大阪高等裁判所 昭和50年(ネ)340号 判決 1975年12月18日
控訴人
山下登三
右訴訟代理人
松井清志
外二名
被控訴人
中川ビル株式会社
右代表者
中川二郎
右訴訟代理人
相馬達雄
外二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一<証拠>によれば、控訴人が、金額一、〇〇〇万円、支払期日昭和四八年一二月一一日、支払地振出地とも京都市、支払場所京都銀行西院支店、振出日昭和四八年一〇月一日、振出人速水博、受取人兼第一裏書人中川ビル株式会社開発事業部部長和田嘉代、第二裏書人日本フルコン興業株式会社代表取締役阪本幾太郎、第三裏書人阪本幾太郎(裏書はすべて白地式)の記載ある約束手形一通(本件手形)を所持している事実、和田嘉代が右第一裏書をした事実を認めうる。
二控訴人は、和田嘉代は被控訴人の代理人として右第一裏書したと主張するが、被控訴人が和田に右代理権を与えたことを認めうる証拠はない。右主張は採用できない。
三被控訴会社が名板貸許諾をしたことに基づく責任
控訴人は、「被控訴会社は、本件手形第一裏書人和田嘉代に対し、被控訴会社開発事業部の名称を用いて営業をすることを許諾したから、被控訴会社は、商法第二三条により、本件手形金支払の責任がある。」と主張する。しかし、右許諾の事実を認めうる証拠はない。原審証人和田嘉代の証言、被控訴会社代表者中川二郎の原審供述によれば、被控訴会社の代表権のない常務取締役村田昭二が、和田嘉代に対し、被控訴会社開発事業部の名称を用いて営業をすることを許諾したが、村田昭二は右許諾をする代理権限を有していなかつたこと、被控訴会社代表取締役中川二郎は明示・黙示の右許諾をしていないことを認めうる。控訴人の右主張は採用できない。
四被控訴会社の表見代表取締役が名板貸許諾をしたことに基づく責任
控訴人は、「被控訴会社常務取締役村田昭二は、本件手形第一裏書人和田嘉代に対し、被控訴会社開発事業部の名称を用いて営業をすることを許諾したから、被控訴会社は、商法第二六二条、第二三条により、本件手形金支払の責任がある。」と主張する。
甲会社の代表権のない常務取締役Aが、乙に対し、甲会社開発事業部の名称を用いて営業をすることを無権限で許諾し、乙が、甲会社開発事業部部長乙名義で手形行為をした場合、「右手形の取得者が、行為者Aに付与された甲会社常務取締役の名称を信頼して、右手形を取得した。」という特別の事情が認められないとき、甲会社は、右手形の取得者に対し、商法第二六二条、第二三条により、右手形金支払の責任を負わない、と解するのが相当である。けだし、右設例の場合、右特別の事情が認められないとき、商法第二六二条適用の要件を欠くことになるからである。
本件において右特別の事情は認められない。第一裏書後の本件手形の取得者が本件手形取得当時村田昭二の存在を知つていた事実を認めうる証拠さえもない。被控訴人の右主張は採用できない。
五表見代理に基づく責任
控訴人のこの点についての主張事実を認めうる証拠はない。他に表見代理の成立すべき事実を認めうる証拠もない。控訴人の主張は採用できない。
六よつて、控訴人の本訴請求を棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(小西勝 入江教夫 和田功)