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大阪高等裁判所 昭和50年(ネ)683号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで、控訴人らの相殺の抗弁について判断する。相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺をするに適するに至つた時点に遡つて効力を生ずるものであるから(民法五〇六条二項)、相殺の計算をするにあたつては、双方の債権について弁済期が到来し、相殺適状となつた時期を基準として双方の債権額を定め、その対当額において差引計算し(最高裁判所昭和五三年七月一七日裁判集民事一二四号四〇七頁、同昭和五四年三月二〇日裁判集民事一二六号二七七頁参照)、その差引計算において複数の債権があり、計算の順位に関する約定のないときは法定充当に関する規定(民法四九一条・四八九条)を適用して計算し相殺充当すべきであり、この理は仮登記担保としての代物弁済予約完結の場合においても、評価清算前であれば右の被担保債権(貸金元本・利息・遅延損害金)及びこれとは別個の複数の貸金等債権と、反対債権(自働債権)の関係に立つ賃料債権との相殺においても変らないと解すべきである。これを本件についてみるに、控訴人らが当審においてその主張の相殺の意思表示をしたことは、弁論の全趣旨により明らかであるところ、<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。

(一) 控訴人坂下は、その所有の大阪市北区天神橋筋二丁目一二番地の一家屋番号一〇二番木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟一階二一坪五合五勺(71.81平方メートル)、二階二二坪五合五勺(74.54平方メートル)(以上面積は公簿面積、以下本件建物という)について、昭和二九年訴外加藤良也を代理人とし、被控訴人らの先代兼治郎を相手方として大阪簡易裁判所に家屋明渡しの調停を申し立て、同裁判所において昭和三〇年一二月二〇日調停が成立した(右調停成立の事実は当事者間に争いがない)。右調停条項は、本件建物の賃料(以下、本件賃料という)は一カ月金二万円とし、毎月末日相手方(右兼治郎)は申立人(控訴人坂下)方に持参して支払う。相手方が賃料の支払を三カ月以上遅滞したときは、当然本件賃貸借契約は解除となり相手方は直ちに本件建物を申立人に明渡さなければならない。本件賃貸借契約の敷金として相手方は申立人に対し金六万円の支払義務を認め、本日相手方は申立人に右金員を支払い、申立人はこれを受領した。申立人は相手方の件外坪内春士、同宮田ひでに対する本件建物の一部転貸を認める。等であつた。

(二) 右兼治郎は、右調停成立後少くとも昭和三一年五月末日までの賃料を支払つた。

(三) 控訴人坂下は、大阪府に納付すべき租税滞納により大阪府北府税事務所から本件賃料債権の差押えをうけ、右兼治郎が昭和三四年二月分、同三月分及び同年八月分から同三七年七月分までの賃料(いずれも月額二万円ずつ)を同府税務所に支払い、また大阪市に納付すべき租税滞納により大阪市北区役所から本件賃料債権の差押えをうけ、右兼治郎が昭和三四年四月分から同年七月分まで、同三七年八月分から同年一〇月分まで(この分は控訴人ら自認)及び同三八年一月分から同年九月分までの賃料(いずれも月額二万円ずつ)を同区役所に支払つた(同三七年一一月分、同一二月分は領収を証する書面がない)。

(四) 控訴人坂下は、昭和四一年四月六日ごろ右兼治郎より連絡をうけ会合した際、同人に対し本件建物の賃料を同月分から月額六万円に増額する旨の意思表示をした。

(五) 本件建物は、昭和二七年ごろ建築されたものであるが、その所在場所は地下鉄谷町線及び堺筋線「南森町」駅南東約一二〇メートルの天神橋筋商店街にあり、近隣は日用品食料品等販売小売店のある小売商業地区に属していること、右増額当時、右兼治郎において本件建物の一階は訴外坪内に賃貸し、同人が理髪店を経営し、同二階は右兼治郎の妻である控訴人宮田ひでがパーマ店を経営していたこと、前回の本件賃料の決定が前示調停によるものであり、かつ、その時より約一〇年余を経過していること、及びその他社会一般の物価の上昇等から考えると、右増額賃料は相当であつた。

<証拠判断略>他方、被控訴人らは、そのほかにも本件賃料を弁済した旨及び控訴人坂下が貸主たる地位を放棄した旨抗弁するが、本件の全証拠によるもこれを認めるに足りないから、被控訴人らの右抗弁は、前示認定以外には、いずれも失当であつて採用できない。

以上の事実によれば、控訴人らの本件賃貸借の解除、これを前提とする不当利得の成立及び再賃貸借契約の成立の主張は、いずれも失当であるが、控訴人ら主張の相殺における賃料債権が成立しているものというべきであり、右認定の範囲内における賃料債権をもつて双方の債権の相殺適状となつた時期ごとに対当額において差引計算して相殺すると、被控訴人らの先代兼治郎の有する本件賃金等債権は、別紙相殺表(1)ないし(3)(貸金元利金消却表を含む。ただし、計算関係のみに限定)のとおりの差引計算による相殺をもつて、昭和四八年六月三〇日限りすべて消滅したものというべきである。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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