(九月一七日が日曜日であるため、その翌日)までである。
三 相続放棄の期間は、一種の除斥期間であつて、相続人の法の不知や錯誤によつて左右されるものではない。
記録によると、抗告人が原裁判所へ相続放棄申述書を提出して相続放棄の申述をしたのは、昭和四七年九月二一日であつて、前記の期間経過後であることが明らかであるから、本件申述は不適法なものとして却下を免れず、これと同旨の原審判は正当であつて、本件抗告は理由がない。
よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 入江教夫 高橋欣一)