大阪高等裁判所 昭和50年(ネ)2067号 判決 1977年9月14日
控訴人
吉本勇こと
金瑄燾
右訴訟代理人
長池勇
被控訴人
崔淑子
右訴訟代理人
川西譲
川西渥子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金執(昭和三四年九月二六日生)および金芙美(昭和三六年二月九日生)を引渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。
二、当事者双方の主張および立証の関係は、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
理由
当裁判所も控訴人の請求を失当と判断するものであり、その理由は原判決五枚目裏二行目「したがつて」以下を次のとおり訂正するほか原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。
『ところで本件においては、法例二〇条、一八条により、親子の関係について、認知の効力についても、大韓民国民法(以下韓国民法と略称する)によるべきところ、成立に争いのない乙第二号証によれば、被控訴人は、控訴人の前記認知前に「執」「芙美」を婚姻外の出生子として届出ていたことが認められるから、韓国民法九〇九条三項により被控訴人が二児の親権者であつたものというべきところ、前記認知および戸主高淑伊戸籍への入籍により、同条一項に従い二児の親権者が被控訴人から控訴人に当然変更されたものと解し得られなくはない。
(二) しかしながらわが国の民法では、非摘出子の親権者は母であり、右の子を父が認知した場合には、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り父がこれを行う。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によつて協議に代わる審判をすることができる、とされているところ(民法八一九条四、五項)、本件において控訴人がかような手続を経て親権者とされたことについては主張立証がない。
(三) もし、わが国の上記法制を無視して、韓国民法所定の親権者の当然変更を認めるにおいては、親権者の指定、変更は子の福祉を中心に考慮決定すべきものとするわが国の社会通念に反する結果を来たし、ひいてはわが国の公の秩序又は善良の風俗に反するに至ると解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷昭和五二年三月三一日言渡判決参照)。
(四) すなわち本件においては、二児の親権者の被控訴人から控訴人への変更は、韓国民法および日本国民法所定の要件のいずれをも充した場合にのみ容認し得るものというべく、これに添う主張立証を欠く以上、控訴人が二児の親権者となつたと認めることはできない。因に地方裁判所が家庭裁判所に代つて「父母の協議に代わる審判」をすることができないことは、いうまでもない。
(五) それのみでなく、「執」は現に一七才、「芙美」は一六才であることは暦算上明白であつて、証人崔執、同崔芙美の各証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、同人らは、被控訴人の強制等によつてではなく、自らの意思で被控訴人と同居していることが認められるから、被控訴人に対し二児の引渡を求める控訴人の請求は、この点からして失当というほかはない。』<以下、省略>
(乾達彦 下郡山信夫 山本矩夫)