大阪高等裁判所 昭和50年(ネ)510号 判決 1976年6月22日
被控訴人・附帯控訴人 西陣信用金庫
理由
第一昭和五〇年(ネ)第五〇八・第五〇九・第五一〇号控訴事件
一、本件(一)ないし(三)、(五)、(六)の不動産が訴外中村吉蔵の、本件(四)の不動産が訴外破産者(株)中吉(以下破産会社と称する)の各所有であつたことは、被控訴人と控訴人ら全員との間で争いがない。
二、被控訴人が、本件(四)の不動産につき、右破産会社との間で、その余の本件各不動産につき、右中村吉蔵との間で、昭和四六年九月一〇日、被控訴人と右破産会社間の信用金庫取引契約に基づく一切の債務(消費貸借契約に基づく返還債務及び割引手形買戻債務等)が、約定の弁済期に不履行となつた場合または破産会社が銀行取引停止処分を受けた場合等には、被控訴人が代物弁済として本件(一)ないし(六)の不動産の所有権を取得し得る旨の代物弁済予約を締結し、即日本件各不動産につき、右予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記(原判決末尾添付の別紙登記目録(1)記載の仮登記)をした事実に関し、被控訴人と控訴人破産管財人との間では、右全事実について争いがなく、被控訴人と控訴人(株)柴屋、同(株)丸福との間では、右事実のうち被控訴人の右仮登記の存在する事実について争いがなく、その余の事実は、《証拠》によつて、これを認め得、被控訴人とその余の控訴人らとの間では、右各証拠によつて、右全事実を認め得、右各認定に反する証拠はない。
三、(1)訴外中道商事(株)が、被控訴人の前記二の仮登記の後である昭和四七年六月九日、本件(一)ないし(六)の各不動産について、原判決末尾添付の別紙登記目録(2)記載の代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記及び同目録(3)記載の根抵当権設定登記を経由し、その後控訴人(株)柴屋が右中道商事(株)から、右代物弁済予約上の権利及び根抵当権を譲り受け、原判決末尾添付の別紙登記目録(2)(3)記載のとおり、昭和四七年一〇月二三日その旨の付記登記を経由し、更に控訴人(株)柴屋が、本件(一)ないし(六)の不動産につき、被控訴人の前記二の仮登記の後である昭和四七年一〇月一八日、原判決末尾添付の別紙登記目録(4)記載の賃借権設定予約を原因とする賃借権設定請求権保全の仮登記を経由した事実については、被控訴人と控訴人(株)柴屋との間で、(2)控訴人(株)丸福が、被控訴人の前記二の仮登記の後である昭和四七年一〇月一八日、本件(一)ないし(五)の不動産につき、原判決末尾添付の別紙登記目録(5)記載の代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記、同目録(6)記載の抵当権設定登記及び同目録(7)記載の賃借権設定請求権保全の仮登記を各経由した事実については、被控訴人と控訴人(株)丸福との間で、(3)控訴人高坂が被控訴人の前記二の仮登記の後である昭和四七年一二月二七日、本件(一)ないし(六)の各不動産につき、原判決末尾添付の別紙登記目録(8)記載の売買を原因とする所有権移転登記を経由した事実については、被控訴人と控訴人高坂との間で、(4)控訴人臼井が、被控訴人の前記二の仮登記の後である昭和四七年一二月二七日、本件(一)ないし(六)の各不動産につき、原判決末尾添付の別紙登記目録(10)記載の賃借権設定登記を経由した事実については、被控訴人と控訴人臼井との間で、それぞれ争いがない。
四、《証拠》を総合すると、破産会社は被控訴人との間の前記信用金庫取引約定に基づく、消費貸借契約による返還債務及び割引手形買戻債務を不履行にした許りでなく、昭和四七年一二月一九日銀行取引停止処分を受けたので、被控訴人は破産会社及び中村吉蔵との間の前記代物弁済の予約に基づき、昭和四八年二月一九日右両名に対し、書面で本件(一)ないし(六)の各不動産を、同月六日現在における被控訴人の破産会社に対する消費貸借金の元利金二〇六八万三八一三円及び割引手形買戻請求金の元利金三一一九万八九七二円、以上合計五一八八万二七八五円の代物弁済として、その所有権を取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をなし、右書面は昭和四八年二月二三日中村吉蔵に、同年三月一〇日破産会社にそれぞれ到達したことを認め得、右認定に反する証拠はない。
五、上記認定事実に従えば、被控訴人は右予約完結の意思表示により、後述の如く本件(一)ないし(六)の不動産の所有権を確定的に取得したものというべく、破産会社(従つて控訴人破産管財人)は本件(四)の不動産につき、中村吉蔵は、その余の本件各不動産につき、被控訴人の前記仮登記に基づく所有権移転本登記手続の請求に応ずべく、被控訴人の右仮登記後に、本件各不動産につき権利を取得したその余の控訴人らは、被控訴人の求める右本登記手続承諾の請求に応じる義務があるといわねばならない。
六、右に関連して、控訴人臼井、同(有)中修を除くその余の控訴人らは清算金の支払と引換給付の抗弁を主張するので、この点につき判断する。
