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大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)1320号 判決 1976年2月12日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに控訴人の敗訴のときは仮執行免脱の宣言を求める旨申立て、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおり(但し、原審被告河本阪道に関する部分を除く。)であるから、これを引用する。

当審に於て、(一)、控訴人は、仮りに被控訴人主張通りの契約が成立しているとしても、本件請負工事は不可分のものであつて右工事が完了しない以上控訴人には請負代金の支払義務はない。と述べた。(二)、証拠(省略)

理由

一、被控訴人の控訴人に対する請求原因(原判決記載)第一、二項については、当裁判所の認定、判断も原審と同じであるから、原判決六枚目表四行目の末尾につづけて「そうすれば、被控訴人の残余工事の履行は、おそくとも本訴提起の時点では、社会取引通念上履行不能に帰し被控訴人の右残工事債務は消滅したものと云うべきである。」を、同裏一行目の「もとにおいては、」の次に「民法五三六条二項により」を、同行の「原告に対し」の次に「反対給付たる出来高工事部分に相当する請負代金債務についての」を各挿入のうえ、原判決理由冒頭より六枚目裏四行目までを引用する。

二、そこで次に、被控訴人が訴外(原審被告)河本阪道に対して有する右反対給付たる出来高工事部分に相当する請負代金の額について検討する。ところで、控訴人は同時履行の抗弁をするが、被控訴人の残工事債務は消滅し出来高工事部分についてのみの請負代金債権が認められるに過ぎないのであるから、同時履行の抗弁はこれを認める余地がないし、被控訴人に残工事義務のない以上、被控訴人としては本件契約上の履行義務を完了しているのであるから、出来高部分の代金支払を請求しうるものと云わねばならない。

原審に於ける被控訴人会社代表者平田厳及び原審被告河本阪道各本人尋問の結果並びにこれらにより成立の認められる甲第七号証によれば、前記のとおり、控訴人側での地下室の防水工事の施行を待つため本件請負工事は一時中止されたが、その時点に於ける工事出来高分の支払のため、注文者河本阪道より請負人被控訴人に対し額面金二七三万四四八〇円の約束手形一通を振出し交付している事実が認められる。従つて右額を当時の本件請負工事の出来高相当と云うべきである。

右については次のような疑念が生じないでもない。即ち、右両名各本人尋問の結果によれば、河本阪道と被控訴人間に於ては前記のとおり(原判決理由一の2項記載)河本が被控訴人より仲介料を得て被控訴人に仕事をさせると云う関係にあつて、実質的に河本が注文者として被控訴人の工事施行に関心を払うことが稀薄な状況にあり、河本より被控訴人への工事代金の支払いはすべて河本が控訴人より受取る工事代金を当とし、河本が被控訴人に振出していた前記約束手形の支払いも河本が控訴人よりそれに相応する工事代金の支払いを受けなければ決済できないことを諒解し合つていた間柄であることが認められるから、右工事出来高分として振出された約束手形も、その出来高の評価については河本には深い関心なく、被控訴人の一方的評価が右額面として示され、その評価に客観的正確さを欠いていたのではなかろうかと。かような疑念をもとに本件を考察すれば、右額面は端数的金額を含み、それ相応の根拠を持つものと推測し得るに拘らず本件証拠上当時の工事出来高が右額面に相当するものであつたことを首肯するに足る証拠はない。

しかしながら、当審証人酒谷秀志及び曾谷正の各証言、控訴人主張の被写体の写真であることにつき争いのない検乙第一ないし第九号証、鑑定人酒谷秀志の鑑定結果によれば、本件冷暖房設備工事は家屋の新築として建築、電気、冷暖房等の工事が併行して行なわれたので、それら各業者の連携の不充分によつて工事の進行がけん制されたり、例えば設備した機器の電源取付を待たず建築工事が先行したため壁の一部を破つて電源工事をしなければならない等の手違いも生じ、前述のとおり地下室にボイラーやチラーの据付が未了の外は、接続配管、クーリングタワーの接続配管、保温工事、煙突工事など若干を残し、これら工事は控訴人が拒んでいるボイラーやチラーの据付工事が可能となれば、それに付随してさしたる日数を要せず完了することができ、被控訴人に於てなした工事出来高は外形的には八〇パーセント程度に達しているが、水圧試験等設備のテストの未了であることを考慮し、控え目に評価しても七〇パーセントと見られること。右残余の工事は右既成工事を使用して施行することが可能であつて、工事が中絶したため既成部分に投入された費用がそのままの評価を受け得ないと云うような関係を生じないことが認められる。そしてこれら認定を妨げる証拠はない。

右事実によれば、前記約束手形金二七三万四四八〇円に対して生じた疑念にも拘らず、この額を工事出来高として正当であると承認することができる。けだし本件請負代金四三〇万円に対し右出来高評価額は六三パーセントであつて、前記控え目に見た七〇パーセントをなお下廻つているからである。

当審証人香田寛通の証言及びこれにより成立の認められる乙第二ないし第四号証、鑑定人酒谷秀志の鑑定の結果によれば、右香田は冷暖房設備工事の専門業者として昭和四八年六月一六日現在の状態(昭和四五年九月工事中止時の状態と変更がないものと認められる。)に於ける工事出来高を金一五五万六〇〇〇円、右酒谷は昭和四五年九月当時の出来高を(昭和五〇年六月二七日の現地調査時の出来高状態を遡つて評価し)金二二一万六〇二〇円と評価しているが、それは同一状態に対しそれだけ評価に巾のあることを示しているに過ぎず、具体的取引として請負代金四三〇万円と決定された本件の場合、これを前提として前記出来高割合より見て前認定額の合理性をそこなうものではない。

そうすれば、河本阪道は被控訴人に対し出来高分金二七三万四四八〇円の工事代金及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である昭和四七年二月四日より完済するまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、連帯保証人たる控訴人も右同様(但し遅延損害金の起算日は同人に対し訴状送達のあつた昭和四七年二月四日の翌日より)の支払義務がある。

三、以上のとおり被控訴人の本訴請求は原審認容の限度で正当であり、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法八九条を適用し、控訴人申立の仮執行の免脱はこれを認めず、主文のとおり判決する。

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