大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)1248号 判決 1976年8月25日
主文
一 被告らの本件控訴を棄却する。
二 原判決を次のとおり変更する。
1 原告の第一次的請求を棄却する。
2(1) 亡水谷典尾が昭和四二年一一月一五日被告水谷須洋に対してなした別紙物件目録第一記載不動産の贈与契約を取消す。
(2) 被告水谷須洋は、右不動産について昭和四二年一一月一七日京都地方法務局受付第三二五六一号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
(3) 原告の被告らに対する、死因贈与を原因とする所有権移転登記手続の請求を棄却する。
3(1) 被告らは各自原告に対し一四八万円及びこれに対する五一年三月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 原告の被告らに対するその余の金員の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被告らの負担とする。
事実
(原判決主文)
一 亡水谷典尾(以下典尾という)昭和(以下略す)四二年一一月一五日被告水谷須洋(以下被告須洋という)に対し、別紙物件目録第一記載不動産(以下本件物件という)についてなした贈与を取消す。
二 被告須洋は本件物件について四二年一一月一七日京都地方法務局受付第三二五六一号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
三 原告のその余の請求を棄却する。
(原審における請求の趣旨)
一 第一次的請求の趣旨
1 原告と被告須洋及び典尾との間において、本件物件が原告の所有であることを確認する。
2 原判決主文二項と同旨。
3 典尾(当審においては被告ら承継)は原告に対し、本件物件につき錯誤是正を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
二 第二次的請求の趣旨
1 原判決主文一項と同じ。
2 原判決主文二項と同じ。
(不服の範囲)
原判決全部。
(附帯控訴による第二次的請求の追加と予備的請求)
第二次的請求の趣旨に次のとおりの追加をする。
3 被告らは原告に対し、本件物件につき四九年八月一九日死因贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
右追加請求についての予備的請求の趣旨
3 被告らは原告に対し各自四四八万円及びこれに対する五一年三月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(当事者の主張)
第一 原告
一 第一次的請求の原因
1 原告は三三年五月頃、当時本件物件の所有者であつた村松菊太郎から代金二五万円で本件物件を買受け、その所有権を取得した。
2 しかし、当時本件物件を賃借して居住していた典尾の懇請により、同女死亡の際、又は原告の要求があればいつでも真正の権利状態に合致せしめるとの約定のもとに、同年六月二六日本件物件の所有名義人を典尾とする所有権移転登記を経た。
3 しかるに典尾は、本件物件につき、四二年一一月一五日付贈与を原因として、被告須洋のため同月一七日京都地方法務局受付第三二五六一号をもつて所有権移転登記をなし、被告須洋はその後本件物件の所有権者であると称している。
4 典尾は四九年八月一九日死亡し、養子である被告らが相続によりその権利義務を承継した。
5 よつて、原告は被告らに対し本件物件が原告の所有であることの確認を求めるとともに、被告須洋に対しては所有権に基づき無効である右所有権移転登記の抹消登記手続を、典尾の相続人である被告らに対しては典尾との前記約定に基づき真実の権利関係に符合するよう原告のため錯誤是正を原因とする所有権移転登記手続をなすよう求める。
二 第二次的請求の原因
1(イ) 典尾は死亡の際、又は原告の要求があればいつでも本件物件の所有権を原告に移転すべき債務、換言すれば他に所有権を移転してはならない債務を原告に対し負担していた。しかるに同女は前記のように被告須洋に本件物件を贈与してその旨登記手続を終え、右債務不履行のため原告は典尾から本件物件の所有権移転を受けることが不能又は困難となり、多大の損害を蒙ることとなつた。
