大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)2208号 判決 1977年4月14日
控訴人
中西ナラノ
右訴訟代理人
駒杵素之
被控訴人
広川務
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の予備的請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一本件土地が控訴人の所有に属すること、被控訴人は控訴人から右土地を賃借し(以下これを本件賃貸借という。)、その上に木造建物を所有していたが、昭和四七年四月頃右建物の南側平家建部分約22.31平方米を取毀つて鉄骨ブロツク造陸屋根二階建居宅兼作業場床面積約二五平方米を建築(本件増改築)したことは当事者間に争がない。
二<証拠>によれば、被控訴人の近所の借地人の戸山と小島は、地主である控訴人の承諾なしに鉄骨造りに改築したが、別段紛争が生しなかつたが、被控訴人は、昭和四七年二月一四日頃控訴人に対し、本件地上建物をブロツク積に改築するにつき承諾を求めたところ、控訴人は「被控訴人の近所の借地人は控訴人の承諾なしに改築している」旨述べた上、本件増改築(改築後の建物は堅固な建物に該当する)を承諾したことが認められ、この認定に反する原審証人中西稔の証言及び控訴人本人の原当審供述は措信できない。
三借地権が非堅固な建物の所有を目的とするものである場合、堅固な建物に改築するにつき、賃貸人が一旦与えた承諾は、これを撤回することができない。けだし、右の承諾は、相手方の権利義務に利益な変動を生ずる意思表示であり、相手方の権利義務に利益な変動を生ずる意思表示(それが、契約を組成する場合であると単独行為の場合であるとを問わず、又有償行為の場合であると無償行為の場合であるとを問わず。)を撤回する意思表示は、相手方の権利義務に不利益な変動を生ずる単独行為であり、このような単独行為は、法に特別の規定があるが、当事者間にすでにそれを是認させるに足る法律関係が存在している場合にかぎり、許されるからである。賃借権の譲渡につき賃貸人が一旦与えた承諾はこれを撤回することができないとする最高裁昭和三〇年五月一三日判決、民集九巻六号六九八頁参照。従つて控訴人の承諾撤回の主張は採用できない。
四右認定によれば、本件増改築を原因とする控訴人主張の本件賃貸借契約解除の意思表示は無効であり、控訴人の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない。
五よつて、本件控訴及び予備的請求を棄却し、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(小西勝 入江教夫 和田功)