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大阪高等裁判所 昭和47年(行コ)12号 判決 1976年6月15日

控訴人 大阪国税局長

訴訟代理人 松田英雄 斉藤光世 勝谷雅良 ほか二名

被控訴人 河静子

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

原判決記載請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

そこで本件告知処分の適否について考察する。

一  本件告知処分は、被控訴人に、解散した訴外会社の清算人としての責任を追及するものであるところ、被控訴人は、右解散、清算人選任の各決議がなされた事実はなく、被控訴人は清算人に就任した事実はないと争うので、まづこの点から考察する。

(一)  <証拠省略>に本件口頭弁論の全趣旨を併せて考察すれば、次の事実が認められる。

(1)  被控訴人の夫金貴順は大阪市生野区猪飼野中三丁目一六番地に自転車のチユーブ、車体、部品等の製造販売を目的とする会社(不二越産株式会社、不二越ゴム工業株式会社、不二越産業株式会社、丸石工業株式会社、丸善ステンレス工業株式会社、丸善不動産株式会社と順次商号を変更し、事業目的も変更された。)の代表取締役として同社(便宜上、不二越ゴム工業と呼ぶ)を経営し、その一環として松江市に支店を設け、ゴムタイヤ類の販売をしてきたが、同社がチユーブ、タイヤ等を取扱わなくなつたので、右支店を独立の会社として設立したのが訴外会社であつて、昭和二八年二月六日設立時より、取締役金貴順、その妻である被控訴人金燦吉、市川昇、代表取締役市川昇、被控訴人、監査役孫[火喜]宇、森永忠夫がそれぞれ就任し、後記のとおり同社が解散するまで右役員構成は登記簿上変動がなかつたが、同社の実質上の株主は資本金一二〇万円のうち市川昇は金二〇万円、森永忠夫は金五万円に過ぎず金貴順は金九五万円で八割を占める大口出資者で、金貴順を社長とする前記不二越ゴム工業松江支店当事一従業員であつた右市川昇が代表取締役、経理担当の右森永忠夫が監査役として、この両名に経営が委ねられてはいたが、他の前記役員らはすべて金貴順夫婦及びその親戚等で単に名前を連ねたに過ぎず、実質は金貴順を社長とし同人の実権のもとにある会社であつた。

(2)  金貴順は昭和三六年に訴外会社を閉鎖しようと考え、その方針の実行を右市川に命じていたが、同年四月三日頃訴外会社所有の原判決別紙目録記載の建物(以下本件建物と云う)と被控訴人所有の原判決別紙目録記載の土地(以下本件土地と云う)とを一括して有限会社ナシヨナルに対し売渡すことになり、爾後の解散、清算人の選任、本店を清算人となる被控訴人の住所地へ移転させる等の登記事務手続を右森永忠夫に命じて当らせ、同人はこれに従つて、昭和三六年五月一五日株主総会の決議により解散し、被控訴人が清算人に就任した旨の同年一〇月一六日受付の解散登記及び同年同月二三日受付を以て本店を大阪市生野区猪飼野中四丁目一七番地へ移転する本店移転登記をした。

(3)  訴外会社に於ては設立以来株主総会が正規に開かれたことはなく、前記のように業務を担当せしめられている代表取締役市川及び監査役森永が毎年度の決算諸表と株主総会の議事録を作成し、毎年正月(決算期は二月末である)に恒例として金貴順夫婦は家族を伴ない訴外会社の招きで玉造温泉に赴き、経営状況の報告を受け利益配当金等を受領してきたのであるが、昭和三六年の解散に際しても、株主総会の招集について所定の手続をふまず、株主総会という形式もとらず、同年五月一五日頃松江市内の岩多屋旅館に止宿した金貴順は予ての分針どおり市川、森永らに清算人を被控訴人とする解散手続をするよう要求し、株主である右両名もこれを諒承して、その手続を進め前記のとおり登記をした。

(二)  以上各認定事実によれば、訴外会社は金貴順を主とするいわゆる一人会社的色彩が濃く、所定の手続を経て正規の株主総会を開いたこともない会社であるから、正規の手続を経たものでなくても、実質上の株主三名が出会い、出資の大部分を占める金貴順の意見に従い三名の合致する結論が出された以上、解散、清算人の選任、本店の移転に関する訴外会社の臨時株主総会が開かれ、過去に決議がなされたものと云うべきである。

