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大阪高等裁判所 昭和48年(く)41号 決定 1973年7月31日

被告人 木山高明

主文

原決定を取り消す。

本件保釈請求を却下する。

理由

本件抗告申立の理由は、神戸地方検察庁検事蓮井昭雄作成の抗告申立書に記載のとおりであつて、要するに、(一)本件は刑事訴訟法八九条一号に該当し、また(二)被告人は既に昭和四四年末頃から赤軍派に加盟し兇器準備集合罪による検挙歴もあり、昭和四六年三月末頃からは同派の革命戦線関西地方委員会議長となりゲリラ闘争を推進して来たもので、本件直前の米国総領事館に対する火炎びん投擲による放火未遂事件、本件後の爆発物取締罰則違反事件、犯人蔵匿事件、火薬類取締法違反事件のいずれも加担してそれぞれ主導的地位を占めているところからみると、本件は常習として犯されたものであるから、刑事訴訟法八九条三号に該当し、(三)本件公判審理の状況は、検察官の立証は一応予定証人の尋問を終えたものの弁護人側の立証は未了で、その立証計画も明らかでなく、被告人を釈放すれば、組織の幹部として主導的地位と影響力を有する被告人として、予定証人らに働きかけて罪証隠滅をはかるおそれがあるから、刑事訴訟法八九条四号に該当し、(四)被告人の住居は、一応形式的には身柄引受人である実母と同居するとして特定されているが、被告人は釈放されれば同志を糾合して、いわゆる爆弾闘争など非合法活動を再開するおそれが大であり、勢い、従来の行動にみられるように、捜査機関の眼を逃れるため広地域にわたりアジトを転々として地下潜行行動に入り、その住居を把握することが困難となり、結局は真実の住居は不明となり、住居が判らないときと実質的には異ならないから、刑事訴訟法八九条六号に該当し、以上いずれにしても、本件は権利保釈を許すべき場合に該当せず、また右のような事情からして裁量保釈も許すことは相当ではないと認められるのに、被告人の保釈を許可した原決定は、不当にその裁量を誤つたものであるから、その取消を求めるというのである。

よつて、一件記録を検討し、当裁判所における事実取調の結果をも参酌して案ずるに、被告人は、昭和四七年四月八日本件平和台病院に関する兇器準備集合、現住建造物放火未遂の各事実により起訴されて勾留中のところ、三回にわたる保釈請求がいずれも却下されたのち、昭和四八年六月一九日弁護人松本剛からの保釈請求に対し、原裁判所が同年七月一二日実母橋野初江を身元引受人とし、保証金額四〇万円、住居を神戸市兵庫区山田町原野、市営山の街住宅一四三二号に制限して、被告人の保釈を許可したことが明らかである。そして、本件が短期一年以上の懲役にあたる罪を犯したものであることは起訴状記載の公訴事実及び罪名に徴し明白であり、また被告人は昭和四五年三月高校を卒業したものであるが、高校在学中の昭和四四年末頃から共産主義者同盟赤軍派に加盟し、昭和四六年三月末頃からは同派の革命戦線関西地方委員会議長となつてゲリラ闘争を推進し、本件より約二ヵ月前の同年六月四日に発生した神戸米国総領事館に対する火炎びん投擲による放火未遂事件(昭和四七年一月二九日起訴)、本件後の昭和四六年九月一四日頃から同月一七日頃にかけて東京都においてダイナマイト等を使用して交番爆破を共謀したことによる爆発物取締罰則違反事件(昭和四七年四月二六日起訴)、昭和四六年一一月七日頃から下旬頃にかけてライフル銃と実包を実兄方から窃取した同派の女性を東京都内においてかくまつたことによる犯人蔵匿事件(昭和四七年一月一八日起訴)、昭和四六年一二月二四日頃大阪市内において爆薬及び雷管を製造し、翌二五日兵庫県下の山中において爆破実験の目的で手製爆弾を所持したことによる火薬類取締法違反事件(昭和四七年六月二三日起訴)のいずれにも加担していることなどからみて、本件は常習として長期三年以上の懲役にあたる罪を犯したものと認められるから、刑事訴訟法八九条三号に該当することも明らかである。したがつて、刑事訴訟法八九条四号、六号に該当するかどうかについての所論について判断するまでもなく前記保釈の許可は必要的保釈ではなくて、いわゆる裁量保釈によるものであることが明らかである。そこで、その裁量の当否について判断することとする。被告人は、本件を含め五回にわたる起訴事実について原裁判所で併合審理され、第七回公判(昭和四七年一〇月四日)において初めて検察官より全起訴事実について証拠請求がなされ、第一〇回公判(同年一二月二五日)において、弁護人が本件関係の証拠についてのみ意見を述べ、第一一回公判ないし第一五回公判において本件に関する検察官申請の共犯者小椋聖造を含む証人四名の取調がなされていて要証事実についての検察官の立証が一応終了し、弁護人の立証段階にかかつていることが認められるから、未だ被告人の捜査官に対する供述調書の証拠調がなされていないけれども、本件についての罪証隠滅のおそれがあるとはいいがたい段階にあり、また本件についての勾留は既に約一年四ヵ月、当初の犯人蔵匿事件による勾留状執行からは既に約一年七ヵ月を経過し、相当長期間未決勾留が継続されていることが認められる。しかし、本件犯行の態様、本件及び他の起訴事実からもうかがわれる被告人の過激な性格、定住性のない生活態度など諸般の事情を考慮すると、被告人には逃亡および再犯のおそれがないとはいいがたいのみならず、原決定の身元引受人となつている被告人の実母は、被告人が勾留されたのちの昭和四七年二月上旬頃北九州市の自宅の管理を知合の若夫婦にまかせて旧知の大阪市南区千年町三四番地岡本ルイ方に身を寄せ、同人の娘の経営する千里中央の和食堂の手伝をしていたが昭和四八年七月右手伝をやめている状況にあり、また原決定の制限住居とされている神戸市兵庫区山田町原野、市営山の街住宅一四三二号は、昭和四三年七月頃からしばらくの間被告人が当時実母と離婚状態にあつた実父と居住したことがあつたが、実父は昭和四八年四月一七日に死亡し、現在実父の弟木山一雄が居住しており、しかも、実父は一六ヵ月間の家賃を滞納したため神戸市から家屋明渡の調停を申し立てられ、昭和四六年四月一〇日調停成立して滞納家賃を支払うこととなつたが、これを完全に履行しないばかりか昭和四七年三月分以降の家賃も滞納しており、かりに居住権の認められる被告人側において滞納家賃を完全に支払うとしても、木山一雄との居住関係は解決しておらず、また、ともに定職も資力もなく、右制限住居における生活基盤のない被告人と実母が今直ちに居住して生活を営み得るかどうか甚だ疑問に思われる現状にあることをも勘案すると、現段階においては、本件について裁量保釈を許すのは相当でないと考えられる。したがつて保釈を許可した原裁判所の決定は失当であるから取消を免れない。本件抗告は理由がある。

よつて、刑事訴訟法四二六条二項により原決定を取り消し、弁護人の本件保釈請求を却下することとし、主文のとおり決定する。

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