大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)125号 判決 1974年11月29日
被控訴人・附帯控訴人 国 ほか一名
訴訟代理人 河原和郎 大橋嶺夫 ほか四名
控訴人・附帯被控訴人 不破喜弘 ほか二名
主文
一 控訴人らの控訴および附帯控訴人不破喜弘の附帯控訴に基き原判決を左のとおり変更する。
1 控訴人らは各自(イ)被控訴人(附帯控訴人)不破喜弘に対し金七二〇、三二四円およびうち金六二〇、三二四円に対する昭和四二年一月九日から、うち金一〇万円に対する同四八年五月一六日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を、(ロ)被控訴人不破ちよ子に対し金五四四、三二六円およびこれに対する昭和四一年一月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、(ハ)被控訴人大槻千枝子に対し金五五四、三二六円およびこれに対する昭和四二年一月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 附帯控訴人不破ちよ子、同大槻千枝子の本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審を通じ、附帯控訴人不破ちよ子、同大槻千枝子の各附帯控訴に要した費用はそれぞれ各附帯控訴人の、右費用を除くその余の費用はこれを七分し、その六を被控訴人らの、その一を控訴人らの各負担とする。
四 この判決は一、1につき仮りに執行することができる。
事 実 <省略>
理由
一 原判決摘示にかかる被控訴人らの本件請求の原因事実(一)の事実(亡喜八郎が普通乗用車を運転して本件国道上を走行中、衝突および追突事故が発生し即死した事実関係)および同(二)(1)の事実(右国道は控訴人国がこれを管理し、控訴人京都府がその費用負担者であること)は当事者間に争いがない。
二 被控訴人らは、右事故は本件国道の管理に瑕疵があつたために生じたものである旨主張するので検討する。
(一) <証拠省略>によると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。
(1) 本件事故現場附近の状況は、原判決添付図面(ただし、北側にある「加害車」を「衝突車」、南側にある「加害車」を「追突車」と読み替える。)のとおりである。
本件国道二七号線は、京都市と舞鶴市を結ぶ唯一の重要幹線道路で、交通量が多く、北行車道南行車道とも一車線のアスフアルト舗装で、歩車道の区別はない。
(2) 本件事故のあつた日の前日である昭和四二年一月七日の夜半から雪が降り、同月八日朝には、一〇センチメートル程の積雪があり、本件事故現場附近では、その両側に積雪部分(図面の斜線部分)があつたため、アスフアルトの露出した通常運転可能な道路の幅員は約五・三メートルであつた(道路幅員六・三メートル)。
本件事故のころは、雪は降つてはいたが、路面上の雪が一部融け、みぞれ状になつていたので、通行する車は、スリツプしやすい状況にあつた。
(3) 本件事故現場附近の東側は山がせまり、西側は低くなつていて、道路法面とそれに続く民有地一帯に竹が群生していた。
(4) 本件事故のとき、法面に生立していた、大人の背の高さの三倍ぐらいある竹二、三本が前夜来の積雪のため、国道側にしなり、路面からの高さ一・五メートルまで垂れ下つており(竹の先端が路面一・五メートルの高さまで垂れ下つていたこと自体は当事者間に争いがない。)、それはほぼセンターラインまで覆いかぶさるような形になつていた。
もともと、本件事故現場附近を北行通過する自動車運転手としては、現場の手前(南方)約一〇〇メートルの地点にあるカーブを過ぎたあとはほぼ一直線で前後の見通しはよい状況であつたが(ただし、勾配一〇〇分の一のゆるやかな下り坂)、当時は前記のように竹が垂れ下つていたため、自車の進路(北行車道)をさえぎられる形となり、やや下り坂であることとあいまつて、前方を見通しにくくなつており、かつ、北行車が垂れ下つた竹の下をくぐり抜けることは、それがもし亡喜八郎運転の被害車(トヨペツト四〇年式乗用車)のような普通乗用車であれば、徐行することによつて辛じて通過できなくはなかつたが、通常の自動車運転手の感覚からすれば、そのまま竹の下を通過することは竹と接触し払い落とされた雪をかぶりフロントガラスに附着する等の可能性もあるため、これを避け、対向車線に入つてこれを迂回するのが穏当な措置といえる状況であつた。
