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大阪高等裁判所 昭和48年(行コ)42号 判決 1975年8月29日

大阪市東区大手前之町一番地

控訴人

東税務署長

武市正太郎

右指定代理人検事

岡準三

同訟務専門職

中川平洋

同大蔵事務官

岸田富治郎

吉田秀夫

祖家孝志

大阪市東区南本町二丁目三一番地

丸忠第二ビル内

(送達場所)大阪市東住吉区西鷹合町三の二

吉川友子方

被控訴人

大亜物産株式会社

右代表者代表取締役

吉川忠雄

右訴訟代理人弁護士

松本保三

右訴訟復代理人弁護士

辻公雄

主文

原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、 当事者の求めた裁判

一、 控訴人の申立

主文同旨の判決。

二、 被控訴人の申立

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、 当事者双方の主張および立証は次に記載するほか、いずれも原判決事実摘示のとおりである。

一  控訴人の主張は後記理由中判断と同趣旨であるから省略、乙第一六号証の一ないし三を提出。

二  被控訴人は次のとおり陳述し、右乙号証の成立を認めた。

1  訴外金龍伯は被控訴人会社代表者代表取締役金龍守こと吉川忠雄(以下訴外吉川と称す)の実弟である。

後述するように金龍伯は韓国におけるバイヤーとして会社を代表して事業を経営している。訴外豊島株式会社(以下訴外豊島と称す)は昭和四十一年九月頃、被控訴会社社長の友人を通じ韓国向輸出入取引をしたいと再三申入れて来た。

当時訴外豊島の輸出部門は東南アジア地域向の実蹟が僅少でアメリカよりの棉花の輸入をしており輸出向の知識経験はとぼしく特に韓国については全然取引の方法をしらなかつたので(原審証人浜田広一同秋田秀雄の各証言)被控訴会社としても直接右訴外豊島の申入の担当者秋田秀雄に対しその技術方法を教導することや訴外吉川の指導で韓国バイヤーである兄弟知人を通じて大変な日数と労力を費した。その当初より訴外豊島には金龍伯経営の会社(バイヤー会社以下訴外金龍伯と称す)その他を通じ取引するには訴外豊島と被控訴会社とが互に協議し且つ被控訴会社と韓国バイヤー訴外である金龍伯その他バイヤーを通じて必ず取引をすること、取引によつて生じた販売利益、必要経費をそれぞれ折半すること輸出商品の仕入資金を訴外豊島が支出支援することの契約が成立した。

本件はその取引により生じたバイヤー手数料である。

そして当時訴外金龍伯は実兄の訴外吉川を通じて韓国取引界を開拓することに非常な労力と時間をかけて今日訴外豊島が日本より独力で韓国取引するまでに成長したのである。

その間バイヤー口銭ないし手数料は金龍伯が万博開催の前後であつたのでその部下とともにしばしば在日するところであつた。金龍伯に送金すべきものは同人の委託により在日の訴外吉川がこれを金龍伯の「預金名義」にし同人の承諾の上、しばしば、金龍伯、その部下の在日出張中の経費立替にあてたことがある。何れも金龍伯が当然在日中の経費の一部と対当額に相殺してくれとの依頼があつた。

右依頼にもとずき一旦、被控訴人代表者訴外吉川が引出したものである。恣意に独断で引出したものでない。

バイヤー口銭の帰趨は事後処理である。韓国のバイヤーの手許に直接送金するか、同人の債権債務と日本で相殺するかは訴外金龍伯と被控訴会社と訴外吉川との話合い即ち「契約」にすぎない。その契約に基いて引出したのが何か恣意に利用したものとみなされるのかそれは邪推した歪曲の推定としかみられない。

2  訴外吉川に対する訴外豊島の受取手形債権に充当された三〇〇万円は「被控訴会社が韓国商社訴外正和繊維等に支払うべき口銭である」と被控訴人は主張する。

「支払うべき」というのは会計原則に基く期間計算の原則に基き主張をしているのである。会計原則としてはいわゆる発生主義によつて損益を計算すべきものである。未だ現実に支出されないものも含まれる。損金または支出として現実の支出あるまでは確定計算できない仮受金勘定として計上するときもあり、または一応債務相殺して直接現金支出しない場合もある。

