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大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)846号 判決 1974年8月05日

控訴人

増田重治

外三名

右四名訴訟代理人

佐々木敬勝

外二名

被控訴人

荒木久義

右訴訟代理人

永田圭一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因一ないし六の事実は、いずれも当事者に争いがない。

二被控訴人の抗弁について判断する。

前示当事者間に争いのない事実に、<証拠>並びに原審鑑定の結果によると次の事実が認められる。

1  昭和三八年夏頃、被控訴人は、当時勤務していた武田薬品株式会社を昭和四〇年に定年退職することになるので、本件土地に貸家を建てようと計画し、亡母荒木さく所有名義の本件土地を自己名義に相続を原因とする所有権移転登記をしたいと考え、司法書士竹村奈良長に右相続登記手続を依頼した。竹村司法書士は、戸籍謄本、除籍謄本等により、さくの共同相続人としては被控訴人のほか控訴人ら四名、一審原告辻美代子、木徳信一、木徳拡子の七名があることを確認し、被控訴人に対し、右共同相続人七名の者の相続権を放棄する旨の書面がないと被控訴人名義に単独相続による所有権移転登記手続ができない旨を説明し、同司法書士備付の「右の者は昭和年月日死亡により相続が開始された処、相続人である私は右の者生存中相続分に相当する財産を受けて居りますので相続分の無いことを民法第九〇参条第二項により証明致します。」と印刷記載してある「証明書」と題する書面に本件土地の所在地番、地目、面積を表示した目録を綴つた証明書用紙二通(甲一、二号証)を交付し、これに右七名の署名押印を受け、かつ、各人の印鑑証明及び住民票をとつてくるよう指示した。

2  被控訴人は、竹村司法書士の指示に従い、同年一一月頃までの間に木徳信一、控訴人増田重治、一審原告辻美代子控訴人木徳義男の親権者母木徳キヨに対しては直接、控訴人青田園子、同松本信子に対しては木徳キヨを介し、木徳拡子に対しては木徳信一を介し、いずれも、さく名義の本件土地上に貸家を建てたいので本件土地につき被控訴人名義に相続による所有権移転登記手続をすることに協力して貰いたい旨依頼して、その承諾を受け、前記証明書用紙(甲一、二号証)に署名押印及び印鑑証明、住民票の交付を求め、その各承諾を受けて右各用紙に署名(又は記名)押印及び印鑑証明等の交付を受け、これらの書類を添付して、被控訴人名義に本件所有権移転登記がなされた。

3  被控訴人が右証明書用紙(甲一、二号証)に控訴人らの署名押印等を受けた経緯

(一)  控訴人増田重治関係。被控訴人は、昭和三八年一〇月二九日頃同控訴人の妻に電話で印鑑証明、住民票の交付を求め、同年一一月三日同控訴人方を訪れ、前記証明書用紙(別紙目録を綴つたもの、甲一号証)を示し署名押印を求めたところ、同控訴人はその記載内容を読んだうえ、被控訴人に住所氏名を書いてくれといい、被控訴人がこれを記入したところ、同控訴人はその名下に押印した。(別紙目録との間の押印漏れのまま、本件登記手続がなされた。)同控訴人の印鑑証明、住民票も同日交付を受けた。その後、同控訴人の戸籍抄本が必要と竹村司法書士にいわれ、同月六日頃同控訴人に電話で依頼し、翌日頃速達便でその送付を受けた。

(二)  控訴人青田園子、同松本信子、同木徳義男関係。被控訴人は、昭和三八年八月頃同控訴人らの母木徳キヨに前記2記載の趣旨を依頼し、キヨ及び同控訴人らの印鑑証明、住民票の交付を求め、キヨは、控訴人青田園子、同松本信子に被控訴人の右依頼の趣旨を伝えてその承諾を受け、同年一〇月一五日頃被控訴人にキヨ及び同控訴人ら印鑑証明及び住民票を交付した。被控訴人は、同年一一月三日頃控訴人増田重治方へ行く前にキヨ方に寄り、前記証明書用紙(甲第二号証)に署名押印を求め、控訴人松本信子がキヨの指示で自己の氏名(当時木徳姓)及び控訴人木徳義男親権者木徳キヨと肩書氏名を記入し、その各名下に押印した。控訴人青田園子の氏名もその頃右証明書用紙(甲二号証)に記入され、その名下に控訴人松本信子が控訴人青田園子の印を押印した(青田園子の記名押印も同人の意思に基くもの)。その後、右甲二号証に契印が漏れていることがわかり、被控訴人は同月二三日頃控訴人青田園子、同松本信子の契印を受け、さらに同青田園子に同控訴人の戸籍抄本が必要な旨を連絡し、翌日頃同控訴人から直接速達便で同控訴人の戸籍抄本の送付を受けた。

以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は信用しない。

また右各証明書記載の事実が存在したことを認めるに足る証拠はない。

三共同相続人甲、乙らが、共同相続人丙の依頼に基いて、被相続人名義の不動産につき丙単独所有名義に相続に因る所有権移転登記をするために、民法第九〇三条第二項により相続分がない旨の事実に反する証明書を、丙に交付した場合、甲、乙らは、共同相続人として右不動産に対して有する自己の持分権を、丙に贈与したものと認めるのが相当である。

従つて、亡さくの共同相続人八名のうち被控訴人を除く七名(控訴人ら四名を含む)は、各自、共同相続人として本件土地に対して有する自己の持分権を、被控訴人に贈与したものと認めうる。

四控訴人らは、甲一、二号証による意思表示は詐欺による意思表示であると主張するが、前示認定の事実によれば、被控訴人は本件土地が亡さくの遺産であり、これを被控訴人に単独相続による所有権移転登記手続ができるよう控訴人らに告げその承諾を得て甲一、二号証の作成を受けたものであるから、これをもつて詐欺による意思表示といえないことが明らかである。控訴人らのこの点の主張は理由がない。

五よつて、控訴人らの持分権が控訴人に移転しないことを前提とする本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当で本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 入江教夫 大久保敏雄)

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