(5) 亡喜八郎は、被害車を運転して、この垂れ下つた竹をさけて迂回すべく<1>の辺から、対向車線に入つた。
(6) 他方、衝突車を運転して時速約四〇キロメートルで南進していた訴外荻野彦三は、<4>点で、垂れ下つた竹の横からニユツと出てきた<1>の被害車を発見し、衝突の危険を感じ、<ロ>点で急制動をかけて左側に転把した。このとき、被害車は<2>点にきていた。衝突車が、<ハ>点で側溝に左前車輪を落して停車したとき、被害車は、スリツプしながら、衝突車の運転台の下にはまり込むようにして衝突した。
(7) 訴外湯浅俊司は、追突車を運転して、被害車の後方約一〇メートルのところを追尾し、前記垂れ下つた竹を迂回する被害車を見てこれに続き、対向車線に入つて自車線に戻ろうとしたとき、スリツプし、道路の西側から転落しそうになつたので、あわててハンドルを右に切り直し、そのまま被害車に追突した。
(8) 本件道路を直接管理している近畿建設局福知山工事事務所綾部国道維持出張所は、本件事故直後、この垂れ下つた竹二、三本を切りとり、数日後、防護棚を設けて、竹が道路に垂れ下つてくるのを防止した。その防護棚は、柱をたて、それにワイヤー製の一尺平方くらいの目になつた網を張つたものである。
(二) 一般に、国家賠償法二条一項所定の道路の管理の瑕疵とは、該道路が通常有すべき安全性を欠いており、車両等の通行の安全性が確保されていないことをいうものと解されるところ、以上の認定事実によれば、本件道路は京都と舞鶴を結ぶ唯一の幹線道路であつて、車両の交通量が多く、かつ、附近が冬季多雪の地帯であることは公知の事実であるから、本件事故現場附近のように道路ぎわ、ことに、その法面にまで竹が群生している状況にあつては、降雪にさいし、場合によつては、竹が道路上に垂れ下り、車両の通常の運行を妨げることあることは客観的に予想されうるところであつたといわねばならず、このような事態の発生を事前に回避するためには道路直近の竹を除去するか、または控訴人国が本件事故後に施したような然るべき防護網または防護棚を設置することが考えられる。しかるに、本件道路管理者たる控訴人国はこれを維持管理するにあたり、何ら右のような措置をとつていなかつたのであるから、結局、本件道路は本件事故現場附近においてその通行の安全性確保に欠けるところがあり、その管理に瑕疵があつたというべきである。
しかして、本件事故当時、前記のように二、三本の竹が前夜来の降雪により道路上一・五メートルにまで垂れ下つたため、ことにその北行車線上の通常の自動車運転が困難であつた状況は、まさに右道路管理上の瑕疵に基くものにほかならず、かつ、亡喜八郎が右竹を避けるためセンターラインを超えて迂回した措置自体は自動車運転手として無理からぬところであり、同人や追突車運転手の過失の存否を暫らくおけば、右迂回によつて生じた本件死亡事故は前記瑕疵に起因する結果であつたということができる。
控訴人らは(イ)道路自体に欠陥はなかつたこと、および、かりに道路に瑕疵があつたとしても管理上の瑕疵はなかつた旨、および(ロ)かりに管理上瑕疵ありとしても、右瑕疵と本件事故との間には因果関係はない旨るる主張するが、いずれも前記説示の趣旨に反するものであるから採用することができない。また、控訴人らは本件のような竹の垂れ下りによる事故の発生は管理者にとつて不可抗力である旨主張するが、右のような支障は前示のような措置を構ずることによつて十分回避可能であり、げんに控訴人国は本件事故後適切な措置をとることができたのであるから、右主張もまた失当である。控訴人国が、当日、所与の人的物的施設による巡回、除雪等の方法により可能なかぎり降雪による交通事故の発生を防止しようとしていたことは<証拠省略>によつてこれを認めることができるが、右のような当日における主観的意図ないしは活動によつて前記のような本件道路管理上の瑕疵を否定することはできない。
そうすると、控訴人らは各自亡喜八郎の死亡事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。
