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大阪高等裁判所 昭和49年(行コ)15号 判決 1977年1月27日

控訴人(附帯被控訴人) 中京税務署長

訴訟代理人 寳金敏明 西田春夫 ほか三名

被控訴人(附帯控訴人) 近畿土地株式会社

主文

原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取消す。

被控訴人(附帯控訴人)の請求及び附帯控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決、及び附帯控訴として「原判決を次のとおり変更する。控訴人が昭和三八年四月三〇日付でした被控訴人の昭和三六年八月一日から昭和三七年七月一三日までの年度分の所得金額を金四三一四万九七八〇円とする更正処分の内、金一七五一万八三五五円を超える部分を取消す。附帯控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の提出・援用・認否は、左記の点を附加するほか、原判決事実摘示のとおり(ただし、<省略>)であるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

元来、更正処分の理由附記は、申告に係る課税標準と調査に係る課税標準とが異なる場合において、その異なる理由を記載すべきものであるところ、本件更正処分における附記理由は、「八島輝夫に支払つた金一六〇〇万九六〇〇円は、河原町土地買入原価に算入するを不相当と認め、否認し、同人に対する仮払とする」というのであるから、それは、課税標準を構成する本件第一物件の譲渡差益に関してなされているのであり、仮払金の原価不算入なる右附記理由は、右譲渡差益についての主要事実を記載したものである。そして、右物件の売却代金が金九四五〇万円である旨の控訴人の追加主張もまた、右物件の譲渡差益に関するものである。そうすると、右附記理由と控訴人の追加主張とは、ともに本件第一物件の譲渡差益に関するものであるから、同一性を有するというべく、控訴人の追加主張は許されなければならない。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張は争う。

理由

(一)  当事者間に争のない事実、金一六〇〇万九六〇〇円が被控訴人において第一物件を取得するに要した費用であつて、損金に算入し得るものであること、第二物件が棚卸資産であり、金九六二万一八二五円は被控訴人において損金に算入し得ないものであること、及び被控訴人が第一物件を代金九四五〇万円で売却したことについては、当裁判所の認定判断も、左記の附加・訂正をするほか、原判決理由一及び二(原判決一一枚目表一行目から同一六枚目裏四行目まで)説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(1)  原判決一一枚目裏四行目に「覆えす」とあるのを「覆す」と、同一二枚目裏六行目と同一三枚目表一行目とに「暴力団関係」とあるのをそれぞれ「暴力団関係者」と、同一二枚目裏一一行目に「ゆう」とあるのを「いう」と、同一三枚目裏二行目に「代金額、売主」とあるのを「代金額や売主」と、その末行に「行なわれ」とあるのを「行われ」と各訂正する。

(2)  原判決一四枚目裏一一行目の「主張しているが、」の次に「被控訴人が第一物件を昭和三七年七月一八日に加藤博俊らに対し代金七〇〇〇万円で売却したとして本件確定申告をしたことは、当事者間に争がなく、」を、<省略>を各附加する。

(3)  原判決一五枚目表末行に「係らず」とあるのを「拘らず」と、<省略>と、その八行目に「接衝」とあるのを「折衝」と各訂正する。

(二)  そうすると、被控訴人の昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日までの事業年度の所得金額は、被控訴人の申告額の金一七五一万八、三五五円に、前記金九六二万一八二五円と右第一物件売却代金中の申告遺脱分の金二四五〇万円とを加えた金五一六四万一八〇円になるところ、控訴人においては、「控訴人が本件更正処分をするに当り否認した前記金一六〇〇万九、〇〇〇円の否認が認められなくとも、右申告遺脱分の金二四五〇万円を加算すれば、被控訴人の右事業年度の所得金額は金五一六四万一八〇円であつて、本件更正処分において認定した被控訴人の所得金額である金四三一四万九七八〇円を超過するから、結局、本件更正処分は適法である」旨の追加主張をする。これに対し、被控訴人においては、原判決事実の被控訴人欄の第五(原判決七枚目表一二行目から同一〇枚目表七行目まで〔編注:本判決末尾記載のとおり。〕)摘示のとおり、控訴人の右追加主張は許されない旨を縷々主張する。そこで、その点について順次考えてみよう。

