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大阪高等裁判所 昭和48年(ツ)36号 判決 1975年3月12日

上告人

株式会社神戸製鋼所

右代表者

井上義海

右訴訟代理人

永沢信義

外三名

被上告人

福島涼

被上告人

三野利昭

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一上告理由第一点について

論旨は要するに、同一の新聞を二部以上職場に持込むことは上告会社の従業員就業規則(以下単に規則という)三〇条、並びに同条二項に基づき定められた物品搬入搬出及び持込持出規程(以下単に規程という)に違反することであるから、これに対して守衛が口頭による質問と、任意の提示を求める行為をしたことは当然であるというのであつて、(イ)私品持込の範囲、(ロ)私品点検の許否の二つの問題が含まれているので、先ず(イ)の問題について考察する。

規則三〇条、並びに規程は所論のごとく職場内における秩序維持、規律の確立、盗難予防等のために規定されたものであり、従業員の行動を規制するものであるが、右規則は法令又は当該事業場について適用される労働協約に反しない限り法的規範としての拘束力を有するものと解すべきであるとともに、規則、規程の運用に当つては不当に従業員の自由を制限することのないよう合理的に解釈運用されるべきである。このような見地において、規程一六条一項を検討してみると、同項に書籍・新聞・雑誌等が列挙されているとはいえ、その前に「作業衣・傘・洗面用具など日常携帯品」との定めがあり、その後には、「軽易な運動用具その他これに類するもの」との定めがあることを考えあわせると、右書籍・新聞・雑誌も、その前後に挙げられた諸物件と著しく均衡を失しない程度のものに限定する必要があり、これを新聞について考えてみると、同一の新聞を多数携帯しているとか、あるいは、別個の新聞であつても、若しこれを構内で配布する目的で持ち込もうとするような場合は、右規程一六条一項の除外例には含まれないと解すべきである。かくして当裁判所は右(イ)の問題点については、原判決が、同僚等への無償交付や、同僚等の依頼による取次等のため自己の需要以上の部数を持込む場合も日常携帯品の範囲内に属するものと解したのは支持することができず、むしろ論旨の主張に近い考え方をとるのが相当である。

しかしながら前記(イ)(ロ)の問題点の内では、(ロ)の点検の範囲について、より重要な問題が存在することを見逃すことができない。すなわち規則三〇条三項は必要ある場合は守衛の請求により携帯品を点検することができることを定め、規程一八条も守衛が必要と認めた場合はその指示に従い点検を受けなければならないと規定しており、これに基いて、上告人は、持込を許されない物件を携帯していないかどうかにつき、口頭による質問、任意の提示を求める行為をすることは当然であると主張するのであるが、労使双方の利害を合理的かつ公正に調整することを基本理念とする以上、たとえ論旨のいう方法による点検であつても、携帯物件の形状、数量その他諸般の状況から見て持込の許されない物品を所持していることを疑うに足りる相当な事由がある場合に限りこれをなしうるものと解すべきであつて、単なる会社側の見込だけによつて所持品検査をすることは、思想信条の調査にもつながり、人の自由を制限する虞のあるものとして許すべきではない。

本件の場合、原判決が適法に確定した事実によると、被上告人らはアカハタ四ないし五部をはだかのまま四つ折にして小脇にかかえて入場しようとしたというのであるが、そのような外観だけから、果してそのかかえている新聞がすべて同種のものであると判るか否かにも疑問があり、また四部ないし五部という数量は、先きに掲げた持込許容の最高限であると見るのが相当である。更に、工場内の文書配布禁止(規則七〇条一一号)の効果を右点検の方法によつて確保するのにも限界がなければならない。したがつて被上告人らが右点検を拒否したことは相当の理由があるというべきであつて、原判決の判断は結局正当として維持すべきであり、所論は採用できない。

