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大阪高等裁判所 昭和48年(行ス)12号 決定 1974年12月23日

抗告人 金 慶美 ほか三名

相手方 大阪入国管理事務所主任審査官

主文

本件各抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告の趣旨および理由

別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も抗告人らの本件執行停止の申立を理由がないものと判断するが、その理由は、次に付加するほかは、原決定理由記載の判断説示と同一であるから、これを引用する。(但し同理由中「高貞有」とあるを「高有貞」に訂正する。)

抗告人らは、本件執行停止の申立の本案は、抗告人らに対する各退去強制令書の発付処分が無効だというのではなく、同令書は収容部分についても、送還部分についても、昭和四九年一二月三一日(同一家族である抗告人らのうち、妊娠中の抗告人高有貞の産後約六ケ月を経て母子の健康を阻害する虞れがなくなるとみられる日)まで執行力がないことの確認を求める訴であると主張するけれども、本来強制力を用いる執行を適法化するため発付される退去強制令書に執行力が認められないということは矛盾であり、有効に発付された令書に一定期間執行力がないということはあり得ないところであるから、令書の執行力の不存在を確認する訴といつても結局は令書発付処分自体の無効を確認する訴に帰すると解せられるところ、被告人ら主張のような事由(韓国の社会、経済状態は抗告人らを受け入れるに必ずしもふさわしくなく、抗告人高有貞は妊娠中で心身ともに不安定で、直ちに令書を執行するとすれば母体及び胎児の健康を害し、更に出産後も約六ケ月間は静養しなければ同抗告人及び新生児の健康を阻害する虞れがあり、他の抗告人はその家族で、抗告人金慶美は三才、同純美は一才の幼児である)があるからといつて、右各令書の発付処分に、これを無効とするような重大かつ明白な瑕疵があるとはいえない。また右事由が後発的に発生したからといつて本件各令書の発付処分ないし同各令書の執行力が失効したと解することもできない。

抗告人らは、退去強制令書の執行は行政庁の自由裁量に委せられていると解すべきではない、本件でも前記事由が解消されるまで、人道上、条理上、執行が猶予されなければならないとの趣旨の主張をする。そして退去強制令書に基づく執行(収容及び送還)もまた単なる事実行為ではなく、行政処分としての処分性を認めるのが相当であるから、これに何らかの瑕疵があるときは行政訴訟によりその効力を争うことができると解すべきではあるけれども、退去強制令書に基づく具体的執行を何時実施するか、何時まで猶予するかは全く行政庁の自由裁量に任せられているものと解せられるところ、本件において抗告人ら主張のような事由が解消しない間に執行をしたからといつて相手方が裁量権の範囲を超え、又はこれを濫用したと迄はいい難い。のみならず、記録によれば、抗告入高有貞は退去強制令書の発付のあつた昭和四六年六月五日自費出国、家事整理を理由とするとはいえ、仮放免許可になり、以後仮放免許可の更新が繰返され、家族であるその他の抗告人らに対しても同様仮放免許可がされ、更新が繰返されていて、事実上抗告人高有貞の健康に配慮が十分なされていることが窺知されるし、また同抗告人がたとえ収容されたとしても収容施設内においては医療設備、施策が整えられ、妊産婦の産前産後の手当、新生児の保育については法的にも実際上も配慮がなされているので、同抗告人らの健康を害する虞れがあるとは認められないので、相手方において退去強制令書に基づく執行につき裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権の濫用があるとは到底認めることはできない。

したがつて、いずれにしても、本件執行停止の申立は、行政事件訴訟法二五条三項にいう本案について理由がないとみえるときにあたるので、緊急の必要性の点につき判断するまでもなく、失当というほかはない。

よつて、原決定は相当であつて、本件抗告はいずれも理由がないからこれを却下し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 増田幸次郎 三井喜彦 福永政彦)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

被申立人が申立人金栄模に対し昭和四六年五月一三日付、同高有貞、金慶美に対し同年六月五日付、同金純美に対し昭和四七年六月一五日付でそれぞれ発付した外国人退去強制令書に基づく執行は、本案が確定するまでこれを停止する。

手続費用は相手方の負担とする。

抗告の理由

原決定は、抗告人らの本訴請求は、退去強制令書を発付したことに瑕疵が存すると主張しているのではないから単にその執行が不適当であるということに帰着し、その主張自体失当であるとして抗告人らの申立を却下した。

しかしながら、退去強制令書発付自体に瑕疵はなくても、同令書に基づく執行により令書の発付を受けた外国人の生命、身体に危険を及ぼす等の特別の事情が存する場合には、その事情が存する間は同令書に基づく執行自体が許されないと言わなければならない。

原決定のいう如く、右の場合においても、一旦退去強制令書が発付された以上同令書に基づく執行がなされてもそれは執行が「不適当であるということに帰着する」と解するならば、入国管理事務所は同令書の発付を受けた外国人に対しいかなる場合にも執行し得、その点につき執行するか否かを行政庁の裁量に委ねてしまうことになり、法的救済手段を全く否定するものとなる。

しかし、外国人といえども基本的人権は有するのであつて、右のような場合法的救済手段を全く認めないということは人道上、条理上許されないと言わなければならない。

そこで、抗告人らは、その主張の如き抗告人らの事情が存することにより、その主張の期間は退去強制令書に基づく執行力が認められないことの確認を求めて本訴を提起したものである(この点につき、訴状の表現が適切でなかつた点もあるが、原決定裁判所は誤解している)。

この場合において、令書に基づく収容措置を別個の行政処分として取消訴訟を起しうるという見解も考えられないではないが、しかし、前述の如き特別事情が存する限り、令書に基づく執行力は収容部分のみならず送還部分においても効力を有しないものと言うべく、右につき効力を有しないことの確認は当然請求しうるものと言わなければならない。

以上の次第で、原決定は不当であるからその取消を求め、同令書に基づく執行力の停止を求めるものである。

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