大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)697号 判決 1978年8月09日
第六九七号事件控訴人、
第七三二号事件被控訴人(以下、第一審原告という)
三喜産業株式会社
右代表者
藤原伊太郎
右訴訟代理人
江村重蔵
第六九七号事件被控訴人、
第七三二条事件控訴人(以下、第一審被告という)
日本通運株式会社
右代表者
澤村實義
右訴訟代理人
澤村英雄
外一名
主文
一、原判決を次のとおり変更する。
(一) 第一審被告は第一審原告に対し一一〇万四、〇〇〇円、およびこれに対する昭和四一年六月二一日から完済まで年六分の金員を支払え。
(二) 第一審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
(三) 第一審被告の反訴請求をいずれも棄却する。
(四) 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担する。
二、この判決は、第一項(一)に限り第一審原告において金三三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一<省略>
二本件各倉荷証券に関する請求について
本件各倉荷証券の各裏書人欄には訴外天王寺農産株式会社の裏書として右訴外会社の商号「天王寺農産株式会社」のゴム印と右訴外会社名を刻した角印が押捺してあるだけで、その代表者の署名ないし記名捺印がないことは当事者間に争いがないところ、このような裏書方式が適式有効かどうかについて第一審被告はこれを争うので、以下に順次判断する。
(一) 倉荷証券の裏書の方式については、商法五一九条により手形法一三条が準用されるから、その裏書は倉荷証券またはこれと結合した補箋にこれを記載し、裏書人が署名(記名捺印を含む=手形法八二条)するのであるが、裏書人が会社その他の法人である場合にはその法人の代表機関が法人のためにすることを明らかにして自己の署名をすることを要すると解すべきである(最高裁判所昭和四一年九月一三日判決、民集二〇巻七号一三五九頁参照)。これを本件についてみるに、前示のように本件各倉荷証券の訴外天王寺農産株式会社に関する各裏書欄には、いずれも裏書人の表示として右訴外会社の社名を記載したゴム印と同社名を刻した角印が押捺されているだけで、その代表機関の自署ないし記名捺印がないから、右各裏書欄には右訴外会社の署名があるということはできず、このような裏書は右訴外会社の裏書として適式でなく、その効力を生じないものというべきである。
第一審原告は裏書人欄に会社の記名をし発券倉庫業者に届け出た印鑑を押捺するときは、会社の代表機関が会社のためにすることを明らかにして署名ないし記名押印しなくても、これを適式の裏書として取扱う商慣習法または商慣習が存在する旨主張するが、右商慣習法の存在を認めるに足る資料がない。もつとも、<証拠>によると、倉庫業を営む会社においては、寄託をうけるに際し寄託者の社名印を届け出させ、第一審原告主張のような方式の裏書のある倉荷証券の所持人に対しても寄託物の引渡要求に応じている例が多いことが認められる。ただし、受寄者がその方式を争う場合にも法人の代表者の署名を欠く裏書を有効として取扱う慣行の存在までも認めることはできない。おもうに、商法五一九条が金銭その他の物または有価証券の給付を目的とする有価証券について、とくに強い流通性の要請を考慮して手形法一三条を準用し裏書を方式化したことにかんがみれば、裏書の方式に関する右規定は強行規定であると解すべきであるから、前示のような慣行をもつてこれに優先させることができないといわねばならない。したがつて、第一審原告の右主張は失当であつて採用できない。
(二) なお、第一審原告は本件各倉荷証券の裏書譲渡に関する当事者間の契約または慣習の存在を主張するけれども、本件の全証拠によるもこれを認めるに足りないから、右主張も理由がない。
<以下略>
(下出義昭 村上博巳 吉川義春)