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大阪高等裁判所 昭和49年(う)1631号 判決 1975年9月25日

本籍

大阪府八尾市久宝寺一丁目一二七番地

住居

同市神武町一番七七号

会社役員

美濃正雄

大正一二年一二月三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和四九年八月八日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、原審弁護人丸尾芳郎から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 山内茂 出席

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年及び罰金三、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

ただし、この裁判確定の日から二年間懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人丸尾芳郎作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴趣意第一の一、事実誤認の主張について。

論旨は要するに、原判決は原判示第三事実について、昭和四五年度の犯則所得額を八、二四二万、三〇五円と認定するにあたり、同年度期首材料及び半製品の各棚卸高について、いわゆる加算的減算法により、原材料棚卸高中四四二万九〇〇円及び半製品棚卸高中二九四万七、二〇〇円をそれぞれ犯則所得の収入の部に計上して右犯則所得額を算定しているが、右各棚卸高金額は昭和四四年度末までに修正申告した結果昭和四五年度期首の各棚卸高として公表棚卸高に計上されたものにすぎず、公表に受入れて計上すること自体なんら逋脱犯の構成要件たる「詐欺その他不正行為」に該当するものではないから、右公表受入金額については被告人は犯則の故意がなく、したがつて犯則金とはならないものであり、原判決は事実を誤認しているというのである。

そこで検討するに、原審で取調べた関係各証拠によると、被告人の昭和四五年度の所得金額は一一、二三一万四、二五〇円であつたが、被告人は昭和四六年三月一三日八尾税務署長に対し、八、二四二万三〇五円を秘匿し、所得金額は二、九八九万三、九四五円である旨の所得税確定申告をなしたこと、ところがこれよりさき被告人は昭和四五年三月一四日八尾税務署長に対し、昭和四四年分の所得について、所得金額が一、五七七万五、七三五円で、これに対する所得税額が六八四万六、四〇〇円である旨の確定申告をなし、その際右所得計算の基礎となる同年度期末原材料棚卸高を九二六万四、〇六〇円、半製品、仕掛品棚卸高を八四二万九、八七一円と算定していたところ、右申告書の一件書類中に被告人の娘美濃敏子が右申告とは別に実際に即して棚卸をして作成した同年末棚卸表があやまつてはさみこまれてあり、これには材料及び消耗品の合計が一、四一六万九、〇六〇円、半製品及び半加工品の合計が一、一〇七万四、四七一円である旨及びその明細の記載がなされてあり、これを八尾税務署に発見されたところから、同税務署の指導により、原材料棚卸高四四二万九〇〇円及び半製品ないし仕掛品棚卸高二九四万七、二〇〇円については過少申告であるとして、これらを昭和四三年度分及び昭和四四年度分の二年間にわけて修正申告をすると共に、昭和四五年度分の所得計算については当然のことながら右各棚卸高を同年期首の棚卸高に加算し、同年期首原材料棚卸高を一、三六八万四、九六〇円、半製品ないし仕掛品棚卸高を一、一三七万七、〇七一円と計算し、その他の諸勘定科目毎に収支計算のうえ、前記のとおり確定申告をしたこと、ところが、実際は昭和四四年期末、したがつてまた昭和四五年度期首における原材料棚卸高は一、一三〇万四、三六〇円が真実であり、したがつて申告額一、三六八万四、九六〇円との差額二三八万六〇〇円は過大申告され、したがつてまた同額だけ所得金額を過少申告していること、同様昭和四五年期首の半製品ないし仕掛品棚卸高は一、三九六万九、〇五一円が真実であり、右申告額一、一三七万七、〇七一円との差額二五九万一、九八〇円は過少申告され、したがつてまた同額だけ所得金額を過大申告していること、ところで、右美濃敏子作成の棚卸表は原材料であるドラム一個当りの単価を実際の価格より三〇〇円多額に見積つて棚卸をしており、半製品ないし仕掛品についてもドラム一個当りの単価を右同様三〇〇円多額に見積ると共に、取引先である吉田鉄工所他五か所に対し預けてあつた合計四七八万四、七八〇円相当を記載していないものであり、右三〇〇円の過大見積ないし棚卸除外は佐藤清二工場長ないし被告人の指示にしたがつてなされたものであつて、昭和四四年度及び昭和四五年度の各所得申告に際し、被告人は右過大見積及び棚卸除外の事実を知悉していたこと、が認められる。