二上告理由第二点について

当裁判所は右第一点について判示したとおり、たとい口頭による質問と任意の提示を求める行為とをすることも、諸般の状況から見て、持込の許されない物品を所持していることを疑うに足りる相当な事由がある場合を除いては許されないと解するのであり、またこの方法による点検を拒んで入場した場合には規則三〇条違反の問題が起ることは原判決が甲第一号証により認定したところである。してみると、被上告人らの入門の際、上告人の守衛がピケにより物理的な妨害をしたことがなかつたとしても、許されない点検により入門を妨げたことには変りはない。したがつて、ピケによる入門拒否の事実の有無ということは、本件の判断に影響のあることではなく、また証拠の措信できない理由は、必らずしも、判示を要しないのであるから、この点の判示に際し証拠の引用に誤まりがあつても、直ちに判決を違法とするには足りない。してみると、原判決の事実認定についての証拠の判断に違法があるとの論旨も採用できない。

三よつて、民訴法四〇一条、三八四条二項、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(沢井種雄 野田宏 中田耕三)

〔上告の理由〕

第一点、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

一、原判決は上告会社従業員就業規則(乙第一号証及び物品搬入搬出及び持込持出規程(乙第二号証)の私品持込と点検に関する各条項の解釈を誤つている。右規則及び規程の関係条文は別紙のとおりであり、以下単に規則及び規程と云うものとする。

原判決はその理由二に於いて、

(ⅰ) 私品として持込む新聞は規則三〇条一項の「日常携帯品」である。

(ⅱ) 新聞を自己の需要以上の部数を持込む場合でも「日常携帯品」の範囲に属するものと解する。

(ⅲ) 規則七〇条一一号の許可なく印刷物もしくは文書を配布したときは懲戒処分の対象となるとの条項と、私品の持込持出とは別個の規定で、本件私品の持込持出についての規定は懲戒処分を予防するための規定ではない。

(ⅳ) 「日常携帯品」をも点検しうるという規定第三〇条・三項及び規程一八条は持込品が①日常携帯品であるかどうか不明の場合、あるいは②日常携品以外のものが混入していないかどうかを確めるための場合に限定せられるべきであると解し、

従つて各被上告人は外観上日常携帯品を所持していることが明白であつたから、守衛の点検をうけるべき場合には該当しないと判示した。

しかし、右解釈と判断は規則・規程の解釈を誤つたものであり、これを前提とした原判決は容認し難いのである。

二、以下逐次右解釈の誤りを指摘することとするが、先ず、就業規則における事業所内への私有品の持込みと点検についての上告人の考えを述べておく。

(一) 事業所内の労働者の生活の規制について、

事業所内における労働者の生活は、入門より出門に至る迄の間(就労の前後は勿論休憩の時間をも含めて)労働者が事業場構内にいる限り市民生活規範とは別な規制をうけることも止むを得ないのである。「企業秩序を支えるものは、個々の業務上の指示命令だけではなく、多種多様の労働者にとつての一般的作業基準および服務規律たるべきものも含まれ、これら規制は労働契約あるいは施設所有権の作用として就業規則という形式で具現化されているのである。」企業は労働者により提供せられる個々の異質の労働をそれに適応する職場(施設)に位置づけると共に、これらを有機的に構造化して企業目的である能率的な単一生産を行ないうるよう組織しているこの組織の存立、維持を可能ならしむるものが企業秩序といわれるものである。

企業秩序は右に述べたような合目的的な秩序であり、労働契約により労働者が企業の中で守るべきものとして承認せられているものであるから、労働者が現実に作業中であるか否かを問わず、労働の意思を以つて入門せんとする時から換言すれば労務の提供を行なわんとする時から企業秩序に適合する行為が求められることは当然のことである。

労務を提供する場としての工場内へどのような物品を持ち込んで良いかを定めることはすべての従業員に妥当する労務給付に関連する規定であつて、まさに前述した意味での就業規則の規制対象となるものに外ならないのである。

(二) 私品持込の規制について

就業規則はかくて、企業秩序を維持するために機能するものであつて、私生活における一般的な所謂市民法秩序に適合するものが、ただちに企業秩序に合致するとは限らないのである。例えば私生活に於いてどのような服装をしようが自由であるが、一定の職場で特定の作業衣の着用を要求せられることがことがある。このことは企業目的を達成するための服務規律として、使用者と多数の労働者の意思の同意により、その職場でのすべての労働者に妥当するものとしての企業秩序を形をつくつていることを意味している。寧ろ逆に一般市民法秩序の中で妥当する自由は、労働者が一旦労務の提供の場へ足をふみ入れんとする時から、制約せられ労働の場である職場でのすべての労働者に妥当する企業秩序に従うべきことが要求せられる。