三 そこで、損害額について検討する。
まず、被控訴人不破ちよ子が亡喜八郎の妻として、その余の被控訴人らがその子として、それぞれ三分の一の割合による亡喜八郎の相続人であることは当事者間に争いがない。
(一) 被控訴人不破喜弘の葬儀費の出費相当損害金三〇万円
原、当審における同被控訴人尋問の結果によると、同人は亡父喜八郎の葬儀に関し約七〇万円の出費をしたことが認められるが、そのうち、本件事故による損害として相当と認める額は三〇万円であると認める。
(二) 同被控訴人の被害車引揚料と運搬料としての出費相当損害金二万円
前掲尋問の結果により同人が右費目として少くとも二万円を出費したことが認められ、右出費は本件事故による損害として相当である。
(三) 亡喜八郎の逸失利益相当損害金の相続として被控訴人ら各二、七八二、〇〇〇円
<証拠省略>を綜合すると、亡喜八郎(死亡当時五九才)は友禅染加工を業とし、その昭和四〇年、四一年度の所得税確定申告書によると、生前少くとも被控訴人ら主張のとおり年間一八一万円の収益を得ていたものであることが認められる。もつとも、<証拠省略>によれば、亡喜八郎は昭和四一年四月生業を株式会社組織とし、帳簿上自己の報酬を月八万円としていたことも認められるが、右会社は対税上設立したに過ぎず、実質上は同人の個人会社であつたことが認められるから、同人の収益を右報酬額のみによつて算定することは相当でない。しかして、同人の生活費はその職業、年令、収入等に照らし収益の三割であるとみるのを相当とするから、同人の年間純益は一、二六七、〇〇〇円となる。そこで、右純益を基礎として同人の平均余命の範囲で少くとも事故なかりせば就労可能と認められる年数八年間の得べかりし純益を年別ホフマン方式により事故の発生した現時の額に引直すと計算上八、三四六、〇〇〇円となる(千円未満切捨て)。
1,267,000円×6,588 = 8,346,996円
したがつて、被控訴人らは右損害額の各三分の一すなわち各二、七八二、〇〇〇円の債権を相続したものである。
(四) 慰藉料各一〇〇万円
被控訴人らが夫または父親である亡喜八郎を瞬時の事故で失つたことによる精神的苦痛の大きさは立場は違え多言を要しないところであり、これを慰藉するための金額は各一〇〇万円をもつて相当と考える。
以上を合計すると被控訴人喜弘の損害金は四、一〇二、〇〇〇円、その余の被控訴人らの損害金は各三、七八二、〇〇〇円となる。
(五) 過失相殺
ところで、前記認定の本件事故の態様をみると、亡喜八郎としては当時本件事故現場にさしかかつたさい前方路上に垂れ下つた竹を避けるため反対車線に進入迂回したことは一応無理からぬ措置であつたことは前記説示のとおりではあるが、なお、周到な注意を払うものであれば、迂回をさけ、減速等により竹の下をくぐり抜けることもできなくはなかつたし、また、迂回するとしても、それは少くとも対向車線に進入することにほかならないのであるから、前方対向車の有無、動向を十分確認したうえ、必要に応じ徐行または一時停車をして対向車をやり過ごす等の注意を払えば事故は未然に防げたものと考えられるところ(このような措置をとつた場合、なお追突車の追突があつたと認めるに足る確証はない。)、亡喜八郎は前方の見通しが不十分であるにもかかわらず何ら右のような措置をとることなくそのまま対向車線に進入してしまつたことが明らかであり、右事情は亡喜八郎の不注意として相応の過失相殺を免れざるところといわねばならない。その他、本件道路管理の瑕疵の程度等諸般の事情を綜合すると、亡喜八郎の蒙つた損害額についてはその七割を減額し、被控訴人ら固有の損害額についても被害者側の過失としてこれをしんしやくするものとして同割合の減額をなすのを相当と考える。
そうすると、被控訴人喜弘の損害は一、二三〇、六〇〇円、その余の被控訴人らの損害は各一、一三四、六〇〇円となる。
(六) 損益相殺
しかるところ、被控訴人らが自賠保険金として一、二〇〇、八二四円、追突車側から損害金として八〇〇、〇〇〇円を受領したことは被控訴人らの自認するところであり、これらの充当方法に関する同人らの主張については控訴人らもこれを明らかに争わないからこれにより充当差し引きすると、結局、被控訴人喜弘の損害金は五〇〇、三二四円(自賠金から葬儀費分九万円とその残額の三分の一分三七〇、二七六円を、追突車側からの損害金から二七万円を控除したもの。なお、自賠金残額を三分すると三七〇、二七四円と余り二円となるから、右二円は自賠金を最も多く充当した被控訴人喜弘が充当したものとして算出。)、同ちよ子の損害金は四九四、三二六円(自賠金から三七〇、二七四円、追突車側からの損害金から二七万円を控除したもの)、同千枝子の損害金は五〇四、三二六円(自賠金から三七〇、二七四円、追突車側からの損害金から二六万円を控除したもの)となる。
