大阪高等裁判所 昭和48年(く)90号 決定 1973年12月24日
少年 D・S子(昭三四・一〇・一七生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年に対する原決定の処分は著しく重きに失する、というのである。
よつて、少年に対する強制措置許可申請事件記録及び少年調査記録を精査して検討するに、少年は小学校在学中すでにボンド遊び及び喫煙を覚え、中学校進学後もボンド遊びにふけり或いは家出して万引をするなどの非行があつたところから児童相談所の調査を受け一時保護に処せられたが、翌日一時保護所から無断外出し窃盗を働いて警察官に保護され、昭和四七年一〇月三日教護院である○○学院に収容されるに至つたものであるが、同学院に収容中前後六回に亘つて無断外出(泊)を繰り返し、その間窃盗、不純異性交遊、ボンド及び睡眠薬遊びなどを行い、昭和四八年八月一八日には原決定記載の窃盗の非行事実を犯したものであつて、少年の以上の如き行状に加えて、少年の年齢、資質、性格、家庭状況、殊に少年には非行についての反省がほとんど認められないばかりでなく却つて非行の態様がますます悪質になつていること、及び少年の家庭は父が家出中の欠損家庭であつて、母が木工所の工員として働き生計を維持している状況にあるため、母の保護能力には多くを期待することができないことなどの諸点を考慮すると、少年の再非行を防止するためには一定期間少年の自由を拘束する施設に収容し教護、矯正を図る必要があると認められるところ、少年の非行性、反社会性はかなり根深かく、教護院において適宜強制措置を講じたとしても、もはや教護院における教護の限界を超えると認めざるを得ないこと原決定の説示するとおりであり、また、原決定の言及する如く、少年を遠隔地の教護院に送致するよりも保護者の住居地に近い初等少年院に収容することが、保護者や少年が在学していた中学校の先生などとの連絡を密にし得る利点もある。従つて、少年を初等少年院に送致した原決定の処分に著しい不当があるとは認められない。
よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することにし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 原田修 裁判官 高橋太郎 角敬)
参考 原審決定(大阪家裁 昭四八(少)六九六〇号 昭四八・一一・一二決定)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年はA子と共謀して、昭和四八年八月一八日午後一時頃、大阪市東住吉区○○×丁目株式会社○○○・○○店において、同店々長○見○出○管理にかかるスポーツシャツ外一点(計五、二八〇円)を窃取したものである。
(適条)
刑法二三五条(少年法三条一項二号)、刑法六〇条。
(処遇理由)
1 本件は大阪市中央児童相談所長から送致されたもので、その送致事由の要旨は「少年は中学一年生の頃から度々家出し、シンナー、ボンド遊び、不純異性交遊にふけり、保護者(母)の監護能力もないため、昭和四七年一〇月三日付にて教護院である○○学院に収容保護を加えたが、昭和四八年一〇月六日までの間六回にわたり無断外出をくり返し、その度にその方法は巧妙かつ悪質になり、無断外出中においても性非行、窃盗等の非行がみられ、その非行性はますますエスカレートしていく傾向にあつて、本件の上記非行事実を犯すに至つたものであり、その非行内容からしてもはや上記開放施設での教護は困難であり、又少年は本件非行についての反省の態度も薄くこのまま放置すれば再非行の虞があるので、その行動の自由を拘束しうる国立教護院の施設に収容して教護するための強制措置を求める。」というものであつて、調査の結果によれば上記送致事由のとおりの事実が認められ、母のみの欠損家庭においては同保護者の監護能力には期待できない状態にあるので、少年の非行性は強力な施設に収容して教護、矯正を図る必要があるものと認められる。
2 ところで少年の年齢、資質、性格、経歴、家族事情、施設からの度重なる無断外出、放浪癖及びその間の非行の回数態様など諸般の事情から判断すれば、少年の非行性、反社会性はかなり根深いものがあり、もはや教護院における教護の限界を越えているものと認められる(たとえ教護院において適宜強制措置をとつたとしても)ばかりか少年を本件申請のように遠隔地の教護院(栃木県所在、きね川学園)に送るより、保護者の住居地に近い初等少年院に収容保護を加え、少年と保護者及び中学校の生活指導部長(少年が在学中の先生)等との連絡を密にした方が少年の健全な育成と保護の万全を期する上により適切であると思料されるので、少年を初等少年院に送致することとする。
3 以上のとおりであるから、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項及び少年院法二条二項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 日野忠和)