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大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)19号 決定 1976年2月23日

抗告人(債権者) 木下精一

<ほか三名>

右四名代理人弁護士 朝山善成

抗告人木下、同村松両名代理人弁護士 岸本亮二郎

同 和島登志雄

同 新垣忠彦

相手方 更生会社神戸ネクタイ株式会社管財人 赤木文生

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨及び理由別紙(一)ないし(五)記載のとおりである。

二、相手方の主張

別紙(六)ないし(八)記載のとおりである。

三、当裁判所の判断

(一)  抗告人らの抗告権

管財人作成の「更生担保権認否表」、「更生債権認否表」及び「更生債権認否表Ⅱ」によれば、抗告人らはいずれも届出をした更生債権者であることが認められる。したがって、抗告人らはいずれも会社更生計画認可決定に対して抗告権を有する者である。

(二)  抗告理由に対する判断

抗告理由は、要するに、本件更生手続には違法がある、(2)本件会社更生計画は不公正であり且つ遂行不可能である、というのである。

(1)  更生手続の違法性について

抗告人らは、昭和四九年七月八日に開催された更生計画案の決議のための関係人集会において原審裁判所には公正を害する違法な行為があった旨主張する。

しかし、昭和四九年七月八日開催の関係人集会の調書によれば、更生管財人提出の会社更生計画案について決議のための関係人集会期日が開かれたところ、更生債権者千代田ネクタイ株式会社、同株式会社美装工芸社代理人山本博及び代理委員木下精一(抗告人)から期日続行の申請があり、出席更生担保権者及び出席更生債権者は全員異議を述べず同意したことが認められ、抗告人木下精一作成の上申書(抗告人らの昭和五〇年一一月一二日付上申書添付の疎甲第四号証)は前記調書に対比して信用し難く、他に右認定事実を覆えし、抗告人ら主張の如き右計画案が否決されたことを認めるに足りる証拠はない。

また、抗告人らは、代理委員は更生計画案の代案を裁判所の要請によって提出したが裁判所はこれを審理しようとさえしなかった旨主張するが、前記調書には「代理委員から一部修正する旨の更生計画案が提出されたが、当裁判所はこれを採用しない」との記載があり、これによれば、原審は会社更生法第一九九条所定の計画案排除措置は事実上の措置としてなせば足り、「関係人集会の審理あるいは決議に付さない」との決定をすることは不要である、との見解により、右代理委員提出の更生計画案を排除したことが認められる。右の排除措置は右法条に則って行なわれたものであり、代理委員提出の更生計画案を審理・決議に付さなかったことが違法であるとはいえない。

したがって、本件会社更生計画案の議決について所論の如き違法の点は認められない。

なお、抗告人らは、昭和四九年七月八日の関係人集会において更生債権者の組では更生計画案が否決されたことを前提として、第一説(会社更生法第二〇六条の「関係人集会において更生計画案が可決されるに至らなかった場合」とは、関係人集会の各組において未だ不同意の表決に至らない場合と解する説)によれば、同法条による続行は不可能であり、第二説(同法条の前記要件は、全部又は一部の組において決議に至らなかった場合のほか、決議の結果、一部の組で同意、他の組で不同意が表決された場合を含む、とする説)、第三説(同法条の前記要件は、採決の結果計画案が可決されなかった場合、つまりいずれかの組で不同意が表明された場合を言う、とする説)によれば、同法条による期日の続行は可能ではあるが、そのためには更生債権者の組で過半数、更生担保権者の組で三分の二の同意が必要であるところ、本件においては同法条の要求する続行のための同意が得られていない旨主張する。しかし、前記認定のとおり右関係人集会においては未だ更生計画案についての採決はなされていないのであるから、右第一説又は第二説によれば同法条による期日の続行が可能であり、第三説によれば民事訴訟法の一般規定による期日の続行が可能であるところ、前記調書によれば、期日続行について更生債権者、更生担保権者のそれぞれ全員の同意を得たことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はないのであるから、第三説によれば無用の手続を行なったというにとどまり、いずれの説によっても期日続行の措置に違法な点はなく、抗告人らの所論は失当である。

