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大阪高等裁判所 昭和49年(う)78号 判決 1974年11月20日

本籍

奈良市四大寺町一六二三番地

住居

右同

会社役員

田出十一郎

明治三八年八月二三日生

本店

奈良市南京稜町二四九番地の三

ワコー工業株式会社

右代表者代表取締役

田出十一郎

右田出に対する所得税法違反、法人税法違反、ワコー工業に対する法人税法違反被告事件について、昭和四八年一〇月二三日奈良地方裁判所が宣告した判決に対し、各被告人から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 赤池功 出席

主文

被告人ワコー工業株式会社の控訴を棄却する。

原判決中被告人田出に関する部分を破棄する。

被告人田出を懲役六月及び罰金三〇〇万円に処する。

被告人田出において、右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に決算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人田出に対し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用の二分の一を被告人田出の、当審における訴訟費用の二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人田出十一郎及び被告人ワコー工業株式会社代表取締役田出十一郎共同作成名義の控訴趣意書並びに弁護人天野一夫、同松浦隆次共同作成名義の控訴趣意書及び釈明書(うち一ケ所を当審第二回公判において訂正)記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一点、事実誤認の主張について

論旨は、原判決はその第一の(一)、(二)(以下法人一期、二期と略称する)、第二の(一)、(二)(以下法人一期、二期と略称する)の棚卸(個人から法人への移行については引継仕入ということになる)、仕入れ及び給料について検察官主張どおりの事実を認定し、それに基づいて個人及び法人各期の所得を算出しているが、その認定は次の範囲からいつて事実を誤認しているものである。

(一)  棚卸について

国税局の査察前である本件各期の棚卸額と査察後である法人三期ないし六期の正確な棚卸額を比較すると前者の数は極端に少ないこと、アルミ袋筒は原材料発註より完成品が出来るまで約二ケ月を要し、この工程期間からいつてワコー工業創業の売上げ開始から約二ケ月にわたる同法人の昭和四二年四月末までの売上げに対応する仕入れはすべて被告人田出からの引継ぎといわねばならないこと、田出敏行の供述によれば法人の一期末、二期の期首、期末、三期首には約六〇〇万円の棚卸を除外した公表決算書を作成していたが、法人三期末にこの除外分すべてを公表決算並に組入れたとあることなどを総合し、期首期末とも棚卸除外が同額で、仕入れ、売上げについての資料も最も整つていた法人二期の荒利益率(五〇・二%)により法人一期首個人二期の期末、期首個人一期の期末、期首の棚卸額を推計して妥当な額を決定すべきであるのに、法人一期が個人から引継いだ原材料を約二四五万円と過少に認定し、かつ公表の同期末棚卸額を固定して同期の荒利益率を五四・二%と高率に算出し、これをもとに個人各期の期末、期首の棚卸額を推計して各棚卸額を過少に認定し、所得を過大に認定している事実誤認がある。

(二)  簿外給与について

国税局の査察においては、法人一期及び二期に田出貞夫(十一郎の二男で工場長)、田出実(十一郎の三男で営業部長)に毎月同額ずつ支給した簿外給与(法人一期計一四二万円、同二期計二〇〇万円)を、同人らの家屋建築費にあてるための父子間の贈与とし、原判決もこれを是認して所得計算をしているが、これは長男敏行と同じ立場で父に協力し同じ待遇を与えてきた三人の子であるのに、事業が法人に改まり長男敏行のみしか取締役にできず、そのため敏行と貞夫、実との間に表面上の給与に差をつけざるをえなくなつたため、貞夫、実に対しこの表面上の給与の差額に相当する分を被告人会社が毎月給料日に、簿外ではあるが真実は給与として支給してきたものであるから、これらの額を法人一、二期の所得から減ずべきであり、この点の事実誤認がある。

(三)  簿外仕入れについて

国税局の査察においては個人、法人を通じて各期における不明出金(個人一期約三〇九万円、同二期六〇万円、法人一期約四〇七万円、同二期約四六七万円)をすべて店主貸ないし社長勘定の仮払金として処理し、これらは個人及び法人の所得で被告人田出十一郎一家の生活費及び小遣い等に費消したものとされ、原判決もこれを是認して所得計算をしているが、被告人田出は各納を通じて不動産、貴金属等特別の出費はなく、極めて贅華な生活をしていたものであつて、個人時代は査察において解明された、衣類等についての金額、法人時代は給料以上に生活費を費消したことはなく、新栄商事の村出俊治の証言によれば、査察において認められた以上に簿外仕入のあつたことが明らかであるから、右各期の不明出金のうち個人一期、二期はその全額、法人一期は前記簿外給与一四二万円を差引いた額は右新栄商事等からの簿外仕入にあてられたものであるから、この点の事実誤認がある。

というのである。

よつて一件記録及び押収の証拠を精査し、当審における事実の取調の結果を参酌して検討する。

(一)  棚卸について

本件の査察における質問は昭和四四年四月一〇日ごろから開始された。

国税局の査察官(収税官吏倉中要三ほか)に対し、田出十一郎及び帳簿会計担当の田出敏行は、個人時代及び法人移行にあたつての棚卸をしたことはないが、昭和四二年三月二九日日神貿易に対して売つた約二八二万円の仕入原価中の原成(三和金属)及び抜押(プレス)加工(大養金属)の仕入れは個人で支払つているが、それ以外に同人から法人への引継棚卸はない旨及び法人各期の棚卸は正確である旨を述べこれを貫いていた。なお工場長田出貞夫は昭和四四年四月一〇日にすでに法人一期末、同二期末に棚卸をして品目数量を敏行に報告した旨を述べていた。(二三三三丁)。

十一郎及び敏行は税理士に相談してきたが、昭和四四年末ごろ別の税理士に相談するようになり、同四五年一月三〇日の更正決定に対しては同年二月二〇日ごろ異議の申立てをした。

検察官に対して、敏行は昭和四五年五月二七日には引継棚卸等につきいまだ従来の趣旨で述べていたが、同年七月二日には首尾一貫しないところのある調書(二四六六丁以下)であるが、在庫は個人一期首は七〇〇万円位、法人一期首、同二期首とも公表プラス約六〇〇万円位(公表の意味を決算書とすれば、法人一期首の個人からの引継ぎを計上していなかつたから法人一期首は約六〇〇万円、同二期首は約八〇〇万円となるが、本検面調書の全趣旨からみて査察で認められた額を公表といつているものと理解すべきである)、法人三期首は公表プラス五〇〇万円位と思う趣旨を述べたりしながらも、また公表を超える分は法人一、二、三期の各期首ともほぼ同額で終始とんとんであり利益には殆んど差を生じない旨を述べるに至つている。十一郎は昭和四五年三月五日付検面調書で、在庫は個人一期首一〇〇〇万円位、同二期首七〇〇万円位、法人一期首も七〇〇万円位と述べながら会社となつてからは公表決算出書どおりと述べていたが、同年七月三日付検面調書(二六五〇丁以下)では、法人一期からの各期末棚卸は決算書どおりで正しい、個人の終りから法人一期へかけて製品は右から左へさばけていた。その後競争が厳しくなり在庫は少しずつ増えたが法人三期に在庫は大巾に増えた旨詳しく述べている。

原審において、敏行は法人一期末に工場長の貞夫に棚卸をさせて品目数量を報告させ、それを計算したところ約九五〇万円となつたが、これを公表では約一九九万円に押えた。法人二期末では同額であつたが約三八八万円に押えた。法人三期末には全額を公表(約九三六万円)した旨を証言(二〇六八丁以下)し、被告人十一郎が引継いだ在庫は二、〇〇〇万円から二、一〇〇万円とも述べるに至つている(二五一二丁)。