(ロ) 典尾は右贈与によつて原告が損害を蒙ることを知りながら、あえて本件物件を被告須洋に贈与し、同被告も右事実を知つて贈与を受けた。典尾は本件物件以外に何らの資産がなく、右贈与によつて無資力となつたが、典尾の相続人である被告らも本件物件以外にはみるべき資産を有しない。
(ハ) よつて、詐害行為取消権に基づき典尾の被告須洋に対する右贈与契約を取消し、被告須洋に対し原状回復として本件物件につきなされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める。
2 なお、被告須洋が受けた本件物件の贈与は信義則又は公序良俗に違反して無効であり、或は背信的悪意者として受贈を原告に主張、対抗しえないものである。
すなわち、本件物件が典尾名義で取得されるに際し典尾は買受代金を全く支払わず、その全額を原告が負担し、その後も原告は老令の典尾の生活を好意的に援助するため長年にわたり賃料名目で金員を同女に交付してきたのであつて、典尾はこの好意にこたえ将来本件物件を原告に返還することを約していた。しかるに被告須洋は右事情を熟知しながら、典尾が七〇才の高令になつてから同女と養子縁組し、しかも同女を扶養することもせず、縁組後六か月のうちに本件物件を自己に贈与させたのであつて、右行為はあまりにも人道に反しており、且つ本件物件が原告に返還されるのをことさら妨害するためになした契約である。したがつて、被告須洋は右贈与によつて本件物件を取得せず、本件物件は依然として典尾の所有であつたと認められる。
三三年六月二一日原告と典尾の間で結ばれた契約において、典尾が死亡したときは原告が本件物件の所有権を取得する旨の定めがあり、右は死因贈与と解されるところ、典尾は四九年八月一九日死亡した。
そして、前記詐害行為取消権行使の結果、本件物件は典尾の所有名義に復するが、被告らは典尾の右死因贈与を原因とする原告への所有権移転登記手続義務を承継しているので、被告らに対し右登記手続を求める。
三 第二次的請求3項についての予備的請求の原因
典尾の原告に対する死因贈与契約の履行が不能となつたとすれば、原告はその相続人である被告らに対し履行不能により蒙つた損害の賠償を求める。その損害額は履行期すなわち典尾の死亡時における本件物件の価格によるべきところ、その価格は八九六万円を下らないから、被告らは相続分に応じて各自四四八万及びこれに対する予備的追加申立書送達の日の翌日である五一年三月二〇日から完済まで年五分の割合による金員の支払を求める。
第二 被告らの認否
一1 原告が本件物件の所有者であるとの主張は否認する。本件物件は典尾が当時の所有者村松から買受けて自ら所有者となり、原告主張の日に所有権移転登記を経たものである。
2 原告と典尾間に請求原因一2のような約定があつたことは否認する。
3 典尾が本件物件を原告主張の日に被告須洋に贈与し主張の移転登記を経たこと、典尾が主張の日に死亡し被告らが同女の相続人としてその権利義務を承継したことは、いずれも認める。
二1 典尾が原告に対し請求原因二1(イ)記載の債務を負つていた事実は否認する。
請求原因二1(ロ)の事実は、被告須洋が贈与を受けその旨登記手続をしたこと、被告らが本件物件以外に資産を有しないことを認め、他はすべて否認する。少くとも被告須洋は、贈与を受けることによつて原告を害することなど知る由もなかつた。
2 同二2の事実は、死因贈与の契約があつたことを否認し、その他はいずれも争う。典尾は老令で自ら行く末を案じ、被告ら夫婦に生活の面倒をみてくれるよう頼んだので、被告らは典尾と養子縁組を結び、以来同女の生活を援助してきたのであつて、その結果真実に本件贈与がなされたものである。
3 同三の事実は争う。
第三 被告らの抗弁
一 仮に典尾の本件物件の所有権取得の登記が原告と典尾間の通謀仮装によるものであつても、被告須洋はこれについて善意の第三者であつたから、自ら仮装状態を作り出した原告は、これをもつて被告須洋に対抗することはできない。
