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大阪高等裁判所 昭和50年(う)88号 判決 1975年7月17日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小島孝作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

一控訴趣意中、法令の解釈、適用の誤の主張について。

論旨は、原判決は第一事実において、被告人は岩石(花こう岩が風化したもの)約六万立方メートルを採取した旨を判示し、採石法二条にいう岩石には花こう岩の風化したものを含むと解釈しているが、同法二条にいう岩石(花こう岩)のなかには風化したもの、すなわち空気、水などの物理的、化学的作用によつて次第にくずれさつたものは全く入らず、土砂として他の法規の規制の対象となるか否かは別として、同法の規制の対象にはならないものである。この点において原判決は同法二条の解釈適用、ひいては同法三二条の解釈適用を誤つたものである。というのである。

よつて記録を精査し案ずるに、採石法二条には『この法律において「岩石」とは、花こう岩……をいう』と定義しているが、岩石には母岩からの成因関係が明らかであつて、母岩と同一の化学的性質を有するものは、砂利である場合を除き、岩状でなくても岩石に包摂すると解するのが相当である。

けだし、右にいう砂利は、採石法四条一項や砂利採取法二条の砂利と同義であつて砂、砂利、玉石を総称し、これらは生成過程からみると、河川の上流部に存在する岩石が、長年月の風化作用によつて母岩を離れ、または流域に存在する砂礫が浸食作用によつて崩壊し、これが河川の流水中を転々流下する間に、次第にぜい弱な部分は削りとられ、丸味を帯びた大小の粘状に変化した粒径三〇〇ミリメートル以下のもの(一般に山砂利、陸砂利と呼ばれているものも以前河川であつた所が地殻の変動により現在陸地になつた所に存しているもので、その生成過程は、一般の河川砂利と異ならない)を指称するから、他の物と明確に区分することができ、一方母岩が風化し堀採すると砂状に崩壊するような場合その他、粒径からみて一見砂利様であつても母岩があつた位置またはこれに近接して賦存しているなど母岩からの成因関係が明らかなものは、砂利と生成過程を異にし形状もおのずから丸味を帯びておらず、また未風化の岩状部分と接着あるいは混在するなどいわば、渾然一体となつているのが通常で、これらを包括して岩石として採石権および岩石採取事業の登録、認可、その他の規制等の対象とするのが相当と考えられるからである。したがつて、これらについては採石法二条にいう岩石としてもつぱら採石法の適用を受け、砂利採取法等の適用を受けることのないものというべきである。

つぎに、被告人の採取したのは、岩石か、それとも所論の土砂かにつき検討するに、記録および当審における事実の取調の結果によると、原判示第一の被告人が約六万立方メートルのものを採取した京都市左京区北白川地蔵谷町一の二六二付近の山林は京都市左京区北白川から比叡山に至る比叡花こう岩地帯に属し、部分的には花こう岩が露出しているが、大部分は表土三〇ないし一〇〇センチメートル位を削ると全山花こう岩から組成されていること、その花こう岩は長年月の間に気温の変化、雨水の作用、凍結などの風化作用によつて風化し、堀削すると崩れて砂様の形態に化するが、掘削前は花こう岩の生成状態のままで賦存していること、被告人はこの花こう岩が風化したものをブルトーザ等で掘削崩壊させ、砂状化せしめて原判示のように約六万立方メートルを採取したことが認められ、他にこれを左右する証拠はない。

してみると、被告人が採取した花こう岩が風化したものは前示岩石の要件を具備すると認めるに足りるから、所論のごとき砂利ないし土砂とはいえず、採石法二条にいう岩石(花こう岩)にあたるといわなければならない。したがつて原判決には所論のような法令の解釈、適用の誤はない。論旨は理由がない。

二控訴趣意中、採石法違反についての事実誤認の主張について。

論旨は、原判決は、第一事実において、被告人が岩石(花こう岩が風化したもの)約六万立方メートルを採取したうえ、業者に対し、一立方メートル当り平均約二〇〇円の割で売渡し、採石業を行なつたと認定しているが、被告人は本件土地を崔相九から被告人の作業場、宿舎等にするために賃借したのであるが、同所は掘削されたあとで危険な状態でもあつたので、被告人は防災工事をして右目的のため使用しようとして本件土地を掘削し、その際あまつた土砂を業者に積込んでやり、当初はただであつたが、その後その積金として二〇〇万円位もらつていたにすぎないから、原判決は事実を誤認しているというのである。

所論にかんがみ案ずるに、原判決挙示の関係証拠によると、被告人は昭和四五年一二月ころ崔相九から原判示の山林を当時被告人が営んでいたスクラップ業、土建業の材料置場および従業員宿舎建設の場所として賃借したこと、その際同所は以前水谷以佐男などが花こう岩が風化したものを掘採し、いわゆる土砂崩れを発生させて死亡事故を惹起したため放置してある状態であつたので、被告人において一応の防災工事をする条件で借受けたこと、そこで被告人はその頃から一応の防災工事をしつつ宿舎建設のための整地作業等をするにあたり、花こう岩が風化したものを掘削したところ建材業者が買いにきたので最初は積込み賃位のものをもらつて防災工事の費用にあてていたこと、そのうちにこの花こう岩が風化したものの販売の有利性に着目し、昭和四六年夏ごろには大型ブルトーザやタイヤシヨベル等を購入し、約一〇名の従業員を使用して本格的掘採をするようになり、この花こう岩が風化したものの掘採、販売が本業となつたこと、そして京都府知事の登録を受けないで、昭和四七年九月ころから翌四八年七月一八日ころまでの間、岩石(花こう岩が風化したもの)約六万立方メートルを採取したうえ、約一三一業者に対し時価相場である一立方メートル当り平均約二〇〇円の割で売渡し、人件費、物件費その他諸経費を差引いて当時一か月平均四、五〇万円の純利益をあげていたことが認められ、他にこれを左右する証拠はない。

してみると、被告人は岩石約六万立方メートルを採取したうえ、業者に対し、一立方メートル当り平均約二〇〇円の割で売渡し無登録で採石法三二条に違反して採石業を行つたものであり、同法四三条一号の刑責を免れない。原判決には所論のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。

三控訴趣意中、京都市風致地区条例違反についての、事実誤認の主張について。<省略>

四控訴趣意中、量刑不当の主張について。<省略>

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、同法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(矢島好信 吉田治正 朝岡智幸)

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