右の如く十一郎、敏行の棚卸についての供述は変転が厳しく、法人一期末以降のものは工場長の報告もあつて一応公表分についての根拠もあるのに、法人一期首以前のものは棚卸を全くしていなかつたことは争いのないところであるから、同人らの原審における供述をもつて直ちに本件各期の期末棚卸額を認めるわけにはいかない。

弁護人は期首、期末の棚卸除外がほぼ同額で貸料ももらつている法人二期の荒利益により遡及して棚卸計算をするのが相当と主張するが、その結果控訴趣意の釈明書によると棚卸は法人三期末約九三六万円、同二期末約九八八万円、同一期約八一四万円、個人二期末約一、二二七万円、同一期末約一、二六九万円、同一期首約一、四三八万円となり、個人二期末以前の棚卸額は敏行の原審証言よりも遙かに多いばかりでなく、売上げも法人期に比べて少なければ、商の種類が少なく、加工ことに調材料による加工は寡累で競争はなく、右から左へ売れた個人二期、同一期の在庫が右の如く多量かつ遡及するほど大きく増加することは、法人二期の荒利益率によることが必ずしも正しくないことを示しているといえる。

ところで原判決の認定のもととなる収税官吏の認定では、日神貿易に対する三月二九日の六四、〇〇〇本約二八二万円の原板代プレス代を個人からの引継ぎとし、それ以外に引継ぎはないというのであるが、個人から法人へ変つたといつても、仕入、売上げの漏れはその間に何の区別もない状態で移行し、二月下旬、三月上旬における法人の売上げもあるのに、三月二九日の売上げ中の原板代及びプレス代のみが引継分であるということは常識的にいつて疑問がないとはいえない。

そこで法人一期末棚卸は一応工場長からの品名数量の報告があり、敏行の供述によつても法人一期の期首、期末の同額除外額はほゞ同じというのであり、売上げ、仕入れは個人、法人とも査察により正確に把握されてきているのであるから、個人から法人への引継ぎ自体を検討する。

先ず製造日程について考えるに、工場長の貞夫は検面調書(二四四三丁以下)で、当初は加工が単純で製品化するのに二週間程度でしたが、その後ワツペンをつけたり布をつけるなどの工程が増えてもう少々日数がかかるようになつたものもある旨述べ、原審においても、原板注文から払方に入るまで一、二週間、それからの外註に一、二週間、原板をもらつて筒の完成まで一ケ月位と述べ(二〇〇一丁)、敏行は原審第六回公判では、原板註文、プレス加工が一、二週間、型切り加工が一、二週間、メツキ加工が一、二週間、包装等に一週間、原板から筒完成まで七、八週間と述べていたが(二〇三七丁)、その後第一〇回公判で弁護人の問に対し、素材の仕入れから出荷まで平均で三〇日はかかるという旨述べ(二二〇一丁)、工場長の貞夫、専務の敏行の供述が一致するに至つている。メツキ加工の村田亮も作業工程に平均六、七日かかる旨証言している(二一五九丁)。これに対し田出実は二月半かかると証言し、被告人十一郎は公判で五、六〇日かかる旨述べているが、たやすく措信しがたいし、プレス(抜押)加工の堀田賢一は材料受取りから納品まで平均一五日かかる旨証言していて貞夫、敏行の供述と異なるが、プレス加工は原板から製品出荷までの過程の四分一程度であることを考えると、取引先主人の十一郎の主張に合わせた証言とも考えられ、貞夫、敏行の右供述を左右するに至らない。製品も簡素で競争もなく右から左へ売れた個人から法人へ移行時の原板仕入れから製品出荷までの日数は敏行、貞夫の各証言が一致する如く、平均して一カ月であり、その内訳も敏行の証言にてらしプレス加工、四切り加工、メツキ加工及び付属品備付け包装出荷の期間に大体四等分するのが相当であると考えられる。

ところで本件企業の会計の実態にてらし国税局が損益計算したのは、商業簿記による計算であつて工業簿記による計算ではなく、本来の意味における在庫は本件企業では工業簿記による計算が適合するであろうが、商業簿記でも期首在庫も期末在庫もそれにより、賃金その他の経費を各期において計算しつくしておれば所得計算に問題がないといえるから、本件の審査にあたつても商業簿記により在庫は外部からの仕入額をもつて計算するのが相当である。

そして原板仕入から製品出荷まで一カ月といつても仕入れとしては、(1)、プレス加工済納品直前までは原板の在庫であり、(2)、自家で行う歯切り加工は仕入れに加えられず、(3)、メツキ加工品納品の直前までは原板及びプレス加工仕入れの在庫であり、(4)、メツキ加工品が納品になつて原板、プレス加工、メツキ加工の仕入れが在庫となり、副材料はこれとは別にメツキ加工の終つた函を完成品として出荷するために仕入れられる在庫であるが、筒材、ワツペン、函ケース、ビニールケース、紙函包紙等であるから、仕入前に仕入先で加工日数を要しても仕入後加工日数を要するものではなく、敏行の証言する包装等の一週間に必要なものであるので、前記一ケ月の内訳によれば、原板仕入れは、一ケ月、プレス加工仕入れは四分の三カ月、メツキ加工及び副材料仕入れは四分の一カ月程度の在庫があるものとして検討するのが相当であろう。

これを別紙一の一表の仕入明細の個人分四二年二月(二〇日〆)にあてはめて個人からの引継分を計算すると、個人売上げは仕入れのしめ切りの五日後である二五日までになつている(現に二五日に日神貿易に対する売上げ約二四七万円がある)ので、原板(三和金属)は六分の五カ月で約一五四・七万円分、プレス加工(大養金属)は一二分の七カ月で約三四・七万円分、その余の仕入れは一二分の一カ月で約二六・四万円分で合計約二一五・八万円と一応計算される。(仮りに原板仕入れから製品出荷まで六〇日とし、各工程段階を平等に延伸し、前記仕入明細表の個人一月及び二月(各二〇日〆)に前同様にあてはめると個人分の引継ぎは約四〇二万円と計算されるが、とうてい九〇〇万円台とはならない)。これは原判決認定の個人分の引継額約二四五・四万円より約二九・六万円少ないことになる。

これに対して、押収の証拠により法人となつた初期におけるメツキ加工の五光軽金からの仕入数量と売上数量を検討すると別紙二-一表の如くなるが、これによれば格別多数の製品的引継在庫のあつたことをうかがわしめるものはない。(当審の過程において昭和四二年四月中旬頃において一六、七八六本の売上過大があるように考えたが、これは仕入本数が不明である三月の簿外メツキ加工仕入れ七一・七万円の単価につき同月の公表のメツキ加工の仕入金額と仕入本数により算出される単価と同額と計算して簿外仕入本数を五〇、九五九本と計算したためであつた。別紙二-一表をみると三月と四月に荷出物である日神貿易分が六四、〇〇〇本ずつあるのに、公表の三月分と四月分のメツキ加工単価に相当の異いが生じるが、これは三月分の六四、〇〇〇本は右の簿外仕入れに含まれるためと解される。そして押収の符五七号証(仕入台表載)、五八号証(売上帳載)を検討すると、四月におけるメツキ加工単価一本あたり九円のものが日神貿易に売上げられていることが品名ナンバーからもわかるので、三月における六四、〇〇〇本のメツキ加工代を単価九円で合計五七・六万円と計算し、七一・七万円中それ以外のものは内地向と考え、同月の公表分より算出される単価で本数を算出した)。また同表によると法人の二月下旬の売上本数は五、四〇〇本にすぎない。