(三)  <証拠省略>中、右各認定に反する部分は、前記その他の証拠に徴して措信し得ない。特に<証拠省略>中、金貴順が右解散等の手続に全く関与したことなく、市川らが無断でした旨記載の供述部分は、次の各事実に照して到底真実を述べたものと認めえないから、右記載は信用し得ない。

(1)  <証拠省略>の被控訴人の印鑑証明書及び<証拠省略>の保証書に添付の被控訴人名義の松江地方法務局宛回答書によれば、これらに押捺されている印影は被控訴人の実印であると認められるところ、これと<証拠省略>(訴外会社の解散、清算人被控訴人選任の臨時株主総会議事録)、<証拠省略>(右解散及び清算人就任各登記手続の委任状)中の被控訴人名下の印影(但し<証拠省略>の印影は楕円形のではなく円形のもの)を対照すると、これら被控訴人名下の各印影はすべて、右実印によるものであることが認められる。また、<証拠省略>の保証書に添付の金貴順の松江地方法務局宛回答書及び<証拠省略>(印鑑証明書、いずれも伊藤吉剛名義)によれば、これらに押捺されている金貴順の印影は同人の実印であることが認められるところ、これと<証拠省略>の金貴順名下の印影(但し大きい方の円印)とを対照すると、<証拠省略>の印影は右実印によるものであることが認められる。

(2)  <証拠省略>によれば、訴外会社に於ては会社業務執行のため必要な代表取締役の被控訴人やその他の前記役員らの印はすべて会社に於て保管し適宜使用していたが前項記載の被控訴人や金貴順の実印は訴外会社が保管していたものではなく、金貴順に命ぜられた森永忠夫が右各書類<証拠省略>を作成した昭和三六年五月一五日頃、(<証拠省略>の日付は後日記入されたものと認められる)松江市内の前記岩多屋旅館に止宿した金貴順より所携の各実印により押捺を受けたのであること。しかしその登記手続は放置したままでいたところ、右解散の事実を知つた松江税務署の職員に促され、前記のとおり昭和三六年一〇月一六日に解散及び清算人就任の登記を、同年同月二三日に本店移転の登記をなしたことが認められる。

(3)  <証拠省略>によれば、金貴順及び被控訴人は訴外会社の滞納国税の第二次納付義務者として本件納付告知処分を受けてこれに対し異議申立をするに当り、「当会社は、当時代表取締役市川昇清算の下に解散、建物売却代金等も融通手形、整理に消費し個人分配等皆無であります。」との理由を述べていることが認められ、解散が金貴順の不知の間に市川らの独断によりなされたとの口吻は見られず、その他前記(一)の(1)記載の訴外会社に於ける金貴順の立場より見て、市川らが訴外会社の実権者たる金貴順の不知の間に、訴外会社の解散、清算人の選任、本店の移転等の各手続を独断でしてしまつたとは到底認めえない。

(四)  もつとも<証拠省略>(臨時株主総会議事録)のうちには、上記認定に照し真実でない記載部分があるが、これは解散等の登記手続をするため形式をととのえる書類として作成されたものと理解しうるのであつて、右記載に真実でないものがあるとしても、解散及び被控訴人を清算人とする決議がなされたとみうる事実の存在を否定しうるものではない。