以上の事実関係によつてみると、被告人は昭和四五年度の所得金額が一一、二三一万四、二五〇円であるのにそのうち八、二四二万三〇五円を秘して二、九八九万三、九四五円である旨の所得税確定申告したもので、同年度における被告人の犯則所得は八、二四二万三〇五円であつたことは明らかである。所論は、原判決は前記昭和四五年度期首棚卸高へ組み入れた原材料棚卸高四四二万九〇〇円及び半製品、仕掛品棚卸高二九四万七、二〇〇円は犯意がないのにかかわらず全額犯則金額として犯則所得の収入の部に計上して犯則所得額を算定しているのは誤りであり、むしろ右各棚卸高は犯意がないのであるからその他の所得として収支計算すべきであるというのであるが、なるほど原判決の判文によると、原判決は犯則所得の認定について、本件に関してなされた税務調査の処理方法を踏襲し、いわゆる加算的減算法によつた旨説示しているので、これを記録によつてみると、原判決は昭和四五年度の損益計算にあたり、昭和四四年度分の確定申告における期末原材料棚卸高九二六万四、〇六〇円に前記四四二万九〇〇円を加算した一、三六八万四、九六〇円を公表金額とし、(半製品、仕掛品棚卸高についても同様に〓〓一、一三七万七、〇七一円を公表金額としている)、実際の過大評価額二〇四万三〇〇円(半製品、仕掛品については五五三万九、一八〇円)を犯則所得としての支出の部に計上すると共に、公表金額にそのまま加算した四四二万九〇〇円(半製品、仕掛品については二九四万七、二〇〇円)を同収入の部に計上し、実際の棚卸高一、一三〇万四、三六〇円(半製品、仕掛品については一、三九六万九、〇五一円)と認定し、結局二三八万六〇〇円を犯則所得として認容(半製品、仕掛品については二五九万一、九八〇円を犯則所得として否認)するという収支計算を行なつていることが認められるのであるが、右公表への加算額四四二万九〇〇円ないし二九四万七、二〇〇円を犯則所得の収入の部に計上したのは、加算的減算法による簿記処理上の手続にすぎずこれを収入の部に計上することなく直接に減算しその結果を収支いずれかの部に計上して処理するいわゆる直接的減算法によつても同様の結果が導き出されるところである。この点について所論は、右四四二万九〇〇円及び二九四万七、二〇〇円をそれぞれ昭和四五年度期首棚卸高の公表金額に受入れたのは、前記各修正申告をした当然の結果であり、なんら詐欺その他の不正の行為によるものではないからこれを犯則所得として論じるのは不当であるというけれども、そもそも昭和四五年度の犯則所得は昭和四五年度の期首棚卸高としてそれぞれ公表金額に入れた棚卸高を基礎として計算すべきものであり、その受入額が実際の棚卸高と異る場合にはその差額を考慮すればよいのであつて(右金額につき修正申告をしたか否かは関係はない)その差額が生じた点について逋脱の意思がないときはともかくとして、逋脱の意思がある以上、その差額は犯則所得として加除算されるべきものであるところ、前記のとおり、昭和四五年度期首原材料棚卸高を過大評価する一方半製品、仕掛品については過少評価すると共に、一部棚卸除外のあつたことを被告人は十分認識しながらあえてこれを公表棚卸高に受入れて同年度の所得計算の基礎としたものであるから、右両勘定科目につき生じた実額との差額を犯則所得としてその加除算を行うことは決して誤りではなく、したがつて、その処理方法として加算的減算法により所論の各金額を犯則所得の部に計上して処理した原判決には所論の誤りはない。もつとも原判決の直接減算法に関する説示は措辞妥当を欠くものがあるが、原判決のいう直接減算法により所得計算を行つたものではないから、たとえ原判決のこの点に関する説示が誤つているとしても、判決に明らかに影響を及ぼすものではない。

以上の次第で原判決の認定には所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意第一の二、事実誤認の主張について。

論旨は要するに、原判決は原判示第二事実につき、被告人が昭和四四年度に別所守の営む別所商店ないし八尾軽金属工業株式会社から大丸興業株式会社を経由してドラムの原材料を仕入れた分のうち、五六一万円が架空仕入れであり、また原判示第三事実につき、被告人が昭和四五年度に八尾軽金属工業株式会社から右同様仕入れた分のうち、一、一九〇万円が架空仕入れであつたものと認定しているが、右のうち昭和四四年度分については同年一月分の四四万円、同年五月分の四〇万円、同年一〇月分の五〇万円及び四〇万円、同年一一月分の一〇〇万円、同年一二月分の四〇万円、合計三一四万円、及び昭和四五年度分については同年二月分の四〇万円、同年一〇月分の六一万円、同年一一月分の六一万円、合計一六二万円はいずれも被告人が実際に仕入れたもので架空仕入れではなく、原判決は事実を誤認している、というのである。

しかしながら、原審で取調べた関係各証拠によると、被告人は昭和四四年度中に別所守経営の別所商店及び八尾軽金属工業株式会社から合計六、八九四万四、五〇〇円相当の原材料(ドラム)を仕入れたが、そのうち別所商店から大丸興業株式会社を通じて仕入れた分のうち合計五六一万円相当分が架空仕入れであり、また昭和四五年度中に八尾軽金属工業株式会社から合計六、〇一四万七、六〇〇円相当の右同原材料を仕入れたが、そのうち大丸興業株式会社を経由して仕入れた分のうち一、一九〇万円相当分が架空仕入れであり、したがつて所論の各仕入れが架空のものであつたことを十分認めることができる。