次に法人になる直前ころの個人の仕入れ、売上げを検討すると、別紙一-一、二表によれば、昭和四一年一二月及び同四二年一月分において、仕入れ約七九七万円に対し売上げ約二、四四〇万円で原価率を四五・八パーセントとすると約三二〇万円も仕入不足となるのみならず、一月分の仕入額が僅か二八七万円であることは、一月中ごろ行なわれた工場移転のことを考えても、二月期へ繰越された在庫額が四月に比べて相当に少なくなつていたことがうかがわれるので、二月期を前同様に計算すると約一〇三万円の仕入過剰になるけれども、個人二期末の在庫が例月に比べ多いとは直ちにいえないし、被告人らの工場は同年一月中旬ころ新工場に移転したのであり、個人一期の仕入額が約四、二二一万円で月平均約三五二万円であるのに、法人一期の仕入額は約七、一三五万円で月平均約五九五万円であり、別紙一-一表にあらわれているように二月、三月、四月の仕入額が大きいことをみれば、新工場における生産能力の増大による歯切り加工工程、メツキ済材に対する副材料加工、包装工程の短期化すら考えられ、前記の一月期の仕入額の少なく売上げが相当に達して一月期末の在庫が少ないと思われること、並びに同記の製作工程期間からの引継額の推計約二一五・八万円は仕入額の多い二月期の仕入額から割り出されたものであることなどを考えると、個人から法人への引継額が右推計計算額より多かつたという特別の事情を認めるに至らず、法人一期末の棚卸と大体同程度とみてよいとも思われる。

そこで昭和四二年三月二九日日神貿易に対し売上げられた六四、〇〇〇本約二八二万円の原板及びプレス加工代が約二四五万円に相当するかどうかについて考えると、別紙二-三表の如く法人一期において、メツキ加工の五光軽金から仕入れた簡の本数は一、七八二、二六七本であるが、原板やプレス加工の仕入日時とメツキ加工仕入れの日時が異なるといつても一年間の比較をもつてすればそれは無視してよい程度のものであると考えられるところ、別紙二-二表の昭和四二年度(法人一期)の三和金属からの仕入額一、五八二万円、大阪金属からの仕入額約六二五万円を右一年間の本数で割れば、一本当り原価は原板代約八円八七銭、プレス加工代約三円五一銭となる。そうだとすると前記六四、〇〇〇本にしめる原板代は約五六・八万円、プレス加工代は約二二・五万円で合計約七九・三万円にすぎないものと考えられる。また、法人一期末、同二期末の棚卸額について考えると、前期の如くこの時はいずれも工場長の貞夫から専務の敏行に対し品目数量による報告がなされているのであり、敏行や十一郎は査察時にも一貫して公表の右棚卸額は正確である旨述べていたのであるから、その公表額である一期末の約二〇〇万円、二期末の約三八八万円の数額は籍信でき、一期末の棚卸額は右の如く約二〇〇万円に過ぎないのである。そして弁護人の主張、敏行や十一郎の供述からいつても、製品の右から左への売上状況に変りがないことから考えても、個人から法人への移行時と法人一期末の棚卸額は同じ位であつたといいうるのである。

なお、弁護人は原判決の認定による法人一期の荒利益率五四・二パーセントは高率すぎるというが、同利益率によつて個人二期、個人一期へと遡及計算した原判決においても、各期とも期末よりも期首の方が、個人二期よりも個人一期の方が棚卸額が多くなつている(荒利益率が低ければ低いほど期末より期首の方が、二期よりも一期の方が棚卸多額となる)が、個人一、二期、及び法人一期ころは製品が右から左へと売れていたことは同じであり、法人一期から遡及すればするほど仕入れ、売上げの総額が少ない時期であつたのであり、関係証拠にてらしてみても荒利益率五四・二パーセントが高率すぎるとは思われない。

このように検討してくると、右から左へ流れていた当時の状況と平均的製作販売過程から確認して、個人から法人への筒についての引継ぎ額を約二一五・八万円とした前記の推算は、前段の点から考えて合理性を有し、三月二九日の日神貿易への売上げ約二八二万円の原板代、プレス加工代の点を考えても、なお合理性を失わないものと考えられるし、法人一期末、同二期末の公表棚卸額は前述の如く籍信できるものであるから、被告人控訴の本件において、右引継額を約二四五・四万円とし、法人一期末、同二期末の棚卸額を公表額どおりに確定し、また認定の同人からの引継額、法人一期末の棚卸額などをもとにして算出された荒利益率により遡及して個人二期首、同一期首の棚卸額を推計した原判決に、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認があるとはいえない。

(二)  簿外給与について

本件の金額は別紙三-一表の如く、貞夫、実とも定期預金及び普通預金で法人一期には毎月五万円ずつで、ほかにボーナス期分をも含めて各人とも七一万円、法人二期には毎月五万円あるいは六五、〇〇〇円ずつで、ほかにボーナス期分をも含めて貞夫に一一五万円、実に一一〇万円が預入されているが、はじめ一年位は各人の住宅(宅地を含む、以上同じ)を目的とした定期預金とされ、住宅ローン借入後はその月賦返済額に相当する額に増額されている。

十一郎及び敏行とも収税官吏の質問てん末書において右の預金は簿外給与からなされたものである旨全く述べられず、収税官吏の倉中証人は査察の間一度も右につき簿外給与である旨の主張はなく、十一郎、敏行、貞夫、実とも、貞夫と実の家を建てる資金等として各人の公表給与中から預金した旨聞いており、その額も公表給与で生活をしつつ預金できる範囲の額と判断した旨述べている。

敏行は質問てん末書で昭和四一年ころ(個人企業時)の貞夫、実の給与は月五万円であると述べ、貞夫は質問てん末書でこれを四万円といい、原審では八万円位と証言している。

ところで昭和四二年、四三年ころの給与水準(一般職の吏員の給与に関する法律の俸給表参照)からいつて、法人となつたことにより給与の増加の大きかつた貞夫、実が一二万円の月給から五万円、一四万円の月給から六五、〇〇〇円を預金することは不可能ではないが、妻子をかかえ一戸を構えた同人らが少額とはいえ他の預金もしつゝ右の額の積立預金等をすることは苦しいものがうかがわれ、法人とはいいながら個人企業と異ならない運営をし、莫大な利益をあげていたのに、社長の二男で工場長、三男で営業部長である両名に対する分家的な居宅の建築という趣旨、目的から考えても、社長の十一郎が説明しなかつたとするのは疑問があり、十一郎及び敏行が原審で述べるように公表の給与以外から預金されたものと考えるのが相当でないかと思われる。

そこでその経費について考えると、毎月定額が給料日の一、二日後に預金され、敏行との給料の金額にも近いところから、同等に待遇すべき三人を、取締役と職員にわけざるをえないため、表面の給与に差が生ずることになつたそれを操り簿外給与であると主張するが、(1)、いわゆる分家的な両名に対する住宅建設のための目的をもつた預金であること、(2)、一年位積立てられ、住宅ローン借入後はその月賦額に応じて増額されていたもので、給与改訂時と預金増額時が一致しないこと、(3)、敏行と貞夫、実の間の給与は終始六万円であるのに住宅ローン借入後金額が一五、〇〇〇円増額されていること、(4)、敏行と貞夫、実の間のボーナスの差以上の額が各期とも預金されていること(四回のボーナス金額における敏行と貞夫、実の金額は各二二八、〇〇〇円であるのに、貞夫は五六万円、実は五一万円預金している)、(5)、又十一郎と同居する敏行は給与を支給されても全額を父に渡し小遣いとして毎月五万円位を改めて渡してもらつた(二五八八丁)のであつて、実質的にみて貞夫、実に対して敢えて簿外給与を支給しなければならぬ理由がないこと、(6)、給与所得の申告のされていないことはもちろんであるが、会社内部においても手続的に給与支給とみうる処置が全くとられていないこと、(7)、貞夫、実に対する支払のみであつて、他の従業員に対してなにもないことなどを総合すれば、法人を個人企業と同様に支配運営していた十一郎が二男、三男に対し贈与したものであり、会社との関係は税法上は十一郎に対する貸付金として処理するのが相当であると考えられる。

