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大阪高等裁判所 昭和49年(行ス)14号 決定 1975年8月28日

抗告人 大阪入国管理事務所主任審査官 ほか二名

訴訟代理人 麻田正勝 宗宮英俊 高見奨 西村省三 ほか二名

相手方 姜洪吉 ほか六名

主文

一  原決定中、相手方金小缶伊、同金明善、同姜又球、同姜順玉、同姜亨奎、同姜鉉洙と抗告人に関する部分を次のとおり変更する。

1  抗告人が右相手方六名に対し昭和四六年三月二三日付で発布した各退去強制令書に基づく執行は、その送還部分に限り、本案訴訟(大阪地方裁判所昭和四九年(行ウ)第四二号)の判決の確定に至るまでこれを停止する。

2  右相手方六名のその余の各執行停止申立をいずれも却下する。

二  抗告人の相手方姜洪吉に対する抗告を棄却する。

三  抗告費用のうち、抗告人と右相手方六名との間に生じた部分は同相手方六名の負担とし、その余の部分は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

別紙<省略>記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によると、相手方らは大阪入国管理事務所入国審査官より出入国管理令第二四条第四号ロ(相手方姜洪吉についてはロ及びル)に該当するとの認定を受けたので、口頭審理の請求をし、さらに同事務所特別審理官の右認定に誤りがないとの判定に対し異議の申出をしたところ、昭和四六年三月一日法務大臣より右異議の申出は理由がないとの裁決がなされ、その結果、同年同月二三日抗告人より本件各退去強制令書(以下、本件各令書という)が発布され、相手方姜洪吉は本件令書に基づく執行により大村入国者収容所に収容されたことが認められ、相手方らは昭和四九年七月二四日抗告人を被告として退去強制命令無効確認等請求の本案訴訟(大阪地方裁判所昭和四九年(行ウ)第四二号)を提起したことが明らかである。

2  そこで、相手方らに本件各令書に基づく執行の停止を求める理由があるかどうかの点について検討することとする。

(一)  先ず、相手方姜洪吉を除くその余の相手方六名(以下、相手方六名という)の本件各令書に基づく収容部分の執行停止について考えてみるに、相手方金小岳伊は明治四一年七月一五日生れの現在六八才の高令であるうえ病弱であつて到底収容に耐え得准い旨、相手方姜又球、同姜順玉、同姜奎亨、同姜鉉沫はいずれも学生であつて収容により心身に与える悪影響は甚大である旨、相手方金明善は夫(相手方姜洪吉)の収容後、老母(相手方金小岳伊)及び幼い子供ら(相手方姜又球外三名)を世話しているものであつて収容によりこれらの者の扶養及び教育をすることができない賃それぞれ主張するが、本件記録によると、相手方六名は現在仮放免の許可を受けて自由の身であり、右仮放免の許可は、その理由が存続する限り継続される見込みであることが認められるから、相手方六名に本件各令書に基づく収容部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるということができない。

(二)  次に、相手方らの本件各令書に基づく送還部分の執行停止について考えてみるに、相手方らの提起した本案訴訟の判決確定前に本件各令書に基づく送還が執行された場合、これによつて相手方らに回復困難な損害が生ずる恐れがあり、右損害を避けるべき緊急の必要があることは、右処分の性質、送還先が韓国であることなどからして容易に推認されるところである。

そして、相手方らは本案について、本件各令書による処分は重大かつ明白な瑕疵があるから無効であることなどを請求原因とするものであるところ、これに対して、抗告人は、本件各令書による処分は何らの瑕疵もないからその本案について理由がないときに当り、また、本件各令書に基づく執行の停止をすることは公共の福祉にも重大な影響を及ぼすものである旨主張するけれども、本件記録によつても、右本案について直ちに理由がないものと認めることはできないし、また、送還部分だけの執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがあると認めるべき資料は全く存しない。

(三)  したがつて、本件各令書に基づく執行は、送還部分に限り本案訴訟の判決の確定に至るまで停止すべきものであるが、収容部分については停止すべきものではないといわなければならない。

3  以上の次第で、相手方らの各本件執行停止申立は送還部分に隈り正当として認容しその余は失当として却下すべきところ、原決定は相手方姜洪吉の申立につき同趣旨であるが、相手方六名の各中立につき趣旨を異にし、本件抗告は相手方姜洪吉に対する部分につき理由がないが、相手方六名に対する部分につき一部理由があるから、原決定中、相手方六名と抗告人に関する部分を主文第一項のとおり変更し、抗告人の相手方姜洪吉に対する抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 増田幸次郎 仲西二郎 福永政彦)

【参考】第一審決定(大阪地裁 昭和四九年(行ク)第一九号昭和四九年八月九日決定)

主文

一 被申立人が申立人金小岳伊、金明善、姜又球、姜順玉、姜亨奎、姜鉉沫に対し昭和四六年三月二三日付で発付した各退去強)制令書にもとづく執行は、本案(当庁昭和四九年(行ウ)第四二号)の判決が確定するまでこれを停止する。

二 被申立人が申立人姜洪吉に対し右同日付で発付した退去強制令書にもとづく執行は、強制送還部分にかぎり、本案(前同)の判決が確定するまでこれを停止する。

三 申立人姜洪吉のその余の申立を却下する。

理由

申立人らの申立の趣旨および理由は別紙<省略>のとおりである。

本件記録によると、被申立人が申立人らに対しいずれも昭和四六年三月二三日付で退去強制令書を発付し、申立人姜洪吉はこれにもとづく執行として大村入国者収容所に収容されたことが疎明される。

申立人らは右令書発付処分の無効確認訴訟を提起したものであるところ被申立人提出の疎明資料に照らすと、本案について理由がないとする被申立人の意見は一応認められないではないようである(ただし送還先に関する論点は軽々に判断しえないものがある)けれども、この点はしばらく措き、右処分が執行されて申立人らが韓国に強制送還されることになれば、一年以内に本邦に上陸する可能性があるというような特別の事情がある場合以外は訴の利益が失われ、これを他の訴訟に変更し維持することも、国外にあつては訴訟代理人選任の有無にかかわらずきわめて困難となり、執行不停止が事実上終局判断となつて裁判をうける権利が実質的に侵害され、回復の困難な損害を被ることになるといわなければならない。申立人らに生ずるこのような結果の招来を避けあわせてその間の最低の限度の生活を維持させるためには、現状をこえて執行が進行しないようにする緊急の必要性があるというべきであり、退去強制のこのような特殊性にかんがみると、本案についての理由の有無にかかわらず(あるいは、少くとも理由のないことが一見きわめて明白でないかぎり)、すでに収容されている申立人姜洪吉については令書にもとづく執行のうち強制送還部分につき、またその余の申立人らについては令書にもとづく執行の全部につき、それぞれ将来の執行を停止すべく、それが憲法三二条の趣旨にも合致するゆえんであつて、この結論が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは考えられない。なお申立人姜洪吉については、強制送還部分以外の申立部分についてその執行を停止する緊急の必要性があるとは認められない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 藤井正雄)

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