すなわち、右各証拠によると、被告人は美濃製作所という商号で紡績用ドラムの製造販売業を営んでいたが、右ドラムの成型前の原材料ドラムを昭和四一年から昭和四四年九月二二日までは別所守経営の別所商店から、その後は同人が代表取締役として経営している八尾経金属工業株式会社から継続して仕入れていたのであるが、別所守との取引を開始して間もないころ、被告人は所得税を逋脱するため、別所守に対し、同人から仕入れる原材料ドラム一個につき実際の仕入価額より三〇〇円多額のいわゆる水増し請求するよう依頼し、以後その趣旨に従つて同人から水増し請求を受けてその代金を支払い、後日一括して水増し価額相当分の払い戻しを受けてきたが、その後さらに大丸興業株式会社を経由して仕入をするようになつて二、三か月後の昭和四二年五、六月ころからは別所守に依頼して毎月右原材料ドラム一、〇〇〇個の割合で架空の代金請求を受けてこれを支払い、さらに八尾軽金属工業株式会社が設立されこれと取引を開始した昭和四四年九月からは同様毎月二、〇〇〇個の割合で架空の代金請求を受けて、これを支払い、それぞれ後日一括して支払代金の払戻しを受けてきたこと、かようにして、昭和四四年度分については別所守ないし八尾軽金属工業株式会社からの原材料ドラム仕入額合計六、八九四万四、五〇〇円中、同年一月二四日をはじめとして同年一二月二三日まで一八回にわたり、合計五六一万円の架空仕入をなし、昭和四五年度分については八尾軽金属工業株式会社からの仕入高六、〇一四万七、六〇〇円中一、一九〇万円の架空仕入をしたこと、が認められる。もつとも、原審証人別所守は被告人の依頼を受けて架空売上をしたのは原材料ドラム中、M3及びM11と表示されてあるものでしかも一、〇〇〇個単位のものであり、その他の売上はすべて実際に売却したものであり、右の基準にあてはまらない分すなわち同証人の作成した架空売上明細表(記録二、二九一丁以下)のうち昭和四四年一月二四日のM11A、六〇〇個、同月二五日のM11A、四〇〇個、同年五月三〇日のM3、一、二〇〇個のうちの一、〇〇〇個、同年一〇月七日のM16、一、〇〇〇個、同月二七日のM3、一、五〇〇個のうち一、〇〇〇個同年一一月一八日のM11A、五二〇個同月一九日のM11A、七五〇個、同月二〇日のM11A、七三〇個、同年一二月一一日のM3、五〇〇個、同月一五日のM3、五〇〇個、昭和四五年二月二三日のM3、二、〇五〇個のうち一、〇〇〇個、同年一〇月一九日のM15、一、〇〇〇個とある分はいずれも実際に売却したものであつて架空取引ではないとして、所論にそう供述をしている部分が、同人は結局M3、M11以外にもM15、M16について架空売上をした分もあり、その個数も必ずしも一回に一、〇〇〇個とはかぎらず二回にわけて合計して一、〇〇〇個として架空売上をしたものもある旨供述するに至つており、右供述を通じてみると右に架空取引ではないとした供述部分は直ちに信用し難いところである。のみならず、同人が作成した右の架空売上明細表は、押収にかかる決算関係書類一綴(当庁昭和五〇年押第一五号の1)及び架空取引資料一綴(同号の2)の記載内容に符合しており、右決算関係書類は別所守が税務調査に関係なく事業の決算資料として作成して監査役に手交していたものであり、右架空取引資料は同人が被告人に対する原材料ドラムの架空売上による架空売上代金を被告人に返却する際に作成して添付した書面等であつて、いずれも十分信用することができ、したがつてこれらに符合する右架空売上明細表も十分信用できるところである。

そうすると、被告人が別所守経営の別所商店ないし八尾軽金属工業株式会社から大丸興業株式会社を通じて原材料ドラムを仕入れたもののうち、昭和四四年度においては五六一万円、昭和四五年度においては一、一九〇万円が架空仕入であつたものとして右各該当年度の被告人の所得計算をした原判決には所論の各事実誤認はない。論旨は理由がない。

控訴趣意第一の三、事実誤認の主張について。

論旨は要するに、被告人は、昭和四三年度に五〇〇万円位、昭和四四年度に一、七〇〇万円位、昭和四五年度に二、五〇〇万円位の金員を取引先の担当者に技術指導、特別の便宜供与等に対する指導料、リベート、交際費等として支出しており、これらの金員は会計帳簿に記載していないが、経費として認定されるべきものであるのにもかかわらず、これらをいずれも所得として認定した原判決は事実を誤認している、というのである。

しかしながら、なるほど被告人は原審公判延において、昭和四三年から昭和四五年にかけて時価一五〇万円ないし二三〇万円の絵画六点(合計一、一六五万円)を購入し、取引先の担当者一四名に対し右絵画及び現金を一人当り二〇万円ないし九三〇万円、これを年別にみると昭和四三年度は現金五〇〇万円及び絵画一点(一八〇万円相当)、昭和四四年度は現金一、七〇〇万円及び絵画三点(合計四四〇万円相当)、昭和四五年度は現金二、五二〇万円及び絵画二点(四四五万円相当)となる旨所論にそう供述をしているのであるが、他方被告人は右金品贈与の具体的事情につき質問を受けながら取引上支障をきたすからとの理由で右金品贈与の相手等具体的状況を遂に明らかにせず、他方原審で取調べた関係取引先の担当者のほとんどは被告人からは中元と歳暮に一、〇〇〇円ないし二、〇〇〇円位の物品の贈与を受けたほかは時たま寿司屋で寿司の接待を受ける程度であり、中にはクラブ等に多数回招待された者もあるが、現金を貰つた事実はいずれも否定しており、また原審で取調べた各関係証拠によると、被告人の事業には競業者はほとんど無く、独占事業であるといつても過言ではないことが認められ、したがつて被告人のいうように多額の現金、絵画を取引先に贈る必要性も比較的すくないものと考えられるのであつて、結局被告人の右供述を措信することはできない。なるほど、昭和四四年度、昭和四五年度において、かなりの多額の現金が事業主への貸勘定として使途不明のまま処理されていることは所論のとおりであり、その中には経費として認定されるべきものが皆無であるとは断定できないとしても、その支出の具体的状況が明らかでない以上、これを経費として認定することはできない。