従つて就業規制の解釈に当つて基準たるべきものは、その規制が実施せられている職場での妥当性という観点から行なわるべきものであるから、休憩時間中と雖も労働者が事業場内にいる限り各人自由に社会生活を行ないうるものでなく自ら限界があるのである。

物品持込みの規制に関する右規則、規程上の根拠は、従業員は所定の業務につくため入門するのであるから、本来私物の持込を必要としないのであつて、職場内に於ける秩序維持、規律の確立、施設や従業員の安全、危険防止、盗難予防の見地からは何らの私物を携帯しないで、入門することが望ましいし、従業員の通勤、休憩時間の利用に不便をかけない限りは最少限に物品持ち込みを限ることが必要であるという考え方に基因しているのである。

上告人会社に於けるが如く労務提供に無関係な私物を職場に持ち込むことを制約する規則を設け、持込める範囲の例をあげ限定的に明示すれば、無用の私品を徒らに持ち込むことによる事故の発生を事前に防ぎうるという意味からも、他の鉄鋼メーカーは勿論ほとんど全部の工場においてかゝる私品持込制限の規定を就業規則中においているのである。従つて上告人会社の私品持込みに関する規則規程で持ち込みうる物として規定せられているものは限定的に解釈せられるべきものである。

規則、規程では持ち込みうる私品を、①日常携帯品 ②これに類する私品 ③私有の作業用器具 ④会社による配給販売品に限つているのである。

(三) 私品の持込みと点検について

点検は持込みうる私品を判別する作用である。企業秩序にとつて有害なもの、無用なものを分別する作用ともいえる。要するに原判決も認めるように、現実に私品の持込をチェックすることによつて企業秩序維持をはかるものである。従業員が私品持込みの制限をうけるのと同じ理由で、点検をうけることについても受忍義務を負うことは止むを得ないことである。原判決は点検の手続面においても従業員の権利を侵害しないことが要請せられると述べているが、この点検の適正手続の要請は、正しくは、何を点検するかということよりも、如何なる方法で点検するかということにあるのである。

この点については上告人会社で行なつている持込品についての点検は口頭により質問、任意の提示を求める行為以上に出でてないようであり、このことは本事実審のすべての証拠から認められるものである。原判決は前記のように点検についての手続面における権利保障の要請があるということを判示しながら、これを何を点検するかの問題であるかのように考えている文意が随所にみられるが、この何を点検するかという問題は持込みうるかどうかということに尽きるもので、持込品を制限することが従業員の不当な権利制限になるかどうかという前項で述べた問題なのであつて、点検に於ける適正手続の問題ではないのである。

(規則三〇条一項の解釈―持込みうる私品の範囲)

規則三〇条一項は「何を持込みうるか」という私品持込についての制限規定である。

成程「所定の持出証または持込証によつて守衛の点検を受けなければならない」と規定せられ、点検という言葉を条項中に見出すことはできる。

所定の持出証、持込証とは物品の持出、持込許可証を意味していることは明らかであるから、日常携帯品以外の持出持込みについては許可を要するというのが本条の趣旨なのである。

原判決は理由二の4で、「就業規則三〇条一項では(1)日常携帯品は守衛の点検を受ける必要がないこと、(2)日常携帯品以外の物品については所定の持出証または持込証によつて守衛の点検を受けることが規定せられている」と述べているが、これは規定の誤解によるものである。この規定は「何を持込みうるか」という私品持込み規制に関する規定であつて、右(1)の解釈は日常携帯品は許可をうけることなく持ち込みうると解するのが正しいのである。

私品持込みの範囲を定める規定と、何を点検の対象とするかという規定は別のものである。原判決には「持ち込みうるもの」と、「点検をうけるもの」とを混同したことによる解釈の混乱があるのである。

従つて、規則三〇条、規程第一六条を統一的に解釈すれば次のようになるのである。

規則三〇条―項では、

許可なく持ち込みうる私品――日常携帯品

許可なくして持ち入みえない私品――日常携帯品以外のものと定め、

規程一六条では、

許可なく持ち込みうる私品――日常携帯品(一項)

