大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)1072号 判決 1973年11月26日
控訴人
藤本宗一郎
右訴訟代理人
莇立明
外二名
被控訴人
株式会社近畿相互銀行
右代表者
菊久池博
右訴訟代理人
松永二夫
外一名
被控訴人補助参加人
森沢幸太郎
主文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は控訴人に対し、金五二万七三七五円及びこれに対する昭和四五年三月一一日から右完済まで年五分の割合による金銭を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人、被控訴人補助参加人の連帯負担とする。
この判決は、控訴人が金一七万円の担保を供するときは、金銭支払を命ずる部分に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
被控訴人銀行が、控訴人名義の本件定期預金の寄託を受けていることは当事者間に争いがなく、
<証拠>に、弁論の全趣旨を考え合せると、
(一)、本件定期預金は、金額五〇万円で、昭和四二年一一月一一日に、期間一ケ年、利率年五分五厘、支払期日昭和四三年一一月一一日でその間の利息は二万七五〇〇円で、自動継続の約束で、控訴人が被控訴人銀行に定期預金をしたものであり、預金証書に被控訴人銀行の承諾がなければ譲渡または質入れすることができない旨の特約が記載され(この特約が記載されていることについては、当事者間に争いがない。)、預金債権者は控訴人であること、
(二)、右預金については、支払期日までに預金債権者から引き出しの申し出があつたものと認められるが、預金債権者において預金証書を所持しておらず、被控訴人銀行においては、右預金証書が、紛失盗難等権利者の意思に反することなく、第三者の手中に渡つているものであり、預金の権利者を確知することができないものとして、控訴人に対し右預金の支払を拒んでいるものであること、
(三)、控訴人は、昭和四四年六月四日差出その頃到達の内容証明郵便で、被控訴人銀行に対し、本件定期預金証書は、大嶋治江なる者が、控訴人に無断で互心会代表森沢幸太郎に預けてあり、現在刑事々件として返戻不能につき、控訴人の実印、印鑑証明書により支払いされたい旨通知し、昭和四四年九月一一日、被控訴人銀行を被告として、京都地方裁判所に、本件預金返還請求訴訟を提起し、
被控訴人銀行が、前記大嶋治江、森沢幸太郎両名に対し、本件訴訟の訴訟告知をし、右訴訟告知書の副本が右両名にいずれも昭和四四年一一月二〇日送達され、
右森沢幸太郎が、本件訴訟につき、昭和四五年三月九日被告(被控訴人)銀行を補助するため、京都地方裁判所に補助参加の申出をし、翌一〇日右補助参加の申出書が、被告(被控訴人)銀行代理人に交付された上、口頭弁論で陳述され、右森沢は原告(控訴人)に対し昭和四二年一一月二〇日頃、金五〇万円を貸付け、その担保として本件定期預金証書の差入を受け、現に之を保管占有中であり、原告(控訴人)は森沢に対し右貸金を殆んど返還していないので、森沢は被告(被控訴人)銀行を補助するため補助参加の申出をした旨の陳述がなされ(この事実は記録上明かである)、
被控訴人銀行は、右事実により、本件定期預金についての紛争は、預金者が何人であるかの紛争ではなく、右定期預金の証書が貸金の担保に差入れられたことについての紛争であることを知り得たこと、
(四)、被控訴人銀行としては、本件定期預金証書には、前記のとおり譲渡質入禁止の特約が明記され、自らその譲渡質入を承諾したことはない(この承諾をしたことを認める証拠はない)のであるから、前記事実により、補助参加人が、預金債権につき権利を取得する理由がなく、本件定期預金の権利者は控訴人であることを認め、右預金の元利合計五二万七五〇〇円を控訴人に支払う義務があつたものというべきであること、
(五)、控訴人の妻菊枝が、本件定期預金証書を、大嶋治江や互心会(参加人森沢幸太郎、脇本辰次郎等を世話人とする親睦団体)に交付し、借金の担保のため差入れたのは、控訴人に無断でしたもので、菊枝にはこのようなことをする代理権その他の権限はなかつたこと、
以上の認定、判断をすることができる。
<証拠判断省略>
参加人は、控訴人代理人菊枝から、貸金担保として控訴人名義の本件定期預金証書の差入を受けた旨主張するが、菊枝がそのような代理権を有していたことを認めるに足る証拠はなく、参加人において、原判決記載の参加人の(二)の抗弁に主張のような菊枝の代理権の範囲の行為であると信ずべき正当な理由があつたとしても、担保として菊枝から控訴人名義の本件定期預金証書の差入を受けたことにより、参加人が銀行に対し、右預金債権の返還請求権を取得するいわれのないことは、前記理由により明らかである。また、参加人による預金証書の保有は、控訴人の預金返還請求権の行使を事実上困難にするに止まり、控訴人に対する預金の払戻しを法律上禁止または制限すべき事由は該当しない。よつて参加人の右主張ないし抗弁はいずれも採用しない。
被控訴人銀行は、控訴人は証書を呈示して預金の支払を求むべき旨主張するが、本件定期預金は指名債権であつて、その権利は、証書がなければこれを行使し得ないものではないから、被控訴人の右主張も理由がない。
以上の認定、判断に反する被控訴人、参加人の主張はいずれも採用しない。
そうすると、被控訴人は控訴人に対し、前記五二万七五〇〇円及びこれに対する昭和四五年三月一一日から右完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人の本訴請求の内、金五二万七三七五円及びこれに対する昭和四五年三月一一日から右完済まで年五分の割合の金銭の支払を求める部分は正当であるが、その余は失当として棄却すべきものである。
よつて、原判決を変更し、仮執行の宣言は、担保を条件として金銭支払を命ずる部分に限りつけることにし、民訴法第三八六条、第九六条、第九二条、第一九六条に従い、主文のとおり判決する。
(長瀬清澄 岡部重信 小北陽三)