(七) 弁護士費用相当損害金
<証拠省略>に弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人らはいずれも法律にうとく本件事故による損害金を請求するためには弁護士に委任して訴訟を追行するほかなかつたこと、そこで、被控訴人喜弘は本件訴訟代理人に本訴提起の着手金として七万円を支払つたほか、被控訴人らはいずれも成功報酬として一応勝訴額の一割を支払うことを約していること、被控訴人喜弘は当審の応訴費用として一〇万円を支払つたこと、以上の事実が認められ、これらの事実関係によると、被控訴人喜弘については二二万円、その余の被控訴人らについては各五万円が本件事故によつて蒙つた弁護士費用相当損害金と認めるのを相当とする。
(八) 結論
被控訴人喜弘の損害金七二〇、三二四円
同ちよ子の損害金五四四、三二六円
同千枝子の損害金五五四、三二六円
四 よつて、被控訴人らの本訴請求は控訴人ら各自に対し、(イ)被控訴人喜弘において右損害金七二〇、三二四円とうち金六二〇、三二四円に対する不法行為後である昭和四二年一月九日から、うち金一〇万円に対する同じく昭和四八年五月一六日から(同人の請求の範囲)いずれも支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、(ロ)被控訴人ちよ子において右損害金五四四、三二六円とこれに対する同じく昭和四二年一月九日から支払いずみまで前同率の割合による遅延損害金の支払いを求め、(ハ)被控訴人千枝子において右損害金五五四、三二六円とこれに対する同じく昭和四二年一月九日から支払いずみまで前同率の割合による遅延損害金の支払いを求める各範囲において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、一部これと異る趣旨の原判決は控訴人らの控訴および附帯控訴人不破喜弘の附帯控訴に基き変更を免れず、附帯控訴人不破ちよ子、同大槻千枝子の各附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同条一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 井上三郎 石井玄 畑郁夫)
【参考】第一審判決(京都地裁昭和四四年同第一六八六号、昭和四八年一月一六日判決)
主文
被告らは各自
原告不破ちよ子に対し金七〇万八、六四三円
原告不破喜弘に対し金九四万〇、六四三円
原告大槻千枝子に対し金七〇万八、六四三円
とこれらに対する昭和四二年一月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、五分し、その四を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができ、被告らは共同して原告らに対しそれぞれ金五〇万円の担保を供して仮執行を免れることができる。
事 実<省略>
理由
一 原告ら主張の本件請求の原因事実中第一項の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件事故現場の国道二七号線の北行車道に、路上一・五メートルのところまで、積雪の重みによつて竹が垂れ下つていたことは、当事者間に争いがないから、これが、道路管理の瑕疵になるかどうかについて判断する。
(一) <証拠省略>によると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。
(1) 本件事故現場附近の状況は、別紙添付図面のとおりである。
国道二七号線は、京都市と舞鶴市を結ぶ唯一の重要幹線道路で、交通量が多く、北行車道南行車道とも一車線のアスフアルト舗装で、歩車道の区別はない。