〃  ――日常携帯品に準じこれに類するもの(一項)

許可により持ち込みうる私品――私有の作業用器具(二項)

持込みえない私品――右以外の私品(一項)

と定めているのである。

原判決は理由三の4に於ける前四(1)(2)の誤つた解釈を前提として、規程一六条一項の「書籍、新聞、雑誌等が日常携帯品に該当しないとすれば、就業規則上は所定の持出証または持込証によつて守衛の点検を受けねばならないことになり就業規則と物品搬入搬出等規程とが抵触することになる」と述べているが、この判断が誤つていることは右対比表をみれば明瞭であると考える。右対比表によれば規則と規程は何ら矛盾していない。規則では許可なく持込み得ない私品とせられていたものの一部を、規程によつて許可なく持込みうる私品としたのであつてこれは何ら不都合なことでなくかゝる制限の緩和は従業員の受忍義務の一部を解除するものとして有効である。(例えば上位規定である協約より、従業員に有利な就業規則を定めることは何ら矛盾ではない。

規則三〇条三項、規程一八条――点検の対象について

規則三〇条一項、規程一六条が「持込みうる私品の範囲」を定めた条項であるのに対して、規則三〇条三項規程一八条は「持込みうる私品かどうかを判定する点検」の規定である。

持込みうる私品の範囲は就業規則、規程が定めるのであつて、点検は就業規則規程によつて持込みうると定められた範囲内の私品であるかどうかを判別する作用に過ぎない。従つてその対象は持込まれるすべての物品に及ぶことになるのである。

点検は物の形状外観を知る一種の検認であり、又その物の使用目的効能に対する質問である。これらの検知方法によつて、許可なく持込みうるものか、否か許可を要するものであれば、許可があるか(規則三〇条一項の持込証によつて点検するとはかゝる検知をいつているのである。)、持出時に持込時と書類が合つているか(規程一七条②)を判別することである。

従つて、日常携帯品の外観を具えたものについても点検しうるのは勿論である。

この点に関し日常携帯品は点検し得ないとする原判決理由二の7の判断は全く承認し難いが、この反論については後に再説するものとする。

二、原判決に対する反論へ

(一) 原判決は理由二の4、5に於いて、規則三〇条一項、規程一六条一項の解釈として、(ⅰ)新聞は「日常携帯品」であり、(ⅱ)新聞を自己の需要以上の部数持込む場合でも「日常携帯品」の範囲に属するものと判示した。

持込みうる私品の範囲は規則、規程の定めによつて規制せられ、この規則に服することは職場に於ける従業員として止むを得ないことであることは前述したとおりである。そしてこの点についての規則、規程の文言は限定的に解釈せられるべきのもであるから、規程一六条一項で列挙せられたように日常携帯品とは作業衣、傘、洗面用具などに限られるものである。書籍、新聞、雑誌、軽易な運動用具は日常携帯品に準じこれに類するものとして、許可証交付による許可手続を経ないで構内に持込みうる私品と解釈すべきなのである。この点に関し原判決は規則と規程の矛盾を挙げるが、これが誤つた解釈であることは前項(三)の規則三〇条一項と規程一六条一項の上告人の解釈で説明したとおりである。

「日常携帯品」とは字句どおり携帯者の日常の需要を充たすものである。「日常携帯品そのもの」も「それに準じこれに類するもの」も携帯者自らの需要を充たすものという点を離れて解釈しうるものではない。例えば作業衣は規程一六条一項で「日常携帯品」と明記せられているが、作業衣であつても自己着用外の商品見本たるものは携帯者本人が日常的に使用するものではないという点では日常携帯品ではない。ある商人から頼まれて数着の作業衣の商品見本を持込む者が、「作業衣」が「日常携帯品」と規定せられているからといつて、その外観や、名称から数着の商品見本を「日常携帯品」であると強弁するのが如何に当を得ないかと考えれば、右の理は自ら明らかである。