そうだとすれば、簿外給与の主張はこれを認めるに足らずワコー工業の所得に変動はないことになるので税額に影響もなく法人税ほ脱についての事実誤認があつたとはいえない。

(三)  簿外仕入について

敏行は、検面調書で、個人時代は架空の仕入れは一切行つておらず経費についても全て出納帳に記入してある。法人になつて酒井商事について架空仕入を計上したが、その他の経費面については全て記入しており、その点の不正もなく簿外経費もない旨(二四六丁)を述べ、原審では、新栄商事(村田俊治)からの卸のビニールサツクの仕入れについて、昭和四一年は国税局の集計では七〇万円位とあつたが、実際は二百四、五十万円であつたと思う。それは定期の支払期以外に支払つた金額は売掛月別集計帳に記載されておらず、村田も取引銀行の口座に振込まれる横線小切手をいやがるので、直接現金を取立てる田出十一郎名義の認判をした小切手で払つているので、この分が田出十一郎の個人消費と認定されているのではないか(二一九二丁以下)と述べる。

村田証認(二二二四丁以下)は、昭和四一年には二四〇万円位、同四二年には四五〇万円位、同四三年には九〇〇万円位売つたと思う。昭和四一年ころは殆んど月一回の決済で月末に集金に行き小切手でもらい、これを取引銀行の口座に振込んだり、支払銀行から直接取立てたりした。認判のことについては現在はつきりしない。国税局に対する回答書(一九二四丁)は取引銀行に回して取立てた分の金額のみを書いているのではないかと思う旨述べる。

田出十一郎は質問てん末書で、私の家の生活費や私の小遣いとして毎月二〇万円から三〇万円位必要である。常時手許現金は家に三〇万円位、手持ち五万円位である(二五七一丁)。瀬川商店や浅野商店の現金売分からも生活費をまかなつていた。生活費は毎月三〇万円位かかる。同居の敏行の給料は一たん私が家で受取り小遣いとして改めて毎月五万円渡している(二五八八丁)旨述べる。

一件記録及び押収の証拠を検討しても、簿外仕入については、新栄商事の右一七〇万円程度のものについての右供述のほか具体的にこれをうかがわしめるものはない。

被告人らの帳簿によれば、新栄商事からの仕入明細は別紙四-一表のとおりである。昭和四一年の仕入れについては被告人らの帳簿と村田の前記回答書の記載はほぼ一致する。銀行支店長の回答書(二三一七丁)によれば、取引銀行の口座に振込まれたとみられる小切手の分も、支払銀行から直接取立てたとみられる小切手の分も被告人らの帳簿及び村田の前記回答書に記載されており、各小切手の表面には小切手の交付先が記載されるよう配慮されており、たやすく敏行や田出の述べるようには認められない。新栄商事からの仕入れが四一年に比べ四二年は比躍的に増大しているが、十一郎、敏行らの供述及び別紙二-二表からわかるとおり、筒の包装等が簡素なものから、相当丁重なものに変つていつたことによるもので、新栄商事ばかりでなく積水化学などからの仕入れも飛躍的に増大しているし、また同種材料の仕入れ先であるツバキ(株)などは激減しているから、右新栄商事からの仕入額増の故をもつて簿外仕入があつたはずであるということにはならない。

収税官吏の調査は、十一郎、敏行らから十分に聴取し、帳簿額を仔細に調査し、関係各取引先に照会し回答をえて売上げ、仕入れ、経費等を洗いだしており、被告人らの業績はアルミ櫛製造とおくれ毛止め製造という簡単なものであり、仕入先も経続的なところばかりで数も二〇余カ所にすぎず、脱税していたとはいえ仕入れの記載は洩らさずこれをしていたと認められる状況であるから、不明出金は直ちに簿外仕入れであると推認されるような本件ではない。

本件各期の不明出金及び被告人田出の生活費等について考察する。

個人一期では店主貸勘定約五七八万円(二八九一丁)のうち、不明出金約三〇九万円に、米、八百屋、食料品、牛乳、薪、洗擢、水道、光熱、電話代、小使の一、〇五〇、六四七円を加えると約四一四万円となるが、原判決がリベート代及び出張旅費として二八一、一四七円を認めていること、同 の親族で事業専従者である敏行に対し月五万円位で年六〇万円位の小遣いを渡していたと思われること(十一郎の検面調書(二六二七丁)、質問てん末書(二五八八丁)及び敏行の地位、年令から考えて)からこれを差引くと三二六万円位となり、証拠により認められる田出十一郎一家の生活費及び同人の小遣いにあてられたものと考えることは合理的である。

個人二期では店主貸勘定約一一五万円(二九一五丁)のうち、収税官吏は通常生活費及び小遣いとして六〇八、二六六円を認めたと思われるが、原判決がリベート代及び出張旅費として認めた六五、六〇七円並びに前述の敏行の小遣いを考えると、残額を田出十一郎一家の生活費及び同人の小遣いとして認めることは合理的である。

法人一期では、社長勘定中仮払金として約四〇七万円(二九三四丁)を社長個人が使用したものとして収税官吏は認定しているが、法人には社長十一郎及び専務敏行の給与があるので、別紙四-二表のように計算される両名の同期給料収入から預金を差引いた残りの約一七〇万円を加えて考えなければならない。しかしながら原判決の認めたリベート代一四七、四六一円、前同様銀行の小遣い六〇万円、及び前記の貞夫、実に対する住宅関係の預金にあてられた合計一四二万円を差引くとその額は約三六〇万円となるので、これが田出十一郎一家の生活費及び同人の小遣いにあてられたものと考えることは合理的である。

法人二期では、社長勘定中仮払金として約四六七万円を社長個人が使用したものとして収税官吏は認定しているが、これに前同様十一郎及び敏行の給料収入から損金を差引いた残りの額一〇〇万円を加えると約五六七万円となるが、前同様に敏行の小遣い六〇万円、貞夫、実の住宅関係の預金にあてられた二二五万円を差引くと二八二万円となり前同様生活費及び小遣いにあてられたものとして考えることは合理的である。たゞ本期には機械装代として十一郎に支払われた二七〇万円から預金した残額二〇万円の個人費消がうかがわれるし(二九五〇丁、二五六五丁)、法人一期の配当金一五〇万円のなかから生活費等にまわる可能性も考えられるので本期が特に前二期に比べて少なくなるわけでもない。

それゆえ控訴趣意のような簿外仕入れがあつたとは考えられない。

以上によれば、一件記録、押収の証拠及び当審における事実の取調の結果により検討しても、棚卸額、簿外給与、簿外仕入に関して原判決に明らかに判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があるとは考えられないし、証拠によれば原判示の事実を認定することができる。論旨は理由がない。

控訴趣意第二点、量刑不当の主張について

論旨は、被告人田出が脱税をするに至つた目的動機、脱税方法の単純、本件発覚後の修正申告納税態度にてらし、原判決の刑は重すぎる、というにある。

よつて、一件記録及び当審における事実の取調の結果を参照して検討するに、本件の脱税が所得税については約二、三四〇万円、法人税については約二一〇五万円におよぶ多額であり、かつその脱税率が高いこと、修正申告納税は完了しているがこれは当然の義務であることなど考えると、被告人ワコー工業を罰金四〇〇万円に処した刑は重いとはいえないが、被告人田出については、資力がないため惨めな思いをした体験が資力の蓄積を急がせたという動機もうかがわれるとともに、脱税方法は割合に単純であるばかりでなく、本件各期の所得は被告人田出らの創意工夫、刻苦精励に負うところが大きいと考えられるところ、被告人田出の法人の業務に関する脱税行為について、法人に罰金刑を科したほか、被告人田出に懲役刑と罰金刑を併科して、同人の主犯行について懲役六月及び罰金四〇〇万円に処し、懲役刑について二年間刑の執行を猶予した原判決には、懲役刑は相当といえるが、罰金刑について重すぎるものがあると考えられる。論旨は被告人ワコー工業については理由はないが、被告人田出につき理由がある。

