大阪高等裁判所 昭和49年(ラ)120号 決定 1974年9月05日
抗告人 小島和男(仮名) 他一名
相手方 小島茂(仮名)
主文
本件各抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
一、本件各抗告の趣旨は、「原審判を取消す。本件を大阪家庭裁判所に差戻す。」との裁判を求めるにあり、その理由は別紙記載のとおりである。
二、抗告人らの申立の趣旨、申立の実情及びこれに対する相手方の主張は原審判の理由(原審判一枚目裏一二行目から同四枚目裏二行目まで)に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。但し、原審判一枚目裏一三行目に「三名」とあるのを「二名」と、同二枚目表一行目に「九月八日」とあるのを「七月一八日」と、同二枚目表三行目に「同小島育子」とあるのを「利害関係人小島育子」と、同七行目から八行目にかけて「申立人三名」とあるを「申立人両名及び利害関係人小島育子」とそれぞれ改める。
三、当裁判所の判断
(一) 抗告理由一1について。
記録によれば、抗告人代理人が「家事審判申立書」と題する書面を大阪家庭裁判所に提出したのに対し、同裁判所はこれを家事審判法第九条第一項乙類審判事件として立件せず、家事調停事件として立件したこと、その後五回に亘つて調停期日が開かれたが抗告人及び抗告人代理人は異議なく調停手続の進行に応じていることが認められる。
ところで、乙類審判事件の対象たりうる事件については、当事者は調停の申立をなすか、審判の申立をなすかについては選択しうるものである。したがつて、審判の申立がなされたにも拘らず調停事件として受理立件した点において所論の如き違法があるが、家事審判法第一一条によれば、乙類審判事件は家庭裁判所において何時でも職権で調停手続に付することができるのであるから、裁判官が調停期日を指定し、抗告人が異議なく調停手続の進行に応じたことにより、右違法は治癒されたものと認めるのが相当である。
(二) 抗告理由一2について。
記録によれば、抗告人代理人は昭和四八年八月一日当初の利害関係人小島久子の委任状を添付して同人を申立人とし、利害関係人小島育子を削除することを内容とする家事審判申立書中訂正申立書を提出したことが認められる。右訂正申立により、小島久子は申立人としての地位を取得したものというべきであるが、遺産分割の審判は相続人全員について合一に確定することを要するから、相続人の全員が申立人、相手方又は利害関係人として審判手続に関与することが必要であり、抗告人代理人の右訂正申立によつて小島育子が利害関係人の地位を喪失するものではない。
したがつて、原審判が小島育子を申立人とし、代理人を申立人両名及び小島育子の三名の代理人と表示したのは、明白な誤記と認められる。しかしながら、右の誤記は審判に影響を及ぼすべき違法とは認められない。
(三) 抗告理由一3について。
家事審判事件においては、事件ごとにその種類や具体的状況に応じた審理方式がとられるのであつて、関係人に対し法定の手続での審尋を受ける権利を保障するわけではなく、適当と認める方法で審理すれば足るものと解すべきである。
ところで、記録によれば、本件は前記の如く調停手続を経ており、原審裁判官は、家庭裁判所調査官をして申立人たる抗告人小島和男及びその代理人並びに相手方及びその代理人について争いの実情及び事件についての希望意見等事実の調査をなさしめ、その結果に基づいて審判していることが認められる。
したがつて、調停不調となつた後において、原審が申立人たる抗告人を審問しないで審判したからといつて違法であるとはいえない。
(四) 抗告理由二について。
記録によれば、原審判には所論指摘(但し、抗告理由二1に「九月一八日」とあるのは「九月八日」の誤記と認める。)の誤記のあることが認められるが、右の誤記は原審判に影響を及ぼすべき違法とは認められない。
(五) 抗告理由三ないし五について。
抗告人らの主張は、要するに、本件遺産分割申立の対象となつている株式二〇万株(以下本件株式と略称する)について、原審判が被相続人小島靖雄が小島昭子に贈与したものと認めたのは事実誤認である、というのである。
記録によれば、相手方は昭和四三年一二月一六日抗告人両名及び利害関係人の三名を相手方として大阪家庭裁判所に遺産分割の申立をなし、昭和四四年五月二三日調停が成立したこと(大阪家庭裁判所昭和四三年(家イ)第三四七二号遺産分割調停事件)、同事件における争点は本件株式の小島昭子への生前贈与の有無であつたが、抗告人らは結局これを認めて、本件株式を遺産から除外して調停が成立するに至つたことが認められる。然るに、抗告人らは、右生前贈与を認めたのではなく、右生前贈与を認めることに対する反対を撤回する代りに相手方の小島英樹に対する冷遇を改めることを条件として調停を成立せしめたと主張し、相手方において右調停の調停条項(五)項(当事者双方は将来円満に親族関係を維持していくこと)に違反したことを理由として本件株式は被相続人の遺産に属するものとして改めて遺産分割を求める、というのである。しかしながら、記録によつても、抗告人らが、その主張のように条件付にて調停を成立せしめたとはとうてい認められないし、また、前認定の本件株式の生前贈与の承認を撤回することについての正当事由は認められない。しかも、記録によれば、前記調停条項中には「(四)今後は被相続人小島靖雄の遺産については、前各項以外には何らの申出をしないこと。」との条項があるのみならず、本件遺産分割の申立は前記調停の際不知の間に脱漏した遺産を発見してその分割を求めるものではないことが明白である。
したがつて、仮に本件株式が抗告人ら主張のとおり被相続人小島靖雄の遺産に属するとしても、前記調停条項(四)により抗告人らは改めて本件株式について遺産分割を申立てることは許されないものというべきである。又、本件株式が相手方主張のとおり遺産に属しないものとすれば、本件遺産分割の申立は分割すべき遺産とは認められないものについての申立ということに帰し、失当として却下を免れない。いずれにせよ、抗告理由三ないし五の主張は失当である。
(六) 結論
よつて、本件遺産分割の申立を却下した原審判は正当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 柴山利彦 裁判官 弓削孟 篠田省二)