(2)  会社更生計画の公正、衡平について

抗告人らは、本件会社更生計画は、大口債権者殊に株式会社タイガーを非常に有利に扱う反面、一般債権者にとって非常に過酷なものであり、不公正である旨主張する。

しかし、管財人作成の更生計画案によれば、株式会社タイガーは更生会社の最大の債権者であること、その更生担保権は元本が二、七一七万二、五一二円、開始決定前の利息零、開始決定後の利息・損害金等は六八四万五、二四〇円であり、更生担保権については全ての権利者について開始決定後の利息・損害金等は免除、元本は現金による分割払により弁済する計画であり、株式会社タイガーについてもこの基準に則っていること、その更生債権は一億五、〇二八万〇、九三八円であり、そのうち六、六六七万六、四二二円を免除し、残八、三六〇万四、五一六円のうち一、六七二万円は株式割当を以て代物弁済し、六、六八八万四、五一六円は現金による分割払で弁済する計画であるが、更生債権についての債務免除額は、免除率を債権額一〇〇万円までの部分は二五パーセント、一〇〇万円を越え三〇〇万円までの部分は三〇パーセント、三〇〇万円を越え五〇〇万円までの部分は三五パーセント、五〇〇万円を越え一、〇〇〇万円までの部分は四〇パーセント、一、〇〇〇万円を越える部分は四五パーセントとし、債権額一〇〇万円を越え二〇〇万円以下の債権者については弁済額(ただし、一〇万円未満の金額を除く)の一五パーセントに当る金額につき新株を五〇〇円と評価して代物弁済し、弁済額の二一パーセントに当る金額から右株式により代物弁済した金額を差引いた残額(弁済額の六パーセント強)を認可決定確定の日から一ヶ月以内に現金で弁済し、弁済額の七九パーセントに当る金額については更に九回に亘って分割弁済することとし、債権額二〇〇万円を越える債権者については、弁済額(ただし一〇万円未満の額を除く)の二〇パーセントに当る金額につき新株を五〇〇円と評価して代物弁済し、弁済額の二四パーセントに当る金額から右株式により代物弁済した金額を差引いた残額(弁済額の四パーセント強)を認可決定確定の日から一ヶ月以内に現金で弁済し、弁済額の七六パーセントに当る金額については更に九回に亘って分割弁済することとする基準に則ったものであることが認められる。

更生担保権については、当該更生担保権者が会社破綻の責を負うべき場合或いは会社更生法第一九一条による清算を内容とする更生計画の場合の如き特段の事情のない場合には、更生担保権の元本については全額の弁済をなすことは公正、衡平に反するものではないところ、本件においては、右の如き特段の事情は認められないから、更生担保権についての右弁済計画が公正、衡平に反するものとは認められない。

また、更生債権については、少額債権は多額債権より優遇すべきであるから、債権金額が大きい程免除率を大きくするのが公正、衡平に合致するものであるところ、前記の程度の差等を設けた本件更生債権の弁済計画は、未だ差等のつけ方が充分ではなく大口債権者に非常に有利な反面小口債権者に過酷であるということはできず、右弁済計画が公正、衡平に反するものとは認められない。

そのほか、本件会社更生計画に公正、衡平に反する点は認められない。

(3)  会社更生計画の遂行可能性について

抗告人らは管財人の報告には粉飾があり、本件会社更生計画は遂行不可能である旨主張する。そこで、右計画の遂行可能性について検討する。

① (昭和五〇年四月二五日付上申書第一、二項について)

管財人作成第一八回月例報告書中の損益計算書には、昭和四九年二月一日から同月末日までの営業損失は一、〇〇一万八、五六五円であり、昭和四八年八月一日から昭和四九年二月末日までの営業利益は四三二万三、五三八円と記載され、これによれば昭和四八年八月一日から昭和四九年一月末日までの営業利益は一、四三四万二、一〇三円となるべきところ、管財人作成第一七回月例報告書添付の決算報告書中の損益計算書には昭和四八年八月一日から昭和四九年一月末日までの営業利益は七四二万五、七三五円と記載されていて、その間には抗告人ら主張の如き矛盾が認められるが、前記第一八回月例報告書中の損益計算書から算出される営業利益の額は右第一八回月例報告書中の昭和四九年一月一日から同月末日までの損益計算書の記載とは合致しており、前記各月例報告書及び決算報告書によれば、月毎の損益計算書と決算報告書中の損益計算書との間の数額の差異は、月毎の貸借対照表の脚注に記載されているとおり、月毎の損益計算書においては減価償却がなされていないのに対して、決算報告書においては減価償却後の数額が記載されていることによるものであることが認められる。したがって、右の数額の差異について管財人の説明不足があったものと言わざるをえないが、これを以て管財人の報告が虚偽あるいは欺瞞であると認めることはできない。