(1)  本件訴訟が準備手続に付され、当事者の主張の整理が行われて、調書が作成せられたところ、右追加主張が右調書に記載されることなく、第一回口頭弁論期日から約四年後の昭和四五年一〇月二二日の第一九回口頭弁論期日に始めて控訴人によつて提出されたものであることは、当事者間に争がない。しかしながら、被控訴人が第一物件の売却代金額を金七〇〇〇万円として確定申告をしたことは、当事者間に争がなく、弁論の全趣旨によると、控訴人においても、当初、右売却代金額を被控訴人の申告どおり金七〇〇〇万円と思料していたところ、右準備手続終結後においてその代金額が金九、四五〇万円であることを探知し、前記口頭弁論期日において右追加主張をなすに至つたことを認めることができる。以上の経緯からすれば、控訴人が本件準備手続において右追加主張を提出しなかつたのは、控訴人の故意又は重大な過失に基づくとはいえないのみならず、本件訴訟の経過に照らすときは、右追加主張の当否につき判断をなすことは、別に著しく本件訴訟を遅滞せしめるとも考えられないから、右追加主張に関し民事訴訟法第二五五条本文の適用があるとはなし難く、控訴人において右追加主張をなすことは、この面においては許されるといわなければならない。

(2)  そこで、すすんで、右追加主張の当否について考えてみよう。元来、更正処分取消訴訟は、租税債務不存在確認訴訟の性質を有するのであり、青色申告書によつて確定申告された法人税に関する更正処分取消訴訟においても、その事実上の争点は、当該法人の当該事業年度の所得金額の存否であつて、更正処分に附記された更正理由の存否ではないから、当該附記理由による所得金額の存在は認められないけれども、その附記理由以外の理由によつて、当該法人につき当該事業年度の新たな所得の存在が認められ、結局、更正処分において認定した所得金額よりも多額の所得金額が認定される場合においては、当該更正処分は違法でないということに帰着するわけである。この点につき、前記更正処分の附記理由との対比において附言するに、右の更正処分において理由の附記が求められる所以は、当該更正処分をなす者の判断を慎重ならしめて、その合理性を担保し、処分者の恣意の抑制を図るとともに、処分の相手方に対し、処分の理由を知らせて、不服申立の便宜を与えるためであると解せられる。従つて、右の理由附記は、右の趣旨・目的を達し得る程度に記載されることが必要であつて、その趣旨・目的を達し得ない程度の理由附記しかなされていないときは、当該更正処分に瑕疵あるものとして、その一事により、当該処分は失効さるべく、しかも、その瑕疵は、爾後において治癒され得ない性質のものと解さざるを得ないのである。ところが、これと異なり、その附記された理由は、右の趣旨・目的を達し得る程度に記載されていて、その理由附記という面においては、何らの瑕疵もなく、有効である更正処分の場合において、更にすすんで、その次の問題として、当該更正処分において認定した所得金額の存否ということになれば、それは、右理由附記に関する問題とは、全く別個の問題であつて、右理由附記に関する是非の論議の立場を離れ、別の見地からして、独自に判断すべき問題である。ところで、この場合に争点となるのは、当該納税義務者が当該事業年度において果して当該更正処分において認定された所得金額を獲得したか否かということであること、前記のとおりであるから、当該更正処分取消訴訟における審理の結果、更正処分に附記された理由による所得金額の存在は認められないけれども、それ以外の理由による新たな所得金額の存在が認められ、結局、当該納税義務者の当該事業年度の所得金額が、更正処分において認定された所得金額以上であると認定される場合においては、当該更正処分は、その認定した所得金額に誤りがないということになり、違法ではないということになるわけである。

