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大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)160号 決定 1975年6月25日

抗告人 東田勇一(仮名)

事件本人 東田光二(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を和歌山家庭裁判所に差戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

抗告人の本件審判申立書によれば、抗告人は相続の限定承認を含む相続の承認又は放棄の期間の延伸を求めているものと解せられる。

ところで、相続の承認又は放棄の期間の延伸とは、相続の単純承認及び限定承認並びに相続の放棄の期間の延伸を言い、相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができ(民法第九二三条参照)、相続人が限定承認をしようとするときは、民法第九一五条第一項の期間内に財産目録を調製して、これを家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない(同法第九二四条参照)のである。従つて、相続の限定承認の期間の延伸の申立を審理するに当つては、相続財産の構成の複雑性、所在地、相続人の海外や遠隔地所在などの状況のみならず、相続財産の積極、消極財産の存在、限定承認をするについての共同相続人全員の協議期間並びに財産目録の調整期間などを考慮して審理するを要するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、一件記録によれば、原審判認定のとおりの事実関係が認められるけれども、右の程度では抗告人が限定承認をする理由、積極、消極財産の存在についての調査、限定承認をするについての共同相続人全員の協議の期間並びに財産目録の調整期間などの点については未だ調査、審理は尽くされておらず、抗告人の本件申立の当否はにわかに決し難く、原審判にはこの点につき審理を尽していない違法があるので、これが取消を免れない。

よつて、家事審判規則第一九条第一項により原審判を取り消し、本件を原審である和歌山家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴山利彦 裁判官 弓削孟 篠田省二)

参考 和歌山家新宮支 昭五〇(家)第三九号・同年四月一六日審判 却下

主文

本件申立を却下する。

理由

1 本件記録によると、本件申立の理由の要旨は、事件本人東田光二は申立人の実子で、被相続人東田ツネの養子であるが、<1>被相続人の生前住所地及び遺産の所在地が和歌山県で遠隔地であつて、遺産分割につき被相続人の受遺者たる弟姉との話合いや遺産内容の調査に時間を要すること、<2>申立人が被相続人から譲り受けた不動産につき被相続人から提起された所有権移転仮登記抹消登記請求事件が大阪高等裁判所に係属中であり、この裁判が確定しないと遺産の範囲が確定しないこと、以上の事由により前記期間の伸長を求めるというにある。

2 よつて、検討するに、被相続人の生前住所地、遺産所在地の和歌山県○○○郡××××町と申立人及び事件本人の住所地である神奈川県△△市とは相続の承認又は放棄の期間を特に伸長せねばならない程の遠隔地であるともいえず、また上記××××町は申立人らの本籍地でもあり土地の事情に精通しているのであつて遺産の内容を調査するのに長期の時日を要するものとは認められない。そして、申立人が受遺者である被相続人の弟姉に対し遺贈の目的物の返還要求をなしその交渉に時日を要するとしても、それは遺留分減殺を考慮することにより相続財産の範囲を比較的容易に算定できる性質のものである。次に、申立人(被告)と被相続人(原告)間の贈与不動産の所有権移転仮登記抹消登記請求事件は新宮簡易裁判所昭四八年(ハ)第八号で審理され原告(被相続人)勝訴の判決があり、目下被告(申立人)の控訴により和歌山地方裁判所において昭四九年(レ)第六号事件として審理係属中であることは当裁判所に顕著な事実であるが、この不動産が複雑で内容調査に時日を要するものとはいえずむしろ訴訟係属中の相続財産であるということが自明であるといわねばならない。

そうすると、申立人の本件申立は相続財産の内容調査の困難性よりも訴訟係属中であるために相続形態のいずれを選択するかの決意期間の伸長だけを目的としたものというほかないのであつて、このような決意期間の伸長は民法九一五条一項但書の期間伸長の理由として許容されないものである。そして、申立人には後見人に選任された昭和五〇年三月二四日から同条項本文所定の三箇月の熟慮期間が残存しており、十分な考慮期間を有する。

なお、申立人は大阪高等裁判所に事件が係属中である旨陳述しているが、それは和歌山地方裁判所(タ)第一号養子縁組無効確認事件(原告東田ツネ、被告東田光二、同法定代理人実父東田勇一他)でなされた原告勝訴判決に対する控訴事件(大阪高裁昭四九年(ネ)第一、〇六九号)のことであつて、しかも同控訴事件は被控訴人死亡により終了しており、現在同高等裁判所に係属する申立人と被相続人間の訴訟は存在していない。

3 以上のとおりであるから、申立人の本件期間伸長の申立はその理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

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