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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)1856号 判決 1979年10月30日

控訴人

川崎繁三

右訴訟代理人

露口佳彦

外二名

控訴人

住田徳市

右訴訟代理人

石橋利之

外二名

被控訴人

近江商事株式会社

右代表者

福永潔

右訴訟代理人

今堀孝人

補助参加人

株式会社中央相互銀行

右代表者

渡辺脩

右訴訟代理人

倉橋春雄

主文

一、本件控訴はいずれもこれを棄却する。

二、控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

第一<省略>

第二<証拠>を総合すると、

(一)  昭和二八年一月二六日、福永武雄は被控訴人(商号、株式会社中川商店)を設立し、代表取締役に就任した。

(二)  同年五月頃、被控訴人は貸ビル業を営む目的で長谷川工務店との間に本件建物の建築工事請負契約を締結した(目的建物、原判決添付別紙第一目録記載の鉄筋コンクリート造四階建事務所)。

(三)  同年六月頃、長谷川工務店が本件土地上の旧木造建物を取毀ち地下の堀下げ工事を施工して土砂を搬出した段階で、本件建物(貸ビル)に入居する予定であつた東海銀行、早川電機が入居しないことになり、その前納金から工事代金の前払が受けられなくなつたところから、同工務店はそれまでの工事代金債権を放棄して請負契約を合意解約した。

(四)  同月二〇日被控訴人はその商号を周防商事株式会社と変更した。

(五)  同年七月初旬頃、被控訴人は、川崎組こと控訴人川崎に本件建物の残工事を依頼し、口頭でその請負契約をして、同控訴人は同月末頃着工した。

(六)  同年七月八日付で福永武雄は控訴人川崎の依頼により、同人が他から融資を受けるための必要書類として福永武雄個人を注文者とする請負契約書(乙第一号証)に押印した。

(七)  同月二三日控訴人川崎は滝北静男から金二〇〇万円を借用し、その譲渡担保として本件建物を同人に譲渡した。

(八)  同年八月頃控訴人川崎は既に長谷川工務店によつて八分どおり出来ていた地下の堀下工事を続行し、木枠を囲い栗石、砂、鉄筋を入れたものの、資金不足により自らコンクリートを買入れることができないため、被控訴人の方で寺沢商会からセメントを買入れて提供し基礎工事を完成させた。しかし、その後控訴人川崎は資金難から工事を中止し一時身を隠していた。

(九)  同年九月中頃、川西仁三郎がその後を引継ぎ同人の取引先から木材、セメント等の資材を買入れて工事を再開し、ともかく一階壁部分のコンクリート打ちまでを施工したが、その段階で川西はいつまでも援助できないと通告して工事を中断した。

(一〇)  同年一〇月頃、被控訴人代表者福永武雄、川西及び一たん身を隠していた控訴人川崎とが一同に会し、従前の請負契約を解消して爾後川西の信用で資材を入れ、控訴人川崎はその使用する労務者、技術者を継続して工事にあたらせ、その資材代金、労賃など一切は被控訴人が支払うこととし、爾後、被控訴人がその計算と責任で工事をすすめるいわゆる常傭形式類似の方法で工事を再開した。

(一一)  同年一二月被控訴人は補助参加人中央相互銀行から一、〇〇〇万円の融資を受けた。

(一二)  同月末頃には本件建物のコンクリート外郭部分が八、九割程度完成した。

(一三)  翌昭和二九年一月には、本件建物に塔屋コンクリート部分を塗り上げて外郭部分のコンクリート施工が出来上り、窓サツシが取付られ、本件建物は未完成ながら独立の不動産である建物となつた。

(一四)  同月八日、本件建物につき前示(七)の滝北の申請にかかる仮登記仮処分により職権で控訴人川崎を権利者とする所有権保存登記(以下、第一保存登記という)がなされ、滝北を権利者とする嘱託による所有権移転請求権保全の仮登記がなされた。

(一五)  同年二月九日、本件建物につき被控訴人が所有権保存登記をし、補助参加人に対する根抵当権設定登記を了した。

(一六)  同年六月、内外装工事も完成されて本件建物が竣功し、控訴人がその使用を開始した。

(一七)  被控訴人は、未完成建物のうち少なく見てもその価格の八割以上の材料、工賃を支出しており、控訴人川崎の出捐によつて施工した工事部分は大きく見てもその二割を越えることはない。

以上の各事実が認められ、<る。>

第三請負契約に基づき建築された建物の所有権の帰属については、個々の請負契約の具体的内容に即した当事者の意思を基準として決すべきであり、請負人が全材料又は主要材料を提供して自己所有地又はその使用権を有すると認めるべき土地に建物を建築する場合など完成建物の所有権を請負人に留保する特段の意思が認められる事情のないかぎり、注文者が全材料又は主要材料を提供した場合などはもとより、請負人自身が敷地利用権をもたない場合において請負代金が部分払ないし出来高払とされている通常の場合には完成建物の所有権は引渡をまつまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと解すべきである(最判昭四四・九・一二判時五七二号二七頁、大判昭七・五・九民集一一巻八号八二四頁など参照)。もつとも、建築途中の未だ独立の不動産にいたらない段階で請負契約が合意解約され、第三者が材料を提供して独立の不動産である建物に仕上げた場合など、当事者双方の意思の合致が推認できない場合には民法二四六条二項のいわゆる加工の法理によつてその所有権の帰属を決するほかはない(最判昭五四・一・二五判時九二一号八七頁参照)。

本件請負契約は、前認定のとおり、当初請負人である控訴人川崎において材料を提供する約定であつたが、その後前認定(一〇)のとおり注文者である被控訴人において材料代金、労賃など一切を支払い、その計算と責任で工事をすすめるいわゆる常傭形式類似の方式に切替えられたものであるが、これによつて注文者の指図権が強くなり雇傭に近くなるものの、なお仕事の完成を目的とする請負の法的性質を失わないものと解される。しかも、請負人である控訴人川崎が本件敷地利用権を有していたとは認められないし、注文者である被控訴人において主要な材料の代金、労賃を提供したものであるから、本件建物の所有権は引渡の有無を論ずるまでもなく、完成と同時に原始的に注文者である被控訴人に帰属するものというべきである。のみならず、本件において、前示当初の請負契約の切替によつて、請負契約が合意解約され、以後たとえ被控訴人の自営工事となつたとしても、この場合には、建築途中の独立の不動産にいたらない段階で請負契約が合意解約され第三者が材料を提供して独立の不動産である建物に仕上げた場合に準じて、前認定(一三)の未完成ながら独立の不動産に仕上げられた昭和二九年一月の時点において、被控訴人が施工した工事及び材料の価格と控訴人川崎のそれとを比較して民法二四六条二項に基づき所有権の帰属を決すべきところ、前認定の各事実を考え併せると前者が後者を遙かに超えるものと推認できるから、本件建物の所有権は控訴人川崎にではなく、被控訴人に原始的に帰属するものといわねばならない。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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