大阪高等裁判所 昭和50年(う)190号 判決 1975年5月15日
主文
原判決を破棄する。
本件を神戸地方裁判所へ差戻す。
理由
<前略>
論旨はいずれも訴訟手続の法令違反を主張し、原裁判所が昭和五〇年一月一三日の第一七回公判期日において、弁護人大倉道由が退廷したあと、弁護人なくして審理判決したのは、刑事訴訟法二八九条に違反したもので、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。
所論にかんがみ記録を精査して案ずるに、原審の公判調書の記載によると、第一七回公判期日には検察官、被告人および弁護人大倉道由が出頭し、証拠書類、証拠物の取調、被告人質問が行なわれたのち、裁判官が弁論を終結する旨を告げ、検察官に事実ならびに法律の適用について意見の陳述を求めたところ、弁護人は裁判官の忌避を申立て、裁判官はこれを簡易却下したこと、右却下ののち、弁護人は在廷命令に従わず退廷し、裁判官が廷吏をして弁護人に出頭するよう連絡させたが、弁護人は出頭しなかつたこと、しかし裁判官は弁護人が在廷しないまま検察官に事実および法律の適用について意見を述べさせ、弁護人においては弁論を放棄したものと認められるとして被告人に最終陳述をさせたのち、同期日に判決を宣言したことが認められる。
本件臓物牙保被告事件は、刑事訴訟法二八九条一項所定のいわゆる必要的弁護事件にあたり、弁護人がなければ開廷できないばかりでなく、弁護人が在廷することが審理継続の要件であると解されるから、弁護人が在廷命令に従わず、出頭の勧告にも応じないような場合にも、弁護人なくして審理を進めることは許されないものというべきである。しかるに原審が弁護人不出頭のまま検察官および被告人に意見の陳述をさせ審理を進めたのは、刑事訴訟法二八九条に違反し、その訴訟手続の違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はいずれも理由がある。
よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条本文により主文のとおり判決する。
(藤原啓一郎 野間禮二 加藤光康)