二 本件物件について原告主張のような死因贈与契約が結ばれていたとしても、死因贈与には遺言の取消に関する規定が準用されると解されるところ、典尾は生前の三四年六月頃、中島某に委任して原告に対し右契約取消の意思表示をした。もし、その事実が認められないとしても本訴(四九年一〇月一四日の第五回口頭弁論期日)において取消の意思表示をした。
これによつて本件物件の死因贈与は取消されたから、原告の請求は失当である。
三 原告は本件物件の一部に居住する典尾及びその妹一重の平穏な生活を保障し、賃料増額に応ずべきことを約しておきながら、同女らに対し階下三畳の間の出入りを困難にしたり、商売の邪魔になるといつて邪険に扱つたり家賃の値上げを押えて生活に支障を来させる等の態度をとるようになつた。そこで典尾はやむをえず被告須洋に頼つて生活の面倒をみてもらうこととし、その見返りに本件物件を同被告に贈与し、本件物件の管理、家賃値上げの交渉等一切を委さざるをえなくなつた。
すなわち、本件贈与は原告の態度の豹変に帰因するやむをえない措置であつて、本件贈与を詐害行為とする原告の主張は信義則に反し、又権利の濫用であつて許されない。
(証拠)(省略)
理由
一 本件物件は、もと村松菊太郎の所有であつたが、三三年六月二六日右村松から典尾に所有権移転登録がなされ、さらに四二年一一月一七日典尾から被告須洋に同月一五日付贈与を原因とする所有権移転登記が為されたこと、典尾が四九年八月一九日死亡し、その養子である被告らが相続により同女の権利義務を承継したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲一ないし四号証、原審証人光岡浅夫の証言、原審における被告典尾、原審および当審における原告、被告須洋各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 典尾は大正初期のころから本件物件に居住し、所有者村松から賃借して髪結業を営んでいたが、三三年頃村松の代理人から本件物件を買取るか、又は賃料増額に応ずるよう申入れを受け、当時生活が苦しかつたのでいずれにも応じがたく苦慮していたところ、たまたま美容院向きの家を求めていた原告と相知り、種々折衝の結果、同年六月二一日両者間に次のとおりの契約が成立した。
(イ) 典尾が村松から本件物件を買受けるについて、原告はその資金二五万円を敷金名下で典尾に提供する。
(ロ) 典尾は原告に対し、本件物件のうち別紙物件目録第二記載の部分(以下本件貸室部分という)を、賃料月額三〇〇〇円で賃貸する。右賃料は公租公課の増加したとき協議によつて増額することができる。
(ハ) 前記二五万円は原告が本件物件を明渡す場合には原則として返金するが、原告が自己の都合で他に転居する等の場合は返金を要せず、典尾が謝礼金として没収する。
(ニ) 典尾は、本件物件を後日原告に譲渡する目的のもとに原告から買受資金の提供を受けたのであるから、ある時期に原告のため所有権移転の仮登記手続をする。
(ホ) 原告は典尾の承諾をえて家屋の改造をすることができるが、その費用は全額原告の負担とする。
(ヘ) 水道、電気、衛生費等は典尾の使用分も原告が負担する。
(ト) 将来典尾が死亡し、その妹一重が残つて引続き本件物件に居住する場合は、原告のため所有権移転の本登記がなされた後であつても、原告は一重の生存中、従来典尾に支払つていた家賃名義の金員を毎月同女に支払う。
(チ) 所有権移転の本登記手続は原告と典尾が協議して行なうか、又は典尾の死亡時に行なう。
(リ) 一重は典尾死亡後も原告から典尾と同様の待遇を受けるのであるから、典尾の遺産相続権を放棄する。
(ヌ) 原告がこの契約に違反した場合は無条件で本件物件を明渡し、典尾は前記二五万円を没収する。
2 原告は、当初は本件物件の買受資金全額を提供する以上自己所有名義にしたいと考えていたが、本件物件に終生居住したいと願う典尾の強い要請により、右資金をもつて同女が本件物件を取得することを承認し、その妥協として後日典尾と協議し、又は典尾が死亡したときに原告に移転登記することを典尾に承諾させ、それまでの間本件貸室部分を賃借することにして前記の契約が成立するに至つた。
3 前記約定にしたがい、原告は典尾に二五万円を交付して本件貸室部分の使用を始め、一方、典尾は右同額の売買代金を村松に支払つて本件物件の所有権を取得し、前記のとおり村松から所有権移転登記を受けた。