したがつて所論の各金員を経費とは認定しないで各年度の所得額を認定した原判決には所論の事実誤認はない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二、量刑不当の主張について。

論旨は原判決の量刑不当を主張するのであるが、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、本件は紡績用ドラム製造業を営む被告人が、架空仕入及び棚卸の過大評価等の不正手段を構じて昭和四三年度分から三年間にわたり虚偽の所得申告をし、合計一六、五六一万円余の所得税を免れた事犯であつて、計画的犯行で、ほ脱額も多額にのぼつていることからみると犯情は悪質であるといわなければならず、原判決当時を基準とするかぎり、原判決の刑もやむを得ないものといわなければならない。しかしながら、被告人は本件について課せられた重加算税五、一〇〇万円余の支払をいまだ全くしていないとはいえ、原判決当時ほ脱額のうち四、八九〇万円を納入し、当審に至つてさらに二、三〇〇万円を納入し、残額についても多数の約束手形を差入れて順次納入する態勢を整えており、悔悟の情が顕著であること等の事情によつてみると、現段階では、原判決の執行猶予付懲役刑はともかくとして、罰金刑はやや重すぎるものと認められ、論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書にしたがつてさらに自判することとし、原判決の認定した事実にその挙示の各法案を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 小河厳 裁判官 清田賢)

控訴趣意書

被告人 美濃正雄

右の者に対する所得税法違反被告事件の控訴趣旨は次のとおりである。

弁護人 丸尾芳郎

大阪高等裁判所

第四刑事部 御中

第一点 原判決は明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。

一 本件犯則所得の計算について

1 原審において弁護人は「昭和四五年度期首原材料棚卸高犯則額金四、四二〇、九〇〇円期首半製品棚卸高犯則額二、九四七、〇〇〇円を収入の部に計上したのは誤りである」との主張に対し、原審判決では「本来脱税犯は過少申告をして納期を徒過したときに成立し、その後の修正申告等は犯則の成否ないしはほ脱所得額等に何らの影響を及ぼすものではない」と判示しながら「唯ある年度(仮にこれを第二期と称する)中に、前年度(仮にこれを第一期と称する)分について第一期の期末棚卸高に関連のある修正申告がなされ公表に同金額が計上された場合、修正申告の有無はほ脱所得額の計算に差異を生じさせるものであることは自明のことである」とし、計算の方法として「直接減算法と加算的減算法とがあり、本件は後者の加算的減算法によつたものであり、その結果公表へ受け入れ済等の理由により過大認容となる金額を「収入の部」において益金として否認したものであり、本件以外の他の犯則事件もすべて後者の方法によつて処理されており、本件にのみ特別の計算方法によつたものでないことも明らかである。従つて後者の方法によつても第二期において係争犯則金全額が犯則計算上実質的に減算項目として考慮され、これを減算したうえ判示犯則額が計上されたというべきであるから、この点に関し更に控除すべき余地は存しないことになる」と判示している。

然しながら原判決は原審弁護人より本件計算方法についての幾多の矛盾点を列挙しているにかゝわらず、それらに対する解明は全くなされないまゝ「弁護人のこの点に関する主張は独自の見解に立つものであつてもとより採用すべきものでない」との旨弁護人の主張を一蹴している。

右のとおり、原審判示によれば他の犯則事件もすべて本件のとおり処理されており、本件処理はその意味においても正しいものである旨宣言しているが当弁護人としては特に従来の国税査察の本件計算の処理そのものが間違いである旨を訴えんとしている次第である。以下原判決の誤りを指摘する。

2 先づ第一に原判決は直接減算法と加算的減算法の解決を誤つている。

右計算方法の差異は、前者は同一科目で加算減等がある場合相殺してその差額を計上する場合であり、後者はその差額を計上せず、加算減等を両立計上する場合であるから、その結果において差異を生ずる筈がない。

然るに原判決によれば直接減算法による場合と、加算的減算とではその結論を異にしており、この点において既に誤りを犯している。

右状況を設例により損益計算書に表現すれば次のとおりとなる。(設例の場合単純な数額を用い「当期増減金額」を「計数」「犯則所得金額」を「犯数」と略称する。)

直接減算法(設例A)

<省略>

加算的減算法(設例B)

<省略>

( )内は修正申告金額

となるので、これを直接減算法として同一科目で加算減算を相殺すれば

(設例C)

<省略>

となり、その結果を(設例A)と異にしている。

即ち、原判決は直接減算法と加算的減算法との解釈を誤つていることとなる。

そこで原判決が判示する加算的減算法の理論を貫けば次のとおり矛盾に到達する。

即ち第一期分として一〇の修正申告をして同額当期の期首公表に受入れたが査察調査の結果簿外棚卸額として増益とされる金額は五であつた場合(即ち修正申告する場合誤つて一〇と申告した場合)

判示によれば「第一期末の簿外棚卸高の否認額を全額第二期の期首簿外棚卸高をして認容しその結果公表へ受け入れ済等の理由により過大認容となる金額を収入の部において益金として否認する」とあるので右の例を損益計算書に表示すれば、

(設例D)

<省略>

( )内は修正申告の場合

となる。

然しながら、これは証人田中精之の証言(求釈明回答を含む)に反することになる。即ち同人の証言によると、

(設例E)

