大阪高等裁判所 昭和47年(行コ)33号 判決 1977年8月19日
伊丹市伊丹旭町四八一-六
控訴人
稲野正次郎
右訴訟代理人弁護士
荒木宏
同
大江洋一
右訴訟復代理人弁護士
北条雅英
同市溝口町七五
被控訴人
伊丹税務署長
三木文雄
右指定代理人
細井淳久
同
大河原延房
同
石室健次
同
吉田周一
同
米川盛夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三九年八月二九日付でした昭和三八年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定はこれを取消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決。
2 被控訴人
主文と同旨の判決。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の主張
本件更正処分は著しく不公正で、課税権の濫用というべきである。
エースマーケット内のC店舗での営業収益について、控訴人の妻稲野とし子は年々自己の所得として申告し、昭和三九、四〇年の二年については控訴人の所得であるとして更正処分されたが、昭和四一年から以降は昭和四六年に廃業するまで、C店舗での所得はとし子の所得として、更正を受けることなく所得税を納付してきている。その間C店の経営形態に格別の変化もなかったのであるから、被控訴人がかように取扱いを変更したのは、自ら本件更正処分の誤りを是認したからにほかならない。昭和四一年度の県、市民税もC店の経営者がとし子であることを認めて課税している。
昭和四七年には控訴人の息子を代表者として帽子店、有限会社「うさぎや」をニチイ内で開店し、それに要する権利金を銀行や国民金融公庫から借受けるのに、本件C店の場合と同様控訴人名でしているが、右営業収益は控訴人の所得と見ず、別課税をしている。
控訴人は伊丹民主商工会に加入していた。本件更正処分当時税務当局は全国的に右団体に対し反税団体とのレッテルを貼り、その会員に対し数々の不利益扱をなし、これをめぐる刑事事件等の混乱を生じた時期であったから、本件処分も控訴人が右団体に加入していることを理由としてなした不利益扱いと考えられる。
以上の諸事情から見れば、本件更正処分は明らかに課税権の濫用である。
2 被控訴人の主張
控訴人の昭和四一年分以後の各所得税については、控訴人夫婦の申告所得を合算する旨の更正処分はなされなかつた。
しかし、昭和四一年以後におけるC店舗の営業主体が、控訴人であるか妻とし子であるかは明らかでないが、仮りに控訴人であったとすれば、本件と同様の更正処分がなされるべきであったのに看過されたことになるが、かかる事情は、本件更正処分と無関係であり、また仮りに妻とし子であったとすれば、本件と同様の更正処分がなされなかったのは当然であるが、そうであるからと言って逆に、それがなされなかった一事を根拠に、それから三年以上も遡って本件年中におけるC店舗の営業主体を推認することは、本末転倒であって極めて不合理である。
したがって、本件年中におけるC店舗の営業主体は、三年以上も後の年分において更正処分がなされたか否かによって左右されるものではなく、本件年中における事業の実体によって判断されるべきものであるが、もし後の年分における更正処分の有無等が考慮されるとすれば、本件年分により近い昭和四〇年分につき、控訴人が本件と同様の更正処分を確定させたことは、控訴人が、自ら昭和四〇年中におけるC店舗の営業主体であることを是認したものと解せられ、昭和四一年分以後における更正処分の有無よりも、はるかに重視されるべき事情である。
3 控訴人は、甲第一四号証の一ないし三、同号証の四ないし六の各一・二、同第一五号証の一・二を提出し、控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一三号証は官署作成部分の成立は認めるが、その余の成立は不知、第一四号証の一ないし七の成立は認めると述べ、
被控訴人は、乙第一三号証、同第一四号証の一ないし七を提出し、甲第一四号証の一ないし三、同号証の四ないし六の各一・二の成立は官署作成部分は認めるが、その余は不知、同第一五号証の一・二の成立は不知と述べた。
理由
一 当裁判所は控訴人の請求が理由ないものと判断する。その理由とするところは、次に付加訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決理由二枚目表八行目の「第四号証、」の次に、「その方式及び趣旨のほか証人石川嘉雄の証言を併せ考えるとその成立が認められる乙第一三号証」を、同九行目及び三枚目裏四行目の「原告本人」の前に「原審及び当審における」を付加し、二枚目裏八行目及び同末行目の「C店舗賃貸借契約」とあるのを「C店舗についての貸店契約(無名契約)」と各訂正する。
2 C店舗での収益が妻とし子の所得として昭和三九年分以降も、廃業する前の昭和四五年分まで申告され、昭和四〇年分までは控訴人の所得であり、合算さるべきものとして更正処分を受けたが、昭和四一年分以降同四五年分までは更正されることがなかったことは当事者間に争いがない。
右取扱の変更が如何なる理由によるものか、明らかではないが、このことによって本件年度についての本件処分を違法とし、あるいは課税権の濫用とすることはできない。控訴人主張のその他の事実によっても本件処分が課税権の濫用ということはできず、本件更正処分が、控訴人が主張の団体に加入しているが故に、ことさら不利益扱としてなされたとすることも根拠がない。
二 以上によれば、控訴人の本訴請求は失当であり原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 林義雄 裁判官 高田政彦)