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大阪高等裁判所 昭和50年(う)1522号 判決 1978年9月26日

被告人 田中竹暦

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人井上隆晴、同柳谷晏秀の連名作成及び弁護人阿部幸孝、同林義久の連名作成にかかる各控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は大阪高等検察庁検察官検事細谷明作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

井上、柳谷弁護人の控訴趣意中第四(理由不備)の主張について

論旨は、被告人は原審において真摯に本件過失犯の成立を争つて無罪の立証に努力し、訴因変更手続についても違法である旨を主張したのに、原判決がその判示の罪となるべき事実を認定したのみで、被告人の右各主張を採らない根拠を説明していないのは理由不備のそしりを免れないというのである。よつて検討するに、被告人が原審において真摯に公訴事実を争い被告人に過失がないとして無罪を主張してきたことは記録上これを認めることができるけれども、原判決は結局右事実について有罪と判断し、その罪となるべき事実において本件業務上過失致死の事実を詳細に認定しているところであつて、これによつて本件における主要な争点についてはおのずから判断が示されているものと認められる。実務上事案によつては被告人、弁護人の無罪(過失なし)の主張の論点について、別個に判断を示すことも、もちろんあるけれども、それは刑事訴訟法上要求されていることによるものではなく、裁判所が事案に応じその裁量によつてこれを示しているにすぎないものであつて、原判決が本件につき被告人の無罪の主張を採らない所以を一々説明しなかつたからといつて理由不備ということにはならない。また審理中に訴因の変更をした場合、右訴因変更手続の適法なる所以を判決において改めて判示すべきであるとする根拠は法律上存しないから、この点の判断がないからといつて理由不備というのも当らない。結局論旨は理由がない。

阿部、林弁護人の控訴趣意中二の(二)(理由不備)の主張について

論旨は原判決は注意義務の点について「ワイヤロープを右電線に接触させて前記作業員らに感電させる危険があることが予想されたのであるから、このような場合、クレーンの操作に従事する者は……その接触を避け、……接触による事故を未然に防止すべき業務上の注意義務がある」と判示し、「接触同然の状態に接近させて流電させる危険」を避ける注意義務までは認めていないのにかかわらず、結論において「接触同然の状態に接近させて流電させ」たことを注意義務違反としてとらえていることは理由不備の違法があるというのである。よつて検討すると原判決は本件業務上過失致死について所論のように、ワイヤーロープと高圧電線との「接触による感電事故を未然に防止すべき業務上の注意義務」の存することを認定したうえ、結果発生に至る経過としては、「これ(ワイヤーロープ)を前記電線に接触もしくは接触同然の状態に接近させて流電させ」と判示し、これによつて被害者に感電させて死亡させたと認定しているものであるところ、本件過失の態様、事故発生の経過等に照らすと、感電させた理由として、直接接触させたか、若しくは接触に準じる程度即ち流電する程の至近にまで極く接近させたものであるとの趣旨で前示のように判示したからといつて、右の点に刑事訴訟法三七八条四項にいわゆる理由不備ないし理由のくいちがいの違法があるとはいえない。論旨は理由がない。

井上、柳谷弁護人の控訴趣意中第一(訴訟手続の法令違反)の主張について

論旨は、(一)原判決は注意義務の内容として「クレーン車の位置を更に西側に移動させてこれに応じた作業方法などを構じ、ワイヤロープと電線との間隔を十分に保つてその接触を避け」、もしくは「前記絶縁用防護管の補修装着が容易にできる状況にあつたのであるから、その装着を得た後に作業を行ない、右接触による感電事故を未然に防止すべき」業務上の注意義務があると認定しているが右認定は別個独立の注意義務の択一的摘示、いわば明示的択一的認定であつて明らかに違法であり(二)本件における訴因の変更は訴訟上の権利の濫用であつて許されないのに、これを許容して有罪判決をしたのは違法であり、いずれにしても訴訟手続の法令違反として破棄されるべきであるというのである。

