大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和47年(行コ)31号 判決 1973年6月28日

控訴人

株式会社大阪相互銀行

右訴訟代理人

松田光治

<外一名>

被控訴人

神戸地方法務局登記官

楠木茂雄

右指定代理人

曾我謙慎

<外一名>

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

控訴人は、原判決添付物件目録記載第一物件の家屋は解体移転されたに止まり、これと同一性のある同目録記載第二物件の家屋が存在するのにかかわらず、第一物件の所有者の申請に基づき、被控訴人が第一物件について滅失登記をなした登記簿を閉鎖したのは違法であるから、これらの各処分の取消を求める旨主張する。

およそ、登記官は、登記申請が違法なものであり、不動産登記法四九条各号の一に該当するときは、決定をもつて申請を却下すべきであるが、かかる申請も受理されて登記が実行されてしまつた後においては、その登記が右四九条一号または二号に該当する場合を除いては、登記官において職権で抹消することができないことはもとより、登記官に対してその取消を請求することは許されないものと解すべきである。けだし、右四九条一号または二号に違背してなされた登記については、これを職権で抹消しうる規定(同法一四九条以下)があるが、右以外の違法な登記については職権抹消に関する規定はなく、かつ、いかに手続的な瑕疵や実体的な無効原因の存在する疑いの濃厚な登記といえども、右四九条一号二号の場合のように当然かつ絶対的に無効であり、その無効が登記自体から明白な場合を除いては、ひとたび登記が実行され登記簿上に現出せしめられた以上は、その登記の名義人ないしはその登記を信頼して取引した第三者は、その登記について利害関係を持つようになるのであるから、それらの者の意思に基づくか、その者に既判力の及ぶ判決に基づくかの、いずれにもよらずして、審査請求ないしは行政訴訟によつてその登記を抹消してしまうことは、登記名義人または利害関係人らに何らの防禦の機会を与えることなく登記上の利益を奪うこととなり不当である。このことは、前記四九条一号二号該当の場合における職権抹消についてさえも登記義務者や利害関係人に異議を述べる機会を与えていることと対比しても明らかである。

そうして、右四九条二号の「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ]とは、主として申請がその趣旨自体においてすでに法律上許容できないことが明らかな場合をいうと解すべきであるから、控訴人主張のような事由は、四九条一号に当らないことはもちろん、右二号にも該当しないことはいうまでもない。

したがつて、控訴人の本件訴は不適法なものという他ない。

仮りに、控訴人主張のように、第一物件と第二物件とが法律上同一性を失わないものであり、第一物件の滅失登記が登記官の過誤によるものであるならば、第一物件に対する控訴人の抵当権はいまだ消滅せず、その対抗力も喪失していないものといえるから、その回復または救済が与えられなければならない。しかし、この点に関する当裁判所の見解は、前記説示を付加するほか、原判決理由記載(理由一枚目裏一行目から九行目まで)と同一であるから、これをここに引用する。

よつて、本件訴を却下した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(岩本正彦 石井玄 畑郁夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例