原判決の立場を進めると、従業員が会社において持つ自由時間に自由に時を過すために利用するものをすべて「日常携帯品」の範囲に含めることになり、「日常携帯品」は時宜に応じ従業員が会社構内に持込みうるものすべてを云うことになつてしまう。これは余りにも語義を離れすぎた目的論的解釈で、平明を身上とする規則、規程の解釈として採るべきものではない。かゝる意味で新聞は「日常携帯品そのもの」ではなく、「それに準じこれに類するもの」である。日常携帯品に類するものである以上は自己需要のために必要なものに限られることは当然であつて、携帯者自身のために必要な数量即ち同一新聞等については一部一品に限られると解せらるべきものである。

原判決理由二の4に於ける論旨は「日常携帯品は守衛の点検を受ける必要がない」と規則三〇条一項を誤解し、他方同理由二の5では「日常携帯品」とは自己需要をこえるものであつてもよいとして、携帯品の使用目的や、数量的限界に何ら考慮を払わないから、構内へ「持ち込みうるものが、「日常携帯品」であると迄曲論する余地を残して了つている。理由二の4、5の論旨を一緒にして進めると「持ち込みうるもの」は「点検を要しないもの」であるという謬論が展開せられてしまうのである。「持ち込みうるもの」は「点検の実施」の結果判別せられるものであるから、原判決が形式理論上の誤りを犯していることは明白である。右の論証で明らかにせられたように、原判決の本款冒頭の判断は、規則、規程の解釈を誤つたものであり、正確には規程一六条一項の新聞は、日常携帯品に準じこれに類するものとして、携帯者自身のために必要な数量即ち同一新聞紙等については一部、一品に限られると解釈せられるべきものである。

(二) 原判決は理由二の6に於いて、規則七〇条一一号の許可なく印刷物もしくは文書を配布したときは、懲戒処分の対象となるとの条項と、私品の持込持出とは別個の規定で、本件私品の持込持出についての規定は懲戒処分を予防するための規定ではないと述べて、両者は全く関係のないものゝように解しているが、この点についても双方の規定の関連を正しく理解していないのである。

私品の持込、持出についての規則、規程は有害、無用の私品の持込、持出を規制することによつて、企業内での事故発生を防止し、企業秩序を維持するために定められたものである。各種懲戒処分の対象となる条項も懲戒処分となる行為類型を明らかにすることによつて、その発生を予防して企業秩序を維持するための役割を果していることは疑いのない事である。

このように服務規律というも、懲戒条項というも企業秩序の維持を担つている役割は同じことである。

特に規則七〇条一一号では、許可なく印刷物もしくは文章を配布しないよう定めているのであるから、多くの同一新聞を持ち込む場合には、この規定に抵触した配布のなされるおそれがあるので、規程一六条一項の持ち込みうる「新聞」にはかゝる事態の予防を含めて私品の持込規制が及んでいると解するのが正当である。従つて日常携帯品に準ずるものとしての新聞は自己用として必要な一部で充分であつて、それをこえて多くの同一新聞を持込む場合のは「許可なく貼紙をなし、又は印刷物もしくは文書を配布」する結果を招来するおそれがあるので、これを防止し、職場における秩序を維持するためにも、日常携帯品に準じこれに類するものとしての新聞は一部に限るべきであると解せられるのであつて、この見解は客観的に妥当性のあるものである。

原判決は休憩時間、あるいはロッカー室等において新聞を配布することは何等差支えないとする見解のようである。会社構内において印刷物の無許可配布が許されないことは右就業規則の罰則規定よりして十分認知しうるところである。この規則は休憩時間であろうが、ロッカー室であろうが会社構内で行なわれる総ての場合に適用せらるのである。このことは、最高裁の昭和三七年五月二四日の沢の町モータープール事件の判決(労働経済判例速報四三三・四三四合併号二頁)および東京地裁の昭和四二年一〇月二五日の日本ナショナル金銭登録株式会社事件について判決(判例速報六一九号一九頁)においても認めているのである。冒頭に記した判決理由二の6の原判決の解釈は、右に述べたように規則、七〇条一一号と規程一六条一項との関連を正しく解釈していないので、かかる誤解が同規程の「日常携帯品に準ずるもの」としての新聞の意義について更に誤解を生ましめているのである。

