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大阪高等裁判所 昭和49年(行コ)41号 判決 1979年6月28日

控訴人

志水三二

右訴訟代理人

川上忠徳

川上博子

被控訴人

灘税務署長

東正和

右指定代理人

本田恭一

ほか七名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1、2は当事者間に争いがない。

二本件各更正処分の適法性について検討する。

1  昭和四二年分および昭和四三年分の不動産所得にかかる収入金額について

(一)  控訴人主張の右収入金額中本件土地以外の土地家屋から生じた収入金額については、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件土地からの収入金額についてみるに、被控訴人の主張2の(1)および(2)(原判決一三枚目表五行目から裏八行目まで)は当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

(イ) 控訴人は、昭和四一年一一月一五日訴外会社から二三、〇〇〇、〇〇〇円を借受けた。そのほか、控訴人は昭和四二年二月二四日現在において訴外会社以外の者に対して債務を負担しており、これを訴外会社に代位弁済してもらうことになつていたので、右代位弁済の結果控訴人が訴外会社に対して負担することになる債務をも含めれば、控訴人が訴外会社に対して負担することとなる債務の合計は六五、〇〇〇、〇〇〇円に達することが見込まれた。

(ロ) そこで、控訴人と訴外会社は、昭和四二年二月二四日、控訴人所有の本件土地および地上の家屋二棟につき右債権担保のため同月二五日に売買名義で控訴人から(ただし、本件土地のうち一四番は控訴人の妻志水芳恵名義とされていたので、芳恵から)訴外会社に対する所有権移転登記をすること、ただし、これは名義上のもので真実の所有権は控訴人に帰属しているものとすること等を約し、その頃その所有権移転登記を経由した。そして、当初見込まれたとおり、控訴人は訴外会社に六五、〇〇〇、〇〇〇円の債務を負担したので、控訴人と訴外会社は、同年三月一五日、公正証書(甲第三号証の三、乙第二号証)により元本を六五、〇〇〇、〇〇〇円とし、利息を日歩四銭とするが、この元利の支払時期はあらかじめ定めず、本件土地を第三者に売却した時に一括して支払うこととする旨を約するとともに、私証書により本件土地の売却金から右貸金元金および利息ならびに本件土地の公租公課その他の費用を控除した残金を右両名が折半して取得することとするが、右売却処分前に本件土地を国鉄等に賃貸する場合にはその地代を右利息の支払に充当するため訴外会社がこれを取得することを約した。なお、国鉄等に対する右賃貸は山陽新幹線建設のためのもので、右三月一五日以前からその話が国鉄等と控訴人との間に起きていたが、右契約により訴外会社がこれを引継ぎ、訴外会社の名において賃貸借契約をすることになつたものである。

(ハ) 同月三一日いずれも貸主を訴外会社とし、本件土地のうち一五番の一部については借主を日本国有鉄道とし、期間を昭和四二年四月一日から昭和四五年三月三一日までとする、また、本件土地のうちその余の部分については借主を株式会社間組とし、期間を右と同じくする賃貸借契約が締結され、訴外会社は、昭和四二年中において日本国有鉄道から一、六〇〇、〇〇〇円、間組から四、二六〇、〇〇〇円を、昭和四三年中において日本国有鉄道から一、六〇〇、〇〇〇円、間組から六、二四〇、〇〇〇円をいずれも右賃貸借契約にもとづく地代として収受し(上記金員が国鉄等から訴外会社に支払われたことは、いずれも当事者間に争いがない。)、これを控訴人との間の前記利息充当契約にもとづいて控訴人に対する前記貸金債権の利息の一部に充当し、したがつて、控訴人は、昭和四二年および昭和四三年において訴外会社の収受した右地代相当分につき利息の支払義務を免れた。以上のとおり認められる。