《証拠》によれば、被控訴人は信用金庫法に基づき金融業を営む信用金庫であつて、破産会社との間の前述の信用金庫取引約定に基づく消費貸借契約及び手形割引買戻契約は、将来に亘る継続的な取引であつて、債権債務の増減が当然予定されているものであり、被控訴人は右増減する債権債務の支払を確保するため、担保として本件(一)ないし(六)の不動産に代物弁済の予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を付するとともに、併せて極度額二三〇〇万円(昭和四七年四月二一日これを三五〇〇万円に変更)の根抵当権の設定を受け、その旨の登記を経由している事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定の事実に従えば、他に特段の事由の認められない本件に在つては、被控訴人の有した右の所謂仮登記担保権の内容は、債務者たる破産会社において債務不履行等の事由が生じた場合、債権者たる被控訴人において予約完結の意思表示をして、目的不動産たる本件(一)ないし(六)の不動産を処分する権能を取得し、これに基づいて本件各不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ、又は相当の価額で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等から、被控訴人の債権の弁済を得ることに在り、右評価額又は売却代金等の額が被控訴人の債権額を超えるときは、右超過額を債務者たる破産会社及び物上保証人たる中村吉蔵又は右仮登記後に目的不動産の所有権を取得して、その旨の登記を経由した第三取得者の存するときはその者に、清算金として交付すべき、清算義務を伴う担保権であると解するのが相当である。
而して、本件に於ては、被控訴人は予約完結の行使により、本件(一)ないし(四)の不動産の所有権を確定的に自己に帰属せしむべき趣旨であることが、弁論の全趣旨により看取されるので、本件各不動産の適正評価額が被控訴人の残存債権額を超過しているときは、被控訴人は右超過額を清算すべき義務があることとなる。
そこで右清算金の有無につき、事実審たる当審の口頭弁論終結時である昭和五一年三月二三日を基準として、本件各不動産の適正評価額と被控訴人の残存債権額とを比較検討して、判断するに、《証拠》によれば、被控訴人の破産会社に対する残存債権額は昭和五一年一月二七日現在において元金及び損害金合計七四六四万六九〇三円であることが認められ、他方鑑定結果によれば、本件(一)ないし(六)の不動産の昭和四九年四月三日時点における適正評価額は六九〇〇万円であることが認められ、以上の認定を左右するに足る証拠はない。而して不動産殊に宅地の価額の高騰化の現象は昭和四八、九年時を最頂点とし、じ後前記当審口頭弁論終結時まで沈静化して省略横這いの状態に在ることは公知の事実であり、建物はその性質上評価額を年々減価償却してゆくべきものであるので、これらの点を考慮したうえ、前段認定事実に従えば、本件各不動産の前示口頭弁論終結時における適正評価額は、被控訴人の前示残存債権額を下廻りこそすれ、上廻ることは決してないと認めるのが相当である。
ところで右比較考量に際し、控訴人高坂、同(株)柴屋、同(株)丸福は被控訴人の右残存債権額を被控訴人が仮登記担保権と併用して有する根抵当権の債権極度額三五〇〇万円の限度で制限すべき旨主張する。
しかし、根抵当権と併用して、代物弁済予約形式の債権担保契約を締結した債権者が担保目的の実現として根抵当権の実行によらず、仮登記担保権の方を実行する場合に在つては、優先弁済を受くべき利息・損害金の算定に当り、根抵当権に関する債権極度額の定めは適用がないと解するのが相当であるので(仮登記担保権の実行につき、抵当権に関する民法三七四条の規定の準用がないことにつき昭和四七年一〇月二六日最高裁第一小法廷判決民集二六巻八号一四六八頁以下参照)控訴人らの右主張は採用し難い。
してみると、本件に於ては清算すべき余剰金が存在しないこととなるので、結局控訴人らの右清算金引換給付の抗弁は理由がない。
七、以上により本件(四)の不動産につき控訴人破産管財人に対し、仮登記に基づく本登記手続を、その余の控訴人らに対し右本登記手続の承諾を求め、本件(一)ないし(三)、(五)、(六)の不動産につき、控訴人破産管財人を除く、その余の控訴人らに対し、中村吉蔵に対する仮登記に基づく本登記手続の承諾を求める被控訴人の本訴請求はすべて理由があり、控訴人らの本件各控訴はすべて失当である。
第二、昭和五〇年(ネ)第一、〇三一号附帯控訴事件
控訴人高坂が、本件(一)(二)の宅地上に存する、被控訴人主張のプレハブ造物置一棟を所有していること、控訴人高坂、同臼井、同(有)中修の三名が本件(四)ないし(六)の建物を占有していることは、いずれも当事者間に争いがなく、被控訴人が代物弁済予約の完結により本件(一)(二)の宅地並びに本件(四)ないし(六)の所有権を取得したことは前述のとおりであるので、控訴人高坂において、本件(一)(二)の宅地の占有権原につき、右控訴人ら三名において本件(四)ないし(六)の建物の占有権原につき、特段の主張立証のない本件においては、被控訴人が右土地、建物につき所有権取得の本登記手続を経由したときは、被控訴人に対し控訴人高坂は本件(一)(二)の宅地上に存する右物置を収去してその敷地部分を明渡し、右控訴人ら三名は本件(四)ないし(六)の建物を明渡す義務がある。
してみると被控訴人の本件附帯控訴は理由がある。
第三、結び
よつて、控訴人らの本件各控訴はいずれも失当としてこれを棄却し、被控訴人の本件附帯控訴は正当として、原判決中控訴人臼井、同高坂、同(有)中修に関する部分を変更し、民事訴訟法第九五条、第九六条、第九三条を適用して主文のとおり判決する
(裁判長裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信 藤浦照生)