<省略>

となつているからである。

然して右田中証言の方法(国税局の調査方法)によれば第二期において何らの違反もないのに計算上犯則金額五として(10-5)計上されることになるが、これは誠に不可解なことと云わねばならない。

然らば何故にこのような現象が生ずるのであろうか。

次にこれを根本的に解明したいと思う。

3 先づ第一に素朴な考え方として、修正申告した場合と修正申告をしないでそのまゝ査察調査により犯則を発見された場合を比較して見よう。

修正申告しなかつた場合(設例F)

<省略>

(当期に別途除外額)

修正申告した場合(設例G)

<省略>

となり修正申告をすれば、それをしなかつた場合に比較して犯則金額が第二期において増加することになる。これも全く不可解なことであり、これでは査察着手以前に修正申告をしたものが馬鹿をみることになる。

何故このような馬鹿げたことがこれまでに看過されてきていたのであろうか。

それは、犯則者が実際に査察調査の結果により納税する場合、前例の如く計数、即ち当期増減額(税金の対象となる金額)においても増額している訳であるが、右増額金額については既に修正申告の際納税ずみとの理由で差引かれるので実際上は何らの支障も生じないが、犯則金額は数額上差引くべきものがないので、そのまゝとなり犯則事実として公訴事実に計上されていることに気付かないためである。(右の場合における実額についての相違は原審における弁護人の弁論要旨添付別紙Ⅳを参照され度い。)

4 元来期末棚卸額は即、翌期の期首棚卸額であるから、査察調査において簿外期末棚卸額が確認された以上、同額が翌期の期首に計上されるのは事の性質上当然であつて、特に査察側においてこれを翌期の期首に容認するとかしないとかの問題ではない。

又、第一期分として簿外期末棚卸額を修正申告して公表した以上これを翌期の期首公表金額として計上されるのも又事柄の性質上当然の事であろう。

然らば何故査察の調理としては右翌期(第二期)の受入分を過大認容(田中証人の説明書)となるのか(この点原判決では第二期への公表受入分は別に過大であるとの評価に基づかずこれがある以上第二期における期首棚卸高を過大認容と見ている如くである。)

何れにしても第二期の期首受入れにより同額減算されているのに、更に同額を期首金額に計上すると二重に減算されたことになり、それが過大であるとの考え方に基いているように思われる。

然し前述した如く、公表の第二期期首受入れも、第二期における期首棚卸額の計上も何れも事柄の性質上当然の事で全く人為的に計上したものでないから二重となるのは元来当然の事である。

このように二重となるのは第一期分として所轄税務署に修正申告して公表した際、その数額についてはその際に納税したことでもあり同所轄署はその数額を確認計上している筈である。然るに査察調査において、右数額を犯則として捉える必要上、当期増減額としてもその数額を確認して計上するため、右所轄税務署で確認した数額とが二重となるからである。

但しこれは、右当期増減額(計数)において二重となるのみであつて、犯則金額(刑事罰の対象として)としては所轄税務署で認識していないから、これは二重とならない筈である。ここに本件の問題点が存在する。

従つて右の如く第二期の期首において二重となる現実をそのまゝとして、特別の調理もせず計算をすれば右重復して減算されたと見られる金額相当分は査察完了した際総額において減少するから、それに相当する税額を納税すれば足り前記3で述べたような既に修正申告の際、納税した金額を殊更に差引く必要もなくなる筈である。

5 然るに何が故に査察調査においては本件の如き(設例B)調理となるのであろうか。

更にこの調理を貫けば田中証言(求釈明回答を含む)にもある如く、

(設例H)

<省略>

(設例I)

<省略>

となり、又本件昭和四九年度の修正損害計算書によれば、

(設例J) 支出

<省略>

となる。

(註) 本例には昭和四三年度期末及び昭和四四年度の期首金額が影響しているが本表に加えると複雑になるので省略した。

又、これは査察官作成にかゝる修正損益計算書添付の調査所得説明書(九一頁・九四頁)に「公表期首棚卸額の否認額である。」となつているとおり第二期における公表受入額をその対等額において否認したものと考えるのが最も自然であり、此の点原判決に判示する如く「第一期末の簿外棚卸高の否認額を全部第二期の期首簿外棚卸高として認容しその結果公表へ受入れ済等の理由により過大認容となる金額を『収入の部』において益金として否認する」ものではないと思料される。

ところで、右の如き調理方法は次の理由によるものと考えられる。

即ち、査察調査としては、国税犯則法に基き刑罰の対象となるべく犯則所得を解明するのが第一義的の目的であるから、その犯則所得は修正申告が既になされていることには関係なく、過少申告をして納期を徒過したときを基準として調査を開始することになる。然らば前記4で述べた如く既往の所轄署への修正申告など考慮することなく、一応査察独自の調査と云うことになろう。(修正申告分は後で納税の際考慮すればよい)そうだとすれば、第一期の期末に簿外棚卸高(当期増減高)をその際初めて確認し、それは当然のこととして内犯則金、全額となる。第一期末においての公表金額も右の如く納期を徒過した時を基準にするから当然その後になされた修正申告金額高を考慮に入れてないことになる。