ところで、控訴人は、当審において本件土地のうち一四番は控訴人の所有でなく、志水芳恵の所有であつたと主張し、被控訴人は、右主張は時機に遅れたものであると主張するが、控訴人の右新主張を許容してもそのためにとくに訴訟の完結を遅延させることはないと認められるから、この点についての被控訴人の主張は採用することができない。そこで、一四番の土地の所有者について案ずるに、<証拠>によれば、登記簿上一四番の土地はもと控訴人所有名義であつたが、昭和三九年一二月九日志水芳恵に所有権移転登記(原因・昭和三六年五月二〇日競落)がされていることが認められ、当審における証人志水芳恵および控訴人本人は、右登記簿の記載どおり芳恵が一〇〇万円で右土地を競落してその所有権を取得したものであると供述する。しかし、右証人志水芳恵の証言によれば、芳恵は昭和三四年六月一二日控訴人と結婚したものであるが、以後右の所有権移転登記を経た昭和三九年までの間において収入を伴う職業についたことのないことが認められるところ、同証人は、右の競落代金一〇〇万円は芳恵が結婚前に貯めた金員を実家の母に預けていたと供述するのであるが、にわかには当裁判所の心証を惹かない。かえつて、<証拠>によれば、控訴人は昭和四二年三月一五日自ら訴外会社との間で前記契約を締結しているのであるが、その条項においては一四番の土地も控訴人の所有とされていることが認められ、また、<証拠>によれば、本件土地の全部について訴外会社との交渉は一切控訴人がしていること、控訴人の債務のため芳恵名義の右土地も控訴人名義の他の土地とともに一括して訴外会社の所有名義に移されていること、控訴人は昭和四七年一月七日訴外会社を相手方として不動産仮処分を申請しているが、その申請書においても一四番の土地が控訴人の所有であるものと主張していることが認められ、本件における紛争の発端は昭和四四年七月一一日付でされた更正処分であつて、一四番を含む本件土地についての不動産所得が控訴人に帰属するというのがその理由の一とされているのであるが、昭和五〇年七月二九日に叙上の新主張をするまで控訴人が一四番の土地の所有権が自己に帰属していなかつたとの主張をした形跡がないこと、芳恵が控訴人の妻であるとの前記身分関係をも勘案するときは、一四番の土地が芳恵の所有であつた旨の前記証人志水芳恵、控訴人本人の供述はにわかに採用しがたく、むしろ、右土地はその所有名義にかかわらず控訴人の所有であつたと認めるべきである。

<証拠判断略>

(三)  右認定の事実によると、訴外会社の控訴人に対する貸金元本六五、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する日歩四銭の割合による利息のために本件土地について所有権移転形式による債権担保契約が締結され、それにもとづいて控訴人および芳恵から訴外会社に所有権移転登記がされたものであるが、右債権担保契約においては右所有権移転登記にかかわらず本件土地の所有権は控訴人にあるとの特約が付されていること、右貸金元本および利息の弁済期は本件土地の処分時とし(なお、利息のうち叙上国鉄等から収受される地代分については、その履行期は右収受時であると認めるべきである。)、右処分時において右元利等を控除した剰余金は控訴人および訴外会社で折半するとの約定がされていることからすれば、本件土地の所有権は右所有権移転登記にかかわらず訴外会社に移転せず、なお控訴人にあるものと認められ、訴外会社は右債権担保契約により本件土地の換価処分権能を取得し、それを確保するために右所有権移転登記を取得したものにすぎないものというべきである。もつとも、右債権担保契約においては、訴外会社は本件土地を国鉄等に賃貸することができ、右賃貸によりえられる地代を訴外会社が収受することができるものとされているが、右のとおり賃貸先は特定されており、そこからえられる地代も右の利息に充当すべきものとされ、本件土地処分時においては利息のうち右充当分は消滅したものとして清算されることになるのであるから、訴外会社が賃貸および地代収受権能を取得していたといつても、訴外会社が本件土地の使用収益権を含めた所有権の実体を取得したということはできず、その所有権は依然控訴人に帰属しているとの叙上判断を左右するには足りない。

以上述べたところからすると、控訴人は、本件土地の所有権にもとづき、訴外会社に対する債務を担保しこれを支払う手段として、本件土地を国鉄等に賃貸することによりえられる地代をもつて控訴人の訴外会社に対する利息の支払に充当することを条件としたうえ訴外会社に訴外会社名義で本件土地を他に賃貸しその地代を収受するという形態の使用権を与え、訴外会社は、その与えられた権能にもとづき本件土地を国鉄等に賃貸して地代を収受し、これをそのまま控訴人から受取るべき利息の支払に充当したものであつて、これを要するに、控訴人は訴外会社に対し控訴人所有の本件土地につき右のような使用権を与え、それにより利息充当額相当の対価を訴外会社からえたということができる。

したがつて、控訴人は本件土地の所有権にもとづき右利息充当額相当の経済利益を受けたことになり、被控訴人主張の本件土地についての収入金額は、控訴人所有の本件土地を訴外会社に使用させたことによる収入金であるというべく、所得税法(昭和四〇年法律第三三号)二六条による不動産所得に該当するものである。そして、右収入金額は、訴外会社が国鉄等から地代を収受してこれを控訴人から受取るべき利息に充当した前記各時点において控訴人に帰属したものと認めるべきである。

(四)  よつて、被控訴人のなした不動産所得にかかる収入金額の認定は正当である。<以下、省略>

(朝田孝 川口冨男 大石一宣)

別紙<省略>

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