② (昭和五〇年四月二五日付上申書第三項について)

抗告人は、推定をも交えて、昭和四九年八月一日から同月末日までの営業損失は二、五六四万円である、と主張する。ところで、その後、管財人が提出した昭和四九年八月一日から同月末日までの損益計算書(昭和五〇年八月六日付上申書添付の疎第三号証)によれば、更生会社の右期間中の営業損失は二、六六一万一、八一六円、経常損失は二、八五九万〇、一三一円であることが認められ、これを管財人作成第一二回月例報告書中の損益計算書によって認められる昭和四八年八月一日から同月末日までの営業損失一、二五二万六、七六九円、経常損失一、二七七万一、三二〇円に対比すると、抗告人ら主張の如く昭和四九年八月の欠損は一年前の昭和四八年八月に比較して多大であることが認められる。しかし、管財人が昭和四九年八月一日から同月三一日までの損益計算書を早期に発表しなかったことを以て、管財人が同月二六日から同月三一日までの間の欠損を隠蔽しようとしたものと認めるに足りる証拠はない。

③ (昭和五〇年四月二五日付上申書第四項について)

抗告人らは、債権者らにおいて粉飾経理の点を管財人或いは管財人代理に追及したところ昭和四九年九月ないし一二月の損益計算書においては在庫商品の評価に大巾修正が加えられた旨主張する。しかし、公認会計士室井久磨作成の説明書(管財人の昭和五〇年八月六日付上申書添付の疎第二号証)によれば、更生会社が在庫商品について評価方法を一部変更したのは保守主義(安全性)の原則の立場をとることとしたことによるものであり、評価の差額は約九八〇万円であることが認められ、抗告人ら主張の如き事実を認めるに足りる証拠はない。

④ (昭和五〇年四月二五日付上申書第五項について)

前記①②③で説示したとおり、管財人が欺瞞的報告をしたことを認めるに足りる証拠はない。

⑤ (昭和五〇年八月一五日付上申書について)

抗告人らは、昭和四九年一二月二三日現在当然在庫しなければならない期末棚卸高は二億二、四七六万円であるにも拘らず、決算報告の棚卸高は二億〇、五一九万円であって、その差額は一、九五七万円でありここに粉飾がある旨主張する。しかし、右上申書によれば、右二億二、四七六万円なる額は、期首の商品棚卸高と当期間内の仕入高との和から右期間内に販売した商品仕入原価を控除して得た数値であり、右仕入原価は前年(昭和四八年八月二六日ないし昭和四九年八月二五日)の平均利益率から算定した原価率に当期間の売上高を乗じて得た数値であることが明らかである。右の算定は、前年度と当期とで原価率が同一であることを前提とするものであるが、当期の原価率が前年度の原価率と同一であることの保障はないのであるから、右の推定額を根拠として粉飾決算がなされたものと断ずるのは失当である。

抗告人らは、更に、昭和四九年一一月三〇日と同年一二月二三日のネクタイの在庫数の比較から、同年一一月三〇日の在庫数には水増表示がある旨主張する。しかし管財人の昭和五〇年一〇月一七日付上申書の如く、一一月の夏平物一万〇、四五六本のうちの平織九、一一七本が一二月の冬平物(特価品)六、六二六本と夏平物(特価品)二、四九一本(二、三七八本と一一三本の合計)とに対応し、一一月の夏平物のうちの紗織一、三三九本、紗一、四八〇本、夏物五割引八七一本、紗五割引四九九本の合計四、一八九本が一二月の夏物紗(特価品)の三、九五八本と二三一本との合計に対応するものであるとの反論が成立つことに徴すれば、抗告人ら主張の如き水増表示がなされたものとは認められない。

⑥ (昭和五〇年一一月一二日付上申書について)

抗告人らは、管財人は昭和五〇年一月から同年六月までの営業利益は六〇七万円であると説明しているが、これは夏期賞与には六月現在の一ヶ月の給与に相当する一、七八〇万円を要するにも拘らず、夏期賞与引当金として七〇〇万円を経費として計上するにとどめることによって利益を計上したもので、経費として一、七八〇万円を計上すれば同年六月末現在の営業利益はなく営業損失が四七二万円となる旨主張する。

