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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)890号 判決 1977年3月01日

控訴人

増田寅夫

右訴訟代理人

猪野愈

外一名

被控訴人

今井済一

右訴訟代理人

佐賀義人

外一名

主文

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、本判決添付物件目録一記載の不動産につきなされた原判決添付登記目録(一)の(4)、(二)の(4)の各登記、本判決添付登記目録一記載の所有権移転登記(以下本件本登記という)、本判決添付物件目録二記載の建物につきなされた原判決添付登記目録(一)(二)の各登記の各抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因事実及び本件本登記の存在については、当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、本件各不動産につき原判決添付登記目録(一)(二)の各登記(以下本件(一)(二)の各登記という。)がなされた経緯として、次の事実を認めうる。

控訴人は、その頃京都相互銀行から強制執行を受ける虞れがあり、これを免れるため、陳明植と図り、本件土地建物につき、登記原因がないのに、石川義雄、陳臣雄(いずれも明植の甥)を名義人とする(一)の各登記を経由した。その後、今井真(被控訴人の息子)は、控訴人に対し、明植は悪い奴だから右各登記をそのままにしておくのは危険だといい、登記名義人を被控訴人に変えることをすすめ、控訴人はこれを承諾した。次いで、控訴人は真を通じて明植に対し右各登記の抹消を求め、明植は右求めに応じて抹消に必要な義雄、臣雄名義の委任状、印鑑証明書等を真に交付し、被控訴人は右事実を知りながら右書類を用いて本件(二)の各登記をした。右各登記に際し、被控訴人は金銭の交付を全くしていない。

2 被控訴人は、本件(二)の各登記は、昭和四二年一〇月一六日被控訴人が控訴人に一五〇〇万円を貸渡し、その貸金債権を担保する目的でなされることにつき、控訴人、被控訴人間に合意があつたと主張し、被控訴人は原当審において右主張に添う供述をするが、右供述は次の理由及び前掲各証拠に照らして措信し難い。

被控訴人は、右一五〇〇万円は、パチンコ屋をしてもうけた金を手許に保管していたものであるというが、大金を現金のまま手許におくことは不自然であり、パチンコ屋をしてもうけたという点も、被控訴人は昭和三九年以来堅田でパチンコ屋をしていたが、さしたる理由もないのに(被控訴人は妻の病気が原因だというが信じ難い。)、同四二年六月廃業していることが被控訴人の原当審供述により認められること、同四四年一一月四日被控訴人が控訴人から五万円を借受けていることが、<証拠>により認められることに徴し、首肯し難い。又、右貸金については期限の定めがなく、利息は日歩四銭一厘であつたが、早く返せば不要の約だつたという点も不自然で首肯し難い。もつとも、控訴人の原審供述により成立を認める乙第一号証には、控訴人が被控訴人から一五〇〇万円を受取つた旨の、控訴人の原当審供述により成立を認める乙第五号証には、その返済の猶予を請う旨の、いずれも控訴人名義の記載があり、又成立に争のない乙第三号証によれば、控訴人、被控訴人間において成立した起訴前の和解調書の中に、控訴人は被控訴人に対し一五〇〇万円に利息をつけて返済する旨約した条項があるが、甲第一三号証、控訴人の原当審供述によれば、乙第一号、第五号証が作成された昭和四五年当時(乙第一号証の日付は同四二年一〇月一七日となつているが、それは日付を遡らせたためである。)、控訴人は精神的肉体的に疲労していたところ、被控訴人から乙第一、第五号証の作成及び起訴前の和解を求められ、これに応じなければ本件土地建物上の権利を売つて韓国へ帰り後は暴力団に任すといわれ、やむなく右要求に応じたことを認めうるから、右乙号証の記載内容は、控訴人の真意を現わすものではなく、被控訴人はこれを知つていたとみるのが相当であり、これらを以て前記認定を左右する資料となしえない。

三右認定によれば、本件(一)の各登記原因たる各契約は、虚偽表示であり、被控訴人がこれを知りながら被控訴人への権利譲渡がないのに権利移転の付記登記をした際にも、実質関係を具備するに至らなかつたこと(被控訴人主張の被担保債権についての合意不存在)を認めうるから、本件(一)(二)の各登記及び本件登記は無効である。

四本件のように、甲所有の不動産について乙のためなされた抵当権設定登記及び停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転仮登記(右各登記をA登記という)につき、それぞれ丙に対する権利移転の付記登記(B登記という)が経由された場合、甲が、丙を被告とする一つの訴で、A登記の抹消登記手続請求(A請求)とB登記手続請求(B請求)をし、A請求を認容するときでも、甲はB請求につき訴の利益を失わず、B請求を認容しうると解するのが相当である。けだし、(1)A、B両請求は、論理的に両立する関係にあるため、単純併合の関係にあり、(2)A請求認容の判決の確定前であるため、B請求につき訴の利益を否定する理由がない(最高裁昭和四四年四月二二日判決、民集二三巻四号八一五頁に従えば、丙に対するA請求認容の確定判決に基づいてA登記が抹消されるとき、B登記は職権で抹消されることになるが、設例の場合、B請求につき訴の利益を否定し、B請求につき訴却下の判決をすると、A請求認容の判決が上訴審で取消・破毀され、A請求棄却の上訴審判決が確定するとき、甲はB請求につき新訴提起の必要が生じる。設例の場合、B請求につき訴の利益を肯定しても不当な結果は生じない。)からである。

従つて、控訴人の本訴請求は理由がある。訴の変更に関する控訴人の主張は正当であり、被控訴人の主張は採用できない。

五よつて、本訴請求を認容し、これと異なる原判決を取消し、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 和田功 蒲原範明)

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