よつて、被告人ワコー工業について刑事訴訟法三九六条によりその控訴を棄却し、被告人田出について同法三九七条一項、三八一条によりさらに判決することとし、被告人田出に対する原判示の罪となるべき事実(但し第二の二のなかに「法人税額が八、五二一、四〇〇円である旨の虚偽の」と「法人税六、二八三、〇〇〇円をほ脱し」とある数額を、それぞれ八、五二四、一〇〇円及び六、二八〇、三〇〇円と訂正する)を原判決挙示の証拠(但し証拠の標目中3のなかに倉田要三とあるは倉中要三の同標目7のなかに脱税額計算書三通とあるは四通の誤記と認める。また同標目7の収税官倉中要三作成の総勘定元帳、取引先元帳、支出関係明細帳、銀行調査書類各二通はいずれもそのような表示をされた調査てん末書である)。のほか

一、岡本弘司(六六五丁)、石原正太郎(五一六丁)、早川和夫(六四三丁)作成の各確認書

一、岡本弘司(一九〇二丁)、沢田栄一(一八〇四丁)、神谷ノブ(一八九四丁)、平岡正造(一九六六丁)、北内公三(一八六〇丁)、村田俊治(一九二四丁)、大蔵喜代一(一八三四丁)、東条政代(一九〇八丁)、岡一仁(一八〇九丁)作成の各回答書

一、押収にかかる昭和四九年押一九号の符一九号(売掛月別集計表)、符九二号(仕入先元帳綴)、符五七号(仕入台帳綴)、符九四号(仕入先元帳綴)、符一一三号(仕入補助簿)、符一八号(売掛帳)、符一一八号(仕入帳)、符三五号(原価帳)、符五二号(請求金領収書等)、符五八号(売上帳綴)、符八二号(売掛メモ帳)、符五三号(仕入請求金領収証等)の各帳簿等。

一、大蔵事務官木村太郎作成の調査てん末書(二六三丁)

一、片長商店の回答書(一七八〇丁)

一、吉村敏行作成の確認書(六二四丁)

一、押収にかかる前押号の符九九号(大和工業所の一綴)を総合して認め、

法令の適用につき、被告人田出の判示所属中、第一はいずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に、第二はいずれも法人税法一五九条一項、七四条一項二号に該当するので、両者につきそれぞれ懲役刑と罰金刑の併科を、後者につきそれぞれ懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文一〇条に従い、犯情の最も重い第一の(一)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項に従い、各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役六月及び罰金三〇〇万円に処し、右罰金を完納できないときは、同法一八条に従い金二万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとし、情状によりこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟一八一条一項本文を適用して、原審のそれの二分の一は被告人田出の当審のそれの二分の一ずつを各被告人の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本間末吉 裁判官 吉田治正 裁判官 朝岡智幸)

仕入明細

<省略>

売上明細

<省略>

別紙2-1

仕入売上数量の検討

仕入数量

<省略>

売上数量

<省略>

(注) 仕入数量中3月下旬の外書数量は、ワコー工業(株)の3月中の五光鍍金工業(株)に対する簿外仕入代金717,000円はついて次の検討により計算したものである。

(1) 日神貿易(株)への売上数量64,000本に対するメッキ加工代金が帳簿に計上されていないので。その本数64,000本(その加工代は、9円×64,000=576,000円)

(2) 内地向商品の加工本数(717,00O円-576,000円)÷14.07円=10,021本。

別紙2-2

仕入金額構成比率

<省略>

(注) 本表は田出十一郎およびワコー工業(株)の年間仕入金額成比率である。

(証拠) 昭和41年分検甲第156号証 調査てん末等(総勘定元帳写 記録1017丁)

昭和42年度分 押符第57号仕入台帳綴

別紙2-3

(1) ワコー工業(株)の五光鍍金工業(株)からの加工仕入数量調

<省略>

証拠 押符第57号仕入台帳綴

(2) 原板の櫛1本当平均単価

<1> ワコー工業(株)の三和金属(株)からの昭和42年度分仕入代金 15,817,393円

<2> 櫛1本当り原板の平均単価

15,817,393円÷1,782,267円=8.87円

(3) プレス加工の櫛1本当り平均加工賃

<1> ワコー工業(株)の大養金属(株)からの昭和42年度分仕入代金 6,253,791円

<2> 櫛1本当り平均プレス加工賃

6,253,791円÷1,782,267=3.51円

定期積金等調(住友銀行奈良支店)

<省略>

証拠

(田出真夫)

定期積金 検甲第109号確認書(P621)

〃 押符第77号住友/奈良本名ハッピー積立預金通帳

普通預金 検甲第136号住友銀行奈良支店確認書(P750)

(田出実)

定期積金 検甲109号確認書(P622)

押符77号住友/奈良本名ハッピー積立預金通帳

普通預金 検甲第136号住友銀行奈良支店確認書(P752)

(田出十一郎)

普通預金 検甲第136号 店確認書(P745)

(田出敏行)

普通預金 検甲第136号 店確認書(P743)

明細表

<省略>

(証拠)

押 68号 給料支給明細書

42年3月~43年1月

押符72号 給料等支給明細表綴

43年2月~44年1月

押符59号 経費明細書

(S42.2~S43.1)

押符65号 〃

(S43.2~S44.1)

給料支給

<省略>

仕入明細

<省略>

別紙4-1

新栄商事かの

<省略>

<省略>

別紙4-2

<省略>

控訴趣意書

所得税法違反等 田出十一郎

外一名

右被告事件について、昭和四八年一〇月二三日奈良地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人らから申立てた控訴の理由は左記のとおりである。

昭和四九年三月七日

弁護人 天野一夫

同 松浦陞次

大阪高等裁判所

第五刑事部 御中

原判決は、ほぼ公訴事実と同一の事実を認定し、被告人田出十一郎に対し懲役六月、二年間執行猶予および罰金四〇〇万円に、被告人ワコー工業株式会社に対し罰金四〇〇万円にそれぞれ処したが、原判決は証拠価値判断を誤つた結果事実を誤認し、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであると共に、その量刑は重きに失し不当であるから到底破棄を免れないものと思料する。

第一事実誤認の主張

一、原判決は被告人田出十一郎の第一期及び第二期(以下個人の一期、二期と略称)、並びに被告人ワコー工業株式会社の第一期及び第二期(以下法人の一期、二期と略称)の棚卸、仕入及び給料等について、検察官の主張とおりの事実を認定し、それに基づいて個人及び法人各期の所得金額を算出しているが、右認定は次の理由から事実を誤認したものである。

二、棚卸について

(一)、査察において認定された個人一期、二期及法人一期、二期の在庫保有高と査察後における脱落のない正確な決算報告書による法人三期ないし六期の在庫保有高とを対比すると別表一のとおりである。

右表によれば、査察後の各期において在庫保有高は僅かながら漸増しているものの、前年度と比較してさして大きな相違はないことが明らかである。しかるに査察を境として査察前の各期と査察後の各期とを対比すると査察前の在庫保有高は極端に少いのである。経営の実体が査察の前後においてなんら変化がないにもかかわらず、右表の如く極端な相違があることは不自然であるといわざるを得ない。

(二)、一方アルミ箱の製造工程を順に説明すれば次のとおりである。

先づ原材料(ジュラルミン板)を三和金属に発注し、三和金属は原材料をプレス加工の委託先である大養金属に納入し、大養金属においてプレス加工(外形打抜き、外周面押しの作業)をしたうえ、一旦それをワコー工業に納入し、同所において歯切り加工(歯先R切削、歯先サイド切削、歯切削根メリ作業)をしてメツキ加工の委託先である五光メツキに搬入し同所においてメツキ加工(パフ研磨し、これは更に五光メツキより外註に出すー、電解研磨、アルマイト着色作業)をしてこれをワコー工業に納入し、同所において別に発註仕入れたビニールサツク(新栄商事)、金属ハンドル(沢田金属)、プラスチツクケース(積水化学)、打入り外箱(平岡紙器)等の副材料を用いて、五光メツキより納入された半製品の組立包装(検査、刻印、組立、包装作業)をしてはじめて完成品となり出荷されるのである。