ところで、一般に会社の機関への就任は株主総会の選任決議のみによつて生ずるものではなく、被選任者の承諾を要するものと解すべきであるところ、本件の場合被控訴人が清算人に就任することを承諾したか否かについて検討するのに、前認定のように訴外会社は金貴順が実権を握つていた所謂個人企業的な会社であつて、代表取締役とされていた被控訴人に於て会社の日常的業務に携わつていたことを認めうる証拠はないけれども、前叙認定の事実に徴し、殊に金貴順は被控訴人ら家族と共に毎年正月訴外会社の招待で玉造温泉や松江市に赴き訴外会社の経営状況の報告を受け、利益配当金等を受領してきている事実、被控訴人所有の本件土地が訴外会社の地上建物と共に売却されている事実からすると、昭和三六年五月一五日頃三者によつて解散等の合意のなされた前後には、夫婦である金貴順と被控訴人との間に訴外会社を閉鎖し財産を処分してしまうこと、今後はこのような訴外会社からの招待や利益配当等がなくなること等の解散や清算人選任等のことが話し合われたことを推認するに充分であり、更に被控訴人に於て敢えてこれに反対しなかつたこと、また訴外会社の解散に関する法的な手続等について、すべてを夫金貴順に一任し同人の意思に従う積りであつたことも推認しうるところと言えよう。それ故被控訴人の清算人就任は適法になされたものである。従つて本件告知処分につき被控訴人は清算人としての責任なしとは云えない。

二  本来の納付義務者である訴外会社に本件国税債務があること。

訴外会社が被控訴人から同人所有の本件土地を借受け、その地上に本件建物を所有していたところ、昭和三六年四月三日頃訴外会社及び被控訴人は有限会社ナシヨナルに対し一括して右土地建物を売却したこと。所轄の松江税務署長は、訴外会社が昭和三六年五月一五日解散し、右売却益にともなう法人税の申告をしないとして、同年九月三〇日に、訴外会社の同年三月一日ないし同年五月一五日事業年度(解散事業年度)の法人税として、原判決事実欄第二、二の(三)記載の内容(原判決別表損益計算書を含め)の決定処分をしたこと、訴外会社はこれに対して昭和三六年一〇月二六日松江税務署長に対し再調査請求をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。そして訴外会社は同年一〇月二〇日本店を大阪市生野区猪飼野中四丁目一七番地に移転したことは前記のとおりであり、<証拠省略>によれば、松江税務署長は右移転により訴外会社に関する事務を所轄の生野税務署長に移送し、その後三ケ月を経過したので右再調査請求は控訴人に対する審査請求があつたものとみなされ、控訴人は昭和三八年九月二七日棄却の裁決をしその旨を訴外会社の清算人たる被控訴人宛に右移転先へ通知を発し、それが不到着として返戻されていないこと、被控訴人は金貴順と結婚以来二〇年余(昭和四五年六月現在)を同所に居住しつづけ、同所の被控訴人宛に郵便は到達していたこと、右裁決のなされた当時も同様の状態であつたことが認められる。そうすれば右裁決はその頃到達したものと推認することができる。<証拠省略>による不到達の事例は昭和四二年一一月の本訴提起後のもので、この一例を以て右推認を覆えすに足らず、他に右推認を妨げるべき証拠は存在しない。

そして訴外会社から右裁決に対して不服の訴が提起されなかつたことは当事者間に争いがないから、前記決定処分は確定したものと云うことができる。

なお<証拠省略>によれば、訴外会社の旧所在地に於ける商業登記簿は、右本店移転が登記された昭和三六年一〇月二三日以降閉鎖され、新所在地に於て移転の登記が受理されていないことが認められる。(昭和三八年七月九日法律一二五号商業登記法五七、五八条によれば、本店移転の登記は、新所在地登記所への登記申請も旧所在地を管轄する登記所を経由してしなければならず、新所在地を管轄する登記所に於て登記した旨の通知を受けるまでは旧所在地登記所では本店移転の登記をすることができないこととなつたが、同法施行前は非訟事件手続法により個別申請とされていたため旧所在地で移転登記がなされ登記簿が閉鎖されたが、新所在地で移転登記申請を怠つているため、本件の如く登記簿に登載されていない状態が生じ得た。)しかし、本店移転の株主総会の決議が有効である以上、新所在地に於ける登記がなされてなくても、右移転先に対する裁決の送達が適法であることは云うまでもない。

以上のとおり訴外会社は、法人税金一三八万五四六〇円無申告加算税金二七万七〇〇〇円(その法定納期限は昭和三六年七月一五日である)の国税を納付する義務を負つていることが認められる。

