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大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)377号 決定 1976年2月17日

抗告人

三恵機販株式会社

右代表者

高安栄

右代理人

垰野兪

外一名

相手方

大阪ライト工業株式会社

右代表者

高須良忠

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨と理由

別紙記載のとおり。

二当裁判所の判断

(一)  抗告人の抗告権について

保全処分の申立権者が抗告しうると解されるところ、保全処分の申立権者の範囲については争いがある。すなわち、(1)手続開始申立人、(2)手続開始申立権者、(3)個々の債権者・株主・会社という三つの立場が考えられる。しかしながら、会社更生法第三九条の保全処分は、申立による場合でも、裁判所に情報を提供し、職権の発動を促すという性格が強く、一般関係人にできるだけ広く裁判所への情報提供の機会を与えることが制度に対する一般の信頼を繋ぐゆえんであることを考慮し、和議法の保全処分と同形式の規定であることも考慮して、和議にならい、(3)の立場を是とするのが相当であると解されるところ、一件記録によれば、抗告人は本件更生手続の開始の申立をした相手方の有数の債権者であることが認められるから、抗告人は適法に抗告権を有するものといわねばならない。

(二)  抗告期間について

原決定の公告の日でなく、相手方会社に対する告知の時から一週間と解される(会社更生法第八条、民事訴訟法第四一五条参照)ところ、一件記録によれば、原決定正本が相手方会社に送達されたのが昭和五〇年一〇月一四日であるところ、本件抗告状が原審に提出されたのが同月二〇日であることが明らかであるから、本件抗告は抗告期間内に提起されたものといわねばならない。

(三)  抗告の趣旨中「相手方の会社更生手続開始決定の申立を却下する」旨の申立について

一件記録によれば、本件抗告は、会社更生手続開始決定前の保全処分決定に対するものであり、会社更生手続開始決定の申立に対しては、現在原審で審理中であることが明らかであるから、本件保全処分決定の当否を判断するに当り、会社更生手続開始決定がなされる可能性について当審で判断されるからといつて、本件抗告で「相手方の会社更生手続開始の申立の却下」を求めることはできないものといわねばならないから、抗告人の右の点についての申立は失当である。

(四)  そこで、進んで原決定の当否について判断する。

(1)  本件保全処分の申立権について

会社自身による申立の奇妙さ、その弊害が批判されているけれども、当裁判所は会社更生手続開始決定の申立をなした相手方会社にも本件保全処分の申立権を肯定すべきものと解する。蓋し、前記(一)記載のとおり職権の発動を促す性格の強い会社更生法の保全処分では、できるだけ広く情報提供の機会を権利として保障するのが適切であり、また、発すべき保全処分も決して申し立てられた内容に拘束されるべきものではない以上、運用のよろしきを得るならば、会社による濫用の印象を払拭することは可能と考えるからである。

(2)  被保全権利についての疏明

会社更生法第三九条所定の保全処分にあつては個々的な被保全権利を考えることができないから、疏明の余地はないものと解するのが相当である。

(3)  手続開始原因についてての疏明

破産手続と異なり、更生手続では、手続開始申立にはつねに開始原因の疏明がその適法要件として要求されたおり、実際の経験に徴すれば、会社債権者のために疏明の強化こそが考慮さるべきであつて、事態は破産の場合と決して同一ではない。濫用に対する対策は、保全の必要についての疏明の要求や裁判所の職権調査、さらには立保証に期待すれば足り、開始原因についての疏明は、保全処分申立の適法要件としては、必ずしも必要ではないと解するのが相当である。もつとも、心証としての疏明は、保全処分発令にあたり、開始原因についても必要ないことはいうまでもない。

ところで、一件記録によれば、会社更生法第三八条所定の各事由は、未だ調査を要するとはいえ、一応存しないと見える可能性が強いと認められる。

(4)  保全の必要性について

一件記録によれば、相手方会社の積極、消極の全財産につき検討すると、保全の必要性が強いことが認められる。

なお、一件記録によれば、相手方会社が抗告人である債権者の債権を満足させるに足る財産を有するのではないかと認められないでもない節が存するけれども、仮にうだとしても、かかる事由は前記保全の必要性を失わせるものではない。

(5)  なお、原決定は、債務弁済禁止の保全処分をなしているが、かかる保全処分については以前から批判が強く、「一般的弁済禁止の保全処分は、保全処分制度をいわば洗い直した現行法のもとでは、これまでとは異つて、不適法なものになつたというべきである。」とする有力な説が存するけれども、弁済禁止の保全処分の最大の目的は、申立会社が銀行取引停止処分を免れることであり、現在考えられる方法としてはこれ以外にないから、弁済禁止の保全処分は適法になしうるものと解するのが相当である。蓋し、一般に手形交換所規則、同施行細則の規定により、更生手続開始の申立をした会社は弁済禁止の保全処分を得れば不渡届が提出されることを免れ、ひいては銀行取引停止処分を受けずに済む場合が多いからである。

そして、一件記録によれば、本件にあつては、本件保全処分により銀行取引停止を免れうる場合であることが一応認められるのであるから、この点に関する原決定は適法である。

(五)  抗告理由第一点について

一件記録を精査するも、抗告人の主張を認めるに足りる疏明はないから、抗告人の右抗告理由はこれを採用するに由ない。

(六)  抗告理由第二点について

会社更生法の対象となる会社は株式会社である限り、その規模にかかわりなく、本法の対象となりうる適格を備えているというべきところ、一件記録によれば、相手方会社が株式会社であることは明らかであるから、抗告人の右抗告理由もこれを採用するに由ない。

(七)  抗告理由第三点について

抗告人の主張は、一般的な主張としては首肯しうるものがないではないが、一件記録を精査するも、相手方会社につき一応更生の見込みがないことを認めるに足りる疏明も見当らないから、抗告人の右抗告理由もこれを採用するに由ない。

(八)  以上のほか、一件記録を精査しても、原判決を取り消すに足る違法の点も見当らない。

(九)  よつて、相手方会社の本件保全処分の申立を全部認容した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(北浦憲二 弓削孟 光廣龍夫)

〔抗告の趣旨〕

一、原決定を取消す。

二、相手方の会社更生手続開始決定の申立及び保全処分の申立を却下する。

との決定を求める。

〔抗告の理由〕

一、本件更生開始手続の申立は相手方がただ単に特定債権者からの債権追究を免れるためになしたものであつて、更生法本来の目的制度の利用を逸脱するものであつて許されない。

二、相手方会社はプラスチツク成整加工を業とする会社であるがが資本金六〇〇万円の小会社で、従業員も七、八名の小企業であることから、個人企業的な要素及び色彩の強いものであり、前述した更生法本来の目的に副わないものといわなければならない。

三、予想される更生計画としても、プラスチツク加工を継続することであろうが、現状の日本経済と生産の減少等から、生産が増加し、売上げの利益の増大を期待することは望めない。

特にプラスチツク成整加工の原料となる石油については価格生産業ともに不安定な世界情勢から受注回復は期待できない。

四、よつて、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

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