右の原材料発註より完成品が出来るまでには田出敏行らの証言によれば約二ケ月を要するということである。従つて支障なく在庫保有がなければならないことになる。

これを前記別表一によつて検討するに、同表の売上中、原価を五〇%として計算すれば、売上高に対する在庫保有高の割合は査察後の法人三期は約一・七ケ月分、法人四期は約一・八ケ月、法人五期は約二ケ月分、法人六期は約二・一ケ月分となるのに反し、査察によつて認定された査察年度においては個人一期は約〇・七ケ月分、個人二期は約〇・四ケ月分、法人一期は約〇・三ケ月分、法人二期は約〇・五ケ月分となる。前述した製造工程よりしても、査察において認定された如く僅か一〇日ないし二〇日程度の在庫保有高によつて順調に営業を継続し同表の売上をなすことは常識的にも考えられず、結局個人一期ないし法人二期の査察対象年度の在庫保有高は、法人三期の約一・七ケ月分と同程度とするのが最も正確妥当なものと考える。

(三)、査察においては、個人の廃業に伴い法人一期の期首に持込まれた原材料等は、法人一期の三月及び四月に法人が日神貿易株式会社に販売した売上代金合計五六五万一、二〇〇円に見合うものとして二四五万三、九六六円のみを認め、法人が二月、三月、四月にその他のツバキ株式会社等に販売した売上代金合計二、四一四万五、一四〇円に対応する在庫を個人から持込まれたものとは認めていない(別表七、八参照)。このことは法人の二月六九万五、七三〇円、三月四七五万八、三〇五円、四月六九八万一、二四八円の仕入合計一、二四三万五、二八三円より右の売上がなされたことになるが、ツバキ等に販売した製品はいずれも国内向で日神貿易に販売した輸出向製品より製造工程も長く、単価従つて原価も高いのであつて、前述した製造工程からしても、査察において認定されたようにツバキ等に販売した製品について法人設立後にはじめて仕入れた原材料をもつてアルミ箱を製造し前述の二月ないし四月の売上をなすことは事実上不可能であつて、右売上に対応する在庫は個人から持込まれたものであることが極めて明らかである。

(四)、荒利益率

査察においては、法人一期の荒利益率を五四・二%と算出しそれを個人一期、二期に適用している。

しかし法人一期の荒利益率については、前述のとおりその前提となる個人からの持込み原材料等に不当な誤認があつて到底容認することはできないのである。即ち個人と法人とは個人経営から株式会社組織に変更されたとはいえ、両者の企業目的及びその実体はなんら異るところはなく、得意先(販売価格)、仕入先(仕入価格)等は同一であり、従業員、機械設備等もほぼ同様の規模状態で現在に至つており、従つて原価、荒利率も特段の経済的異変がない限りほぼ等しいものである。しかるに査察においては個人、法人を通じてその所得(損益)確定計算において最も重要なる会計処理を各年度の公正妥当な分析比率による比較検討もせず、単純に法人一期において個人から法人に引継がれた原材料等を過少に推定し且つ公表の期末棚卸高を固定して荒利益率を算出し、それを基に個人各期の事業所得、及び各期の期首期末の棚卸高を推計しているのであつて、右五四・二%という荒利益率は前述の製造工程期間及び棚卸高の回転率よりしても極めて過大であり、かかる荒利益率を基にした所得等の算出は企業の存否すら不可能にするものであるといつても過言ではない。

そこで進んで法人二期及び三期の荒利益を検討するに、法人二期については、査察において認めた公表の売上高、期首棚卸高、当期仕入高、期末棚卸高を基に荒利益率を算出すれば五〇・二%となる。もつと田出敏行は法人二期の期首末の欄卸高について約六〇〇万円庄縮した旨供述しており(昭和四五年七月二日付検面調書及び公判延の供述)、右供述は十分信用できるものと思われるが、右庄縮した六〇〇万円を期首期末にそれぞれが算しても右荒利益率はなんら変らないのである(別表二の一)。

法人三期について公表の売上等によつて荒利益率を算出すると五三・九%になるが田出敏行はその期首棚卸高を六〇〇万円庄縮した旨供述しており(前述検面調書)これを公表期首棚卸に加算して荒利益率を算出すると四九・三%となつて(別表二の二)、法人二期のそれと大差がなくほぼ公正妥当な数値であると思われる。

右に述べたところから明らかな通り、査察において算出された法人一期の荒利益率五四・二%は、その期首に個人から引継いだ原材料等の推計に誤りがあり不正確な推計を基に算出された極めて不当なものである。税法上所得及びその基礎になる棚卸等について、帳簿等の資料がない場合にある程度の推計が許されるとしても、それは無制約な推計を許すものでは決してない。本件においては個人、法人を通じて、資料の備つた従つて不正確な推計の少い法人二期の荒利益率五〇・二%が適用されるべきである。

三、簿外仕入

(一) 原審における村田俊磨の証言によれば新栄商事から仕入た副材料のビニールサツクについて査察において認められた以上に所調簿外仕入のあつたことが明らかである。

ただ、右簿外は入の金額については、村田の記憶以外に正確な記帳もなく、右記憶も正確を期し難いものがある。

(二) ところで査察においては個人、法人を通じて各期における不明出をすべて店主貸ないし社長勘定の仮払金として処理されている。即ち個人一期における店主貸として不明出金五七七万九、〇六六円中、売却損等二一万二、五二八円、個人の生活費二四七万八、二六〇円を解明し、残余の不明出金三〇八万八、二七八円をも店主貸に計上し、個人二期(二ケ月)における店主貸として不明出金一一五万一、八六六円中個人の生活費五五万一、八六六円を解明し、残余の不明出金をも店主貸に計上し、法人一期における仮払金として四〇六万八、〇九五円、法人二期における仮払金として四六七万二、四二五円を各計上し右未解明の店主貸ないし仮払金は被告人田出の生活費等話費に費消したものとされている。

しかし、被告人田出個人としては右各期を通じて不動産資金属等の購入等特別の出費はなく、極めて質素な生活をしていたものであつて、査察において認められた前述の生活費ないし法人からの給料以上に生活費を消費したことはなく、他方架空名義を含む預金は査察においてすべて調査解明されているのである。従つて前述した未解明の店主貸ないし仮払金の使途が問題となるが、これは後述の簿外給与および前述した新栄商事からの簿外仕入に充てられているのである。

四、簿外給与

査察においては、法人一期及び二期に田出実に支給した簿外給与を建築費に充当するための父子間の贈与と認めている。

しかし、被告人田出が昭和三八年項個人経営でアルミ箱の開発製造をはじめとしたときから今日に至るまで田出敏行、田出貞夫、田出実はそれぞれ分担業務は異つていても全く同じ立場で協力して 事をし父である被告人田出は右三名に対し待遇等においても差別することはなかつた。殊に個人経営当時は給与も殆んど同じであつたのである。

そして法人組織になつてからは、法人の規模等から右兄弟三名とも取締役にすることができず、長男である敏行のみが取締役になつたものの、右兄弟三名の担当業務は個人当時となんら変るところがなく、従つて給与の面で右三名の間に格差を設けることはできなかつた。ただ表面上は他の社員との関係で貞夫、実の両名に対し取締役である敏行と同額の給与を出すことができなかつたため、簿外給与の取扱をせざるを得なかつたのである。