そうすると翌期の(第二期)期首公表に前期修正申告高が受入られていることは過大な減算と考えざるを得ない。そこでこれを否認すると云う順序になるであろう。

6 ところで茲で最も注意を要することは、当期増減金額(計数)として税務上の対象となる金額は犯意の対象となる金額は犯意の如何にかゝわりなく計算上の金額である。

然るに刑罰の対象となる犯則的所得金額は「不正の行為」によることを構成要件としている。

その事を根底において本件を見れば、成る程第二期における期首公表の受入額は過大な減算であるが、その原因は前期修正申告に基き自動的、物理的、会計継続の原則に基き翌期に受入れられたものであつて何ら不正の行為によるものではなく、又過大な減算となつているが、即ち当期増減額(計数)は減算しているが、犯則金額は何ら減算していない。

従つて此の過大な減算分を否認するに当つては右計数(公表受入金額)に対応して計数のみにつき収入の部に益金として計上すればよく内犯則金まで益金として計上することは出来ないこととなるであろう。

これを損益計算書として表示すると、

(設例K)

<省略>

これですべて矛盾はなく対等となる訳である。

計数のみ計上して犯数を計上しないのは一見奇異にみえるかも知れないが、此のような例は査察官作成の前記修正損益計算書に処々散見されるところであり、本件は計算上の否認額で犯意をともなわないものであるから所謂「その他所得」として取扱つて然るべきものと思料される。

公表金額と計数とを対等額において否認するのは同一科目でない異質のものを否認するかの如く疑問があるかも知れないが、その心配はない。

即ちこの査察官作成の修正損益計算書によれば差引修正金額とは公表金額と当期増減金額との加減によるものであつて内犯則金額をその計算に入れない。内犯則金額こそ、その意味では異質なもとである。

右の如き(設例K)考えに立つと、

<1> 前記3で述べた修正申告の有無による計算方法において査察調査の考え方を勘案して而も犯則所得の矛盾もなくなる即ち、

修正申告のあつた場合(設例L)

<省略>

となり、

修正申告のなかつた場合

<省略>

となり全く両者同一となる。

このことは何ら不思議でもなく、査察調査においては前記の如く修正申告の事実を考慮しないで処理する結果、修正申告のなかつた場合と同じ結果となるのは蓋し当然だからである。

<2> 又設例EHIにおいては、第二期に何らの犯則を犯してないに拘らず、設例Eにおいて犯則五設例Hにおいて同様犯則九設例Iに至つては第一期、第二期を通じ全く犯則がないに拘らず、第二期において犯則一〇が生じたこととなつた(計数はその合計の計算において公表金額この場合受入れ金額と前記六の趣旨のとおり相殺されるが犯則金額はそのまま残ることとなる。)が、前記の考え方に立つと、

設例Eにつき

<省略>

設例Hにつき

<省略>

設例Iにつき

<省略>

となり何ら矛盾がなくなるのみか、前項と同様第二期の過大受入れ額を否認することにより、査察の調査として納期を徒過した時点を基準として修正申告の事実を考慮しないで処理したことにつき理路整然とした調理が出来たことになる訳である。

以上に述べた如くであるから、本件において「昭和四五年度期首原材料高、及び期首半製品棚卸高に当期増減金額として夫々金四、四二〇、九〇〇円及び金二、九四七、〇〇〇円を計上することは正しいが、犯則金額として同金額を計上したのは誤りであることは明瞭であるから原判決はこの点において破棄を免れない。

二 大丸興業経由架空取引分について

(一)(1) 昭和四四年度において金五、六一〇、〇〇〇円と計上されているがその内実取引は一月分四四万円、五月分四〇万円、一〇月五〇万円、一〇月四〇万円、一一月分一〇〇万円、一二月分四〇万円計三一四万円である。

(2) 昭和四五年度においては金一一、九〇〇、〇〇〇円と計上されているが、その内実取引は二月分四〇万円、一〇月分六一万円、一一月分六一万円計一六二万円である。

(3) 従つて昭和四四年度における原材料架空仕入高金六八、九四四、五〇〇円より右実取引金額三、一四〇、〇〇〇円を差引いた金六五、八〇四、五〇〇円が実際の架空仕入高である。

又昭和四五年度における原材料架空仕入高金六〇、一四七、六〇〇円より右実取引金額一、六二〇、〇〇〇円を差引いた金五八、五二七、六〇〇円が実際の架空仕入高である。

(二) 当初検察官は査察官の別所守に対する調査により頭書大丸興業経由架空取引分(以下本件架空取引という)として確定した数を計上している。これは昭和四六、大阪地検領七四〇号符二四五号のメモに基づいている。然しこのメモは証人別所守が「別件西田鉄工所が査察で調査に入られたため、同鉄工所とは架空売上げがあつたので別所分のも調査の手が延びることをおそれ右架空売上に見合う架空仕入先の名を伏せるため、それらの資料を捨ててしまい、その後別所分の決算関係を整理する必要上右根拠資料のないまゝ一応の目安としてこれを作製したものであるから正確でない」と言う右メモによれば本件架空取引は毎月あつた如くなつているがこれは同証言にもある如く「分り易すく一律に九〇万円としたもので、且つ多い目にしておけば、その分だけ裏金として使えると思つて作つたものであるから、これにより必ず毎月架空があつたとは言えない」とある。右メモによれば毎月九〇万円とあるが査察調査の結果では一〇〇万円もあれば九二万円もあり金額においても正確ではない。これは一応の目安だとの証左と言えよう。