よつて検討するに、(一)原判決は要するに、本件の作業現場の状況下においては、移動式トラツククレーン車の懸吊用のワイヤーロープを高圧電線に接触させて作業員らに感電させる危険のあることが予想されたから、右接触による感電事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠つたという一つの注意義務違反を認定しているのであつて、ただ結果発生回避の方法について、クレーン車を移動させること、若しくは絶縁用防護管の補修装着することの二つを挙げているのにすぎないから、原判示の注意義務の認定が違法な択一的認定であるとはいえない。(二)また、本件の訴因の変更については、本件事案の内容、審理の経過に照らすと、検察官としては当然訴因の変更請求(記録二八三丁のもの)をなして然るべきところであり、その時期が審理の終結に近いというだけで、右変更請求が訴訟上の権利の濫用であるとは到底認められず、原審が右訴因の変更請求を許可したうえ、本件犯罪事実を認定したことに、訴訟手続の法令違反のかどがあるとは認められない。論旨はすべて理由がない。

井上、柳谷弁護人、並びに、阿部、林弁護人のその余の各控訴趣意について

各論旨は要するに、本件においては予見可能性、注意義務違反がなく、被告人の行為と結果発生との間の因果関係もないから、本件過失は成立しないといい、なお、阿部、林弁護人は原判決の感電経過に関する認定は誤りであるというのである。

よつて本件記録及び原審において取り調べた証拠のほか、当審における事実取調の結果をも併わせて検討し、次のとおり判断する。

まず、所論は、原判決はワイヤーロープと高圧電線との接触をさけるために「クレーン車の位置を更に西側に移動させてこれに応じた作業方法などを講」じるべきであると判示しているが、クレーン車を西側へ移動させても、本件の位置よりも安全であるとはいえないというので、この点について証拠を検討すると、なるほど、原判示のような状況において、かりにクレーン車を西側へ移動しても、他の条件、とくにクレーン車のブームの高さ(高圧電線よりも高い)、鋼材の位置が同一である以上、ブームの先端から鋼材の重心付近に向つて垂直に吊り下げられるワイヤーロープの位置に変化はないと認められるから、クレーン車を西側へ移動しただけでは、なお本件と同様のワイヤーロープと電線との接触の危険があるといわなければならない。もつとも原判決は、「西側に移動させ」たうえ、さらに「これに応じた作業方法を講」ずれば接触を防止できるとしているけれども、その具体的作業方法について明示するところがない。そこで接触を防止できる具体的な作業方法がありうるかどうかについて検討するに、原審において取り調べた証拠のほか、当裁判所の検証調書、同じく当審証人中島巌に対する証人尋問調書、当審第五回公判調書中被告人の供述記載、当公判廷(第七回公判)における被告人の供述などを総合すると、クレーン車を西側付近のどの位置に移動してみても、南側にある作業員宿舎、その上に架設されている電話線などの位置関係からして、右宿舎の北側に接して東西方向に積上げられてある原判示鋼材(最長のものは約一〇メートル)を吊り上げて他のトラツクに積み込むことは不可能か、そうでなくても著るしく困難であり、かつ、宿舎、電線、積込トラツクを損傷するおそれすらなしとしない。この点に関して検察官は「クレーン車を西方に移動させるとともに、ブームを電線の高さ以下に保ち、いつたん鋼材を他の個所に移動させたのち、同電線とブーム並びにワイヤーロープとの間隔を十分保つたうえつり上げ作業を行うこと」ができると主張するけれども、右の方法は机上での議論としては一応可能であるかに思えるけれども、前記各証拠によると、本件現場において実際にその主張のような作業をすることは、クレーン車のブームの長さと仰角からくる吊上げ能力や作動範囲の制約、鋼材の長さ、重量及びそれが置かれている場所と前示宿舎の位置関係等からして、通常一般のクレーン操作者にとつては、不可能に近いものであるといわざるを得ない。その他本件現場における各種実験(当裁判所の検証調書)によつても、クレーン車を西側に移動させることによつて本件感電事故を回避しうる方法を見出すことは不可能に近いといわざるを得ない。

そうすると、原判決がクレーン車を西側に移動させることによつて、安全に吊上げ及び積込みの作業をすることができ、これによつて本件感電事故の発生を防止し得たとの判示部分は誤りであるといわなければならない。