以上の事実によると、売主村松から本件物件を買受けて所有者となつたのは典尾であると認められる。右認定に反し、自己が本件物件の買受人である旨陳述する原審及び当審における原告本人の供述部分は信用しがたく、その他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
そうだとすると、本件物件の所有者が原告であることを理由とする第一次的請求は、その余について判断するまでもなく失当というべきである。
三 そこで第二次的請求について判断する。
1 前項認定の事実、契約内容及び前掲光岡証人の証言によつて認められる、「光岡はかねてより典尾の相談相手となつて本件物件の売買や原告との交渉に関与していたが、典尾から前記契約書(甲一号証)に立会人として署名を求められた際、右契約条項によると典尾が死亡したら原告に本件物件の所有権が移ることになつているが、それでもよいかと念を押したところ、同女はそれでよいと答えた」事実を総合して考えると、典尾は自分が死亡したときには本件物件の所有権を原告に移転すべきことを原告に約したもの、すなわち死因贈与を約していたものと認められ、前掲典尾本人尋問の結果によつても右認定を動かすに足りず、その他に右認定を左右する証拠はない。
そうすると、典尾は少くともその生存中は本件物件の所有権を他に移転してはならない債務を原告に負担していたものというべきである。
2 しかるに典尾が本件物件を被告須洋に贈与し、その旨の所有権移転登記を経たことは前示のとおりであつて、典尾の右債務不履行によつて原告が典尾から本件物件の所有権移転を受けることは望みえなくなり、そのため原告は本件物件の価格に相当する損害を蒙るに至つたと認められる。
3 前記認定事実によると、典尾が右贈与によつて原告を害することを熟知していたことは明らかであつて、これに反する前掲典尾本人の供述部分は信用できない。
次に成立に争いのない乙一・二号証、原審における被告典尾、原審及び当審における被告須洋各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、典尾は、本件貸室部分において美容院を開業した原告が意のごとく賃料増額に応じてくれないこと等に不満をもち、且つ高令になつて前途の生活に不安を覚えるようになつたので、甥である被告須洋夫婦を養子にして生活の面倒をみてもらい、そのかわり被告須洋に本件物件を贈与しようと考え、同被告に右事情を話したうえ、四二年五月三一日被告らとの養子縁組の届出をしたこと、その後六か月を経過しない同年一一月一五日被告須洋に本件物件が贈与され、同月一七日同被告に所有権移転登記がなされたこと、四五年一〇月被告須洋から賃料増額の請求をするまで、右事実は原告に知らされなかつたことがそれぞれ認められる。これらの事実によると、被告須洋は典尾が本件物件を取得した経過等を知つており、本件物件の贈与を受けることにより原告を害することを知つていたものと推認することができる。右認定に反する前掲被告須洋本人の供述部分はたやすく信用できない。
4 前掲光岡証人の証言及び被告典尾本人尋問の結果によると、典尾は本件物件のほか何らの資産を有せず、本件物件を贈与することによつて無資力になつたものと認められ、またその相続人である被告らが贈与を受けた本件物件以外に資産がないことは当事者間に争いがない。
5 以上によれば、典尾の被告須洋に対する本件物件の贈与は典尾の債権者に対する詐害行為となるものというべく、右贈与契約は取消を免れない。そして、原状回復の方法として被告須洋に対し所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求も理由があり、認容すべきである。
6 原告は、被告須洋の本件物件の受贈は信義則又は公序良俗に反し無効であり、或は背信的悪意をもつて本件物件を取得したと主張するが、前示のとおり典尾が被告らと養子縁組を結んだのはそれなりの理由があつてのことであり、被告典尾本人尋問の結果によると、被告須洋は縁組後僅かながらも典尾の生活を扶助していたと認められる。また、被告須洋が原告を害することを知つて本件物件の贈与を受けたこたは前示のとおりであるが、本件全証拠によつてもそれ以上に同被告が背信的悪意の取得者であるとは認められない。