又水増分等については被告人より予め指示されていたので毎月機械的に処理したが、本件架空分については被告人よりその都度指示があつたものであり毎月機械的に処理したものでないから必ず毎月架空があつたとは言えない。従つて右架空分の返金も右水増分等の如く毎月定つて返金すべき金額でもないのでその計算は右水増分とは別にしていた次第である。

この事は昭和四六年領七四五〇号符第二五四号押証第一号架空取引資料綴、並びに証人別所守(第六回公判)における証言「三〇〇円の水増分はこのメモに出ているが大丸興業経由の分は含まれていない」によつても判る。

だから真相は必ずしも毎月架空取引があつたとは言えないのでその旨査察調査の際申出たが、査察官は前記メモを盲信しているためこれを聞き入れず適宜これに目合いそうな数字を拾い出して同証人に押しつけたものと思われる。同証人としては全く架空取引がない場合なら毅然としてその旨も主張したであろうがその大部分は架空取引があつたのでその一部を否認することにより取調べが長びき場合によつては逮捕されることをおそれて調査官に迎合したものと思われる。

此の間の事情につき、別所証人は第七回公判において「田中大蔵事務官より調べられた際「そんなことを云つてたらいつまでも帰さんぞ」とか「ここに泊まつてもいいんだぞ」とか「机をどんと叩いて、乗り出して顔をねきにもつてくる」等証言している処よりも明らかであろう。又検察官の取調べに際しても「違う」旨主張したが聞き入れてもらえず田中大蔵事務官より右の如く脅迫的言辞を云われたことについても「云つたところで受けつけてくれないし、今まで何度もやられましたのでどうでもえゝわという気持になつてしまつた」旨証言している。(第七回公判)

一方被告人は査察官に対し、昭和四六年六月三〇日の質問てん末書問四の答えの最後で「しかし別所商店八尾軽金属工業(株)の架空仕入の内には若干実際の取引もあつたかもわかりません」と供述していたがその別所が査察官に調べられた後別所の供述に基づき本件架空仕入を認めるに至つたものであることが窺われる。

然るに本件公訴提起後、別所は前記の如き経緯で不確実な架空取引を全面的に認めたことにつき艮心的に許せないものが出て来たので、それで被告人や弁護人に訴えるに至り同人の証人喚問となつた次第である。

別所証人も大半は架空売上をしていたが毎月ではないことは確実であるがどの分が実取引であるかについては確たる資料もないことであり、絶対間違いないものとの指適は出来ないので、記憶に残つている品名と数量とにより証言している如く思われる。

証言によるとM一五、一六について弁護人の尋問には実取引と答え、検察官の問に対しこれと反対のことを答えている。然しこの時は同人の心の動揺がある時で(検察官の尋問中弁護人が「イエス」か「ノウ」かを答えたらよろしいと助言したところ同証人は冷静さを失つていたため「イエス」と答え法廷内が一時に洪笑が起つた点よりも窺える。)後刻検察官より「先程私が聞いたのと今言われたのと又変りましたね」と問に対し、「いや返事の仕方がややこしんで・・・」と答えている。

又二口で一、〇〇〇個になつたのは個人時代にあつたが本件については実取引であると思うと言い乍ら、裁判官の問に対し「かなり古いことではつきりとは言えない」旨証言している。

前述した如く証人としても確たる資料のなく記憶に止ることであるので「はつきりしているか」と問われれば「はつきりはしない」と答えざるを得ない節もあると思われる。

以上綜合すると弁護人の主張の内四四年一月分については疑問は残るがその他については高い蓋然性をもつて実取引と言わざるを得ず、反面この点についての検察官側の立証についても確たる資料はなく疑わしいことになるので「疑わしきは被告人の利益に」との原則に立たざるを得ないものではないかと思料される次第です。

三 簿外経費について

(一) これは昭和四三年 五〇〇万円位

昭和四四年 一、七〇〇万円位

昭和四五年 二、五〇〇万円位

でその内訳については貴庁あて昭和四八年三月一九日付に上申したとおりであります。

(二) これらは昭和四八年二月 日の上申書及び被告人の陳述にありますとおり被告人の企業が発展して今日に至つたのは取引先の技術者による技術指導、資材課の人達の特段の便宜供与、例えば取引先では使用変更のため使用出来なくなつた製品を特に被告人方にスクラツプとして払下げてくれたこと。これは他の業者であれば廃品となるが、被告人会社ではこれに手を加えることにより新品同様と再製し得ることをその取引先の資材課の人達が知つておりその上で払下げてくれると言える便宜、これらに報いるため又独占事業でもないのでこれらのつながりに対し他の同業者を排除して経済的に得意先を獲得していくため多大の指導料、リベート、交際費等を必要としました。

(三) これら技術的指導や資材課よりの便宜供与も他の業者に秘匿する必要もあり公然と受けるわけでもないので、一層費用も重むわけであり、又右の如き同業者を排除の継続的に得意先を獲得する目的達成のためその取引先の担当者のみならず上層部に対しても亦多大の費用を払う結果となつた次第であります。

