大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)471号 判決
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【判旨】
第一地上権及び建物所有権についての自白の撤回の許否
控訴人は自己のなした地上権及び建物所有権についての自白の撤回は権利自白の撤回として自由になし得ると主張しているが、従来からいわゆる権利自白といわれているもののなかでも、本件のように相手方の地上権及び所有権という自己に不利益な法律効果を認める場合において端的にその結論的部分のみが主張され、基礎たる事実の主張がないため法的推論の当否を検討する余地がなく、しかもその法律効果が請求の判断の関係で小前提となる事実に該当する場合には民訴法二五七条所定の自白が成立し、その撤回も通常の自白と同様、真実に反し、かつ錯誤に基づいてなされた場合に限り許されると考える。本件においては、地上権及び所有権のみが主張され、それを基礎づける事実の主張はされていないが、本訴は賃貸借契約に基づく賃料請求の事件であつて、その要件事実としては、(1)賃貸人が目的物を賃借人に引渡しそれを使用収益させたこと、(2)その対価として賃借人が賃貸人に約定賃料額を支払うことの合意がなされていることの事実をもつて足り、目的物についての所有権ないし地上権の存在はその要件とはならないから、もともと本訴請求原因には右所有権、地上権の主張は不要であつて、本件においてその自白及び自白の撤回の許否を詮索するのは無益であり、その必要性はない。
第二本件土地建物の賃貸借契約についての自白の撤回の許否
<証拠>を総合すると、
(一) 昭和三八年一〇月二八日控訴会社は代表取締役堀年若、平取締役岸本秀夫、藤井清一、監査役町村栄橘として設立登記された。
(二) 昭和三九年二月八日本件土地の所有者正木静子と控訴会社代表取締役との間で本件土地の賃貸借契約を締結し、その旨の公正証書を作成した。
(三) 同年一〇月頃になつて、設立当初から資金操りに困つていた控訴会社は経営難に陥り、債権者の一人である被控訴会社代表者広田隆から融資を受けていたが、控訴会社代表者堀年若は右広田に対し控訴会社の経営を引継いで欲しい旨申入れていた。
(四) 同年一〇月二九日右広田隆は本件土地所有者正木静子方を訪ね「同人が控訴会社の経営を引継ぐことになつた、これまで土地賃料を延滞していた控訴会社に代つて、同人が代表者をしている被控訴会社においてこれを支払うから、前示(二)の賃貸借契約を解約し、被控訴会社との間に本件土地の地上権設定契約を結んで貰いたい」旨を申入れ、同女がこれを了承したので、同女と被控訴会社間に右地上権設定契約を締結し、その旨の公正証書を作成した。
なお、翌一〇月三〇日右当事者間で被控訴会社が右正木静子に対し金五〇〇万円を右地上権設定契約の敷金として支払い、その旨の地上権設定附属約定書を作成している。
(五) 同年一一月一三日神戸相互銀行神戸西支店三階ホールで控訴会社の債権者集会を開催し、出席した前記広田隆から、全債権者に一割を配当し、九割は債権放棄をして債権者全員が控訴会社の株主となつてその再建を図ることを提案した。
(六) 同月二一日控訴会社は手形不渡を発表した。
(七) 同年一二月六日控訴会社代表取締役堀年若、債権者表山川金太郎、被控訴会社代表社員広田隆の連記された書面をもつて、兵庫県公安委員会あてに控訴会社の不渡発表にいたる経緯、現況、被控訴会社代表社員広田隆において諸経費の手当をなし、同人に会社運営の引受けを交渉している旨記載した上申書が提出されている。
(八) 昭和四〇年一月六日控訴会社の株主総会が招集されたが、代表取締役堀年若、取締役(控訴会社の自動車学校長)藤井清一が欠席したため流会となり、前示広田隆の控訴会社の経営引継ぎの意欲が薄れた。
(九) 同年三月一控訴会社の実行委員会が開かれて右広田隆の提案した前示(五)の再建案が採択され、前示堀から同人に再建を一任し、代表者印、控訴会社の株券全部などを同人に手交した。
(一〇) 同月一三日被控訴会社は控訴会社代表取締役堀年若振出の約束手形四通、小切手一通を預かり、その旨の「預り証」を発行している。