よつて、原告の右主張は採用できない。
四 被告らの抗弁について
(一) 被告らは、典尾が三四年六月頃死因贈与を取消したと主張するので考えるに、前掲被告典尾本人尋問の結果によると、典尾が山中某に依頼して契約の改訂方を原告に交渉させたが不首尾に終つたという事実は認められるものの、死因贈与を取消す旨の明確な意思表示がなされたことはたやすく認めがたい。しかも、本件における死因贈与の約定は原告の本件物件に対する買受資金の提供と密接に関連していること前認定のとおりであつて、典尾において一方的に死因贈与の約定のみを取消すことは許されないと解されるから、右抗弁は採用できない。
なお、本訴口頭弁論期日における死因贈与取消しの主張は、すでに詐害行為が成立し、且つ典尾が死亡した後の意思表示によるのであるから、この点においても理由がない。
(二) 被告は、本件贈与を詐害行為とする原告の主張は信義則に反し権利の濫用であるというので考えるに、前掲被告典尾、原審及び当審における被告須洋各本人尋問の結果によると、原告と典尾、一重間において若干のあつれきがあつた事実をうかがい知ることができる。しかし、本件全証拠によつても、原告が典尾をして本件物件を被告須洋に贈与しなければ事態を解決できない立場に追いやつたような事実は認めがたい。
むしろ、上来認定したところによると、原告が本件贈与を詐害行為と主張することは当然の権利行使というべく、被告らの右抗弁はとうてい採用できない。
五 原告は、詐害行為取消による原状回復によつて本件物件が典尾に復帰したときは、被告らに対し死因贈与を原因として所有権移転登記手続を求めると主張する。しかし、債権者取消権行使の結果、被告須洋から取戻された本件物件は債務者典尾の一般財産として回復され、総債権者(原告以外に被告らが債務を有しないことを認めるに足る資料はない。)の共同担保となるのであるから、原告が自己の債務名義に基づいて本件物件に強制執行の手続をとるのは格別、特定物の引渡請求権に基づいて直接自己に所有権移転登記を求めることは許されない。
したがつて、原告の右主張は失当である。
六 そこで進んで原告の予備的請求について考えるに、原告と典尾間の前記死因贈与契約は、債務者である典尾が約旨に反して被告須洋に本件物件を贈与し、次いで典尾が死亡したことによつて履行不能に帰したものと認められる。したがつて典尾の相続人である被告らはその相続分(二分の一づつ)に応じて原告に対しその蒙つた損害の賠償義務を承継したものというべきである。しかして、その損害額は死因贈与契約の履行不能が確定的となつたとき、すなわち典尾の死亡時における本件物件の価格によるのを相当とするところ、鑑定人広瀬久男の鑑定結果によると、四八年三月一日当時における本件物件の価格は、前記賃貸借の存在を考慮すると(原告は本件物件の賃借権を失うわけではない)合計二九六万円であることが認められ、その後である履行不能時の価格がこれと相違したことを認めるに足る資料はない。そうすると被告らは各自原告に対し一四八万円及びこれに対する予備的追加申立書が被告ら代理人に送達された日の翌日であること記録上明らかな五一年三月二〇日から完済まで、民事法定利率年五分の割合による損害金を支払う義務がある。
原告の右請求は右の限度で理由があるが、その余は失当として棄却すべきである。
七 以上の次第であつて、本件控訴はその理由がなく棄却を免れない。そして原告の第一次的請求は理由がないが、第二次的請求及びこれについての予備的請求は一部その理由があるので認容し、その余は失当として棄却すべく、これと一部異る原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
物件目録
第一 京都市中京区河原町通三条上る恵比須町四三五番地の一二
一 宅地 四六・五一平方米(一四坪七勺)
同所四三五番地の一三
一 宅地 二・八四平方米(八合六勺)
同所四三五番地の一二
家屋番号同町一五番二
一 木造瓦葺二階建 居宅一棟
一階 三一・九九平方米(九坪六合八勺)
二階 一二・六九平方米(三坪八合四勺)
付属建物
木造瓦葺平家建 便所一棟
一・四八平方米(四合五勺)
第二 前記建物のうち別紙図面の斜線部分
約三〇・五五平方米
(添付図面は、一審判決と同一につき省略する。)