(四) 然るに右の様な事情であり、これらの諸費用の支払につき取引先の支払先の個人の名を明らかにすることは被告人の企業を継続して行く上には不可能なことである。

この事は既に提出した昭和四七年七月二四日付納税通信にも「リベートに泣く中小法人」と題する記事より右事情が窺えると存じます。

(五) これらの資金は主として証人別所守も証言しているように水増し仕入、架空仕入等によつて得た裏金により支出していたものであります。

(六) ところで被告人本人尋問の際、被告人より詳細に陳述している如く昭和四四年度において被告人の事業主貸勘定が三六、七二五、三八一円となつている。その内三四、二五三、五七四円はP/Lとの不突合額として計上されている。(検察庁書証請求番号三三番記録二四号三木政規外一名作成の調書四八二)元来P/LとB/Lとは一致すべきものであるが査察事件の如く必ずしもすべての資料を取得し得ない場合かかる不突合は当然あるべきことではあるが、かゝる多額の不突合の生じることは調査に大きな欠陥があることを示している。即ち三四、二五三、五七四円の使途が充分に解明されてないと言うことであり、これを徒らに事業主貸勘定に押しつけていると言うことである。

なる程使途不明金の少額である場合これを事業主貸勘定に計上することは止むを得ない場合もあろうが、かゝる多額の金額を事業貸勘定として、事業主である被告人が納得し得えるであろうか。(それ以外の家計費等の数額は納得出来る)即ち此の内に少くとも前記主張の昭和四四年度の簿外経費としての一、七〇〇万円が含まれていると言わざるを得ない。

又昭和四五年度においてはF/Lとの不突合額四七、一八八、一一九円の多額に上つて居り(同調査書四八四頁)前記同様被告人主張の昭和四五年度の簿外経費として二、五〇〇万円が含まれていることの証左と言えよう。

ところで昭和四三年度においては(同調査書四九六頁)P Lとの不突合が九、〇八六、〇九六円と貸方にあつて前記昭和四四年同四五年とは全く逆の数字が計上されている。

然し、これは簿外現金出入としての昭和四三年末、残高△九、〇八六、〇九六円とし(同調査書三六一頁)これを事業主借勘定としている。

然るに右出入帳の明細は同調査三七〇頁以下に記載されているが同調査書によると同年一一月二日、一三、九一二、〇二二円を角丸証券に支払つたことになるが、此の資金は被告人は第一勧業銀行心斎橋支店より別名簿外預金より金五〇〇万円を引出し(昭和四八年七月一〇日付同銀行の証明書参照)

その頃大和銀行阿倍野支店より二〇〇万円、三和銀行阿倍野支店より二〇〇万円各引出し(その頃同銀行にて右金額の出金はあるが店頭にて一元(得意先でなし)として取引しているため証明がとれなかつた。)その他手持の金四九〇万円位を加え右一三、九一二、〇二二円の支払の充当したものである。その頃被告人は常時一〇〇万円位の裏金を所持していたので右資金に一〇〇万円を加えた金額は一応借方に計上すべきである。すると期末差引は一四、九一二、〇二二円より前記九、〇八六、〇九六円を差引いた差額五、八二五、九二六円となり、借方となるから前記昭和四四年同四五年同様事業主貸勘定となりP/Lとの不突合額として被告人主張の昭和四三年金五〇〇万円の簿外経費の主張と符合することになる。

これを要するに前述の如き多額の不突合金額が生じたことは被告主張のとおり簿外経費が存在していたとの証左に外ならないと確信する次第であります。

第二点 原審の量刑は過重であつて不当である。

1 大丸興業経由架空取引分について

証人別所守の証言は原判決の判示にもあるとおり動揺して首尾一貫せぬところがあり、どこまでが実取引であるかとの判定が困難である為この点についての主張の御採用は出来ないとしても、右別所証人は検察官調べに対しても一応は「違う」旨主張しており原審裁判官の最後の質問は「あなたの思惑よりは若干どこか多いんじやないかと言うことですか」に対し「はい、それで心に残るわけなんです違う点もあるんじやないかと思います」とある如く、明確な証明は出来ないとしても実取引は相当分はあるものと思料されます。此の点情状にも御勘案願い度い。

2 いわゆる簿外経費について

当主張についても被告人にすればこれら金員は指導料リベート等として得意先に渡つていることは、絶体間違いないものと確信しているけれど、これら指導料リベートの贈与先はいわば、やみ贈与であり相手方の立場上個人名を明らかにすることが出来ないため、御採用が困難であるとしても、少くともP/LとB/Sとの不突合がかくも多額に存在することは厳然たる事実であり、昭和四四年度において三四、二五三、五七四円、昭和四五年度において四七、一八八、一一九円となりこれを事業主が全く個人的に消費することはあり得ないことである。これらの点も情状として御勘案願い度い。

3 納税情状

被告人会社は資金難のためほ脱所得税も分割納税しているが、原審より更に金二千万円余を納税している。

4 被告人はさして学歴もなく一せん盤工として働いている内昭和二六年独立し、その後粉骨砕身営々として働き、今日に至つたものであります。

被告人は今回の事件につきましては深く反省している処でありますが、国税の調査が終りほ脱所得額を認定されましたがどうしてそれに見合う資金的余裕がないので、納税も分轄にして頂いている次第ですが資金的不足の分について、何とか裁判所において御認め戴き度いと念願し、かく控訴して居る処でありますが、前記のとおり被告側の立証が不充分の点があるといたしますれば何卒これらの点を御情状として御考慮頂き度く、現今の不況にあふられ被告人会社においても営業成績は極めて不艮で本年度は赤字決算必至であります。

これらの事情を御汲みとり下さつて特に罰金刑につき御減刑戴き度く御願いする次第であります。

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