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大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)267号 判決 1973年8月02日

原告(控訴人)

東洋林業株式会社

右代表者

田中星太郎

右訴訟代理人

和田誠一

外一名

被告(被控訴人)

財団法人鈴木学術財団

右代表者理事

萩原一

右訴訟代理人

杉浦貫一

主文

原判決を取消す。

被告は原告に対し一五〇万円およびこれに対する昭和四六年三月五日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行できる。

事実

(原判決の主文)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の趣旨)

被告は原告に対し一五〇万円およびこれに対する昭和(以下略)四三年一〇月一一日以降完済まで年六分の割合による金員を支払えとの判決並びに仮執行の宣言。

(不服の範囲)

原判決全部。

(当事者の主張)

当事者双方の主張は、次の付加をするほか、原判決事実摘示のとおりである。

一、原告の主張

原告の貸金の主張が認められないときは、不当利得に基づく返還請求をする。すなわち、被告の専務理事沢本貫は、本件貸金が被告の目的の範囲外であるのを知つてこれを借り受け、被告のため使用したのであるから、被告は原告の出捐により一五〇万円の利益を得た悪意の受益者である。よつてこれに利息を付して返還すべきである。

二、被告の主張

右不当利得の主張は否認する。被告は一五〇万円を原告から借り受けたことはないから、善意もしくは悪意の受益者ではない。

(証拠)<略>

理由

一貸金の請求について

(一)  <証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告は、山崎ミヨキ、中川庸太両名共有の東京都中野区中野三丁目二七番二所在宅地547.31平方メートルおよび同地上木造瓦葺二階建居宅二棟延面積二三四五六平方メートルに、三九年六月三〇日受付の設定登記をした根抵当権により担保される債権約一、二〇〇万円を有していたが、右物件には、原告のほか株式会社北陸銀行、同北海道拓殖銀行の各根抵当権設定登記等があつて、右債権の取立は相当困難であつた。

そこで、被告の理事長佐藤喜一郎が元三井銀行会長で銀行筋に顔が利くことや、被告専務理事沢本貫が各方面に知己の多いこと等に着目した原告は、被告を介して、右物件の売却清算による自己の債権の回収を企図した。

原告の意を請けた沢本理事は、右物件を被告が一先づ代金二、六五〇万円で買い受け(甲一号証の金額は「万」を脱漏したものと認める)、これを他に転売する計画を樹て買主を物色し、磯田政吉から四三年七月一日手付金として五〇〇万円を受領していたが、その交渉中たまたま沢本理事が刑事事件に連坐して四三年八月五日逮捕された。そこで、被告の参与槇田稔が急遽被告を代理して事に当り予定を変更し、同年九月四日前記所有者から直接、転売先磯田政吉に対し代金三、四〇〇万円で売買したこととして、売買契約書を作成し、被担保債権等の清算を了した。その内実は、被告が代金二、六五〇万円で所有者から買受け、これを前示金額で磯田に転売したものであつて、被告は磯田から受領した代金中から、右二、六五〇万円を以て被担保債務の支払に当てたものである。

右の結果、被告の手元に合計七五〇万円が残つた計算になる。

ところで、当時被告の財政は窮迫し通常経費の支出にすらことかく状況にあつた。そこで、槇田参与は原告に懇請して、四三年九月四日原告の受領すべき被担保債権一、一五〇万円(債権額一、二〇〇万円中五〇万円を免除)のうちから一五〇万円の貸与をうけたが、これについては短期間内に返済するというだけで弁済期、利息の約定はなかつた。

(二)  右認定事実によれば、原、被告間には、その頃一五〇万円の消費貸借が弁済期・利息の定めなく締結されたものといわなければならない。被告は右契約の当事者は、被告ではなく、エスエフ高速ボーリング株式会社であると主張し、<証拠>にはその趣旨の記載があるけれども、<証拠>によれば、右会社は、被告の支弁すべき経費を稼得する目的をもつて設立された被告出資の子会社であつて、前記沢本は、被告の専務理事であるとともに右会社の専務取締役を兼ね、被告と右会社とは、事務所、職員および会計を共通にしていた事実が認められる。のみならず、<証拠>によれば、本件売買の目的物である不動産の買受人として当初被告名が前示売買契約書に記載されていたが、後に沫消されたことが窺われ、また原審証人万濃の証言によれば、原告は、終始被告を相手方として取引の交渉をしたものであつて、右会社の存在は、本件紛争発生後に始めて知つた事実が認められる。以上の各事実に前記認定の本件不動産の売却を被告に依頼するに至つた経緯をも合わせ考えると、本件不動産の売買並びに金銭貸借の取引の当事者は、いずれも被告であつて、被告主張の会社ではないと認めるのが相当である。したがつて被告の右主張は採用できない。

(三)  そこで進んで、本件金銭貸借が被告の目的の範囲内に属するか否かについて考察する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

被告は、高名な宗教家鈴木大拙の若き世代に対する宗教的情操の涵養並びに世界平和の達成と保持に関する宗教的理念に基づき、大谷大学の所蔵する西蔵大蔵経により、その調査研究の結果を広く世界に発表提供して、学術の振興と文化の向上に寄与するため、西蔵大蔵経に関する調査研究、その複製、翻訳刊行、資料の収集、その他これらに必要な事業を行う(寄付行為四条五条)ことを目的とし、松村謙三を初代理事長として発足、設立された財団法人であつて、前記沢本は、設立当時常務理事であつた。本件当時では株式会社三井銀行相談役佐藤喜一郎を理事長とするほか、理事、顧問、評議員等に、政界、財界、学界の錚々たる著名人を擁していた。そして寄付行為三二条一項二号によれば、被告は、あらかじめ評議員の意見をきいた上理事会の議決により不動産の買入れをすることができることと定められているけれども、被告の前記目的に徴して考えると、右不動産は、被告の事業に必要な不動産の取得に限定され、転売のための不動産の取得を包含しないと解すべきである。転売による差益獲得の目的をもつてなされた本件不動産取引は、被告の目的の範囲内に属しないものといわなければならない。

金銭の消費貸借については、被告の寄付行為には、何らの規定もない。しかし、一般に財団法人の目的遂行には資金を要することに鑑み、資金の借受は特段の事情のない限り被告の事業遂行に必要かつ相当なものとして、その目的の範囲内に属するものと解すべきである。そして、法人の事業遂行のため必要かつ相当な行為は、たとえ、目的の範囲内の行為と関連して行われたとしても、そのために性質を変じて目的の範囲外の行為となる道理はない。被告の原告からの本件借受は、さきに認定したとおり右不動産の売買に関連してなされたものといいながら、被告の通常経費の支出にもことかく財政上の窮迫に対処するためのものであり、他にこれが被告の目的の範囲に属さないと認められるような特段の事情の存在を肯定するに足る主張立証がない。

しからば、本件消費貸借は被告の目的の範囲内に属するものであり、また、原告は商事会社であるから、本件は商事債権であると解すべきである。

二そうすると、原告の本訴請求は、被告に対し、貸付金一五〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな四六年三月五日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。

よつて、これに反する原判決を取消し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条九六条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(前田覚郎 菊地博 仲江利政)

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