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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)51号 判決 1976年1月23日

控訴人(附帯被控訴人)(以下単に控訴人という。) 渡辺八重子

右訴訟代理人弁護士 岩田孝

同 安藤恒春

被控訴人(附帯控訴人)(以下単に被控訴人という。) 田中博之

右訴訟代理人弁護士 中村善胤

同 多尾弘

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求(附帯控訴による当審新請求を含む。)を棄却する。

訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  請求原因(一)・(二)の事実及び(三)のうち本件貸地の賃料が毎年三月末日に一年分先払いであること、被控訴人主張の通告書及び内容証明郵便を控訴人が受領したことは、当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実に≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めうる。同供述中右認定に反する部分は措信し難い。

控訴人は被控訴人から昭和三四年三月本件貸地を、普通建物の所有を目的とし、期間同五四年三月末日まで、賃料毎年三月末日限り一年分を先払の約で借受け、同三六年に翌三七年四月分から賃料一ヵ月六、〇〇〇円に増額された。同三六年九月、右地上の控訴人所有建物が焼失したため、控訴人が再築しようとしたところ、被控訴人は本件貸地を板塀で囲んで右建築を妨害した。控訴人は、妨害排除の仮処分決定をえて、同年一二月建物を新築し、戸締りをして施錠をしていたところ、被控訴人は、同三七年一二月右建物を取り毀したうえ、本件貸地をトタン塀で囲んで施錠し、遅くとも同三八年一月一日から早くとも同四八年七月末日まで控訴人に使用収益をさせる義務を全面的に履行しなかった。

三  右認定によれば、被控訴人の本訴請求中、昭和三九年四月一日から同四八年七月末日までの間の賃料は、被控訴人が本件貸地を控訴人に使用収益をさせる義務を不履行していた期間の賃料であるから、控訴人は右賃料支払義務を負担しない。

四  賃貸人が賃貸土地を賃借人に使用収益をさせる義務を全面的に長期間不履行している間に、賃貸人がした賃料増額の意思表示は、信義に反し、無効である、と解するのが相当である。

前記認定によれば、(1)昭和三八年七月一七日付通告書により賃料増額の意思表示ありと仮定した場合の右増額の意思表示及び(2)同四六年七月一〇日付内容証明郵便による賃料増額の意思表示は、右の法理により無効である。

五  したがって、被控訴人の本訴請求中、昭和四八年八月一日から同四九年三月末日までの賃料として、控訴人は従前賃料額一ヵ月六、〇〇〇円の割合による賃料支払義務を負担したことになる。

≪証拠省略≫によれば、控訴人が被控訴人を供託者として、右期間の賃料として従前賃料額一ヵ月六、〇〇〇円の割合による金員を供託している事実を認めうる。前認定、弁論の全趣旨によれば、控訴人が右賃料額の弁済の提供をしたとしても、被控訴人が受領拒絶をするであろうことは明白であるから、右供託は有効であり、控訴人が負担した右期間の賃料債務は右供託により消滅した。

六  被控訴人の当審(2)の主張は、本件訴訟の経過に照し採用し難い。

七  よって、被控訴人の請求(附帯控訴による当審新請求を含む。)は理由がないからこれを棄却すべく、右と異なる原判決中控訴人敗訴部分を取消し、訴訟費用の負担について民訴法九六条・八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 入江教夫 和田功)

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