(2) 本件事故のあつた日の前日である昭和四二年一月七日の夜半から雪が降り、同月八日朝には、一〇センチメートル程の積雪があり、本件事故現場附近では、その両側に積雪部分があつたため、有効幅員は約五・三メートルしかなかつた(道路幅員六・三メートル)。
本件事故のころは、雪は降つてはいたが、路面上の雪が一部融け、みぞれ状になつていたので、通行する車は、スリツプしやすい状況にあつた。
(3) 本件事故現場附近の東側は山がせまり、西側は低くなつていて、道路法面とそれに続く民有地一帯は竹やぶである。
(4) 本件事故のとき、法面に生立していた、大人の背の高さの三倍もある竹二、三本が、積雪のためしなつて、路面から一・五メートルの高さにまで北行車道に垂れ下つていた。それは、センターラインまで覆いかぶさる恰好で、北行車道の車両運転者の前方の見とおしを全くさえぎつてしまうものであつた。そこで、これら運転者は、垂れ下つた竹をくぐり抜けて行くことは、危険のためできず、対向車線に入つてこれを迂回するしかなかつた。
(5) 不破喜八郎は、被害車を運転して、この垂れ下つた竹をさけて迂回すべく<1>の辺から、対向車線に入つた。
(6) 他方、加害車一を運転して時速四〇キロメートルで南進していた訴外荻野彦三は、<イ>点で、垂れ下つた竹の横からニユツと出てきた<1>の被害者を発見し、衝突の危険を感じ、<ロ>点で急制動をかけて左側に転把した。このとき、被害車は<2>点にきていた。加害車一が、<ハ>点で側溝に左前車輪を落して停車したとき、被害車は、スリツプしながら、加害車一の運転台の下にはまり込むようにして衝突した。
(7) 訴外湯浅俊司は、加害車二を運転して、被害車の後方約一〇メートルのところを追尾し、前記垂れ下つた竹を迂回する被害車を見てこれに続き、対向車線に入つて自車線に戻ろうとしたとき、スリツプし、道路の西側から転落しそうになつたので、あわててハンドルを右に切り直し、そのまま被害車に追突した。
(8) 本件道路には、本件事故現場以外にも、道路わきに竹やぶがあり、本件事故までに、それが、積雪のため道路上に垂れ下つていたことはあつた。
(9) 本件道路を直接管理している近畿建設局福知山工事事務所綾部国道維持出張所は、本件事故直後、この垂れ下つた竹二、三本を切りとり、数日後、防護棚を設けて、竹が道路に垂れ下つてくるのを防止した。その防護棚は、柱をたて、それにワイヤー製の一尺平方くらいの目になつた網を張つたものである。
(二) 以上認定の事実からすると、次のことが結論づけられる。
本件道路は、重要幹線道路であり、車両の交通量が多いのであるから、道路管理者は、本件道路の交通上の安全には、万全を期すことが要求される。
それにも拘らず、道路法面に生育していた竹が、積雪のため道路に垂れ下り、一車線しかない北行車道の通行を閉そくして阻害していたのであるから(このような状態が何時から現出していたかは証拠上明らかではない)、この危険状態は、道路が通常具備すべき安全性を欠いていたとしなければならない。すなわち、本件道路には、管理上の瑕疵があつたことに帰着する。
(三) しかし、被害車の運転者である不破喜八郎には、垂れ下つた竹を迂回するため、対向車線の車両の有無を確認し、必要ならば、その直前で一時停車をして安全に対向車線に進入すべき注意義務があるのに、不破喜八郎は、この義務を怠り、対向車線の安全を確めないで、漫然とそのまま迂回して行つたもので、これが、本件事故の一原因であることは多言を必要としない。
当裁判所は、不破喜八郎の過失を四〇パーセントと評価する。
三 被告らの主張に対する判断
(一) 被告らは、本件道路の瑕疵と本件事故とには因果関係がないと主張しているが、前記認定事実からすると、竹が垂れ下つて北行車道が閉そくされた状態になり、被害車は、このため、それを迂回した結果加害車一と衝突したのであるから、到底この主張は採用できない。
北行車の車両の運転者が、余裕をもつて適切な運転措置がとれたかどうかは、過失相殺の一事由になり得ても、本件に認定した事情のものでは、被告らが主張するように因果関係を否定する事由にはならない。
(二) 被告ら主張の不可抗力について、<証拠省略>によると、被告らが不可抗力であると主張している事実のうち、本件事故の日の朝、綾部国道維持事務所が、巡回や除雪をはじめそれが間に合わなかつた事実が認められるが、当裁判所は、この事実は、被告らの管理責任を免れさせる不可抗力には当らないと考える。
