大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和49年(う)757号 判決 1974年9月27日

被告人 筧保

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人土井義明作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は原判決の事実誤認ないし法令の解釈適用の誤りを主張し、原判決は本件を常習賭博と認定しているが、常習性を認めたのは誤りであるというのである。

よつて本件記録及び原審において取り調べた証拠を精査して検討するに、刑法一八六条一項の常習賭博は「常習トシテ博戯又ハ賭事」をなすことによつて成立するものであるが、「常習トシテ」とは賭博が常習癖に出ること、すなわち行為主体が常習者であることを意味し、習癖の発現とみられる限りはただ一回の賭博行為でも本罪を構成するけれども、習癖の発現とみなされない単なる賭博行為が数回行われたというだけでは本罪にあたらない。そして常習性の存否は、賭博罪の前科の有無、賭博の性質、方法、期間、度数、賭金額などの諸事情を総合して判断されなければならない。

これを本件についてみると、原判決挙示の関係証拠によると、本件において被告人は原判示日時場所で、さい本引賭博をしたが、もつぱら張客として、所持金一万円で約一時間半の間に二、〇〇〇円くらいづつ一二回ないし一三回張つて、結局七〇〇円ほど勝つたものであること、従前の賭博行為としては、若い頃明石競輪に行つたことがあり、本引賭博は二〇歳くらいのころ(約二〇年前)本籍地の西岡の林の中で部落の者が賭博しているのを見て覚え自らも賭博に加つたことがあること、しかし、昭和三九年に明石市役所の職員となつてからは賭博をして捕まれば首になるおそれがあるので自覚してめつたに賭博をしなかつたが、昭和四八年二月初めころ(本件の二ヶ月以前)に住居の近くのキヤンデー屋の裏座敷で本引賭博が行われたとき加つたことがあることが認められ、右事実によると被告人は従前賭博と無関係ではなかつたが、最近一〇年間においては本件以外に約二ヶ月前の右賭博行為だけであり、しかも被告人はこれまで賭博の前科のないのはもちろん、賭博の取調べを受けた経歴も認められないのであつて、本件のさい本引賭博が一回や二回見て覚えられるものではなく、玄人のバクチとして行われるものであることは関係証拠からこれを認めうるところであり、昭和三九年よりも以前には被告人も時に右さい本引賭博をしていたものと推認するに難くないけれども、今までに全く賭博の前科、前歴のない被告人が、二ヶ月前に賭博をしたことがあるからといつて、前認定にかかる程度の本件賭博をもつて、習癖の発現としてなされたものであると認めるには、ちゆうちよせざるを得ない。したがつて本件被告人の賭博行為をもつて常習賭博と認定した原判決は事実を誤認したもので、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四八年四月七日午後一〇時ころから午後一一時三〇分ころまでの間、明石市田町一丁目九番七号伊藤渉方において、胴師になつた吉田高良を相手に、他数名とともに張客となり、胴師が振つて壺(茶わん)で伏せたさいころの目の数を張客が想定しその想定の当り外れに互に金銭を賭けるいわゆるさい本引賭博に、金銭を賭けて賭博をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法一八五条本文、罰金等臨時措置法三条一項、二条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

よつて主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例