三  訴外会社には前記滞納国税を納付すべき何らの資力もないことは、次項によつて明らかである。

四  訴外会社の残余財産の分配。

(一)  売買代金の分別。

(1)  借地権の存否

<証拠省略>によれば、訴外会社の各期の損益計算書には、昭和二九年三月一日より昭和三〇年二月末日までの昭和二九年度には金一三万円、昭和三〇年度は金一八万円、昭和三一年度は金二四万円、昭和三二年度は金二八万円、昭和三三年度(右例による昭和三三年三月一日より昭和三四年二月末日までのこと)は金三〇万円、それ以降も年間同額の地代が支出経理されていること、市川は金貴順に対し経営状況を報告するため上阪する際、または正月に金貴順が訴外会社の招きで玉造温泉に来るときに、配当金などと共に訴外会社が立替払していた土地購入資金四五万円に対する利息月金五、〇〇〇円及び土地に対する固定資産税の立替払分を差引いて地代として所定額を金貴順に交付してきたこと、土地賃貸借契約書が被控訴人と訴外会社間に作成されていて、地代受領の被控訴人名義の領収証が存在していたこと(もつとも右契約書や領収書は経理上地代支出として処理される以上実体的に賃貸借契約の有無に拘らず存在すべき筈のものであるが)、右市川は金貴順から再三に亘つて地代値上げの要求を受け、その要求にはかなり厳しいものがあつたことが認められる。

前記の如く経営は市川らを中心とする訴外会社にあるが、資本的には金貴順に実権がある訴外会社と金貴順間の関係に於ては、事業利益の配分に関し、(個人企業的会社で代表者個人と会社との間に実質的利害の対立を見ない場合とは異なり、)利害の対立があり、より多くの利益を追及する一般経済原則からしても被控訴人所有の本件土地を金貴順が訴外会社に会社建物の敷地として使用収益せしめるに当つて、前記の如き経理上の処理をし、その利益が金貴順側(被控訴人を含め)に帰属しているに拘らず、なお地代としての経理上の処理は単に金貴順側(被控訴人を含め)への利益配当の名目に過ぎず真実土地使用の対価としてではないとすることは社会通念上も首肯し得ないところであり、<証拠省略>中右認定に反する部分は到底措信することができない。

以上のとおり、訴外会社は会社建物所有の目的でその敷地である本件土地につき賃借権を有していたことが認められる。

(2)  売買代金の分別

本件土地と建物を合した売買代金が金九二五万円であることは既述のとおりであるから、本件建物の売主である訴外会社に帰属すべき代金額は、そのうちに占める本件建物の価格と前項で認定した借地権の価格との合計である。

<証拠省略>によれば、松江税務署は売買の目的となつた本件建物の位置、構造、建築材料、築後経過年数等を考慮し不動産業者らの意見をも参酌し、本件建物の道路に面した店舗向のところを坪当り金二万五〇〇〇円程度、裏の部分を坪当り金二万円程度と区別をつけ、訴外会社の固定資産台帳に記載されていた坪数を乗じて本件建物の売買価格を金九六万一二五〇円と評価し、借地権についても広島国税局長通達(昭和三六年分相続税財産評価基準)によりその割合を更地価格の四五パーセントと評価したこと、昭和三六年二月決算に於ける訴外会社の本件建物の減価償却後の評価額は金一一三万余円であることが認められる。

右認定の事実によると、本件建物及び借地権の右評価は必ずしも一方的恣意的なものとすることはできず、一応客観性を持つ評価基準によつたものと云うことができ、棚卸資産評価額をも下廻るものであるから、売買代金を分別せず、他に借地権付建物の代金額を分別する手掛りのない本件に於ては右の評価を以て正当とすることができる。

<証拠省略>のうちには、有限会社ナシヨナルは建物をむしろ不要として取毀すことを言明していた程であるから、土地のみを目的とした売買で、売買代金のうち建物の占める額はごく少いとの部分があるが、<証拠省略>によれば、売買の後も本件建物は取毀されておらず改装して使用されていることが認められるので、売買代金決定の際建物を不要なものとし土地のみを目的としたとの<証拠省略>中の供述記載部分は措信し難く、他に借地権付本件建物の価額の評価について、右認定を妨げる証拠はない。

