大阪高等裁判所 昭和50年(う)877号 判決 1975年10月17日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年六月に処する。
原審における未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人東畠敏明作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一点について
論旨は、要するに、原判決は、本件についての緊急逮捕状を発付した裁判官によつてなされたものであるが、逮捕状を発付した裁判官が当該事件の審判に関与することは、予断排除の原則に反するものであり、憲法三七条一項、刑事訴訟規則一八七条一項、二項本文の趣旨に照らして許されないと解すべきであるから、原判決には刑事訴訟法三七七条二号該当の事由がある、というのである。
そこで、案ずるに、記録によれば、原判決に関与した裁判官井村貞一は、本件についての緊急逮捕状を発付した裁判官であることが認められるが、緊急逮捕状を発付したことが、除斥ないし忌避の理由とならないことはもちろん、その裁判官による事件の審判が憲法三七条一項に違反するものではなく、またほかにこれを禁止しあるいは違法とする法令はないから、原判決には刑事訴訟法三七七条二号の「法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与した」という事由は存しないというべきである。論旨は理由がない。
控訴趣意第二点について
論旨は、原判決は、累犯となる前科1として、「昭和四三年一月二〇日大阪簡易裁判所において窃盗罪により懲役六月、三年間執行猶予の言渡しを受け右執行猶予は取消され、その刑の執行を終了したもの」とだけ認定判示しているが、これによると、その執行猶予の取消および刑の執行終了の年月日が明らかでなく、累犯前科の判示として不備であり、原判決には理由を付さない違法がある、というのである。
そこで、案ずるに、原判決は、累犯となる前科として、「1、昭和四三年一月二〇日大阪簡易裁判所において窃盗罪により懲役六月、三年間執行猶予の言渡しを受け右執行猶予は取消され、その刑の執行を終了したもの。2、昭和四五年三月三〇日に大阪地方裁判所において窃盗罪により懲役一年六月に処せられ、その刑の執行を終了したもの。3、昭和四八年七月五日に大阪簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年六月に処せられ、その刑の執行を終了したもの。」と摘示して刑法五六条、五七条、五九条を適用している。ところが、累犯加重ができるのは、刑法五六条に定められている「懲役に処せられた者その刑の執行を終りまたは執行の免除のありたる日より五年内に更に罪を犯し有期懲役に処すべきとき」という要件が備わつていることを要するのであるから、判決で累犯前科を摘示するにあたつては、刑の執行終了時と犯行時との関係につき右累犯の要件を備えていることがわかる程度に明示しなければならないのであつて、原判決が摘示した累犯となる前科1、2、3、については、いずれもその刑の執行終了時の記載を欠き、これによつて累犯の要件を備えていることが明らかにされているとは認められないから、原判決には理由を付さない違法があるというべきである。論旨は理由がある。
よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三七八条四号により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決するに、原判決が確定した罪となるべき事実第一ないし第三の各所為は、いずれも刑法二三五条に該当するところ、被告人は(1)昭和四三年一月二〇日大阪簡易裁判所で窃盗罪により懲役六月(三年間執行猶予、昭和四五年五月一日右執行猶予取消)に処せられ、昭和四六年一一月一〇日右刑の執行を受け終り、(2)昭和四五年三月三〇日大阪地方裁判所で同罪により懲役一年六月に処せられ、昭和四六年六月二〇日右刑の執行を受け終り、(3)その後犯した同罪により昭和四八年七月五日大阪簡易裁判所で懲役一年六月に処せられ、昭和四九年一一月五日右刑の執行を受け終わつたものである(右事実は検察事務官作成の前科照会に対する回答書によつて認める。)ので、各罪につきいずれも同法五九条、五六条一項、五七条により三犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるので同法四七条本文、一〇条により最も重い原判示第三の窃盗犯罪一覧表番号2の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数のうち三〇日を右刑に算入し、原審および当審における訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(戸田勝 梨岡輝彦 野間洋之助)