しかし、更生会社の前記昭和四九年八月の損益計算書(管財人の昭和五〇年八月六日付上申書添付の疎第三号証)、昭和五〇年六月の損益計算書(管財人の昭和五〇年八月六日付上申書添付の疎第一〇号証)及び同年八月の損益計算書(管財人の昭和五〇年一二月二六日付上申書添付の疎第三号証)並びにその基礎資料である各「営業費」と題する書面によれば、更生会社は昭和五〇年八月に従業員の給料として本店・支店合計で一、八〇六万三、六九二円、夏期手当(賞与)として本店・支店合計で一、二九四万五、八〇五円の総計三、一〇〇万九、四五七円を支払い、そのうち八〇〇万円は賞与引当金を以て支払ったこと、昭和四九年の夏期手当も給料一ヶ月分には満たないことが認められ、抗告人ら主張の如く経費を過少に計上することによって利益を計上すべく操作したものとは到底認められない。

したがって、年を追って更生会社の経営は悪化しつつある旨の抗告人らの主張も失当である。

次に、抗告人らは、管財人は非採算店の存置は経営の妨げになるとして八店舗の閉店を計画しているが、優れた店員を派遣することによって営業成績向上に努力することを怠って閉店することにより貴重な財産を滅失させることは根本的な誤りであり、また、更生会社の幹部の構成を変更することによって売上は必然的に三二パーセント増加する旨主張する。しかし、右主張を裏付けるに足りる具体的根拠はない。したがって、この点についての所論も失当である。

更に、抗告人らは「現金預金増減表」(昭和五〇年一一月一二日付上申書添付の疎甲第九号証)を根拠として、管財人の報告には尚二、〇〇〇万円近い粉飾がある旨主張する。しかし、右「現金預金増減表」において更生会社の経営状態判定の指標として用いられている「(商品有高マイナス買掛金)プラス現金、預金プラス未収売上金プラス売掛金」なる金額は、収益力判定の資料たりえないことは勿論、支払能力判定の資料としても流動性のある当座資産の全てを含めていない点で不充分であるのみならず、例えば、右「現金預金増減表」中の昭和五〇年五月の欄においては、管財人の昭和五〇年八月六日付上申書添付の貸借対照表(疎第九号証)と対比すると、経営状態判定の資料としては現金、未収売掛金と同視すべき「受取手形五五万円」等を無視している反面、買掛金としては貸借対照表の買掛金九八六万七、五〇八円と買掛支払手形一億三、五三三万一、五四八円との合計一億四、五一九万九、〇五六円の他に設備支払手形一、〇六九万三、九六一円をも加えて一億五、五八八万円を計上していることが認められるが、この買掛金の計算は将来の収益力に影響を及ぼす設備投資の増加を無視することになる。したがって、右「現金預金増減表」を根拠として経営の悪化を根拠づけることはできず、また、約二、〇〇〇万円の粉飾の事実を認めるに足りる証拠はない。

⑦ (昭和五〇年四月二五日付上申書第六項について)

管財人作成第一七ないし第二三、第二五、第二六回月例報告書中の各損益計算書及び昭和四九年八月、一二月、昭和五〇年一月ないし一一月の各損益計算書(管財人の昭和五〇年八月六日付上申書添付の疎第四ないし第一〇号証、昭和五〇年一二月二六日付上申書添付の疎第二ないし第六号証)並びに管財人の昭和五〇年八月六日付上申書別紙(1)の損益集計表によれば、昭和四九年度には約一、一六七万円の欠損を生じたが、更生開始決定後昭和四九年一二月末日までの総決算としては約二、九〇四万円の営業利益を挙げていること、昭和五〇年一月から同年一一月までには営業損失約六五五万円(経常損失約二一七万円)を生じているが、同年一二月には右営業損失をはかるに上廻る営業利益のあることが認められる。右認定に反する抗告人らの主張は失当である。

したがって、本件会社更生計画は遂行可能と認められる。

(三)  職権調査

その他、一件記録を精査するも、原決定にはこれを取消すべき違法な点はない。

(四)  結論

よって、本件各抗告はこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 北浦憲二 裁判官 弓削孟 篠田省二)

<以下省略>

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