そうすれば、売買代金九二五万円より本件建物の評価額九六万一二五〇円を引いた本件土地価額金八二八万八七五〇円の四五パーセントに当る金三七二万九九三七円が借地権の評価額であり、これに右本件建物価額を加えた金四六九万一一八七円が訴外会社に帰すべき本件借地権付建物の売買代金であつたということができる。

(二)  金貴順の受益を除き分配した残余財産

<証拠省略>によれば、売買代金九二五万円は、(1)昭和三六年四月六日内金二〇〇万円が支払われたが、うち金五〇万円は訴外会社が金貴順の申入れに応じて丸善ステンレス工業株式会社へ融通手形として貸していた約束手形五〇万円(支払期日同年同月七日)の決済のため留保し残金一五〇万円が日本勧業銀行今里支店の金貴順の預金口座へ送金して振込まれたこと、(2)同年同月二七日内金一四九万円が支払われたが、この金は株式会社扶桑相互銀行松江支店に対する訴外会社の右同額の手形貸付金債務の弁済に充てられ、これにより売買目的物件である本件土地、建物に設定せられていた抵当権を抹消し、(3)残金五七六万円は一且金貴順が受領したが、うち金一〇〇万七〇〇〇円を扶桑相互銀行松江支店に対する同人の債務の弁済に充てたこと、右売買については業者の仲介なく、仲介料を払つていないことが認められる。

<証拠省略>のうちには右(3)の認定に反し第三回目に受領した額は金五七六万円から融通手形の返済や売買仲介業者への手数料等が差引かれ、結局金貴順の受領したのは金二七〇万円か或は金三七〇万円位であつたから受領した総額はこれに第一回目の金一五〇万円を加えた額である旨の部分があるが、右各証拠に照らし措信し得ない。

以上によれば、右(2)の金一四九万円(<証拠省略>によれば右金一四九万円のうちには、本件土地及び本件建物のうちの土蔵を被控訴人名義で金九五万円で買受けた際、そのうち金四五万円を訴外会社が扶桑相互銀行松江支店から借受け立替払いし、これを訴外会社では「社長勘定」として立替金債権に掲上しているので、金四五万円は金貴順ないし被控訴人の債務と見られる。)の外(1)のうちの金五〇万円、(3)のうちの金一〇〇万七〇〇〇円等実質上訴外会社の債務ではなく金貴順の債務ではないかとの疑あるものも含めた右合計金二九九万七〇〇〇円を前記訴外会社に帰すべき売買代金四六九万一一八七円より差引いても、金貴順の訴外会社よりの受益は金一六九万四一八七円に及ぶことが認められ、<証拠省略>によれば、訴外会社の解散後市川昇がなした最終的清算の結果では金一四万円の買掛金債務を残し訴外会社の資産は皆無となつたことが認められる。

右のとおり金貴順の受益は金一六九万四一八七円であるところ、訴外会社の資本金一二〇万円のうち金貴順の名義上の出資は二五〇株の金二五万円であること前述のとおりであるから、右受益のうち次の計算による金三五万二九五五円は残余財産の分配と解することができる。

1,694,187円×(25/120)= 352,955円

五  以上によつて、(一)金三五万二九五五円については、解散した訴外会社が納付すべき国税を納付しないで残余残産の分配として金貴順に交付したもので、訴外会社に対して滞納処分を執行してもその効がないことは明らかであるから、国税徴収法三四条により清算人には分配した右額の限度で訴外会社の滞納国税につき第二次納付義務があるところ、被控訴人は清算人としての右責任を負うべき関係にあることは前述のとおりである。

そうすれば、控訴人が被控訴人に対しなした被控訴人主張の第二次納付義務者としての本件納付告知処分は適法であるから、被控訴人の請求は失当である。

次に被控訴人の異議申立に対する棄却決定の取消請求について考察するに、当裁判所はこの点に関する原審の判断を正当と考えるから、原判決一一枚目裏一一行より一二枚目表六行目までを引用する。

叙上のとおり、被控訴人の本訴請求はすべて失当であつて、本件控訴は理由があるから、被控訴人の請求を認容した原判決の一部を取消し、その請求を棄却することとし、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 喜多勝 林義雄 楠賢二)

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