とりわけ、本件道路が重要幹線道路であり、交通量の多いこと、竹が垂れ下つて一車線しかない北行車道の進行が阻害されていたこと、法面の竹を切り取ることはまことに簡単であることなどを考えたとき、巡回と除雪が間に合わなかつたというのは、被告らの単なる弁解か言いのがれでしかない。
四 被告国が本件道路の管理者であり、被告京都府がその費用負担者であることは、当事者間に争いがないから、原告らの損害額について判断する。
(一) 不破喜八郎の葬儀費金二五万円
原告不破喜弘の本人尋問の結果によると、同原告は、葬儀費として約金七〇万円を支払つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
当裁判所は、本件事故と相当因果関係にある葬儀費は、金二五万円が相当であると認める。
(二) 物損金二万円
同結果によると、同原告は、被害車の引揚料と運搬料として少なくとも金二万円を支出したことが認められ、この認定に反する証拠はない。
従つて、同原告のこの損害は金二万円である。
(三) 不破喜八郎の逸失利益金一二九万二、六四〇円あて
同結果によると、不破喜八郎は、昭和四一年四月から個人企業を会社組織にし、訴外不破染工株式会社の代表取締役に就任し、一か月金八万円の給料を得ていることが認められ、この認定に反する証拠はない。
そうすると、不破喜八郎の年間収入は、金九六万円であるが、その生活費として、原告らが主張する金三六万円を控除する。
不破喜八郎の本件事故による死亡時の年令が、満五九歳であることは、弁論の全趣旨によつて認められるから、これを基礎にその逸失利益を積算すると、金三八七万七、九二〇円になる。
600,000円×64,632(就労可能年数8年のライプニツツ係数)
= 5,877,920円
原告らが不破喜八郎の相続人であることは、当事者間に争いがないから、原告らは、遺産相続人として、この債権を三分の一あて承継取得したもので、その額は各金一二九万二、六四〇円である。
(四) 慰藉料各金一〇〇万円
本件に顕われた諸般の事情を斟酌し、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は金一〇〇万円あてが相当である。
(五) 過失相殺と損益相殺
(1) 以上の合計である
原告不破喜弘は、金二五六万二、六四〇円
そのほかの原告らは、金二二九万二、六四〇円
が、それぞれの損害額であるが、不破喜八郎の過失は、前記のとおり四〇パーセントであるから、これを過失相殺すると次のとおりになる。
原告不破喜弘は、金一五三万五八四円
そのほかの原告ら各金一三七万五、五八四円
(2) 原告らが、自賠責保険から金一二〇万〇、八二四円を、訴外湯浅俊司から金八〇万円を受け取つたことは、当事者間に争いがないから、これらを三分してみぎ損害額に充当すると次のとおりになる。
原告不破喜弘金八七万〇、六四三円
そのほかの原告ら各金七〇万八、六四三円
(六) 弁護士費用
原告不破喜弘の本人尋問の結果によると、同原告は、本件原告訴訟代理人に訴訟委任をし、着手金として、金七万円を支払つたことが認められる。
そうすると、同原告が、被告らに対し、本件事故による損害として負担が求められる弁護士費用は、金七万円が相当である。
そのほかの原告らも、弁護士費用を損害として請求しているが、本件は、被告らのほかに相被告として、加害車二に関する湯浅俊司らを被告にし、これらの相被告らとは、本件口頭弁論終結の日にようやく和解ができたことを考えると、そのほかの原告らの弁護士費用をも、本件事故による損害として、被告らにだけ負担させるのは不相当である。従つて、この請求は排斥する。
五 むすび
被告らに対し、原告不破喜弘は金九四万〇、六四三円、そのほかの原告らは各金七〇万八、六四三円と、これらに対する本件事故の日の翌日である昭和四二年一月九日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いが求められるから、原告らの請求をこの範囲で正当として認容し、原告らのその余の請求を棄却し、民訴法八九条、九二条、一九六条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 古崎慶長)
別紙図面<省略>