(一一) 同年四月一日控訴会社は右広田において各債権者に対し一割配当を実施し、それと引換えに債権者から不渡手形を預かり、残額九割についてはその放棄を得た上、早急に控訴会社の株主総会を開催して株券を発行する法人格を明確にする旨を記載した不渡手形預かり証を、控訴会社代表取締役堀年若名義で発行し、引受人として広田隆が記名押印している。
(一二) 同年五月四日控訴会社から被控訴会社に対し、本件建物を代物弁済する旨の代物弁済証書が作成され、同月六日代物弁済による所有権移転登記を了した。しかし、これは控訴会社代表取締役堀年若の関知しないもので、同人の了承を得ることなく前示広田隆が独断で右証書を作成して登記したものであつて、もとより同証書中の堀年若の署名押印も同人がなしたものではない。
(一三) 同年八月一八日、控訴会社の臨時株主総会で代表取締役堀年若他全役員が任期満了により辞任し、改選を実施した結果、代表取締役広田隆、取締役朝倉秀丸、監査役藤井清一、同堀年若が選任された。
(一四) 同月二五日賃貸人を被控訴会社とし、賃借人を控訴会社とする本件土地につき前示(四)で被控訴会社が認定した地上権の賃貸借契約、及び本件建物の賃貸借契約を締結し、それぞれ地上権賃貸借契約証書ないし建物賃貸借契約証書を作成した。この契約書にはいずれも賃貸人被控訴会社代表社員広田隆、賃借人控訴会社代表取締役広田隆の記名押印があり、右各契約は広田隆において双方を代表して締結したものである。
(一五) 同年九月一六日前示(一三)で選任された控訴会社の各役員に取締役磯田長七を加えた六名の就任登記を了した。なお、同登記簿によると右各役員は同月一二日就任した旨の記載がある。
以上の各事実を認定することができ、これらの事実を考え併せると前示(一三)によつて控訴会社の代表取締役に選任されその代表権を有していた広田隆と、被控訴会社代表社員である同人との間で、本件土地地上権及び本件建物の賃貸借契約が締結されたことが認められ、右認定を覆えすに足る的確な証拠がない。
なお、控訴会社は前示(一五)の登記簿上に広田隆の控訴会社代表取締役就任の日が昭和四〇年九月一二日であることを挙げて、同人に控訴会社の代表権限がない旨主張しているが、登記簿の記載如何にかかわらず、現実に株主総会で選任されて代表取締役に就任した日をもつて代表権限を取得したものというべきであり、同人は前示(一三)のとおり同年八月一八日代表取締役に就任し、同(一四)のとおり同月二五日前示両賃貸借契約を締結したものであるから、控訴会社の主張は採用できない。
したがつて、右両賃貸借契約の存在を認めた原審における控訴会社の自白は真実に反するものとは認められないので、控訴会社の自白の撤回は許されない。
第三自己取引の抗弁の検討
一前認定の第二(一四)の事実のとおり、本件土地、建物の賃貸借契約は、株式会社である控訴会社の代表取締役と合資会社である被控訴会社の代表社員(無限責任社員)を兼ねている広田隆が、両会社を代表して被控訴会社から控訴会社に対し土地建物を賃貸する契約を締結したものであり、これは賃料額、賃料支払義務等賃借人としての義務の定め方如何によつて被控訴会社ひいてはその無限社員を兼務している取締役広田隆の利益にして、控訴会社に不利益を及ぼす行為であり、商法二六五条にいう取締役が第三者のためにする取引にあたるのであつて、同条所定の取締役会の承認を要するものである(最判昭四五・四・二三民集二四巻四号三六四頁)。そして、人的会社である合資会社とその無限責任社員との間の緊密な関係に照らすと、右取引は取締役と株式会社との間に直接成立すべき取引に準じて取扱うべきものであつて、取締役が自己のために株式会社以外の第三者との間になすいわゆる間接取引のように、その無効を主張するにつき取引の相手方の悪意を必要とするものではない(最判(大法廷)昭四三・一二・二五民集二二巻一三号三五一一頁参照)。
二そして、本件全証拠をみても、控訴会社の代表取締役である広田隆が本件土地、建物の右賃貸借契約を締結するにつき、控訴会社の取締役会の承認を得たとの被控訴会社の再抗弁事実を認めるに足る的確な証拠がない。したがつて、被控訴会社主張の右賃貸借契約はいずれも商法二六五条に違反して無効であるといわねばならない。
(下出義明 村上博巳 吉川義春)