そして、証拠を検討すると、本件現場の状況下で右鋼材の吊上げ、積込みの作業を行なうについては、ワイヤーロープと高圧電線との接触の危険を度外視して考えてみると、本件被告人が選んだクレーン車の位置が最適であると認められるのであるが、しかし、このクレーン車の位置で作業しては、ワイヤーロープと高圧電線の接触する危険のあることは原判決の説示するとおりであるから、結局他に有効な接触防止あるいは流電防止(絶縁)の方策をとらないまま、本件クレーン車の位置で作業をすることは許されない。所論は、本件のクレーン車の位置でも十分注意して作業すれば感電事故は防止できたし、被告人としては本件現場でなすべき注意義務はすべて尽しているのに、たまたま玉掛作業をしていた古谷、中川、斉藤らの作業が万全でなかつたために本件事故を惹起したものであり、被告人には結果発生の予見可能性がなかつたというのであるが、本件鋼材のように、それぞれの長さが異り、その全体の重心がどこにあるのか容易に判断し難いかなり長大な三本の鋼材(長さはそれぞれ一〇メートル、七メートル、六・二メートル、その重量の合計〇・七五トンで、一方(西端)がほぼ揃つているが他方は長短によつて不揃いとなつている)の玉掛作業においては、十分注意しても玉掛用ワイヤーロープを掛ける位置を正確に重心の位置と一致させることはかなり困難であり、このためロープの位置がずれたまま吊り上げられ、重心の偏りに起因して懸吊用ワイヤーロープが振れることのありうることは当然予測されるところであり、とくにブームの先端を地上から約一三メートルの高さにまで伸長し、その先端から吊り下げるワイヤーロープと高圧電線(地上からの高さ約七・八六メートル)との間隔がわずか六〇センチメートルしかない状態で、しかも、玉掛ワイヤーロープが重心の位置から外れているため吊上げ途中に鋼材が東側にズレてくるようなことがあれば、直ちに懸吊用ワイヤーロープがそのすぐ東側にある右高圧電線に接近さらには接触することが十分ありうるという状況のもとでは、右吊上げ作業中にワイヤーロープと高圧電線が接触する危険は容易に予見しうるところであるから、クレーン車を操作する者としては、そのままでは作業することは許されないところであつて、本件における前記玉掛作業員らの作業態度(わずかに重心から外れた玉掛けをしたこと、吊上時の合図の仕方、鋼材からの離れ方など)を非難することによつて、被告人の責任を免れることはできない。

次に原判決は高圧電線に装着されている絶縁用防護管の補修が容易にできる状態にあつたから、その装着を得た後に右作業を行えば、本件感電事故は防止し得た旨を判示し、所論はかかる注意義務を課すことは過失犯の解釈を誤つたことによる事実誤認であるというので、この点について検討すると、証拠によると、本件現場のすぐ南方(作業員宿舎の南方約二・四メートル)に西牧一八号電柱(高さ八・一一メートル)が設置され、そのほゞ北方約六五・五メートルに西牧一七号電柱(高さ七・二五メートル)が設置されていて、右両電柱の間には直径五ミリメートルの裸硬銅線が三本約六五センチメートルの間隔で平行架設され、その間には常に西本建設株式会社へ送電する六、六〇〇ボルトの交流高圧電流が流れているものであるところ、本件付近は以前ダンプカーの通行が多く、その荷台を上げたまま出入する車輛(いわゆる帆立運転)もあるため右高圧電線に接触する危険があつたところから、昭和四七年一二月頃関西電力において、絶縁用防護具として、各長さ約五〇メートルの黒色ポリエチレン製防護管(直径約二センチメートル)三本を、右各電線の上に、右一八号電柱側一杯に寄せて装置したのであるが、右電線、絶縁管の長さ、重さや風力等の作用によつて、その後南北に架設されている右三本の電線のうち、西側の電線の分は一八号電柱から一二・三メートル、東側の電線の分は同じく約一一・五メートル右防護管が北側に滑り(中央電線の分は変化なし)、このため西側・東側の電線とも右電柱からそれぞれ右の距離にわたつて硬銅線が直接露出しており、本件作業時におけるクレーン車の懸吊用ワイヤーロープは丁度右直接露出している西側電線部分の西方約六〇センチメートル辺りに懸吊する状態にあつたこと、右絶縁用防護管のズレ(北方への滑り)は関西電力水口営業店に申し出れば即日約一時間程度の作業で容易に復元することが可能であることが認められるから、かかる状態においてはクレーンの操作に従事する者は当然関西電力に申し出て、絶縁用防護管を所定の位置に復元する作業をなさしめ、その完了をまつて鋼材の吊上げを開始し、その吊上げ作業中にたとえ懸吊用ワイヤーロープがゆれて右側高圧電線部分に接触することがあつても、右絶縁用防護管によつて右ワイヤーロープへの流電を避止させ、もつて感電事故を未然に防止すべき注意義務があるものといわなければならない。まして被告人はクレーン車を約三年間にわたつて操作して来ており、本件現場の電線が高圧線であり、しかも前記部分の防護管が北方にズレて電線が露出していることを知つていたのであるから、当然、何をおいても関西電力に連絡して右防護管の復元をなさしめるべきであつたのである。被告人は防護管の復元には二、三日かかると思つたと供述し、これをもつて防護管の復元補修の措置をとらなかつたことの弁解としているが、被告人のクレーン操作の経験年数に照らし、右供述の信憑性に疑問があるうえ、たとえ被告人が真実そのような誤つた先入観しかなかつたとしても、本件で予見しうる結果の重大さにかんがみ、とにかく一応関西電力に申入れをして防護管の復元措置を要請してみるべきであり、自己の勝手な判断だけで防護管の復元措置をとろうとしなかつたことには重大な落度があるといわざるを得ない。