この場合、右附記理由以外の理由による新たな所得金額の存在が判明し、更正処分において認定した所得金額以上の所得金額の存在が認められる場合においても、附記理由による所得金額の存在が認められない限り、当該更正処分は違法であり、取消されるべきであるという見解は、格別の法令上の根拠がないにも拘らず、前記の趣旨・目的を有するに過ぎないと解さるべき更正処分の附記理由に、その趣旨・目的を超える強い意味付けを与え、必要以上に課税庁を拘束して、租税行政の偏頗化を招き、現在の申告納税制度下において、不誠実なる納税義務者を不当に利する結果を招来するものであつて、到底左祖することができない。そうすると、更正処分取消訴訟において、更正処分庁が、更正処分に附記した理由によつては当該更正処分を維持し難い場合に、右附記理由以外の理由による当該納税義務者の当該事業年度の新たな所得金額の存在を主張・立証し、以て当該更正処分において認定した所得金額以上の所得金額の存在を裁判所に認容させ、紛争中の未確定の当該更正処分の維持を図ることは、当然に許容されるといわなければならない。そして、その場合、更正処分において認定した所得金額以上の所得金額の存在が明らかになつたとしても、更正処分庁としては、新たに判明した所得金額により再更正処分をする意図があるわけではなく、単にさきになした更正処分を維持し得れば足るとしているのであり、従つて、その税額も、更正処分所定の税額のとおりであつて、変動するわけのものでないこと勿論であるから、その場合に、事実上新たな再更正処分がなされたり、或は実質的に税額が増加し、徴収し得ない性質の租税を徴収し得る結果を招来するなどという主張は、成立の余地がないこと明らかである。

(三)  以上によれば、被控訴人の昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日までの事業年度の所得金額は、金五一六四万一八〇円であつて、本件更正処分において認定した所得金額の金四三一四万九七八〇円を超えるから、その余の点について判断するまでもなく、本件更正処分は違法な処分ではないというべく、これが更正処分の取消を求める被控訴人の本訴請求は、失当といわなければならない。よつて、これと趣旨を異にし、被控訴人の請求の一部を認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条により、原判決中、控訴人敗訴の部分を取消した上、被控訴人の請求及び附帯控訴をそれぞれ棄却することとし、訴訟費用の負担につき、同法第九六条・第八九条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 坂上弘 諸富吉嗣)

「原判決事実の被控訴人欄の第五」

第五追加抗弁に対する異議

一 本件は準備手続を経て、主張の整理が行われ調書が作成されているが、被告の追加抗弁たる事実は右調書に記載されていない。

従つて今に至つて追加抗弁事実を主張することは民訴法第二五五条の規定により許されない。

よつて右抗弁の却下を求める。

二 被告は本件第一回口頭弁論が開かれてより約四年を経過した昭和四五年一〇月二二日第一九回口頭弁論期日において始めてその追加抗弁を提出した。

右は被告の故意又は重大な過失に基づくものであつて、これがため訴訟の完結を遅延せしめることは明らかであるから右抗弁の却下を求める。

三 かりに前記主張が容れられないとしても、本件は青色申告書に対する更正処分の適否が争われているものであるから、その審理は被告が更正処分をするに当り理由とした事実の存否または法律適用の可否に限定さるべきであり、右処分の理由としていなかつた別個の事業を、本件更正処分維持のために追加抗弁として主張することは、事実上新たな再更正処分をするにほかならない。

そうして国税通則法第七〇条第一項によれば、本件確定申告の法定期限から三年を経過したあとにおいては、再更正をすることが許されないものとされているのであるから、被告が右追加抗弁を主張することの許されないことは明らかである。

四 またかりに前記主張もまた容れられないとしても、被告の追加抗弁が採用されるときは、実質的に原告に対する法人税額は増加することとなるが、すでに本事業年度に対する法人税の消滅時効期間は経過しているのであるから、右は結局納付義務の消滅した租税につき、被告に新たな徴収の権限を設定することとなりその背理であることは明らかである。

よつて被告の右抗弁は却下を免がれない。

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