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大阪高等裁判所 昭和48年(う)16885号 判決 1974年4月09日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人南輝忠作成の控訴趣意書および控訴趣意補充書に各記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意中理由不備の主張(控訴趣意補充書第一点、一の主張)について

論旨は要するに、原判示第一の事実摘示によれば、被告人は、自室において、土田智から、昭和四八年二月二二日と同月二三日の二回にわたり、背広三ッ揃等五点を預り保管中、同月二六日右各物品は賍物であることの情を知るに至つたが、その後同年四月一七日ごろまでの間自室でその保管を継続し、もつて賍物の寄蔵をしたというのであるが、右は被告人が物品を受領したときから賍物寄蔵罪が成立するという趣旨か、それとも被告人の知情後の保管行為のみにつき賍物寄蔵罪が成立するという趣旨が明らかでなく、原判決にはこの点において理由不備の違法がある、というのである。

よつて案ずるに、原判決が原判示第一の事実について、所論のような事実摘示をしていることは所論のとおりであるが、原判決が、被告人において、原判示各物品がいずれも土田智が他から窃取してきた物であることの情を知つた前同月二六日から同年四月一七日ごろまでの保管行為のみにつき、賍物寄蔵罪の成立を認めたものであることは、原判文に徴し明白である。原判決には所論の理由不備の違法はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意中法令適用の誤りの主張(控訴趣意書第一点および同補充書第一点、二の主張)について

論旨は要するに、原判決が原判示第一の事実について、被告人の知情後の保管行為について賍物寄蔵罪の成立を認めたものとしても、ただ単に保管物が賍物であることを知つたというのみでは、その後の保管行為につき賍物寄蔵罪が成立するとはいえないから、原判決にはこの点において法令適用の誤りがある、というのである。

よつて案ずるに、なるほど、原判決挙示の関係証拠によると、被告人は、土田智から、賍物であることを知らずに原判示第一の物品を預り保管中、それが賍物であることの情を知るに至つたが、その後もそのまま保管を継続したに過ぎず、その保管場所を変える等の積極的な行為をしていないことは所論のとおりである。しかしながら、かかる場合においても、賍品の返還が不能であるとか、或いは賍品につき質権が効力を生ずる等賍品を留置し得る権利が生じた場合を除いては、賍物寄蔵罪が成立すると解するのが相当である。けだし、窃盗罪の事後従犯として、盗品に対する被害者の追求権を保護し、かつ、窃盗本犯を助長する行為を禁ずる等の賍物罪の保護法益および立法理由に徴すれば、賍品の返還が可能であり、かつ、法律上これを拒否する理由がないのに拘らず、知情後においてもなお保管を継続する行為と、当初より賍物であることの情を知りながらこれを預り保管する行為とを区別する理由はないからである。所論は、右見解は、賍物であることを知つたという、単なる心理的事実のみで刑罰を科すこととなり、近代憲法の原則(憲法三一条)に反するというのであるが、しかし、知情前の保管行為についても、客観的には賍物寄蔵の外形的事実は存在しているのであつて、ただ犯意がないために犯罪が成立しないのに過ぎず、これが知情後においては、右客観的事実に加えて、犯意が生ずるため犯罪が成立するに至るものであつて、けつして所論のように心理的事実のみで犯罪の成立を認めるものではないのである。そして、これを本件についてみると、被告人において、原判示第一の物品を留置し得る権利を有していたことは認められず、これを土田に返還することは極めて容易であつたのにこれを返還していないばかりか、かえつて、知情後において更に、原判示第二の事実のとおり、土田の持参した賍品を、前後六回にわたり、故買し、収受し又は寄蔵していることが認められるので、知情後においてなお原判示第一の物品の保管を継続する意思のあつたことは明白である。原判示第一の事実につき賍物寄蔵罪の成立を認めた原判決には所論の法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

控訴趣意中事実誤認の主張について

論旨はまず、原判示第二の(一)ないし(四)の事実について、被告人は右事実記載の物品を土田から貸金の担保として預つたもので買受けたのではないのに、これを賍物故買と認定した原判決は事実を誤認している、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠によると、右事実は優にこれを肯認することができる。すなわち、なるほど被告人は原審および当審において所論にそう供述をしており、また、土田が被告人に対し「これで金を貸してくれ」と言つて右物品を持参したことは所論のとおりである。しかし、土田の原審証言によると、「金を貸してくれ」と言つたが実際は売つた積りであり、金を持つて行つて品物を返して貰う気持はなかつたこと、また、被告人の司法警察員に対する昭和四八年六月四日付供述調書および検察官に対する供述調書によると、被告人としても、盗品を持つて来て金を貸せということはその品物を買えということと同じ意味に理解しており、土田が金を返すとは思つていなかつたこと、それで、原判示第二の(三)のテープレコーダーは土田の了解を得ずに入質処分したこと、以上が認められる。そして、これらと、金員の返済期限等の定めがなく、かつ、被告人が返金を請求し、また、土田が返金をした事実もないこと等を総合すると、被告人が右各物品を土田から買受けたことはこれを十分認めることができ、右に反する被告人の供述はこれを措信しがたく、その他所論にかんがみ更に証拠を検討しても、右認定を覆すに足るものはない。論旨は理由がない。

論旨は次に、原判示第二の二の事実について、被告人が右事実記載の物品を土田から贈与を受けたと認めるに足る証拠がないのに、これを賍物収受と認定した原判決は事実を誤認している、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠によると、右事実は優にこれを肯認することができる。すなわち、右証拠によると、原判示第二の二のネツクレス等は、土田が被告人方に「何時も世話になるのでやるわ」と言つて持つて来たので、被告人においてこれを貰い受けたものであることが認められる。もつとも、土田は原審において、その際被告人が右ネツクレス等を見て、「ガセ物や」と言つてちり箱に捨てたと証言しており、被告人も当審においてその旨の供述をしているが、しかし、被告人はその後ちり箱からネツクレス等を取り出して、本件検挙に至るまで、一部不明の物を除いてこれを所持していたことは右挙示の証拠によつて明白であるから、被告人においてネツクレス等原判示の物品を、土田から贈与を受けこれを取得する意思のあつたことは明らかである。原判決には所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

所論にかんがみ記録を精査し、かつ、当審における事実取調べの結果をも参酌し、本件犯行の動機、態様、回数、賍物の価格、被告人の利得額、前科、前歴、生活態度等に徴すると、所論の点を斟酌しても、被告人を懲役六月および罰金二万円に処した原判決の刑は相当である。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条、一八一条一項但書により、主文のとおり判決する。

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