(三) 原判決は理由二の7で、「日常携帯品をも点検しうるという規則第三〇条第三項及び規程第一八条は、日常携帯品であるかどうか不明の場合あるいは日常携帯品以外のものが混入していないかどうかを確めるための場合に限定せられるべきである」と解釈して、同理由三に於いて、「被上告人は外観上新聞を所持していることが明白であつたから、守衛の点検を受けるべき場合には該当しないものということができ、上告人会社の守衛の点検の要求は規則規程の条項を誤つたものである」と断じた。

原判決の右所論からみれば、日常携帯品であるかどうかは外観、形状だけで明らかとなるという趣旨のようである。日常携帯品は単に物の形状や外観だけで決められるものでなく、携帯品の使用目的や性能によつても判別せられなければならないのである。このことは既に詳しく論じたところである。日常携帯品の外観を具えたものについてでも点検はなしうるのであつて、規程一八条は何ら表現上不適当な箇所はないと考える。例えば場内で日常携帯品の盗難があつたとしよう。

出門に際して必要に応じ当該日常携帯品かどうか点検しうるのは当然であることを想起せられたい。

本件で点検の対象となつたものは同一新聞かどうか分らない数部の新聞であつた。もし同一日付の同一新聞であれば自己使用外の目的のため持込まれるのであり、規則、規程上日常携帯品に準ずるものとは云えないものであつた。又その使用目的によつては(例えば掲示用、配布用のもの)であれば持ち込みを規制しうるものでもあつた。従つて守衛が被上告人らに対し、点検として同一日付の同一新聞かどうか尋ねたことは規程一八条による守衛の正当な権限に基づく行為であつた。このような質問をしたことも、もし違う日付のものであれば守衛が持込みに異議をはさむものでないことは被上告人らにも初めから分つていたのであるし、事実は同一日付のものでなかつたのである。(第一、二審の被上告人の供述で明らかである)

してみれば素直に質問に応ずれば、被上告人らが持つていた新聞の持込みに何ら異議をはさむことはなかつたのである。かゝる状況に拘らず、被上告人らは右質問に応えず、新聞を開披しようとしなかつたのであつて、正当な理由なく点検を拒んだものである。従つて被上告人らの退場による就労の放棄、又は遅刻はすべて被上告人らの責に帰すべき事由によるものであり、原判決を容認することはできないのである。結局原判決の前記認定は法令に違背し又はその解釈を誤つたものであつて、破棄を免れないものである。

第二点、採証法則の誤り<省略>

「従業員就業規則」

第三〇条

日常携帯品以外の物品を携帯して出入するときは、所定の持出証または持込証によつて守衛の点検を受けなければならない。

②前項の細部並びに業務上の物品の搬出搬入については別に定める。

③前二項のほか、必要ある場合は守衛の請求により、携帯品を点検することがある。

第七〇条十一号

許可なく会社施設内の掲示を毀損し、落書貼紙をなし、または印刷物もしくは文書を配布したとき

「物品搬入搬出及び持込持出規程」

第三章 私品の持込・持出

第十六条

従業員は作業衣・傘・洗面用具など日常携帯品及び書籍・新聞・雑誌・軽易な運動用具・その他これに類するものの外私品の持込をしてはならない。

②私有の器具類で作業上特に持込を必要とするものがあるときは、守衛に提示して持込の承認を受けなければならない。

第十七条

前条の物品持込証明書(様式第五号)は守衛が作成し、持込者に交付するものとする。

②物品持込証明書は、物品持出の際守衛に提出しなければならない。

第十八条

私有品の持込・持出の場合及びその他守衛が必要と認めた場合は、守衛の指示に従い点検を受けなければならない。

第四章 その他

第二〇条第一項

従業員又は家族に配給し又は販売した物品及び福利厚生に関する施設を利用するため持出・持込をする物品に対しては、この規程を適用し又は保安課長が別の方法を定めることができる。

第二十三条

物品の搬入・搬出及び持出・持込については、提示の有無にかかわらず、守衛は点検をしなければならない。

②この規程に違反して物品の搬入・搬出及び持出・持込があるときは、守衛はこれを禁ずることができる。

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