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大阪高等裁判所 昭和48年(う)27号 判決 1973年8月30日

主文

原判決を破棄する。

被告人らを各罰金一五、〇〇〇円に処する。

被告人大場賢吉において右罰金を完納できないときに罰金額中一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、大阪地方検察庁検察官検事早川勝夫作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は弁護人村林隆一作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、労働基準法六二条一項但書にいわゆる交替制は、同一労働者が一定期間ごとに昼間勤務と夜間勤務に交替につく勤務の態様をいうと解すべきであるのに、原判決が右条項の交替制は要するに当該労働者の深夜業による体力の消耗を充分回復できるような交替勤務態様のものをいうと解した上、本件の勤務すなわち、午前〇時三〇分まで深夜業をしてその日は非番とし、翌日午前七時就業する勤務は右交替制に該当するとしたのは、同法六二条一項本文、但書の解釈適用を誤つたものであるというのである。

よつて所論にかんがみ記録を精査して案ずるに、一般に交替制労働とは、労働者が複数の組に分れ、一日のうち複数の時間帯ごとに交替して就労する形態をいうが、このうちには、各組が一定期間ごとに他の組と就労時間を交替するものと、就労時間の交替をしないものとが考えられる。そして、労働条件の最低基準を法定し、労働者の地位を保護することを目的とした労働基準法の立法理由および年少者等の深夜業を原則として禁止した同法六二条一項本文の趣旨から見ると、同項但書は使用者のやむを得ない必要を充たすため、年少者の深夜業による疲労、生活の不健全その他心身への悪影響が最も少ない形態のものに限つて例外的にこれを認めたものと解すべきである。この見地からすれば昼間勤務に引続き深夜勤務がなされ、就労時間の交替を伴わないものは、場合によつては年少者が連日深夜業に従事することもあり、勢い、その体力の消耗など心身への悪影響も大きいことはいうまでもないところである。かくては年少者等の深夜業禁止の趣旨はほとんど失われるおそれがあるため、同項但書にいう交替制には該当しないと解するのが相当である。

この点につき、右時間の交替を伴わないものにおいても、次ぎの就労までの間に相当な長さの休養時間または休養日を置くことにより前示のような悪影響を緩和することも不可能ではないが、たとえ同一の労働量においても、深夜勤務がもたらすところの疲労の累積ないし体力の消耗は、就労時間を交替するものと比較すると遙かに大きいものがあることは明らかであるし、充分な休養を与えている場合に限り同項但書にいう交替制に当ると解することは、その判断の基準があいまい不明確となり、ひいては適正な労働条件の維持が困難となり、前示立法の理由を失うおそれのある解釈であつて、採ることができない。したがつて本件勤務においては次の就労まで三〇時間三〇分の休息時間があることを理由に同項但書の交替制に当るとした原判決は、この点法令の解釈適用を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである。そうすると、右労働基準法六二条一項本文違反の罪と、有罪とされた原判示同法六〇条三項違反の罪とは一個の行為で数個の罪名に触れる場合に該当し、刑法五四条一項前段により一個の刑をもつて処断すべきであるから、原判決全部の破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決全部を破棄し、同法四〇〇条但書により、さらに判決する。<以下―略>

(杉田亮造 矢島好信 加藤光康)

【参照 原判決の主文及び理由】

主文

被告人大場賢吉、被告人植村魔法瓶工業株式会社をそれぞれ罰金一万五千円に処する。

被告人大場賢吉が右罰金を完納しないときには、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実) 被告人植村魔法瓶工業株式会社は、大阪市大淀区中津南通り二丁目五番地に本店を置き、同所に本社工場および同区本庄中通り四丁目四七番地に本庄工場を有し、魔法瓶の製造、販売業を営むものであり、被告人大場賢吉は、同会社の常務取締役として右工場における生産業務ならびに従業員の人事や労務管理などに関する業務を行なうものであるが被告人大場賢吉は、右業務に基づき被告人会社のため、右本社工場において昭和四七年六月二二日から同年七月二四日までの間、一八才に満たない労働者石原一明(昭和三〇年八月一三日生)を別紙(一)記載のとおり、同様に労働者倉田和富(昭和三〇年九月一三日生)を別紙(二)記載のとおり、同様に労働者滝本順次(昭和三〇年三月九日生)を別紙(三)記載のとおり、合計四〇回にわたり、いずれも、一日につき一〇時間の労働時間を五時間一〇分超えて翌日午前〇時三〇分まで労働せしめ、この間、被告人植村魔法瓶工業株式会社代表者植村駿二は、右違反の防止に必要な措置をしなかつたものである。(別表(一)(二)(三)省略)

(証拠の標目)省略

(当裁判所の判断) 公訴事実中、被告人らに対する労働基準法第六二条第一項の罪(深夜業禁止違反の罪)の成否について検討するに、同条項は、同項但書の交替制によつて使用する満一六才以上の男子については適用されないところ、右交替制とは、要するに当該労働者の深夜業による体力の消耗を充分回復できるような交替勤務態様のものをいうのであるから、別紙(一)ないし(三)記載のごとく、本件各労働者(いずれも当時満一六才と一七才)らが勤務したような方法、即ち、隔日午前〇時三〇分まで深夜業し、その日は非勤務、翌日午前七時就業の勤務は、午後一〇時以降の深夜業の時間が二時間三〇分であり、次の就業まで三〇時間三〇分の休息時間が隔日にある事実から考え、ここにいう交替制勤務と認めるに充分であるから、本件において、労働基準法第六二条第一項の罪は、同条項但書の適用を受けることになり成立しない。

しかし、右深夜業禁止違反の罪は、前記認定の各時間外労働禁止違反の罪とそれぞれ刑法第五四条第一項前段の所謂一所為数法の関係にあたる場合であつたのであるから、主文において無罪の云渡しをしない。

(法令の適用)省略

(昭和四七年一二月一四日大阪家庭裁判所)

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