だからこそ吉川の支払うべき訴外豊島の債務と相殺しても、その三〇〇万円のバイヤー口銭は韓国バイヤーの実弟に対する支払は別途なされるべきものである。

そしてその後吉川が韓国に向け出航・出張しその契約の上でバイヤーの請求は消滅している。

控訴人は訴外吉川が個人で引出して以後、被控訴会社に返済された事実はなく、また韓国バイヤーに支払われた事実もないと主張するのは法人税法の所得計算に於ては債務発生主義によつて損益計算すべき原則を無視した議論といわざるを得ない。

後述するように、控訴人は「乙第十六号証の一ないし三」を提出して金龍伯が日本に在日した日時と、預金の引出した日時との異なるところを立証して直接支払われたものでないように主張するか、バイヤーに対し債務発生すればそれでたり、直接バイヤーに在日中に口銭・手数料を渡すか、直接預金を代つて引出し他の債権と相殺するかは事後処理の問題である。何か法人の「益金」か「損金」かはその取引自体の常態から判断しなければならない。

特定の取引にもとずくものが損金か、益金かについて事後処理がなされていないから法人の益金だとの認定は、右にのべた会計原則を無視した認定の方法といわなければならない。

理由

一、原判決理由一、および二、の1記載の当事者間に争のない事実を前提として、本件控訴の対象である受取手数料二〇〇万九、九九八円(原判決五枚目に掲げる取引表の内1ないし7の各(1)欄記載の差引脱漏額の合計)について考察する。

二、本件において問題となる事実関係についての当裁判所の認定は、原判決理由二の2の(二)の冒頭より(4)まで(理由三枚目表四行目より四枚目裏七行目まで)、および、(四)の(2)の冒頭(理由五枚目裏一二行目より六枚目表五行目まで)の各記載と同一である。これからの事実関係によると、右理由(二)の(1)ないし(4)に記載の各バイヤー口銭の内三〇〇万円は訴外豊島に対する吉川忠雄(被控訴会社代表者)個人の債務の弁済に充てられ、その余は訴外金の普通預金口座に振込まれたが、同振込額の大部分にあたる二三五万円は右吉川忠雄自身が払戻手続をしたというのであつて、以上の経過および原審証人山本啓之の証言により成立を認める乙第三、四号証から考えると、果して右各バイヤー口銭名目の金員がその名目どおり必要経費として訴外金らに対し支払われたと見てよいか否かには大きな疑問があると謂うほかはない。この点について被控訴人は前掲事実欄掲記のとおり主張しているのであるが、前記のような疑問が生じた以上、いわゆる立証の必要は被控訴人に移るものと解すべきある。ところが被控訴人は第一、二審を通じ訴外金龍伯はもとより、代表者吉川忠雄本人の尋問申請さえもしていないので、本件の証拠関係のすべてを精査しても、対韓貿易においては取引の都度代理業者に対する斡旋手数料、韓国側輪入商社に対する口銭を支払うのが常態であつたこと、および、前記のごとく吉川個人の債務の弁済に充てられた金員と吉川個人が払戻手続をした金員その他によつて、訴外金龍伯もしくは、訴外正和繊維、韓国機械工具、新進商易等に対し手数料あるいは口銭の支払がなされた事実は到底これを認定するに足りないものと謂うほかはない。

なお被控訴人は税法上の発生主義の理論につき詳細な陳述をしているのであるが、本件において問題となるのは前示口銭名目の金員が被控訴人主張どおり必要経費であるのか否か、即ち訴外金龍伯あるいは前記各韓国商社と訴外豊島および被控訴人との間に手数料ないし口銭の支払の約定があつたか否か、またこれに基づいて現実の支払がなされたか否かの事実の有無であつて、このことと税法上の発生主義、現金主義の問題とは全く無関係であるから、この点については判断を要しない。

三、以上のとおり判断してみると、本件控訴の対象となつた金員についての被控訴人の本訴請求は失当であつて、これを認容した原判決は取消を免れない。よつて、民訴法三八六条、八九条、九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沢井種雄 裁判官 野田宏 裁判官 中田耕三)

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