別表九によれば、法人一期及び二期の貞夫、実の両名の公表給与と簿外給柄は全く同一であり、敏行の公表給与(法人一期の簿外給与三〇万円を含めて)との差額は、法人一期において三五万八、〇〇〇円、同二期において一四万円の少額であつてほぼ敏行の給与と貞夫らの給与は同額である。しかも貞夫らの簿外給与は一時に或は不定期に支給されたものではなく、毎月給与支給日の数日後に一定額が銀行の貞夫ら名義の口座に預入支給されているのである。もしこれを前述した父から子に対し贈与したものであるならば、敏行に対しても同様の贈与がなされるべきである。

個人当時敏行ら兄弟三名を差別なく取扱つてきた被告人田出が、法人になつてから三名を差別して取扱う理由はなく、結局貞夫、実に支給された簿外給与は正しく給与である。

五、以上述べた棚卸、仕入及び簿外給与について弁護人らの主張に基く個人一期、二期、法人一期、二期についての損益計算及び棚卸計算は別紙三ないし六の通である。同表によれば個人、法人各期の総所得金額は次のとおりである。

個人一期 (三、四六二万五、六七四円

(原判決より三七六万七、五八二円減)

個人二期 八一一万二、〇三七円

(原判決より 七八万三、九八四円減)

法人一期 五、一九六万四、七三九円

(原判決より五四七万二、〇九〇円減)

法人二期 四、一一五万八、四一七円

(原判決より二一五万二、四一六円減)

しかるに原判決は棚卸、仕入簿外給与についてすべて検察官主張とおりの事実を認定したが、これは証拠の価値判断を誤つた結果事実を誤認したものであつて破棄を免れないものと思料する。

二、量刑不当の主張

(一) 被告人らの 脱税額はかなりの多額にのぼるが、その目的動機は、被告人田出が、将来企業を拡大し、また不況等に備えた事業資金確保のためのみであり、只管事業のみに生き勤倹貯蓄を旨とした被告人田出の生活態度は量刑上十分考慮されなければならない。

被告人田出は一〇年余前細々と遅毛止め製造の家内工業を営み、子供八名を抱えて苦しい生活を送つていた項、銀行に三〇万円の事業資金借入の申込みをして拒絶されていらい、独力で事業資金を貯える決心をし仕事に励むとともに新製品の開発に工夫を重ねた結果アルミ箱の製造に成功し、その販売業積が飛躍し従つて所得も増加したため、その一部を 脱して将来に備えた事業資金として貯えたものである。

また被告人田出は日常生活において過去の苦しい経験を忘れず勤倹貯蓄に努めていたことは、査察における調査によつても不動産や資金属、株等を購入していなかつたことからも十分認知できるものである。

現今の経済事情の下では一且資金繰りで挫折した場合銀行、取引先等からは殆ど見向きもされないのが実情であり、従業員その他の面倒は自力で解決しなければならない窮地に追込まれ、また自らも倒産に至るのが現実である。被告人田出はかかる場合に備えて悪いと知りながら脱税の途を選んだのであつて、同人が懸念した事態は現実となつて発生したのである。即ち昭和四七年九月個人、法人を通して最も大きな取引先であつたツバキ株式会社が倒産し、法人も約三、〇〇〇万円の債収が回収できなくなり倒産寸前の窮地に陥つたが、幸いこれまでの業積等から銀行の信用を得て資金融資をうけその窮地を脱したのである。

(二) 被告人田出は査察をうける二年前の昭和四二年二月に従来の個人経営から法人組織に変更しているが、これは従来の社撰な経理を改め、できるだけ経理を明朗にし脱税を徐々に少くし進んでなくそうとしたからである。法人になつてからも引続き脱税の金額が個人当時より年々減少していた事実からも十分理解できるものと考える。

更に本件後は正規の税理士に相談しその指導の下に経理を明朗にすることに努めており、かかる被告人田出らの姿勢態度は十分勘酌されねばならない。

(三) 被告人らの脱税の方法は単に売上げ除外と現金仕入れという極めて単純な方法にとどまり、本件発覚後はなんら隠すところなく懲憑書類を提出し、修正申告を行つて諸税の納付に速やかに応じているのである。個人、法人を併せて被告人ら納付したものは、査察前の当初の所得税、法人税合計一、三七五万三、九一〇円、査察後の修正申告により重加算税延滞税も含めて六、六四四万四、三〇〇円、それに伴う地方税二、一六一万三、六四〇円合計八、八〇七万七、九四〇円、総合計一〇、一八三万一、八五〇円である。右の諸税額は査察対象年度である個人一期、二期及び法人一期二期の所得額にほぼ四敵し租税犯に対する課税を免れた所得を強制的に徴収することにより脱税は却つて損をするということを戒、他戒せしめて租税道義の向上を企図目的制裁は既に十分達しているのであつて、この上更に原判決の如く個人及び法人に高額の罰金を科し旦つ個人に対し懲役刑を科することは実質的には二重処罰の結果となんら異らない。

叙上の諸事情を考慮すれば個人、法人に対しては軽度の罰金にとどめ、今後優良納税者として成長せしめることこそ刑事制裁の目的に沿うものと思料される。原判決の量刑は懲役刑、罰金刑ともに著しく重きにすぎ到底破棄を免れない。

以上述べたとおり原判決は事実を誤認し旦つその量刑が著しく重きに失するのでこれを破棄し更に適正な裁判を求めるため本件控訴に及んだ次第である。

別表一

売上と在庫(欄卸)高と対比率

<省略>

(別表二の一)

法人第二期(売上除外架空仕入補正後)の荒利益率(昭和43.2.21昭和44.1.31日)

<省略>

(別表二の二)

法人第三期の荒利益率(昭和44.2.1 昭和45.1.31日)

<省略>

(別表三、)

被告人らの主張する損益計算

個人第一期(昭和四一年一月一日より同四一年一二月三一日)

第一収入の部 一〇四、四一三、九一七円

1 売上 九四、一七三、四六二円

内訳省略

2 期末たな卸 一〇、二四〇、四五五円

脱税額計算書金額 二、七一四、〇〇〇円

被告人主張金額 一〇、二四〇、四五五円

差引増差額 七、五二六、四五五円

計算

各期末たな卸高の計算は法人第三期の荒利益率五〇パーセント

同第二期の荒利益五〇・二パーセントなり荒利益率五〇・二パーセントを基にして算定したものである

3 雑収入 二、〇七〇円

内訳省略

第二の支出の部

1 期首たな卸 △一一、九二六、九六七円

脱税額計算書金額 △三、六三五、〇〇〇円

被告人主張金額 △一一、九二六、九六七円

差引増差額 八、二九一、九六七円

2 仕入高 △四五、二一一、八七三円

昭和四一年度の総仕入高である。

脱税額計算書金額 △四二、二一一、八七三円

被告人主張金額 四五、二一一、八七三円

差引増差額 三、〇〇〇、〇〇〇円

被告人の主張

脱税額計算書によれば不明出金分三、〇八八、二七八円を店主貸として認定しているが、その中三、〇〇〇、〇〇〇円を仕入に支払つたものである。

3 経費 △一一、七八七、八七五円

内訳省略

但し日神貿易(株)関係の割戻金一六一、一四七円と東京出張旅費一二万円を含めた金額である。

4 減価償却費 △五四〇、一二一円

5 不突合損 △三三、三五六円

6 専従者給与 △一四二、三〇〇円

第三総所得金額 三四、六二五、六七四円

内訳

(一) 事業所得 三四、七七一、二二五円

(二) 雑所得 二八、〇七七円

(三) 譲渡所得(譲渡損) △一七三、六二八円

内訳省略

脱税額計算書金額 三八、六七四、四〇三円

被告人主張金額 三四、六二五、六七四円

差引増差額 △四、〇四八、七二九円

個人第二期(昭和四二年一月一日から同年一二月三一日)