結局、原判決が右絶縁用防護管の復元補修が容易であつたから、その補修をした後に作業を開始すべき注意義務のあつたことを認めたことは正当であり、この点に過失犯についての解釈の誤りも事実の誤認もない。

以上のとおりであるから、原判決がクレーン車を西側へ移動させて作業することによつて接触を避けることができると認定したことは誤りであるけれども、この点、即ち原判決書二枚目裏七行目の冒頭「クレーン車の……」から九行目の「を避け、もしくは」までを除けば、原判示の予見可能性、回避可能性、注意義務に関する原判示(同二枚目裏一〇行目まで)はすべて正当であり、前示誤認部分を除いても、原判決は被告人が原判示の状況下で、そのまゝ(他に何らの措置をとらず)クレーン車による鋼材の吊上げ、積込み作業をすれば、懸吊用ワイヤーロープと高圧電線との接触による感電事故発生の危険があるのに、あえてそのまま作業を行つた過失により本件事故を発生させたと認定していることに変りはないから、前示誤認は結局判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

なお、本件は被告人のクレーン操作と、結果の発生との間には前示玉掛作業員三名の玉掛作業が介在しているけれども、本件鋼材の吊上げ作業全体から観察するときは、被告人の過失行為と結果発生との間に因果関係の存することは明白であり、この点に関する所論は到底採るを得ない。

次に感電経路に関する所論について検討するに、原判決は「接触もしくは接触同然の状態に接近させ流電させ」とのみ認定し、そのいずれであるかを確定していないけれども、証拠を検討すると、高圧電流が被害者の左手指から体内を通つて左太腿部に抜け、この流電によるシヨツクのため心臓麻痺を起し、このために被害者が死亡したものであることは疑うべくもなく、又右感電は本件吊上げ作業中にワイヤーロープを流れてきた高圧電流によるものであることも明白であり、かつ、高圧電線からワイヤーロープへの流電の原因は、原判示のワイヤーロープが高圧電線に直接接触したことによるものであるか、あるいは右両者が直接に接触せず、ただ極く至近に接近したことによるかのいずれかであることも明らかであるから、本件事案の諸般の事情に照らせば、証拠上その何れであるかを積極的に確定できない本件においては、前示のような判示認定をしても罪となるべき事実の判示として欠けるところはないといわなければならない。

その他さらに所論にかんがみ記録を調査しても、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認、法令の解釈適用は存しない。結局各論旨はすべて理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用については同法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 西村哲夫 野間禮二 笹本忠男)