第一収入の部

1 売上 二八、九〇七、四五〇円

当期総売上金額である。

内訳のうちワコー工業(株)(個人からの引継分)については

脱税額計算書金額 二、四五三、九六六円

被告人主張金額 九、八一六、四三七円

差引増差額 七、三六二、四七一円

が含まれている。

第二支出部

1 期首たな卸 △一〇、二四〇、四五五円

被告人が個人第一期の期末たな卸で主張する金額である。

2 仕入

脱税計算書金額 △八、四八三、三〇七円

被告人主張金額 △九、〇八三、三〇七円

差引増差額 六〇〇、〇〇〇円

被告人の主張

脱税額計算書によれば不明出金分六〇〇、〇〇〇円を店主貸として認定しているが、これは仕入に支払つたものである。

3 営業経費 △三、七三七、七〇八円

昭和四二年一月一日から同年二月二五日迄の経費の合計である。

但し租税公課二、二三五、五〇〇円は所得金額の増減により多少変動がある。

なお日神貿易(株)関係の割戻金四三、六〇七円と東京出張旅費二万円は含まれている。

4 減価償却費 △一一八、四七一円

第三総所得金額

内訳

(一) 事業所得 五、七二七、五〇九円

(二) 給与所得 二、六六五、〇〇〇円

(三) 譲渡所得 △四九三、九六八円

内訳省略

(四) 雑所得 二一五、四九六円

脱税額計算書金額 八、九四一、六二八円

被告人主張金額 八、一一二、〇三七円

差引増差額 八二九、五五一円

法人第一期(昭和四二年二月一日から同四三年一月三一日)

第一収入の部 五二、〇〇八、三九一円

1 商品総売上高(除外) 四五、八二四、七四〇円

内訳省略

2 期末たな卸 六、一五二、四一五円

脱税額計算書の期末たな卸高 一、九九五、二五四円

被告人主張期末たな卸高 八、一四七、六六九円

差引増差額 六、一五二、四一五円

3 受取利息 三一、二三六円

第二支出の部

1 商品の仕入高 △一〇、八六七、三四三円

内訳

五光メツキ工業(株) 七一七、〇〇〇円

ツバキ(株)から 一三九、八七二円

田出十一郎からの仕入 九、八一六、四三七円

脱税額計算書金額 二、四五三、九六六円

被告人主張金額 九、八一六、四三七円

差引増差額 七、三六二、四七一円

簿外仕入 △二、六四八、〇〇〇円

被告人の主張

脱税額計算書によれば不明出金分四、〇六八、〇九三円を社長仮払金として認定しているが被告人は従業員給料の簿外支給分一、四二〇、〇〇〇円とその他の仕入に二、六四八、〇〇〇円を支払つたものである。

2 簿外雑品 △一一、七九二円

3 簿外車両の売却にかかる当期中の損失額 △一六四、〇六五円

4 簿外給料 △一、四二〇、〇〇〇円

被告人の主張

簿外給料の支給は脱税の手段として支払つたものではなく社内の労務対策上、簿外として支払つたものである。したがつて毎月経常的に支払つており受給者は毎月給料と認識して受領しているものである。

5 営業経費 △一四七、四六一円

日神貿易株の割戻金である。

当期利益金(犯則所得) 三六、七四九、七三〇円

公表金額当期利益金 一三、二一五、〇〇九円

総所得金額 五一、九六四、七三九円

法人第二期(昭和四三年二月一日から同四四年一月三一日)

第一収入の部 二九、三七二、六四〇円

1 商品総売上高 一九、六七九、八一五円

2 受取利息 九〇六、一〇一円

3 商品仕入高(架空) 二、九八六、七二四円

4 期末たな卸高 六、〇〇〇、〇〇〇円

被告人の主張

脱税額計算書によれば被告人の公表決算計上額を期首期末とも採用しているが被告人は期首期末とも六、〇〇〇、〇〇〇円程除外したと申立てている。

脱税額計算書計上額 三、八八〇、四〇〇円

被告人主張金額 九、八八〇、四四〇円

差引増差額 六、〇〇〇、〇〇〇円

第二支出の部 一三、七七四、九六〇円

1 雑費 △一八五円

2 支払手数料 △二九八、六七〇円

3 租税公課 △五、一二七、二四〇円

末納事業税の引当損計算額であるが前期総所得金額増減により多少変動がある。

4 車両売却損 △一九六、四五〇円

5 期首たな卸 △六、一五二、四一五円

被告人の主張

脱税額計算によれば被告人の公表決算計上額を期首期末とも採用しているが被告人は期首期末とも六、〇〇〇、〇〇〇円程除外したと申立てている。

脱税計算書計上額 一、九九五、二五四円

被告人主張額 八、一四七、六六九円

差引増差額 六、一五二、四一五円

6 簿外給料 △二、〇〇〇、〇〇〇円

被告人の主張

簿外給料の支給は脱税の手段として支払つたものではなく社内の労務対策上簿外としたもので受給者は毎月の給料として認識し受領しているものである。

当期利益金(犯則所得) 一五、七九七、六八〇円

公表金額当期利益金 二五、三六〇、七三八円

総所得金額 四一、一五八、四一八円

別表四

法人第一期の期首棚卸計算(個人から法人に引継いた在庫)

1.総売上高 156,864,531

2.売上原価 78,118,537

売上156,864,531-(売上、156,864,531×0.502)=78,118,537

3.期首棚卸(田出十一郎からの仕入高) 9,816,437

原価+期末棚卸-仕入=

78,118,537+8,147,669-76,449,769=9,816,437

別表五

個人二期の期首棚卸の計算

1.総売上高 28,907,450 (期末棚卸高を含む)

2.売上原価 19,323,762

28,907,450-(28,907,450-9,816,437)×0.502=19,323,762

3.期首棚卸 10,240,455

原価+期末棚卸-仕入=

19,323,762+0-9,083,307=10,240,455

別表六

個人一期の期首棚卸の計算

1.総売上高 94,173,462

2.売上原価 46,898,385

売上94,173,462-(94,173,462×0.502)=46,898,385

3.期首棚卸高 11,926,967

原価+期末棚卸高-仕入=

46,898,385+10,240,455-45,211,873=11,926,967

仕入売上対比表

<省略>

<7> 44.4.10.田出敏行押証1.2. 44.4.22.田出敏行質問てん末書。

<8> 同上 並に 44.4.10.長谷川製作所押証1.2.仕入帳。

<9> 同上

<10> 同上 並に 44.4.10.松葉屋押証4.仕入帳。

<11> 44.4.10.田出敏行押証法人1

(別表七)

昭和42年度

<省略>

<1> 44.4.10.ワコー工業押証1.S42.2~S43.1元帳綴買掛金の部。

<2> 44.7.17.田出敏行質問てん末書により国税局認定。

<3> 44.4.10.ワコー工業押証1元帳綴 44.4.10ワコー工業押証5.売上帳綴。

<4> 44.4.10.ツバキ(株)八尾押証3仕入先元帳 押証94納品書綴。

<5> 44.4.10田出敏行押証1.2. 44.4.22田出敏行質問てん末書、44.6.12細川喜一郎納品書領収書綴。

<6> 44.4.10.田出敏行押証1.2. 44.4.10.日神貿易押証2.仕入補助簿。

先旬日別明細売上表

<省略>

(別表八)

昭和42年2月~4月取引

<省略>

<1> 44.4.10ツバキ八尾押証3.仕入先元帳 押証94.納品書綴。

<2> 44.4.10田出敏行押証1.2、44.4.22 田出敏行質問てん末書。44.6.12 細川喜一郎納品書領収書綴。

<3> 44.4.10田出敏行押証2、 44.4.10 日神貿易押証2仕入補助簿。

<4> 44.4.10田出敏行押証1、 44.4.22 田出微行質問てん末書。

<5> 同上 並に 44.4.10 松葉屋押証4.仕入帳。

<6> 同上 並に 44.4.10 長谷川製作所押証1.2 仕入帳。

比表

<省略>

(別表九)

給与対

<省略>

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