参  考

原審判決の罪となるべき事実

被告人は、昭和四九年一月一二日当時、移動式トラツククレーン車の運転および同クレーンの操縦を業としていた者であるが、右同日午後二時五〇分ころ、滋賀県甲賀郡信楽町大字牧一、七八九番地所在の西本建設株式会社作業員宿舎北側鋼材置場において、右宿舎北側西寄りにトラツククレーン車(滋八八さ四五六号、長さ七・五メートル、幅二・〇七メートル)を右宿舎と平行に東向きに停車させたうえ(宿舎北壁側端との間隔約二・二五メートル)、同車荷台後部のクレーン操作室に乗り移り、クレーンのブーム(鉄塔、三段伸縮式)を地上約一三メートル弱の上空へ仰角七五度前後に伸ばし、同クレーンを操作して、古谷滑生の誘導および無資格の玉掛作業員二名の玉掛けによつて、右宿舎北脇の高さ約〇・四五メートルの盛土部分に東西に積み上げられた建築用H型鋼材を同車の北側約一・三五メートルの間隔で同車と同方向に停車中の大型貨物自動車に積み込む作業を開始したが、その際、右クレーン操作室のやや東寄りの地上約七・八メートルの上空に、絶縁用防護管が装着された高圧電線(太さ直径約五ミリメートルの硬銅線、三相支流、六・六キロボルト、電線間水平間隔約〇・六五メートル)がほぼ南北に架設され、うち東西両側の電線の防護管は北方に移動していて、右クレーン車のやや北寄りの箇所から南側は裸電線になつており、前記停車位置で作業するときは、ブームを西方から右西端の裸電線に近寄せて停止させ、右電線の西側〇・六メートル前後の近距離の位置に懸吊用のワイヤーロープ(ブーム上端から四本のワイヤーロープでフツク付きの滑車を昇降させる)を垂れ下げて鋼材の玉掛けおよび吊り上げ作業をすることとなる(すなわち、右電線の真下付近に鋼材の中央部分が位置し、その近辺にフツクを降すこととなる)ことを認め、右作業中に、玉掛けの具合によるフツクの揺れその他作業に伴なうワイヤーロープの振りによつて、右ワイヤーロープを右電線に接触させて前記作業員らに感電させる危険があることが予想されたのであるから、このような場合、クレーンの操作に従事する者はクレーン車の位置を更に西側に移動させてこれに応じた作業方法などを構じ、ワイヤーロープと電線との間隔を十分に保つてその接触を避け、もしくは、前記絶縁用防護管の補修装着が容易にできる状況にあつたのであるから、その装着を得た後に右作業を行ない、右接触による感電事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、被告人はこれを怠り、右防護管の装着を得ないまま、右接触はないものと軽信して前記積み込み作業を開始継続した過失により、同日午後三時一五分ころ、前記場所の地上約一・二六メートルの高さに積まれ、そのほぼ中央部を東西約三・四メートルの間隔で玉掛用ロープ二本で結束された建築用H型鋼材三本(長さ一〇メートル、七メートル、六・二メートルのもの各一本、重量計約〇・七トン、西側端がほぼ揃つた状態に結束されている)を吊り上げるため、ワイヤーロープを前記西端の電線の西側約〇・六メートルの位置で、かつ、その下端のフツクが前記鋼材の二ヶ所の結束部分の中心部から約〇・二メートル西側の地点の上空約三メートルの位置に降りるまで巻き下げ、玉掛作業員二名に前記二本の玉掛ロープ先端を右フツクに掛けさせたうえ、玉掛作業員中川光明と古谷清生の合図によつて、これを吊り上げようとしてワイヤーロープを約一・二メートル余り巻き上げた際、玉掛用ワイヤーロープの緊張にしたがつてフツクが東側に引つ張られてワイヤーロープが同方向に振れてゆき前記電線まで約〇・三メートルの距離に接近したのを認めて危険を感じ、直ちにワイヤーロープの巻き上げを中止したが間に合わず、右鋼材が吊り上がる直前に、右フツクの揺れと右鋼材上からその北側地上に跳びおりた玉掛作業員二名が玉掛用ロープに加えた力により、右ワイヤーロープが更に東側に振れ、これを前記電線に接触もしくは接触同然の状態に接近させて流電させ、おりから、右鋼材をその東端付近の前記盛土上で左手で支えていた古谷清生(当時三七才)に高圧電流を感電させ、よつて同人を高圧電流感電シヨツクによる心臓麻痺により即時同所で死亡するに至らしめたものである。

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